シャ・ベ クル

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人間ドール開放編

第四十四話 善光が眠る病室へ。

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 こちらは正実宅のお屋敷。
正実は仕事を終えて一息つこうとしているところだった。
家の電話が鳴り、すぐに手を取る正実。
電話の主はセオーネで、先程の出来事を全て話される。

「そう…」

正実は呟いた。

「今から迎えに行くから。」

そう言って正実は電話を切った。

「…お馬鹿だね、ロディオンも。」

正実はそう呟き、早歩きで部屋を出た。
廊下を歩いていると、ヴァルヴァラが屋敷の廊下の窓から夜空を眺めている。
ヴァルヴァラは正実に気づくと、いつものヘラヘラした雰囲気でない事に違和感を感じた。

「正実さん…?」

ヴァルヴァラが話しかけると、正実はヴァルヴァラを見て微笑んだ。

「ちょっと急用ができてね。ロディオンが帰ってきたら君が沢山慰めてあげてね、ヴァルヴァラ。」

正実はそう言って立ち去ると、ヴァルヴァラは話の筋が読めずに暫くその意味を考えていた。



 ニコライは三階の廊下を走っていると、廊下にロディオンのバッグが落ちているのを発見する。

「あ!」

ニコライはロディオンのバッグを持ち上げると、お菓子の袋が落ちてくる。

「美味そう。」

呑気な感想を付け、それから近くの扉を見つめた。

「煙臭いな。」

真っ暗で何も無い小窓、ニコライはその扉を開ける。
しかし、何かが引っかかっている様でなかなか開かない。

「クッソ!開け!」

ニコライは思い切り押すと扉は開かれる。
中から煙が流れてくると、ニコライは顔を庇った。

「こん中に入ったのか…?」

ニコライは出口付近を見ると、人を発見したので引きずり出す。
それはロディオンと善光で、善光の口元はロディオンのスカーフで覆われていた。

「ロディオン!生魚!」

この期に及んで善光を生魚呼ばわりするニコライだが、そこでロディオンが目を開けた。

「あ……明かりだ……善光…助かったんだぜ……?俺達…」

ロディオンは掠れた声を出して再び気を失う。

「おい!」

ニコライは次に善光の様子を確認。
完全に気を失っているが、ちゃんと生きているようだった。
ニコライは二人を引きずって、すぐ近くの窓を開けて二人に新鮮な空気を吸わせてあげる事に。
二人は窓に肩から上を乗り出すように干される。
そしてニコライは部屋の扉をロディオンのバッグで引っ掛け、一酸化炭素を外に出した。
そこに、先程ニコライと戦っていた見張りがやってくる。
ニコライは見張りに気づくと

「お?また俺に何か用か?」

と聞くと、見張りは焦って数歩下がる。

「う、うちの管理人はどこにやった!」

「あーあのおっさんな。部屋で寛いでるぞ。」

すると見張りはニコライを警戒しつつ横切ると、さっさと逃げてしまうのであった。

外からパトカーの音と、救急車の音が聞こえてくる。
ニコライはその音を聞いて急いで救急車が見える窓まで移動した。
救急車やパトカーだけでなく、みんなのSOSのお陰で野次馬が沢山集まっている。
ニコライは人集を気にせずに救急車を呼んだ。

「あのー!こっちに病人いまーす!」

こうして、善光とロディオンは病院に連れて行かれることになったとさ。



 それから日を跨いで、朝の六時。
ロディオンは病室で目が覚める。

「善光!」

と言って飛び起きたが、そこにいたのはセオーネとニコライとロッキーと結夏だった。

「あれ…?善光…は…?」

ロディオンが言うと、ニコライは言う。

「別の病室。しっかり熟睡中だ、かなり煙を吸って中毒症状が酷い可能性があるらしい。」

それを聞いたロディオンは脱力して俯いてしまった。
セオーネも暗い表情で

「すいません…私がもっと早く来ていれば…」

と言うが。
ロッキーは言う。

「バーリンのせいやないやろ。てか、誰のせいでもない!落ち込むな!」

「ありがとなロッキー…セオーネ、セオーネのせいじゃないよ、気にする事ない。」

ロディオンはロッキーとセオーネに微笑むと、ロッキーは黙り込み、セオーネは悔しそうに下唇を軽く噛んだ。

「というか、結夏はなんでここに?クラブのみんなが心配してたんだぞ…?」

「え、一緒にあの倉庫に捕まってたの。ロディオンのお兄さんが助けてくれなかったら今頃、どうなってただろ。」

結夏の言葉にロディオンは

「そっか…。結夏が無事で良かった。」

と言うと、次にニコライに笑顔を見せる。
よく笑うロディオンを見たニコライは眉を潜めると、ロディオンは言った。

「ニコライってばやっぱり優しい所あるんじゃん。俺安心したよ。ありがと。」

「俺を捕らえた業者が痛い目に遭うのは当然だ。」

ニコライの言葉にロディオンは笑ってしまうと、ベッドから出た。

「起きていいんですか!?ロディオン!」

セオーネが言うと、

「俺はただ睡眠してたのと同然だからね!…てか瑠璃は?宇宙に帰ったのかな?」

とロディオンは部屋をキョロキョロする。

「あ…ロディオンが病室に来てからずっと廊下ですよ…。言っても中に入らなくて…」

ロディオンは不思議そうな顔をすると、廊下に出てみる。
すると、扉のすぐ横に瑠璃が蹲っていた。

「おい。」

ロディオンが呼ぶと、瑠璃はバッと顔を上げてロディオンを見上げた。
瑠璃の目は泣いていたのか目が赤い。

「なんで廊下?」

ロディオンが聞くと、瑠璃はブツブツと答えた。

「いつも、ラディオンは私といると嫌な顔したから。調子が悪い時くらい…」

それを聞いたロディオンは意外そうな顔をして

「意外。宇宙人も相手の事を心配できるんだな。」

と言うので、

「馬鹿にするな!」

と瑠璃は言い放つ。
ロディオンは笑ってしまうと

「嘘だよ。瑠璃ってばいっつも俺達を傍観するだけだからさ、また廊下で傍観してるだけなのかなって思ったんだ。そうじゃなくて良かったよ。
…心配してくれてありがと。」

そう言ってロディオンは瑠璃の頭を撫でた。
すると瑠璃はムスっとしてしまい、ロディオンの手を払ってしまう。

「なーんだ。可愛くない奴。」

ロディオンはそう言い残すと、善光の病室を目指して歩き出した。
瑠璃も涙を拭うと、いつも通りロディオンの後をつけるのであった。



 ロディオンは善光の病室に着くと、ノックしてから病室に入る。
病室には正実が善光の看病をしていた。

「正実。」

ロディオンが正実を呼ぶと、正実はロディオンを見る。

「よくもまあ、僕の前に出てこれるよね。」

正実の言葉にロディオンは眉を潜めたが、善光の近くまで歩いた。

「正実の言いつけ破ってこうなったのはわかってる。だからこそ謝りに来たんだ。」

「はぁ…。これは遊びじゃないって、わかるでしょ。
ロディオンは軽率だかなんだか知らないけれど、あまり弟を巻き込まれるのは兄として許せたもんじゃないよ。」

「ごめん正実…。」

正実はロディオンの反省した様子を見つめるだけで、遂には顔を逸らしてしまう。

「ごめん、君を慰める気にはなれないよ。他を当たってくれないかい。」

「俺も看病するよ…!」

「出てってくれないか。」

正実は声のトーンを上げて言った。
ロディオンは弱ってしまい、黙って病室を出ていく。
ロディオンが廊下に出ると、そこには先程ロディオンの病室にいたみんなが盗み聞きしていた。

「うわっ」

ロディオンが驚くと、ニコライは言う。

「正実怒ってんの?」

セオーネは難しい顔をしながらも言った。

「そう…だと思います…」

結夏も呟く。

「でも、あんなに怒っちゃロディオンが可哀想。だって命懸けで助けてくれたのに…」

「自分の家族が事件に巻き込まれて平然としてる奴の方がおかしいわ!なあニコライ!」

とロッキーが言うので、ニコライは首を傾げる。

「確かにそんなヤツいたらやべえな。」

「お前の事や!ニコライ!」

ロッキーはそう言ってニコライの頬を抓んで引っ張ると、ニコライは抓まれたまま言った。

「はあ!?別にロディオンは事件に巻き込まれてねえだろ!自分から参加したんだろ!」

その言葉を聞いた瞬間、場の空気が冷える。
ロッキーは無表情で

「そういう話ちゃうやろ。」

と言う。
ニコライは喧嘩腰にもう一言言おうとしたが、そこでロディオンは苦笑しつつも言った。

「朝だね。俺お腹空いちゃった。みんな朝ご飯食べた?」

「え、まだやで。」

ロッキーが答えると、セオーネもロディオンに便乗する。

「そ、そうですね!こういう時こそ体力をつけましょう!」

「ほらルゥちゃんも!」

と結夏が言うと、ニコライはもう病院の階段の方にいた。

「早くお前ら来いよー!朝飯食うぞー!」

なんともご機嫌なニコライ。
ロディオンはそんなニコライが羨ましいと思いつつも、みんなで朝ご飯に向かうのであった。
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