シャ・ベ クル

うてな

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人間ドール開放編

第四十三話 届かないSOSと、届くSOS。

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 ロディオンは扉の前で、ただ只管扉を叩き続けた。

「開け!開け!!…開いてくれ!」

体を扉に打ち付け、扉を壊そうとするロディオン。

その間ロディオンが思い出したのは、久々にセオーネと再開したあの日。
あの日は善光がロッキーに捕まり、善光が命の危機に陥った日だ。
正実にロディオンの愚かさを叱られ、過ちを改めたはずだったあの日。

(俺、やっぱり善光を危険にさらしてばっかり…)

目に涙を浮かべていたが、突進をしている内に涙は数滴零れ落ちる。
その時だ、ロディオンは急に大人しくなった。

(待て、ダメだ。いつものサイクルに入っちゃダメだ。
落ち着け…こうやっていつも俺は何も考えずにぶつかっていく。こういう時こそ、しっかり考えるべきだ。)

ロディオンは一歩下がって、扉を見つめた。
扉には平らな鍵穴があり、周囲に鍵が落ちている気配もない。
しかし、ロディオンはある事を思い出した。

そう、セオーネに会った時の依頼、あれには前章があったではないかと。
依頼を受ける前の事だ。
部室の隣にある台所の鍵を開ける為に、カードを使用した事を。

(もしかしたら…)

ロディオンは自分のバッグから財布を取り出し、カードを一枚手に取った。
そして扉の隙間に差し込んで、ボルトに引っ掛けた。

(開いてくれ…!)

強く願いながらカードを引きながらドアノブを回すと、



 カチャ と音が鳴る。



ロディオンはその音を聞いた瞬間にカードを手放し、扉を開いて部屋へと走った。

「善光っ!」

煙に巻かれたロディオンは咳き込むが、そこそこ広い部屋を歩く。
部屋の明かりを点けるのを忘れていた為、部屋は真っ暗。
廊下への扉も再び閉まってしまい、真っ暗で何も見えない部屋を手探りで探った。
すると、ロディオンは何かに足を引っ掛けて転んでしまう。

「うわぁっ!…善光か!?」

ロディオンは引っ掛けたものを確認すると、どうやら人の様だ。

「善光…今助けるからな!」

ロディオンは人を引きずって出来るだけ地面に伏せて扉を探す。
煙だらけで前が見えず、暫くしてやっと扉を見つけた。

だが、

「え、開かない…?」

ロディオンは立ち上がって扉に手をかけるが、一酸化炭素を諸に吸って体勢を崩してしまう。

「うっ…」

しかしロディオンは再び立ち上がり、息を止めながらも扉ではなく周囲を歩く。
壁伝いに部屋を歩くと、火元である七厘を発見した。

(これをまず消そう…!)

ロディオンは七厘を裏返し、火を消す。
そして再び壁伝いに、今度はしっかり体を伏せて扉に向かった。
一酸化炭素は空気よりもやや軽い為に、立ち上がれば沢山吸ってしまう。
ロディオンは立って七厘を探したので一酸化炭素を沢山吸ってしまい、目眩と戦いながらも扉の前に来た。

(お願い…!開いて……!お願い…!)

ロディオンは力を振り絞って扉を叩き続けた。
誰かが気づいてくれるのを願って。



 ニコライは三階に来ており、アナウンスをかけた部屋にやってきた。

「おっ、おっさん」

ニコライは中年の男性を見つけて話しかける。
男性は驚くと一歩下がった。

「な、何用だ。」

「人を見なかった?メガネかけてんだけど。」

男性は視線を逸らすと

「知らんな。」

としらばっくれた。
ニコライはその視線を気にしており、怪しそうな人を見る目で見つめた。

「ほおー…」

ニコライは近くの窓を開けると、裏口のロッキー達を発見。

「おーロッキーいたのか。ロディオンの仲間を見たかー?つーかロディオンも中にいるのか?」

ロッキーはニコライに気づいて言う。

「ロディオンが中に入ったっきり帰ってこんらしい!善光って奴も帰ってきてなくて…」

ニコライは男性に視線を戻すと

「だってよおっさん。どこだよ、ロディオンと生魚。」

と威圧を加えてもう一度質問した。

「知らん!」

と言うので、ニコライは黙り込む。
するとロッキーが言った。

「それより、裏口も表口も開かないんや!誰も建物から出られんのや!門の出口が開かないのも勿論、電気柵も起動されてもうた、うちらは籠の中の鳥状態や!
それで今、バーリンが善光って奴の兄に連絡入れてるトコやて!」

ニコライはそれを聞きつつ、高い位置にある電気柵を見つめた。

(どうやってセオーネちゃんはこれを超えたんだ?)

「おっさん何かした?」

ニコライが質問すると、

「誰がおっさんだ!」

と男性は怒る。
ニコライはブツブツと

「おっさんはおっさんだろーがよ」

と言うと、次に笑顔を見せた。

「そっかー。放送であったネズミ一匹も逃さないってこういう事か?
んー?手下に玄関も裏口も鍵かけてもらったんだな。」

男性は笑うと言う。

「そうだ!誰も外には出られない!助けも求めても無駄だ!
直に他の仲間が来て、外にいる奴等も確保される、大人しく捕まって人形になるんだな!ハッハッハ!」

男性の笑いを聞くと、ニコライもクスッと笑う。

「何がおかしい!」

と男性に聞かれるので、ニコライは笑ったまま機械の前に来た。

「これ、アナウンスのボタンこれだよな?押していい?」

「今頃何を…」

男性が呟くと、ニコライは建物内にアナウンスをかける。

「あー…放送出来てるな。
皆さん!大声で助けを呼びましょう!皆さんの声は街に聞こえ、人々を引き寄せ、やがて助けが来るでしょう!」

すると、一階の方から助けを呼ぶ声が聴こえてくる様になる。
牢屋には小さな穴がある為、声を出せばしっかり外まで聞こえるのだ。
男性はギョッとすると、ニコライはニタァっとして男性の前まで来る。

「馬鹿だなおっさん。出口を塞いだ時点でお前達も囚われの身なのにな。
市民にバレたらお前の人生終わり!それとも今諦めてこっから飛び降りるか?きったねえ光景になるだろうなあ!」

ニコライの笑いに若干の恐怖を覚える男性。
男性が怯えきった所を見て、ニコライは更に高笑いをする。
それからニコライは男性に背を向け

「じゃあな、俺は暇じゃねえんだ。」

と部屋を出ていくのであった。
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