シャ・ベ クル

うてな

文字の大きさ
上 下
42 / 48
人間ドール開放編

第四十一話 大事なものが欠けている。

しおりを挟む
 扉に突進を続けていたニコライ。
ニコライはやっとの思いでこじ開けると、すぐに部屋から出る。
そしてすぐ近くに見張りがいたため、相手が驚いている内に殴り飛ばした。

「うう…」

相手は転んでしまうと、ニコライに胸ぐらを掴まれる。

「おい、髪ゴムとか持ってないか?鍵とか。」

ニコライはスナックで眠ってた所を拉致された為、髪を結んでいなかった。
長すぎる髪が地面にダラっと付き、髪の長さに気づいた見張りも驚く。

「ご、ゴムはないけど鍵なら俺のポケットに…!」

ニコライはつまらなそうな顔をしてしまうと、相手を殴りつけて相手を気絶させてしまった。
気絶した相手を見るとニヤっとニコライは笑みを見せる。

「鍵は渡したんじゃなくて奪われた事にしとくからよ。」

そうしてニコライは見張りから離れると、自分が出てきた部屋の左右の部屋の扉、更に廊下の奥を見た。
どれも似たような扉ばかり。

「人が入ってんのか…?」

ニコライはそうブツブツ呟きながら、ある事を思いついた。

「そうだ、全部開けてやろう。」

そうしてニコライは一つずつ牢屋を開けると、人がゾロゾロと出てくる。
出された人々は状況が理解できず、逃げようと思っても怖いのかその場で留まったまま。
ニコライは一つの牢屋を開けると、そこには結夏がいた。

「結夏。」

ニコライが言うと、結夏はニコライに気づく。

「る…ルゥちゃん…?」

結夏は若干怯えた目で言ったが、ニコライは気にせず言った。

「お前も出ろ。逃げるなら大人数で逃げた方が危険が減る。
安心しろ、ここの奴等は拳銃なんて物騒なモン持ってないはずだからな。」

結夏はそれを信じたのか、ゆっくりと廊下を出る。
ニコライは次の牢屋を開けていると、結夏はニコライの長い髪を見つめた。
それから自分のポケットに入れていた髪ゴムをニコライに持っていく。

「ルゥちゃんこれ。髪結んでないと動きにくいでしょ。」

ニコライは髪ゴムを見ると、笑顔になって結夏から髪ゴムを貰った。

「ありがと結夏、有り難く使わせてもらうぜ!」

いつものニコライだと知ると安堵してしまう結夏だが、まだモヤモヤが晴れなかった。



 夢の島学園は都の端の方に位置している為、ロディオンは走って目的地に向かう事に。
目的地まで歩けないほどでもないが、走って行くならかなりの体力が消耗されるだろう。
ロッキー達は既に距離を置かれており、ロディオンが見えなくなっていた。

「速すぎるやろアイツ…!」

ロッキーがブツブツと言っていると、瑠璃を引っ張っているセオーネが追いついてきた。

「あの、善光さんが向かった場所はどこですか?」

「詳しくは知らん!ロディオンしか知らんねん!」

セオーネはそれを聞くと顔の色を変え、走るスピードを上げてロディオンを追いかける。
それを見たロッキーは驚愕し

「まだ速くなるんか!」

と足の速すぎるセオーネに驚きを隠せなかった。



 それから数十分後、ロディオンは目的地に着く。
古臭い大きな建物、階数は三階程か、階数を重ねる毎に建物が新しく見える。

ロディオンは息が荒れ、足がパンパンになろうとも気にせず建物の裏に回った。
そして電気柵の存在も忘れて壊れかけた塀を登りきると、光る物を目に捉える。

「これは!赤い風見鶏!」

ロディオンはニコライがわざと落とした風見鶏に気づいた。

「つまりここにはニコライが…。もしかしたら善光も捕まったのかもしれない…」

ロディオンは今度は身を潜めながら敷地内を回る。
人がいない事を確認すると、裏口らしきものを発見した。

裏口を開くと、そこは廊下。
外と違って人で賑わっている為、まずは入口前に潜む。
私服の男女や子供が廊下にゾロゾロといて、その場に留まっている様子だ。
すると数人の人が扉の前にやってくると言った。

「ここって非常口かな?」

「この先に奴等がいたら…俺達また捕まっちまうよ。」

この会話を聞いてロディオンは、彼等がここに捕まってしまった人と察する。
ロディオンは人前に出て、ロディオンを見た人々は驚いた。

「うわ、誰か入ってきた!逃げろ!」

「待って!俺は君達を助けに来たんだよ!捕まった人達だろう?」

それを聞いた人々はロディオンの方を見て、少しずつ集まってきた。

「俺、この非常口から入ってきたんだ。君達はなぜここに?」

「助けてもらったんです、髪の物凄く長い男性に。逃げろって言われたんですが、男性は上の階に向かっちゃって。」

「ニコライか…?」

ロディオンは呟くと、更に聞く。

「えっと、最近眼鏡かけた茶髪の男性が捕まってなかったか?もしかしたら捕まってるかもしれない仲間がいるんだ。」

「いえ、そんな人は見てないけど、さっき外が騒がしかったのは覚えてます。」

ロディオンはそれを聞くと冷や汗を浮かべた。

(善光はどこに行ったんだ…?)

「あ、君達は早く脱出してくれ。追っ手が来るかもしれないからな。」

すると捕まっていた人の一人が言った。

「なら俺は暫くここで待ってます。髪の長い人が心配なので。」

「あ、じゃあ私も。ていうかみんなで固まってれば相手も怖くないよ!」

と、少しずつ便乗する者が出てくる。
それを聞いたロディオンは頷いた。

「みんなで待つんなら追っ手なんてへっちゃらだね。じゃあ後で迎えに行くからね!またね!」

ロディオンはそう言って二階の階段を登っていった。
しおりを挟む

処理中です...