シャ・ベ クル

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人間ドール開放編

第三十三話 反発する正義。

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 ロディオンは目が覚めると、そこはベッドの上だった。
豪華な天蓋付きベッドで目が覚めたロディオンは、辺りを見渡す。
見た事のある部屋、ロディオンは

「正実の家だ…」

と呟いた。

「ロディオン!目が覚めたか!」

横から言ったのは善光。
近くには瑠璃とセオーネもいて、ロディオンが目覚めた事に深く安心していた。

「みんな…俺どうして正実の家に…?」

寝ぼけてロディオンが言うと、善光はベッドに座って説明する。

「馬鹿!お前は夢の島学園が開いたパーティー会場の廊下で縛られて倒れてただろ!」

「緊縛…?好き…」

ロディオンは更に寝ぼけて言うので、善光は面を食らって呆れる。
そしてロディオンは続けて言った。

「ニコライが…居たんだ、銃を突きつけてきて…。」

セオーネはそれに驚くと

「あれはニコライさんなんですか!?…いや、確かに似ているけれど…」

と呟く。

(なに自分からアイツがニコライだって事バラしてんだ!)

善光はそう思っていると、続いてロディオンは言う。

「ロッキーと一緒に殺し屋やってるって……!」

俯いてそう呟くと、一同が驚く前に部屋に正実が顔を出した。

「やあ!ヴァルヴァラが今レモンパイ焼いてるんだって!彼女料理音痴なんだよね、どうすればいいと思う?」

「捨てろ。」

と平然と善光が言うので、正実は笑って部屋に入ってくる。

「で?誰が殺し屋をやってるの?」

ロディオンに近寄って聞くと、ロディオンは拳を握った。

「ニコライが…」

すると正実は大笑いしてしまい

「いやー!ニコライらしい!彼らしいと思うよ僕は!」

と喜んでいる様子。
ロディオンは不機嫌になると言った。

「なんでだよ…殺人だぞ?何が面白いってんだ!」

正実は笑いながらも言う。

「彼らしいって言っただけじゃん。ロディオンもそう思わないかい?」

しかしロディオンは表情を変えずに言った。

「何がニコライらしいんだよ。恐ろしい事を、その人らしさにしちゃダメだ!」

正実はロディオンの目を見ると微笑む。
ロディオンは眉を潜めてしまうと、正実は言った。

「イイ目だね。心から軽蔑している目だ。殺し屋を営むニコライを、引きずり出して懲らしめてやろうって顔だね。」

「当たり前だ。こんなの間違ってる…!俺が道を外したニコライをあるべき姿に戻してやるんだ!」

ロディオンの言葉に正実は頷くと、正実は言う。

「それがロディオンの正義なんだよね。」

ロディオンは正実を見ると、善光は

「正義…?」

と呟いた。

「そうだよ。」

正実はそう言うとロディオンに言った。

「ロディオンは求めてる、愛と平和の世界をね。だからこそ、人間を脅かす存在が憎くて憎くてたまらないのさ!尻尾を掴んでどーにかしたいよね!」

セオーネは心配そうにロディオンを見つめると、ロディオンは「うん…」と俯いて言う。
それから顔を上げて正実を見ると、ロディオンは言った。

「人を殺すのが幸せか?人の命を奪って人形にし、ひと時の悦楽を得るのが幸せか?
残虐な行為をして生きてる連中は、きっと愛を知らない可哀想な鳥だよ。巣の中の…小鳥。母親から餌を与えられた事もない、不幸で、惨めな、小鳥だよ。何も得られないのさ。」

「ひゅ~」と正実が言うと、正実は言った。

「本音?ロディオンらしいっちゃらしいよね。人って闇があるからこそ面白い!」

善光は軽く腰が引けてしまうと

「いつも愛だの平和だの言ってるお前にしてはキツい事言い出したな。」

と言うと、ロディオンは鋭い目を善光に向ける。

「俺は本気だ!そういう人間達は、変えるか潰すかの二択しかない!そうじゃないか!?そうじゃないと世界は変わらないんだよ!」

「世界は変わらないって規模が大きすぎではないか?」

瑠璃は頭に疑問符を浮かべていると、正実はロディオンに言った。

「ニコライは変われないよ。僕が保証しよう、彼は変わらない。いや、変われない。」

ロディオンは眉を潜めて正実を睨むと、正実は続ける。

「思いやりなんてどうでもいいでしょ彼にとって。
…彼には痛みがわからない。大事な家族や仲間の傷にだって、注意を払ってもわからない事の方が多いさ。
そんな彼が、他人に注意を向けるかな?考えるのも面倒で、他人なんてどうでも良いって思っちゃうかもよ?切磋琢磨なんてできないね!」

「ニコライだって人間だ。変われる。」

ロディオンは冷静にそう言うと、正実は笑う。

「僕ねー、仕事の事情でニコライといつも手紙のやり取りしてたんだけど、実は小さい頃ニコライに会った事あるんだ。親の用事で君達の村に寄ったのさ。」

ロディオンは興味を持つと、正実は言った。

「君のお父さんは村の元牧師だったね、仕事でも世話になるから挨拶に行ったのさ。でも驚いたね、僕と同い年の子供があんな事になってるなんて。」

正実は部屋に飾ってある美しい人形の前に立つと言う。

「彼は悪魔の眼を持って生まれて、親に愛されなかったんだろうね。親に相手にされずにさ、体中怪我だらけだったのさ。怪我しても笑い、他人によく噛み付こうとする子供だったよ。」

ロディオンは驚いて口をぽっかり開けてしまうと、正実は続ける。

「そんなニコライと、一日だけ遊んだ事があるよ。
彼は面白いよ、同い年の僕を虐めて、怒鳴って…そして笑った。当時の彼は、何が喜びだと思っていたんだろうね。今の僕でもわからないよ。」

一同は引いているのか顔色が悪くなるが、正実の話はまだまだ終わらない。

「でも案外彼は利口だったよ。僕達が何もしなければ、すぐに暴力はやめたんだ。あの子は言葉をロクに知らないから会話はできないけど、普通に遊べるっちゃ遊べるね。着せ替えごっこ。」

「着せ替え…正実らしくて気持ち悪い。」

と善光は言うと、正実は笑う。

「だってニコライは昔から綺麗だったからね!僕が本格的に人形に目覚めたのも、ニコライのお陰なんだよ?」

ロディオンは表情が優れないでいるので、正実は微笑んだ。

「ロディオンから見て、ニコライは自他にどう接していたの?」

ロディオンは少し考えると言う。

「厳しいけど、根は優しい兄ちゃん。すぐ殴ってくるヤバイ兄ちゃんだけど、兄弟の俺達には優しい。
他人に対しては知らない、多分あのパーティーであったみたいに他人に薬を盛っても平気なんだろう。」

すると正実はロディオンの目の前まで来る。

「彼と今まで手紙でやり取りしてて思った事がある。
周りを犠牲にしてもいいから自分や身近な人間を守り抜く、それが彼の正義だ。
でもロディオンは違うんだろう?調和の為に、皆を自分を互いに犠牲し合う、それがロディオンの正義。人の正義って皆同じじゃないからね、お互いの正義が反発するのも無理ないよね!」

「だからって殺しもやっちまうのかよ。それに互いに犠牲し合うんじゃなくて、切磋琢磨だな。悪い言い回しにしないで欲しい。」

ロディオンが言うと、正実は微笑んだ。

「ニコライが人形師やってたから、君達兄弟を支えられたんじゃないの?人形師の仕事はそこそこ給料がいいから、一つこなせば大金になる。その分働かなくて済むから、ニコライは家事ができた。…両親は出歩いてばかり、下にはまだまだ幼い兄弟がいる。彼は家庭を支えるためになんでも引き受けてきたんだと思うよ。」

それを聞いてロディオンは黙り込むので、正実は「ふふふ」と笑う。
するとロディオンはベッドから出ると言った。

「…でも今のニコライは放っておけない。過去がどうであれ、絶対に変えてみせるよ。」

正実はロディオンの頭を撫でると言う。

「ロディオンが彼のブレーキになればいいんじゃないかな?僕は変える事はできないと思うけどねー!」

ロディオンはムスっとすると

「勝手に言っとけ~!俺は絶対に変えてみせる!」

と言った。そして部屋を出ようとするので、善光は言う。

「もう大丈夫なのか?」

ロディオンはみんなに笑顔を見せると言った。

「勿論!早く善光ん家に帰って一緒にお風呂しよ!」

「いや、一緒にはしねぇよ。」

善光はそう言って呆れて溜息をつくと、正実は笑った。
そしてみんなに手を振ると言う。

「くれぐれも危険な真似はしないでね?」

「ああ!じゃあね正実ぃ!」

ロディオンはそう言うと小走りで廊下に出る。
善光と瑠璃は続いて追いかけ、セオーネは正実にひと礼してから立ち去った。
正実は「ふぅ~」とみんなが出て行った扉を見つめていると、とある事を思い出す。

「げっ、ヴァルヴァラの料理どうしよう。」

どうすべきか正実は考え込んでいると、可愛らしい声が聞こえてきた。

「神様~、出来上がりました!レモンパイ!」

そして部屋にひょっこり顔を出すのだが、正実しかいないのを見て無表情になる。

「あー、帰ったよ。みんな。」

正実が言うと、ヴァルヴァラは落ち込んだ。

「そんな…。せっかく沢山作ったのに…」

正実は鳥肌が立ち体が緊張すると

「あ、ああ。ま、僕は部屋に戻るからね。」

と言いながら退散しようとするが、ヴァルヴァラに捕まってしまう。

「あの…、一緒に食べてもらってもいいですか…?」

少し甘えたような目で言っているが、正実は満面の笑みで冷や汗を浮かべると死を覚悟したのであった。
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