シャ・ベ クル

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人間ドール開放編

第十五話 呪われたウサギ。

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 そしてロディオン達が来たのは、木で出来た小さな小さな一軒のお店。
『なんでも屋』と看板に書かれた店の前でロディオンは言った。

「ここはニコライの職場!今から現場捜査を始める!」

善光は顔を引き攣る。

「捜査って…何を探すつもりだよ。」

「先輩とニコライが結ばれてるかそうじゃないか知るためのだよ…!ニコライはここに泊まってまでも先輩と仕事をする日が多かったってヴァルヴァラ言ってたもん!怪しくて俺病気になっちゃうだろ!」

ロディオンは泣くふりをしつつ歯を食い縛る。
善光は呆れて

「もしそうだったらプライベートに足突っ込んでるだけだろ。ニコライが可哀想だとは思わないのか?」

と聞くと、ロディオンは言った。

「ニコライは俺達に隠し事ばっかしてるからダメ!」

善光は呆れて物を言うのをやめてロディオンと共に中に入ろうとすると、そこで看板に目がついた。

「ん?ニコライって人形師じゃなかったっけ。なんでも屋?」

善光は看板をペンで指しつつもロディオンに聞く。

「え?ニコライはなんでも屋だよ!特にお洋服作りが得意なんだ~!人形師って誰から聞いたの?」

ロディオンはそう言って目を点にした。
善光は考える素振りを見せると口を開く。

「正実が言ってたんだ、ロディオンの兄は人形を作る仕事してるって。正実って人形好きだろ?ニコライの作る人形を気に入ってよく特注するんだよ。」

ロディオンは「初耳」と言いたげな顔をしつつ笑顔になる。

「んじゃなんでも屋だからそういう事もしちゃうのかな!これはもっとワクワクな感じしてきたぞ~!」

と中に入った。

すると屋内は、木で出来たまるで秘密基地の様な澄んだ空間が広がっていた。
木の色が最大限生かされ、机も椅子も棚も何もかも木で出来ている。
物が至る所で山積みにされ、足場を失うほど散らかった場所。
高いところにある窓から差し込む陽は、店を幻想的に見せる。
自然の中に迷い込んだような、そんな感覚のする店だった。

ロディオンは目を輝かせて

「まるで秘密基地だ!!宝の山だ!なんか!お宝隠されてそう!」

と言って物を漁り始める。

「おい、やめろよ。」

善光が止めると、ロディオンは奥の整然とした机と棚のある陣地を見つめた。
善光はその陣地に足を入れると、ペン立てにあるペンの頭の向きが全て揃っているところを見て

「かなり几帳面だな…。向こうと違って全部整ってる。うわ本棚も…気持ち悪。」

と率直な感想を述べる。
ロディオンはその机に座ると嬉しそうにして言った。

「ここ!ニコライの場所だよ絶対!ニコライ几帳面だもん!絶対そう!」

「へー。乱暴な性格してんのにな、さっきも親と喧嘩してたし。」

善光は整った陣地を見ていると、ロディオンは苦笑。

「ニコライと父さんはいつも喧嘩ばっかしてるからな。」

「家族揃って不仲過ぎんだろ…」

善光は呆れると、ロディオンはニコライの机の本棚を見つめて言った。

「両親はいつも世界各地を回ってるから、家にいっつもいないんだ。」

「それさっき聞いた。」

「…ニコライが仕事し始めてから二人共そうする様になって…家にいなくなる日が多くなって、そのせいでヴァルヴァラはグレて…そう考えたらニコライが反抗したくなっちゃうのもわかる気がする、俺。」

善光はそれを目を丸くして聞いていた。
ロディオンは善光を見て首を傾げると、善光はロディオンから視線を逸らして言う。

「いや、俺の親も海外によく飛ぶからさ、お前も同じ境遇なんだなって思っただけ。」

それを聞くとロディオンは苦笑した。

「善光の両親はお仕事だからね!でも、俺の両親は探してる人がいるみたいで…ずっと探してる。」

善光は眉を潜めると、ロディオンは小さく溜息をつく。
次に、善光は近くで不自然な扉を発見。
木で出来た部屋の中に一際目立つ密封性の高い黒い扉が一つ。

「なんだあれ。」

善光が言うと、ロディオンはその扉を開けようとするが鍵が掛かっている事に気づく。

「鍵が掛かってる。なんか秘密がありそうだな。」

「仕事道具だろ別に。鍵を掛けるのは当然。」

善光は言うが、ロディオンは首を横に振った。
善光が首を傾げると、ロディオンは言う。

「ニコライさ、なぜか俺達が職場に行こうとしても拒んでくるんだ。「絶対に来るな」っていつも言われて、恥ずかしいからかなって思ってたけどなんか…違う気がする…。」

「何を証拠に?」

と善光が聞くと、ロディオンは真面目な顔を善光に向けて言った。

「彼女がいるから…」

善光はガクッとなると言う。

「まだ決まってないだろ!」

「それを明かすために来てるんだ!」

ロディオンはそう言うと瑠璃の方を見た。

「瑠璃!瑠璃の力を使う時が来たぜ!鍵を開けてくれ!」

「報酬は。」

瑠璃が聞くとロディオンはふふっと笑い、余裕な笑みを浮かべた。

「美味しいスイーツ店で絶品のスイーツをご馳走するよ。」

声をキザに仕上げてロディオンは言った。
それを聞いた瑠璃は頬をピンクにして

「本当か…!」

と目を輝かせて喜び始める。
善光は面食らって

(やっぱり神様は単純だー!)

と思っていると、瑠璃はさっさとその扉の前に歩いた。

「開け!愚か者!」

瑠璃が唱えると鍵は粉砕、結果的に開くようになった。
善光はそれを見て眼鏡を光らせ、メモ帳に化学式を書き出し始めた。

「かか!神様の不思議な力だ…!」

ロディオンは扉を開くと、その先は真っ暗。
ロディオンは善光を連れると

「真っ暗か…。眼鏡の光をライトの代わりにしよう。」

と言って、善光の光り輝く眼鏡をライト代わりに使う。

「当たり前の様に使うな!」

善光が抵抗するが、ロディオンは善光の頭を押さえながら言った。

「待って!瑠璃の力をもっと見せてあげるから!」

すると善光は急に大人しくなるので、ロディオンは捜索を続ける。
机には整頓されたファイルや資料、洋服を作るための染織道具一式が置いてあるのを見てロディオンは胸をなで下ろした。

「染織道具ばっかり…。やっぱりニコライはお洋服作りが大好きなんだ~」

ロディオンは笑顔になる。善光は嗅覚を働かせると

「なんか鉄臭くないか?ここ。」

と呟くので、ロディオンは微笑。

「ホントだ。…血…なわけないよな??」

瑠璃はサラッと

「人形作りに人間を使ってるのだろ。」

と怖い事を言うので、ロディオンは震え上がって

「やめろよ瑠璃!!」

と言うのだった。
瑠璃も部屋に入ると、人の気配を感じて言い放った。

「ラディオン!誰かいるぞ!」

ロディオンは「え?」と言うと、ギシという足音を耳にする。
ロディオンはすぐに善光ライトをその方向に向けると、そこにはニコライがいた。
しかもニコライは右眼の眼帯を外している。
善光ライトでニコライの両目が光ると、ニコライはロディオン達に気づいて顔を庇った。

「ニコライ…!」

ロディオンが驚いた顔をする。
すると善光は言った。

「悪魔の眼だ。」

その言葉にロディオンは驚いて息を止めてしまい、ニコライは眉を潜めて黙り込む。
善光は続けた。

「ロディオンの兄貴、右眼が黄色なんだな。」

ロディオンはそれを知っているのか、善光の言葉を聞き表情が優れなくなる。
それからニコライの前まで歩く。
すると、ロディオンはニコライの顔を庇う手を力いっぱい剥がした。
ニコライはロディオンの力に負けてしまったのか、呆気なく手を剥がされて顔が顕になる。

左の空の様に美しいガラス玉の様な瞳、右の琥珀の様に艶やかな宝石の様な瞳。
ニコライはオッドアイを持っており、どちらの眼も実に美しい眼をしていた。

「”綺麗…。”」

ロディオンは活気のない声でニコライに呟くと、ニコライは言った。

「”この眼が怖くないのか。”」

そう、この村では黄色い眼を持つ人間は悪魔と言われている。
しかしロディオンは首を横に振り、ニコライに微笑んだ。

「”ううん、むしろ大好きさ。ニコライの眼、とっても綺麗じゃんか。怖くなんかちっとも無いよ。”」

「”…そうか。”」

ニコライは呟くと、ロディオンは憂わしげな目でニコライを見つめる。
瑠璃はニコライの両目を見ると

「『呪われたウサギ』…」

と呟いた。
善光はその言葉に反応すると言う。

「それってロディオンが描いてたグロい絵だろ。」

瑠璃は頷くと、ニコライを見て続けた。

「ラディオンはコイツを描いたのだろう。…村の者には絶対に明かせない眼。
『不格好な眼を見せたくないウサギ』として描いたのだろう。」

「なるほど…!神様流石。」

善光は納得して言った。
瑠璃は「フン」と鼻で言って自分の髪をサラっと手で流す。
ロディオンはニコライに言った。

「”ニコライは、自分の悪魔の眼をどう思ってるんだ?
…俺、その眼でニコライが生きづらくなってるって思うと…なんだか…”」

ロディオンの落ち込んだ表情を見ると、ニコライは口角を上げてロディオンの頭を乱暴に撫でた。

「”生きづらい?馬鹿だな。この程度の眼が俺の障壁になる訳ねえだろ。”」

その言葉を聞いても顔色は優れず、ロディオンはニコライを見つめるだけ。
ニコライはその様子に呆れると言った。

「”俺は何があろうと絶対に屈しねえ。そこらのヤワな人間とは大違いなんでな。”」

ロディオンはそれを聞き

「”そっか。”」

と言うと、ニコライは少し腹の立った様子でロディオンにデコピンをした。
ロディオンは痛かったのか目に若干涙を浮かべる。

「”わかったら湿気た顔すんな!じれってえ。俺が一番嫌いな顔を見せんな!”」

それを聞くとロディオンは少し黙ったが、すぐに笑顔を見せた。

「”ニコライらしいや!俺、安心したよ。”」

その笑顔を見ると、ニコライも微笑む。

「”この眼は誰にも秘密だぞ。妹のヴァルヴァラでさえ知らないからな。言った時はどうなるか…”」

とニコライが言ったところで、ロディオンは苦笑して言った。

「”言う訳ないでしょ!”」

するとニコライは

「”んじゃ、もう一つ。”」

と言った。
ロディオンは首を傾げると、ニコライは再び怒りの形相を見せて

「”ロディオン!勝手に職場に来んなってあれほど言ったろ!”」

と叱りつける。
ロディオンは「ひぃ~」とわざとらしく怖がってみせると、ロディオンはニコライの手にある荷物に目がついた。
ロディオンはその荷物の正体を知ると、ロディオンの顔色はみるみる変わる。
そして最終的には、ニコライを軽く睨んで言う。

「”ニコライ…!その手にあるものはなんだ!!”」

みんながニコライの手に注目すると、そこには旅行バッグ。
善光はポカンとすると、ロディオンは

「まさか先輩って子と旅行とか…!?俺とも旅行に行った事無いのにニコライったら…!」

と泣くフリをする。
すると善光も

「下らない事で騒ぐな!」

と怒ると、ニコライは「フン」と鼻で言ってからロディオンに言った。

「”仕事道具を入れるのに丁度良いんだ。明日は隣町まで作った物を届けに行かなきゃなんねえんだ、その準備さ。”」

「”人形作ってんだってな。人形でも届けんのか?”」

と善光が聞くと、ニコライは笑う。

「”そうだぜ。明日先輩の捜索と仕事のついでに、お前等を途中まで送ってやるよ。どうせ帰りに隣町を通る予定だったろ。”」

するとロディオンは喜んで

「ウラー!ニコライと一緒に隣町ぃ!」

と言い、善光は呟く。

「別に隣町に行ったら人助けとか始めるんだろうなぁ…」

それを聞いたロディオンは善光を満面の笑みで見つめ、図星だと悟った善光は溜息しか出てこないのであった。
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