シャ・ベ クル

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人間ドール開放編

第十二話 俺の兄弟!ニコライとヴァルヴァラ!

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 ある日の朝早く、ロディオンは布団から起きると旅行バッグを背負って外出の準備を始めた。
そこに善光が現れ

「どこ行くんだロディオン。」

と言うとロディオンはギクッと驚いた。

「よ!善光…!実はね、妹が日本に留学したいって言ってるから迎えに行かなきゃなんなくて…!」

すると善光も旅行バッグを出した。

「俺も連れてけ。」

ロディオンは仰天。

「オイ!?なんで善光がそんなもの用意してんだ!?」

「私が言った。」

と瑠璃が答え合わせ。

「瑠璃ぃ~!善光には言うなって言ったろ~!」

善光は不満そうに聞いた。

「なんだよ。俺が行っちゃ駄目なのか?」

「逆になんで来たいんだ…」

ロディオンが聞くと、善光の眼鏡は光る。

「神様を数日間観察できないなんて、一人で夕飯食うより、依頼で事件に巻き込まれるよりも不幸な出来事だからな。」

その善光の言葉にロディオンは

「その節はすいません…」

と素直に謝罪すると、善光は言った。

「許してやるから連れてけ。」

ロディオンは半笑い。

「俺と瑠璃の分しか手続きしてないよ…!」

すると善光は無表情のまま、鼻で笑った。

「俺の手続きは既に終わってる。」

ロディオンは顔を引き攣ると

「なるほどな…。こういう時だけ正実の権力使うんだな平気で…!」

と言うと、善光はいつも通りペンでロディオンを指して

「モノは使いようだ。」

と言うのだった。



 ロディオン達はロシアに到着し、長々と殺風景な道を歩いていた。
木々などの植物は腐るほどあるのだが、建物が見える気配がない長い長い一本道。
ちなみにセオーネは演説のため帰国できないのだという。

「長…、お前の故郷どんだけ田舎なんだよ。」

善光が言うと、ロディオンは

「だって田舎なんだもん!」

とぷいっと善光から顔を背けた。
瑠璃も流石に疲れてロディオンのバッグに集る。

「ラディオン…喉が渇いた。」

ロディオンは水筒を出してやると呆れ顔。

「も~寒いところでも喉渇くのか瑠璃は~」

瑠璃は水筒を飲むと次に言った。

「ラディオン、あのお菓子が食べたい。ろりぃたくっきぃ!」

ロディオンは笑った顔を引き攣って

「俺がいつもバッグに入れてるお菓子の事だろ?母国では販売されておりません。帰国するまで我慢するんだな!」

と言い放ち、瑠璃はムスっとしてしまう。

「行く前に言ってくれりゃ俺が買っておいたのに。」

善光が言うと、瑠璃は善光に言った。

「それを先に言え!」

善光は眼鏡を光らせながら

「俺今まともに神様と会話した…!」

と言ってから

「今度から買いますね。」

と返事をする。
瑠璃は不機嫌な顔を崩さないでいると、ロディオンは閃いて笑顔を瑠璃に見せた。

「そうだ!俺のお兄ちゃんさ!お菓子作るの上手いんだぜ?レモンパイ作ってもらうよ。」

ロディオンが言うと、瑠璃は目を輝かせて

「そうなのか…!」

と機嫌を良くした。
善光は染み染みとメモ帳に化学式を書きながら

(なんて単純な神様なんだ…!)

と喜ばしい気分になっていた。



 やっと建物の先っちょが見えてきた。
暫く歩くと花畑が見えてくる。
瑠璃と善光は感嘆の声をあげると、大きい建物が一軒見えてきた。

それは教会。

「でっかい教会、古臭いな。ロディオンとセオーネはこんなところで育ったんだな。」

善光が素直に感想を言った。
それを見たロディオンは深く溜息をつくと、善光に振り返る。

「どうした?急に足止めてよ。もう目の前だろ?」

善光に対し、ロディオンは言いにくそうな顔をしてから善光に言った。

「俺の故郷さ、神様を信じてる奴しかいないんだよ。」

「セオーネも宣教師だし、そうであっても頷ける。」

善光が言うと、ロディオンは暗い表情を崩さないで続けた。

「俺、この村では『神様』呼ばわりされてるんだ。
普通の人間だけど、言い伝えの影響で神様って言われて育ってきたんだ。」

ロディオンの告白に、善光は

「変なの。流石ド田舎。」

と興味無さそうに答えるとロディオンは微妙な反応をする。

「驚かない?て言うかドン引きしてる?」

「興味ないし。俺が興味あるのは化学とこっちの神様(瑠璃)だけ。」

するとロディオンは笑った。

「そうだよな!なんかスッキリした!
っていう事だから、なんか周りに変な扱いされるから、そういうところは適当に流してくれって頼もうとした!」

善光は「わかった。」と言うと、瑠璃は

「早くラディオンの兄とやらにレモンパイを作らせろ!」

とロディオンに我儘を言った。
ロディオンは笑うと歩きだす。

「仕方ないな瑠璃~!行くか!」

瑠璃はロディオンの後を追い掛け、善光もその後ろを歩くのであった。

(ったくエロ主席を神様と言って崇める宗教どこにあるんだよ…)

と、善光は心の中でツッコミながら。



 ポツンポツンと一軒家が見えるだけでアパートやスーパーやショッピングモールもない、古びた田舎村をロディオン達は歩いている。

綺麗なものは、村に広がる花畑のみ。

村の者はロディオンを深々と拝んだり、「”神様が帰ってきた!”」と村中を走って呼びかける者もいた。
善光はおかしい人を見る目で

(学園一のエロ主席が神様とか笑えねぇ。)

と思っていると、ロディオンは一軒の小綺麗な家の前で足を止めた。

「ここが俺の家。」

赤い屋根と白い壁と小さな煙突、小さな庭に花が沢山植えられている家だ。
善光は家を見上げると

「俺の家くらいの大きさかな。本当に五人で住んでんのか?」

と聞くと、ロディオンは苦笑しながら言う。

「俺は十歳からあの古臭い教会で過ごしてたから、正確的には俺以外の四人が過ごしてる家だな!」

善光は「へー。」と言うと、ロディオンは家の扉を開いた。

「”ロディオンただいま帰りましたー!”」

ロディオンは故郷の言葉でそう言うと、正面に見える奥の扉から少女が飛び出してきた。
金髪の長いカールの髪をリボンで束ねて前に垂らし、ロディオン同様の青い瞳を持った少女だ。
足まで隠れるほどの長いワンピースを着て、優しい青緑色の上着を羽織っているどこか大人びた少女。

「”神様…!お待ちしておりました…!”」

少女は流暢なロシア語を話し、上品に喜ぶ。
この少女の言う神様とは、ロディオンの事である。
善光は

「神様…」

と家での呼び名に驚いた末に呟くと、瑠璃は

「なんだ。」

と自分の事だと思って返事した。
ロディオンは笑顔を見せる。

「”ただいま、ヴァルヴァラは今家に一人?”」

妹のヴァルヴァラは頷いた。

「”はい、ママとパパはいつも通り遠くに出かけてますの、今日は帰ってくるとの事ですわ。
ニコライは夕方に帰ってきます。”」

「お前の両親も旅行好きかよ。」

善光が呟くと、ロディオンは顔を引き攣って呟いた。

「そうみたい…。いつも家にいないらしいんだ。」

ヴァルヴァラは善光と瑠璃を見ると首を傾げたので、ロディオンは日本語で紹介する。

「紹介するぜ。こっちは俺のホームステイ先の上郷さん家の兄弟!善光って言うんだ。
こっちは俺のお友達の瑠璃!仲良くしてやってくれ!」

ヴァルヴァラはそれを聞いて天使のような笑顔を二人に向けると、同じく日本語で話した。

「初めまして。
不束者ではありますが、神様の兄弟である『ヴァルヴァラ・ポポフ』です。よろしくお願いします。」

ヴァルヴァラは日本語が達者な様で、善光は感心。
善光は

「よろしく。」

と日本語で答えると、瑠璃は顔を引き攣った。

「どうした?神様。」

善光は瑠璃に聞くと、瑠璃は不機嫌な顔を善光にそのまま向けて

「あの女、腹黒いぞ。」

と本人に聞こえるほどの声量で言った。
ヴァルヴァラは目を見開くが笑顔を保つのに必死、ロディオンは苦笑する。

「マジかよ。女ってヤバイ奴ばっかなんだな。」

善光もお構いないしに呟く。
ロディオンは紛らわすように

「あ!そうだ!お手伝い出来る事とかある?ほら、男手あれば楽な仕事もあるだろ?」

とヴァルヴァラに言うと、ヴァルヴァラは笑顔で言った。

「いえいえ、そんな事お客様や、ましてや神様にさせるだなんてできません。ニコライにやらせます。」

善光はヴァルヴァラを見つめながら

「あの笑顔で腹黒なんだもんな。」

と小声で言うと、瑠璃も

「それもかなりこじらせておる。」

と言うのでヴァルヴァラは冷や汗を浮かべる。
ロディオンも反応しづらそうにしていると、誰かが玄関から入ってきた。

「”そこで立ち往生されると中に入れないだろ。”」

低い声のロシア語が聞こえる。
善光達が後ろを振り返ると、そこにはなんと顔がロディオンと瓜二つの男性がいた。

ロディオンと違って髪が異様に長くストレート、足のくるぶし辺りまで伸ばして一つに束ねている。
更に右目に眼帯をしており、それ以外はロディオンの特徴とあまり変わらないのだ。
ピンクのワイシャツの上に袖のないセーターを着ていて、緑のループタイ、そして長ズボンを履いている。

「”ニコライ!”」

ロディオンが笑顔を向けると、男性は微笑んで言った。

「”おかえりロディオン。君達がロディオンの友達か?”」

ここまではロシア語で話すのだが、善光達を気にかけてくれたのか不器用な日本語を話す。

「んー、兄の『ニコライ・ポポフ』、よろしく。」

ニコライが挨拶をすると、瑠璃はニコライに何を感じたのかすぐさまロディオンの後ろに隠れてしまった。
ロディオンは瑠璃の素早さに驚いて

「瑠璃!?どうした?」

と聞くと、瑠璃は

「お前の兄弟はロクな奴がおらんな…!」

と言う。
ロディオンは首を傾げてしまうと、善光は

「あ、ロディオンとセオーネの妄想でめっちゃ弄られてた人。」

と、相手に日本語があまり通じない事をいい事に日本語で言う。

「モウソウデ…?メッチャ?」

ニコライが首を傾げると、ロディオンは焦ってからニコライに言った。

「あ!”上郷さんの兄弟だよ!よく似てるだろ!”」

ニコライに言うと、ニコライは首を傾げてしまった。

「カミゴウ?んー?」

善光を見つめるが、ニコライは小声で善光に言う。

「”なんだこの未確認生命体は…”」

善光はロシア語は一応勉強済みなのでその言葉に

「は?」

と言うと、ロディオンは苦笑して

「時々ニコライは変な事言うんだ…!ほら写真見せてあげるからこれ!」

と正実の写真を見せた。
すると、ニコライは写真を見て納得した顔で言う。

「”サトイモ。”」

善光は反応しづらい顔で

「正実が里芋…??」

と呟くと、ロディオンは苦笑した。

「ニコライは人を食べ物に例えちゃうほど食べるの好きなんだよ…!」

善光はその言葉に眉を潜める。

「ロディオンに劣らず変な兄貴だな…! ”俺は何の食べ物だよ!”」

ニコライは目を天井に向けながら言う。

「”生臭いんだ君。”」

善光は怒ったのか声を荒らげて

「は?」

と言うが相手は無視。
ロディオンは満面の笑みで

「まさか魚類…」

と呟くが、すぐに切り替えて手を叩く。

「”今からレモンパイ作れない?俺の連れが食いたいって凄くうるさくてさ~!”」

するとニコライは

「”そうか。レモンはロディオンだからな、沢山作ってやる。”」

と笑顔で台所に向かった。

「良かったな瑠璃!」

ロディオンが瑠璃に微笑むと、瑠璃はあまり浮かない顔をしながら

「今こやつ、ラディオンの事をレモンと言わなかったか…?」

とニコライの発言を奇妙に思うのであった。
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