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10.街
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10.街
抱きしめられている。
ーーーこれは、何だ?
これは…
(これは……!!!ッ…"パラ萌え" だわ……!!!!!!!!!)
目を見開き、何かを確信したような、天啓を受けたような、至極真剣な表情で、ーーフェリクスは結論を導き出した。
才能を磨き過ぎたようだ。
パラ萌えとは、パラメータ萌えの略称である。
ヒロインの能力値を上げすぎると、攻略予定にない遠縁の人物までチヤホヤしに寄ってくる、不可解な現象を現した言葉だ。
確かにPrincess Revでは、隠しキャラ、暗殺者ルーカスを出すために、主人公の初期値を上げる作業が必要だった。
初期値上げは、殺される周回前提の、苦みを伴う作業なのだが…ルーカスに夢見る女子たち曰く、その"作業"が、彼の価値を高めているのだという。
まあいい。
問題は、フェリクスはヒロインでは無い、ということだ。
なぜパラ萌えされている?
この青髪のルートは、溺愛と夜のボディタッチが激しいのが特徴だった。独占欲が強く、彼を怒らせたりすると、キスをされながら、首を絞められたりするのだ。選択肢を間違えても、すぐ殺してくる。
巷では、それが"良い"らしいが。
残念ながら、好みではなかった。
最強の魔術師フェリクスは、素直な照れ屋さん的な…かわいい受が好みなのである。S要素がどうとか、ヤンデレがどうとか、そういう類の畑ではないのだ。
ーー嗚呼、畑違い。
求愛されても、フェリクスは彼の愛に応えられないのだ。
抱いてやれない。ーー
抱きすくめられてから、この思考に至るまでに、フェリクスの頭脳は凡そ1秒ほどを使っていた。
*
項に、唇が這わされた感触がする。
普段後ろ髪で隠れたそこを、抱かれて俯いた拍子に口付けられた。
「…う……っ…」
思わず声が出る。
身体がビクリと跳ねて、瞬間的に身を捩った。
その際に小指が棚を掠め、並べられた小瓶たちが微かにカランと鳴った。実際には抱きしめられているので、あまり動けていないが。
どうにも狭い空間だった。
「……ルーカス」
嗜めるように、名を呼ぶ。
抜け出そうと身じろぐと、肩口に巻きつく腕がぎゅ、と強められた。
「……意図は何だ」
心なしか息が詰まる。
こうして引っ付いている間も、彼の良い香りが鼻についた。
薄暗い空間でこんなことをしていると、店主が何か気づいてしまいそうで、…その緊張感もあった。
端的に問う。首筋を離れた唇が、耳の後ろにきて、息を吐くように答えた。
「フェリクスが……好き。会ってから、ずっと目で追ってた」
「…僕のにしたい」
そういう彼の声には、与えられない玩具を強請るような…不安そうな揺れがあった。それでも、誰かを欲しがれば手に入ると思うのは、傲慢なことだ。
「……お前は、きっと寂しいだけだ」
揶揄して振り返る。
彼の口元は少し、傷ついた様相をしていた。
「…難儀なことだな。」
否定もできず黙ってしまった彼に、フェリクスは喉で笑った。
彼の、眉を下げた情けない顔が、よく見たくて。
指の先で、彼の前髪を横へ流すように、一撫でした。
*
パンパンに薬品が詰められた紙袋を、一人一つ抱えながら、細い小路を並んで歩いていく。
どうせ同じ寮、同じ部屋だ。手があるならば、借りればいい…材料は全て自分のものだ。
紙袋を覗きつつ、一人で満足気にして居れば、横からわかりやすいため息が聞こえた。
「…好きな人とかは、居るの?」
「答える義務はないな」
「どんな人がタイプ?…服とか…」
「…似合っていればいい」
気のないやり取りを交わしながら、人が多くなってきた街中を歩いていく。学園が見えてくるこの辺りは、随分賑わっていて、飲食店も多い。
煌びやかな看板が沢山垂れ下がっているから、ルーカスはちらちらと、目移りをしていた。
ーー小腹が空いている気がする。カフェくらいなら、付き合っても良いかもしれない。
流行りの商店ばかりのこの道は、もう街灯がつく時間だ。
抱きしめられている。
ーーーこれは、何だ?
これは…
(これは……!!!ッ…"パラ萌え" だわ……!!!!!!!!!)
目を見開き、何かを確信したような、天啓を受けたような、至極真剣な表情で、ーーフェリクスは結論を導き出した。
才能を磨き過ぎたようだ。
パラ萌えとは、パラメータ萌えの略称である。
ヒロインの能力値を上げすぎると、攻略予定にない遠縁の人物までチヤホヤしに寄ってくる、不可解な現象を現した言葉だ。
確かにPrincess Revでは、隠しキャラ、暗殺者ルーカスを出すために、主人公の初期値を上げる作業が必要だった。
初期値上げは、殺される周回前提の、苦みを伴う作業なのだが…ルーカスに夢見る女子たち曰く、その"作業"が、彼の価値を高めているのだという。
まあいい。
問題は、フェリクスはヒロインでは無い、ということだ。
なぜパラ萌えされている?
この青髪のルートは、溺愛と夜のボディタッチが激しいのが特徴だった。独占欲が強く、彼を怒らせたりすると、キスをされながら、首を絞められたりするのだ。選択肢を間違えても、すぐ殺してくる。
巷では、それが"良い"らしいが。
残念ながら、好みではなかった。
最強の魔術師フェリクスは、素直な照れ屋さん的な…かわいい受が好みなのである。S要素がどうとか、ヤンデレがどうとか、そういう類の畑ではないのだ。
ーー嗚呼、畑違い。
求愛されても、フェリクスは彼の愛に応えられないのだ。
抱いてやれない。ーー
抱きすくめられてから、この思考に至るまでに、フェリクスの頭脳は凡そ1秒ほどを使っていた。
*
項に、唇が這わされた感触がする。
普段後ろ髪で隠れたそこを、抱かれて俯いた拍子に口付けられた。
「…う……っ…」
思わず声が出る。
身体がビクリと跳ねて、瞬間的に身を捩った。
その際に小指が棚を掠め、並べられた小瓶たちが微かにカランと鳴った。実際には抱きしめられているので、あまり動けていないが。
どうにも狭い空間だった。
「……ルーカス」
嗜めるように、名を呼ぶ。
抜け出そうと身じろぐと、肩口に巻きつく腕がぎゅ、と強められた。
「……意図は何だ」
心なしか息が詰まる。
こうして引っ付いている間も、彼の良い香りが鼻についた。
薄暗い空間でこんなことをしていると、店主が何か気づいてしまいそうで、…その緊張感もあった。
端的に問う。首筋を離れた唇が、耳の後ろにきて、息を吐くように答えた。
「フェリクスが……好き。会ってから、ずっと目で追ってた」
「…僕のにしたい」
そういう彼の声には、与えられない玩具を強請るような…不安そうな揺れがあった。それでも、誰かを欲しがれば手に入ると思うのは、傲慢なことだ。
「……お前は、きっと寂しいだけだ」
揶揄して振り返る。
彼の口元は少し、傷ついた様相をしていた。
「…難儀なことだな。」
否定もできず黙ってしまった彼に、フェリクスは喉で笑った。
彼の、眉を下げた情けない顔が、よく見たくて。
指の先で、彼の前髪を横へ流すように、一撫でした。
*
パンパンに薬品が詰められた紙袋を、一人一つ抱えながら、細い小路を並んで歩いていく。
どうせ同じ寮、同じ部屋だ。手があるならば、借りればいい…材料は全て自分のものだ。
紙袋を覗きつつ、一人で満足気にして居れば、横からわかりやすいため息が聞こえた。
「…好きな人とかは、居るの?」
「答える義務はないな」
「どんな人がタイプ?…服とか…」
「…似合っていればいい」
気のないやり取りを交わしながら、人が多くなってきた街中を歩いていく。学園が見えてくるこの辺りは、随分賑わっていて、飲食店も多い。
煌びやかな看板が沢山垂れ下がっているから、ルーカスはちらちらと、目移りをしていた。
ーー小腹が空いている気がする。カフェくらいなら、付き合っても良いかもしれない。
流行りの商店ばかりのこの道は、もう街灯がつく時間だ。
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