悪役に徹しなければ。

いたう

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10.街

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10.街










抱きしめられている。









ーーーこれは、何だ?



これは…







(これは……!!!ッ…"パラ萌え" だわ……!!!!!!!!!)




目を見開き、何かを確信したような、天啓を受けたような、至極真剣な表情で、ーーフェリクスは結論を導き出した。


才能を磨き過ぎたようだ。








パラ萌えとは、パラメータ萌えの略称である。

ヒロインの能力値を上げすぎると、攻略予定にない遠縁の人物までチヤホヤしに寄ってくる、不可解な現象を現した言葉だ。
確かにPrincess Revでは、隠しキャラ、暗殺者ルーカスを出すために、主人公の初期値を上げる作業が必要だった。

初期値上げは、殺される周回前提の、苦みを伴う作業なのだが…ルーカスに夢見る女子たち曰く、その"作業"が、彼の価値を高めているのだという。






まあいい。

問題は、フェリクスはヒロインでは無い、ということだ。








なぜパラ萌えされている?







この青髪のルートは、溺愛と夜のボディタッチが激しいのが特徴だった。独占欲が強く、彼を怒らせたりすると、キスをされながら、首を絞められたりするのだ。選択肢を間違えても、すぐ殺してくる。
巷では、それが"良い"らしいが。










残念ながら、好みではなかった。

最強の魔術師フェリクスは、素直な照れ屋さん的な…かわいい受が好みなのである。S要素がどうとか、ヤンデレがどうとか、そういう類の畑ではないのだ。

ーー嗚呼、畑違い。

求愛されても、フェリクスは彼の愛に応えられないのだ。
抱いてやれない。ーー


抱きすくめられてから、この思考に至るまでに、フェリクスの頭脳は凡そ1秒ほどを使っていた。

















項に、唇が這わされた感触がする。

普段後ろ髪で隠れたそこを、抱かれて俯いた拍子に口付けられた。


「…う……っ…」


思わず声が出る。
身体がビクリと跳ねて、瞬間的に身を捩った。

その際に小指が棚を掠め、並べられた小瓶たちが微かにカランと鳴った。実際には抱きしめられているので、あまり動けていないが。
どうにも狭い空間だった。



「……ルーカス」

嗜めるように、名を呼ぶ。
抜け出そうと身じろぐと、肩口に巻きつく腕がぎゅ、と強められた。


「……意図は何だ」


心なしか息が詰まる。
こうして引っ付いている間も、彼の良い香りが鼻についた。

薄暗い空間でこんなことをしていると、店主が何か気づいてしまいそうで、…その緊張感もあった。


端的に問う。首筋を離れた唇が、耳の後ろにきて、息を吐くように答えた。



「フェリクスが……好き。会ってから、ずっと目で追ってた」





「…僕のにしたい」


そういう彼の声には、与えられない玩具を強請るような…不安そうな揺れがあった。それでも、誰かを欲しがれば手に入ると思うのは、傲慢なことだ。




「……お前は、きっと寂しいだけだ」

揶揄して振り返る。
彼の口元は少し、傷ついた様相をしていた。

「…難儀なことだな。」
否定もできず黙ってしまった彼に、フェリクスは喉で笑った。


彼の、眉を下げた情けない顔が、よく見たくて。
指の先で、彼の前髪を横へ流すように、一撫でした。














パンパンに薬品が詰められた紙袋を、一人一つ抱えながら、細い小路を並んで歩いていく。
どうせ同じ寮、同じ部屋だ。手があるならば、借りればいい…材料は全て自分のものだ。


紙袋を覗きつつ、一人で満足気にして居れば、横からわかりやすいため息が聞こえた。




「…好きな人とかは、居るの?」

「答える義務はないな」




「どんな人がタイプ?…服とか…」

「…似合っていればいい」


気のないやり取りを交わしながら、人が多くなってきた街中を歩いていく。学園が見えてくるこの辺りは、随分賑わっていて、飲食店も多い。

煌びやかな看板が沢山垂れ下がっているから、ルーカスはちらちらと、目移りをしていた。
ーー小腹が空いている気がする。カフェくらいなら、付き合っても良いかもしれない。



流行りの商店ばかりのこの道は、もう街灯がつく時間だ。













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みんなの感想(1件)

卵かけご飯
2022.12.01 卵かけご飯

フェリクスのクールな所と内面の感情がチグハグで、それがとても面白いです、、、!
個人的に長髪が好きなのでドキドキしながら読んでます!攻め様との絡みが尊いです、、、!!これからが楽しみです!

いたう
2022.12.02 いたう

感想ありがとうございます。
一人で(この話に需要はあるのだろうか…)と白目になりながら書いていたので、とても励みになりました。
長髪推しでクール受が気になるの方に届いてくれたら、とても、本望です…!

初めて小説を書いており、拙い作品になっておりますが、お手隙の際に、読んで頂けたら幸いです。

解除

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