悪役に徹しなければ。

いたう

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3.青い髪の

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3.青い髪の







フェリクスは容姿端麗だ。

多少好みの問題もあるかもしれないが、彼が馬車から降りて、校門までの煉瓦道を凛と踏む様は、学園生徒らの視線を集めていた。



「あれはルックスナー公爵家の……」
「社交界ではお見掛けしませんでしたわ…」


「……」

囁く小鳥たちに一瞥だけ投げ、特に挨拶はしない。道を阻む生徒らには肩を当てそうになることもあったが、切り開くように教室へと向かう。
声をかけられたりと絡まれたが全て無視をした。ルックスナー公爵家よりも上位の家は非常に少ない。懸念することはない。






(~~っ超、ッ緊張するうううう!!!)

嗚呼内心は忙しいのだ、どうか構わないで欲しい…。冷たい美形に振り返ってしまうのはわかるけど!!わかるけどね!!と言いたくなって、かぶりを振る。前世の私みたいな、大人しめの小さなモブ生徒たちが、きらきらした目でこちらを見ていると、ファンサービスをしてしまいたくなる。


…否、してはならない。
フェリクス様は、そんなサービスはしない。








フェリクスには、魔術師の才があるだけに、多少病弱だという設定がある。確かに無理をして鍛錬した日には熱が出たり、街歩きをすれば咳込んだりと不調がよくあった。

だから食品に気をつけ、なるべく体力の向上を意識して生活していた。食べ物を無理に食べても、身長ばかりが伸びて筋肉量がついてきていなかったが、まぁゲームの初期進行度の割には、最大限かっこいい容姿で現れたつもりだ。



なのに。


(でかい…)


校舎のクラス分けのロビーに群がる男子生徒たちの身長には恐れ慄いた。拳3つ分は上である。彼らはとても新入生には見えないが、同じ青色のタイをしているから、同学年だ。
屈強な背中たちのせいでクラス分けの張り紙が確認できないまま、暫く立ち往生していると、斜め後ろから声が降ってきた。




「騎士科の連中、邪魔だね…」



振り返ると、肩口にすぐ顔があった。避けようとしたが密集したこのロビーで、背を押されるようにくっ付かれると、自然な感じには離れられなかった。

「僕ね、目が悪いんだ。君、代わりに僕の名前を見つけてくれないかな」


何故自分がそんなことを、と遮ろうとして、間髪入れず彼が名乗った名前に心当たりがあり、思わず閉口した。




「僕の名前はルーカス・ミストラン。よろしくね…」



覚えている、ゲームの隠しキャラだ。


深海のように真っ青な髪は、前髪が長く、その視界はほぼ前髪で遮られている。その割に、耳上や項はかなり短く切り揃えられていて、少し対照的な髪型だ。

魔術師らしく、ピアスをしている。両耳から下がる大きめの金の三角形が、彼の首を傾げた動きに併せて、チャラチャラと揺れていた。

「見えるかな?」

ルーカスの方が身長が高いため、少し抱きつかれたような形になるが、苦情を口にするのもやめた。…真っ直ぐ張り紙だけを見つめておく。

この男は、大手商会の養子としてこの学園に入学しているが、とても暗殺に長けている。


ーーあまり関わりたくはない。


「…MA1。」

見えた教室番号だけ端的に伝えて、ふいと密集から離れると、同じクラスに向かうことになるため、気づかれる前に先に進んでいく。




後ろから待ってよ、ねぇ、と声が聞こえたが、瞑目して息を吐いた。歩みを止めるつもりはない。



(フェリクス様に気軽に触ってくるとは一体何様なのよ…!!!!)


あの隠しキャラは、多数の夢女子等をフォロワーに持つ、Princess Revジャンル最大の、病み系恋愛男である。
隠しキャラ故、ヒロインの初期値を高くする出し方手順があるのだが、…まさかフェリクスに絡むとは思わなかった。



「……」

相手にしてはならない。

時計塔に視線を投げるとまだ時間はある。
教室で絡まれても面倒だ。


気持ちを切り替えて、一度庭園に寄ることにした。
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