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1.中身の腐女子、理想の攻め様になりたい
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1.理想
よくある異世界転生。鏡の前に立つ齢10歳程度の少年は、病的に色白く、とても不健康そうだ。
前髪を真ん中で分けたセンターパートの黒髪に、狡猾そうな薄い唇。
白眼がちな双眸は切れ上がるような吊り目で、睫毛が長い。
その下の虹彩は真っ黄色の、…瞳孔かっぴらいた、爬虫類的な瞳をしている。
ーーーまるで蛇。
この姿には、覚えがある。
かつて自分が好きだった、所謂"乙女ゲーム『Princess Rev』の登場キャラクター"だ。
名は、フェリクス・フォン・ルックスナー。
この国の公爵家長男であり、行く末は魔術師団を統べる魔術師のトップであり、王家に影響を与える最強の宰相である。
クールで、知的で、とにかく冷徹とした所作が全て素敵なのだ。それでいて我儘で、感情でも謀をする天才。
ゲーム内では、ヒロインと皇太子を裏から引き摺り落とし、すぐバッドエンドに誘ってくる、生粋の悪役なのである。
キャラクターもシナリオも最高に良いのに、プリレボの評価が3.5とイマイチ振るわないのは、クリア難易度が高すぎるからなのだ。
「…っは、」
動悸がする。
鏡に映るのは、素晴らしい容姿だ。美しい。
手足、指に至るまですらりと長く、痩せすぎていることを無視すれば、さすが乙女ゲームのキャラクターである。
知能も高い。鏡を見ながらも今世の記憶や知識を手繰るためフル回転している。
この頭脳は、前世の自分よりも余程冴えている。つまり超ハイスペックである。
「………」
問題があった。
(…っど
どどどどうしよううううううううう)
それは、私の中身が、
ただの腐女子…だと言うことだ。
(やばいって……っフェリクス様…!?いや、これはフェリクス様だ!!まずい、大変!!!私がフェリクス様なんて……ッ!!!そんな、、、!!)
思わず両頬を押さえる。滑らかな肌は完璧に等しい。しかし鏡に映った乙女がかったポーズには我にかえると、すぐに手を離した。
「ハッ…!!ち、ち、違う」
フェリクス様は。
こんな動きしない。
フェリクスは推しだった。
人生賭けて良いと思えるほど、前世で推し狂っていた。
推しCPのうちの1人で、
最萌えの攻め様は、このフェリクス様である。
私の前世はバリバリの活動腐で、絵描きで、薄い本なども出していた。全てを賭けて推し活していたモブ顔オタク女子(みつあみ瓶底眼鏡女子)なのである。
思い出せ。
「……ッ」
床に膝をつく。
尊さと複雑さで、ふわふわのカーペットを握りしめた。
これは、中身が私如き人材になってしまった怒りである。
狂叫びながら限定グッズを買い漁った日々の記憶。推しへの熱量。
ーーー思い出せ、彼の所作を。
発言を。
フェリクス様の"尊いお顔"で
間抜けな失態など許されない。
ファンとして万死に値する。
この麗人の生き様を、失敗してはいけない。
「…ッ悪役に、ならねば…っ!!」
ダンッと音を響かせて二度ほど床を殴る。
掴んだカーペットを引き千切る勢いで、握り潰し、奥歯を噛み締めた。
彼が負けるシーンはこんな感じだった。こんな感じだ。そう、こんな感じに…声を低く
「悪役に!!徹しなければ!!!!!」
主役たちに殺されず生きるにはどうしたら良いかとか、そういう話もあるが。
彼、フェリクスの孤高たる生き様が美しいのだから、私如きが"それ"を歪めてはならない。そう思う。
さあ、努力が必要だ。
よくある異世界転生。鏡の前に立つ齢10歳程度の少年は、病的に色白く、とても不健康そうだ。
前髪を真ん中で分けたセンターパートの黒髪に、狡猾そうな薄い唇。
白眼がちな双眸は切れ上がるような吊り目で、睫毛が長い。
その下の虹彩は真っ黄色の、…瞳孔かっぴらいた、爬虫類的な瞳をしている。
ーーーまるで蛇。
この姿には、覚えがある。
かつて自分が好きだった、所謂"乙女ゲーム『Princess Rev』の登場キャラクター"だ。
名は、フェリクス・フォン・ルックスナー。
この国の公爵家長男であり、行く末は魔術師団を統べる魔術師のトップであり、王家に影響を与える最強の宰相である。
クールで、知的で、とにかく冷徹とした所作が全て素敵なのだ。それでいて我儘で、感情でも謀をする天才。
ゲーム内では、ヒロインと皇太子を裏から引き摺り落とし、すぐバッドエンドに誘ってくる、生粋の悪役なのである。
キャラクターもシナリオも最高に良いのに、プリレボの評価が3.5とイマイチ振るわないのは、クリア難易度が高すぎるからなのだ。
「…っは、」
動悸がする。
鏡に映るのは、素晴らしい容姿だ。美しい。
手足、指に至るまですらりと長く、痩せすぎていることを無視すれば、さすが乙女ゲームのキャラクターである。
知能も高い。鏡を見ながらも今世の記憶や知識を手繰るためフル回転している。
この頭脳は、前世の自分よりも余程冴えている。つまり超ハイスペックである。
「………」
問題があった。
(…っど
どどどどうしよううううううううう)
それは、私の中身が、
ただの腐女子…だと言うことだ。
(やばいって……っフェリクス様…!?いや、これはフェリクス様だ!!まずい、大変!!!私がフェリクス様なんて……ッ!!!そんな、、、!!)
思わず両頬を押さえる。滑らかな肌は完璧に等しい。しかし鏡に映った乙女がかったポーズには我にかえると、すぐに手を離した。
「ハッ…!!ち、ち、違う」
フェリクス様は。
こんな動きしない。
フェリクスは推しだった。
人生賭けて良いと思えるほど、前世で推し狂っていた。
推しCPのうちの1人で、
最萌えの攻め様は、このフェリクス様である。
私の前世はバリバリの活動腐で、絵描きで、薄い本なども出していた。全てを賭けて推し活していたモブ顔オタク女子(みつあみ瓶底眼鏡女子)なのである。
思い出せ。
「……ッ」
床に膝をつく。
尊さと複雑さで、ふわふわのカーペットを握りしめた。
これは、中身が私如き人材になってしまった怒りである。
狂叫びながら限定グッズを買い漁った日々の記憶。推しへの熱量。
ーーー思い出せ、彼の所作を。
発言を。
フェリクス様の"尊いお顔"で
間抜けな失態など許されない。
ファンとして万死に値する。
この麗人の生き様を、失敗してはいけない。
「…ッ悪役に、ならねば…っ!!」
ダンッと音を響かせて二度ほど床を殴る。
掴んだカーペットを引き千切る勢いで、握り潰し、奥歯を噛み締めた。
彼が負けるシーンはこんな感じだった。こんな感じだ。そう、こんな感じに…声を低く
「悪役に!!徹しなければ!!!!!」
主役たちに殺されず生きるにはどうしたら良いかとか、そういう話もあるが。
彼、フェリクスの孤高たる生き様が美しいのだから、私如きが"それ"を歪めてはならない。そう思う。
さあ、努力が必要だ。
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