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ピンク色のコスモスの花が咲き乱れ、暖かい風がコスモスの花を揺らしていた。
コスモスとヒマワリは、エンガルの町を表す花だと教えてもらったが、僕はこの花が嫌いだ。
僕の母が亡くなった時もコスモスの花が揺れていた記憶がある、共同墓地の近くに自生しているせいだとは思うが、この花を見る度に母を思い出すからだろう。
今日行われている僕の大先輩である、アレックスさんの葬儀でもコスモスが風に揺れていた。
大先輩のアレックスさんは、町の英雄でもあり僕の命の恩人でもある。騎士団に入りたての頃に、盗賊相手に腰を抜かしていた僕を笑ったりせずに、その恐怖は大事な事だと諭してくれた恩人だった。
そもそもアレックスさんは、騎士団の人では無く元騎士団の人なのだが、アックスと名を変えバウンティハンターになってからも、騎士団の先輩達からの信頼は厚かった。
バウンティハンター時代のアックスさんしか知らない僕だが、彼の人柄に触れ兄の様に、親父の様に、惹かれて行った。
憧れだった兄貴分の突然の訃報に、足元の地面が崩れて行く様な心細さを感じ、恐怖からなのか、遣る瀬無さからなのか、僕は葬儀の列を離れコスモスの花畑で項垂れていた。
ふと視線を前方に移すと、コスモス畑の中で立ち尽くす一人の少女の姿が見て取れた、彼女はだぶだぶの黒いワンピースの袖を捲り上げ、そよ風にも儚げに折れてしまいそうな印象だった。
いつもなら女の子がいると、慣れないせいか照れてしまい、挙動不審になってしまうので、出来るだけ近くに寄らない様に心掛けるのだが、自分でも驚く程に自然に喋りかけていた。
「君、大丈夫?」
「大丈夫って何が?」
初対面の相手に大丈夫って……それは無いよな。
「いや……その何と無く」
「大丈夫じゃ無い様に見えた?」
そうだ彼女に言われて気付いたが、今にも命を散らしそうな儚げな雰囲気が、彼女から漂っていた、人が命を落とす間際の独特な空気、彼女はそれを纏っていた。
おそらく自然に話しかけていたのはそのせいだったんだろう。
「うん……大丈夫じゃ無い様に見えるよ、今にも萎んでしまいそうだ」
彼女は一瞬目を見開き、ぷふっと吹き出した。
「まるでお花みたいね、そんな綺麗なものじゃないわよわたし」
「でも風に吹かれて飛んでいきそうでしたよ?」
彼女は目を逸らし、溜め息混じりにしゃがみこんだ。
「飛んで行けるなら、どこかへ飛んで行きたい、飛んだ所で自分の気持ちは捨てて行けないんだけどね」
しゃがみこんだ彼女の目線に合わせる様に、僕もしゃがみ込み彼女の顔を覗き込んだ、泣いてる様な気がしたからだ、女の子の扱いは全く解らないが、女の子が泣いてる時は全力で何とかしろと、生前にアックスさんが言っていた。
そんな場面には行き合う事は無いと、今の今まで思っていたが、実際に出くわしてしまうと全力でアタフタするしかない。
「女の子が泣きそうになっていたら、顔を覗き込むもんじゃないわよ」
「あ……あ、ごめんなさい、でも泣きそうな顔だったから」
彼女はムッとした顔を此方に向け、また溜め息を吐いた。
「泣きべそかいた男の子に慰められる程、わたしって弱ってるのかしらねえ」
「泣きべそなんて!」
「かいてるわよ、涙の跡がくっきりよ」
慌てて顔を袖で拭う、おそらく葬儀の時に大泣きした時だろう。
「誰か大事な人でも亡くしたの?」
「どうしてわかったの?」
「ここ、墓地だもの」
言われてみれば至極当然の事だ。
「僕の命を救ってくれた、親父みたいな、兄貴みたいな人、尊敬してた」
「いい人だった?」
「すごいいい人だった、子供からも、大人からも好かれていた、バウンティハンターって嫌われる人が多いけど、その人は町の英雄だった」
ポツリポツリとアックスさんのエピソードを語り、彼の人柄を語って行くと不思議に気分が楽になっていった。
「そう、いい人だったのね」
「うん……いい……ひ」
自分でも驚く位、唐突に涙の防波堤が欠壊した、後は言葉が出ない程に大泣きをしてしまった、自分でも狼狽えてしまう程の大泣きだった。
一頻り泣き終わった頃に、彼女はまた溜め息混じりに。
「自分が死んだ後、ここまで大泣きしてくれる人って、あなたにはいる? わたしにはいないわ、その人が羨ましい……」
「僕は誰かの為に泣く人を作りたくないよ、名前も知らない誰かの笑顔の為に、騎士団に入ったんだ」
「そうね、素敵な生き方だと思うわ、わたしも誰も泣かせない生き方がしたい、笑っている方が好きだもの」
ニッコリと笑った彼女の笑顔は、コスモス畑に咲き誇るどんな花よりも可憐だった。
「ぼ……僕はアーノルド、君の名前は?」
「わたしはエリー、エリー・アックスよ」
クスリと笑い彼女は立ち上がった、彼女の黒いワンピースは良く見ると、かなりサイズの大きい、バウンティハンターの作業着を無造作に羽織っているだけの物だった。
クルリと背を向けた彼女の背中には、斧を型どった独特の刺繍が入ったアックスさん特有の作業着だった、その背中は線の細い彼女の体躯に見合わない逞しさが感じ取れた。
「じゃあね、泣き虫アーノルド」
最初に見た萎みそうな彼女では無く、何かを決した大輪の花のような笑顔を残し、コスモス畑から走り去って行った。
「エリーか……」
また、会いたいな。
先ずは彼女の為に、エリーの笑顔の為に一歩を踏み出そう。
コスモスとヒマワリは、エンガルの町を表す花だと教えてもらったが、僕はこの花が嫌いだ。
僕の母が亡くなった時もコスモスの花が揺れていた記憶がある、共同墓地の近くに自生しているせいだとは思うが、この花を見る度に母を思い出すからだろう。
今日行われている僕の大先輩である、アレックスさんの葬儀でもコスモスが風に揺れていた。
大先輩のアレックスさんは、町の英雄でもあり僕の命の恩人でもある。騎士団に入りたての頃に、盗賊相手に腰を抜かしていた僕を笑ったりせずに、その恐怖は大事な事だと諭してくれた恩人だった。
そもそもアレックスさんは、騎士団の人では無く元騎士団の人なのだが、アックスと名を変えバウンティハンターになってからも、騎士団の先輩達からの信頼は厚かった。
バウンティハンター時代のアックスさんしか知らない僕だが、彼の人柄に触れ兄の様に、親父の様に、惹かれて行った。
憧れだった兄貴分の突然の訃報に、足元の地面が崩れて行く様な心細さを感じ、恐怖からなのか、遣る瀬無さからなのか、僕は葬儀の列を離れコスモスの花畑で項垂れていた。
ふと視線を前方に移すと、コスモス畑の中で立ち尽くす一人の少女の姿が見て取れた、彼女はだぶだぶの黒いワンピースの袖を捲り上げ、そよ風にも儚げに折れてしまいそうな印象だった。
いつもなら女の子がいると、慣れないせいか照れてしまい、挙動不審になってしまうので、出来るだけ近くに寄らない様に心掛けるのだが、自分でも驚く程に自然に喋りかけていた。
「君、大丈夫?」
「大丈夫って何が?」
初対面の相手に大丈夫って……それは無いよな。
「いや……その何と無く」
「大丈夫じゃ無い様に見えた?」
そうだ彼女に言われて気付いたが、今にも命を散らしそうな儚げな雰囲気が、彼女から漂っていた、人が命を落とす間際の独特な空気、彼女はそれを纏っていた。
おそらく自然に話しかけていたのはそのせいだったんだろう。
「うん……大丈夫じゃ無い様に見えるよ、今にも萎んでしまいそうだ」
彼女は一瞬目を見開き、ぷふっと吹き出した。
「まるでお花みたいね、そんな綺麗なものじゃないわよわたし」
「でも風に吹かれて飛んでいきそうでしたよ?」
彼女は目を逸らし、溜め息混じりにしゃがみこんだ。
「飛んで行けるなら、どこかへ飛んで行きたい、飛んだ所で自分の気持ちは捨てて行けないんだけどね」
しゃがみこんだ彼女の目線に合わせる様に、僕もしゃがみ込み彼女の顔を覗き込んだ、泣いてる様な気がしたからだ、女の子の扱いは全く解らないが、女の子が泣いてる時は全力で何とかしろと、生前にアックスさんが言っていた。
そんな場面には行き合う事は無いと、今の今まで思っていたが、実際に出くわしてしまうと全力でアタフタするしかない。
「女の子が泣きそうになっていたら、顔を覗き込むもんじゃないわよ」
「あ……あ、ごめんなさい、でも泣きそうな顔だったから」
彼女はムッとした顔を此方に向け、また溜め息を吐いた。
「泣きべそかいた男の子に慰められる程、わたしって弱ってるのかしらねえ」
「泣きべそなんて!」
「かいてるわよ、涙の跡がくっきりよ」
慌てて顔を袖で拭う、おそらく葬儀の時に大泣きした時だろう。
「誰か大事な人でも亡くしたの?」
「どうしてわかったの?」
「ここ、墓地だもの」
言われてみれば至極当然の事だ。
「僕の命を救ってくれた、親父みたいな、兄貴みたいな人、尊敬してた」
「いい人だった?」
「すごいいい人だった、子供からも、大人からも好かれていた、バウンティハンターって嫌われる人が多いけど、その人は町の英雄だった」
ポツリポツリとアックスさんのエピソードを語り、彼の人柄を語って行くと不思議に気分が楽になっていった。
「そう、いい人だったのね」
「うん……いい……ひ」
自分でも驚く位、唐突に涙の防波堤が欠壊した、後は言葉が出ない程に大泣きをしてしまった、自分でも狼狽えてしまう程の大泣きだった。
一頻り泣き終わった頃に、彼女はまた溜め息混じりに。
「自分が死んだ後、ここまで大泣きしてくれる人って、あなたにはいる? わたしにはいないわ、その人が羨ましい……」
「僕は誰かの為に泣く人を作りたくないよ、名前も知らない誰かの笑顔の為に、騎士団に入ったんだ」
「そうね、素敵な生き方だと思うわ、わたしも誰も泣かせない生き方がしたい、笑っている方が好きだもの」
ニッコリと笑った彼女の笑顔は、コスモス畑に咲き誇るどんな花よりも可憐だった。
「ぼ……僕はアーノルド、君の名前は?」
「わたしはエリー、エリー・アックスよ」
クスリと笑い彼女は立ち上がった、彼女の黒いワンピースは良く見ると、かなりサイズの大きい、バウンティハンターの作業着を無造作に羽織っているだけの物だった。
クルリと背を向けた彼女の背中には、斧を型どった独特の刺繍が入ったアックスさん特有の作業着だった、その背中は線の細い彼女の体躯に見合わない逞しさが感じ取れた。
「じゃあね、泣き虫アーノルド」
最初に見た萎みそうな彼女では無く、何かを決した大輪の花のような笑顔を残し、コスモス畑から走り去って行った。
「エリーか……」
また、会いたいな。
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