異世界転移したよ!

八田若忠

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4巻

4-2

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「本当に大変だったのよ? アルファさんはパニック起こすし、表の地形は変わっているし、数百体のゴーレムで溢れ返っているし」

 デックスが溜息交じりに説教を始めた。

「デックスちゃんはイントの着替えで興奮しちゃうしぃ」
「な! ヴィータだって引っ張ったじゃない!」
「最初に引っ張ったのはデックスちゃん~」

 何を引っ張ったのかは聞きません……。

「二日も寝てたんですか? 何で倒れたんですかね?」

 過労か?

「馬鹿ね……魔力の枯渇こかつよ」

 ガチャリとドアを開けて、リンダとマリアが部屋の中にズカズカ入り込んでくる。

「私一応お医者さんだから、様子を見に来たわよ」

 脈や瞳孔どうこうの開きを確認して、一通りのチェックを終えるとリンダは溜息をく。

「あんな大魔法を使ってイビキかいて寝て済んだってのは異常よね」
「OL女神に会っちゃいましたよ」
「OL? ああ、事務員さんね? 何か言ってた?」
「カッコつけた前口上の途中で退席しちゃいました」
「そう。まあ、何にせよ少し安静にしてなさい。魔力の枯渇って結構危ないんだから」

 そう言うと、リンダとマリアは連れ立って部屋を出ていった。

「ダンナ、一体何をやろうとしたんだ?」

 エステアが心配そうに顔を覗き込んでくる。

「いえ……実は……」

 あの時やろうとしたことをぽつぽつと話し始めると、三姉妹は揃って呆れた顔になった。

「あのねぇ、イントがやろうとしたことは、昔々の大魔導士がやらかした大魔法よ? ゴーレムの軍勢なんておとぎ話の世界じゃない。それで魔力の枯渇なんてなにやってんだか……」
「一気にやったから目を回しただけで、一日数十体だったらイケると思うんですよ。そのおとぎ話の大魔法に護られた孤児院だったら、不埒ふらちやからも近づかないんじゃないんですかね?」

 たくさん魔力を込める必要はない。自分達の場所に行ってそこで動かない人形になるだけで良い。

「本当に数十体? 数十体だったら今回みたいなことにならないのね?」
「ならないっす」

 真剣な眼差まなざしのデックスが溜息を吐き、許可してくれた。

「じゃあこれで一安心ってことで今夜はもう寝ましょう~」

 いそいそと三人が寝巻きに着替えて俺のベッドに入り込む。

「二日間俺のベッドに入り込んでたんですか?」
「何よ? 悪い? 夫婦なんだから良いでしょ?」
「看病疲れで眠いの~」
「もっと詰めてくれよダンナ」

 グイグイと寝床に潜り込みさっさと寝息を立て始める三人。

「もう寝たんすか?」

 それほど心配で疲れていたのだろう。

「看病お疲れ様でした」

 そっとお礼を告げて俺も眠った。


 その夜は三人の殺人寝相ねぞうでまた臨死体験をして、OL女神と再び顔を会わせたが、「もう来んな!」とボールペンを投げ付けられたので戻ってこれた。


   ◇◇◇


 さて、翌朝。ぱっちりと目覚めて気分爽快だったが、孫の湯の廊下で鉢合はちあわせした孫の湯責任者であるエリーさんにこってりと怒られた。

「まったく! 命がけで孤児院の外柵を作るってのはどういう了見りょうけんだい? あんたはどう思ってるかわかんないがね、私達はあんたを家族だと思ってるんだから余計な心配かけさせんじゃないよ! 子供達だって心配して夜泣きする子が増えちまったよ! アルファさんにもきちんと謝っておくんだよ!」

 言いたいことを言い終えると、足音荒く厨房ちゅうぼうの奥へとずかずかと入っていく。
 エリーさんの旦那であるだんちょーことアーノルドさんが、いつもより険しい目付きで俺に近寄ってくると、耳打ちしてきた。

「厳しいことを言っているが、イントくんを心配してのことだ。本当に気をつけてくれ、エリーも夜中に心配で泣いてたんだ。本当に無事で良かったよ」

 アーノルドさんは俺の肩をポンと軽く叩き、にやりと笑った。
 猫耳カチューシャと、ハート型の眼帯が今日も眩しかった。

「アーノルド! 余計なこと言ってるんじゃないよ!」

 厨房の奥からエリーさんが怒鳴どなる。

「うむ、大浴場の掃除に行ってくる」

 そそくさと逃げるだんちょーの背中には、男の哀愁あいしゅうと手作り猫尻尾が揺れていた。

「イントくん、これを食べて行きな。消化にいい食べ物だって聞いたから、昨日麺と出汁をもらっておいたんだよ」

 エリーさんが厨房から持ってきたのは、丼に入ったうどんだった。

「ありがたいです、なんかとてもお腹が空いちゃって」
「ゆっくりよく噛んで食べるんだよ。二日も食べてないと、お腹がびっくりして、戻しちゃう子供だっているんだから」

 ずるずるとうどんをすすると、なんだか柔らかくてのびていた。

「エリーさんこれ……」
「うどん屋からの伝言だ。待たされた奴らの気分を味わえだってさ。うどん屋が待たされりゃ、そりゃうどんものびちゃうさね、消化にもいいし我慢して食べな」

 病人食だと思って黙って食べることにした。

「イントさん!」

 背後から声をかけてきたのは、騎士団のアルファさんだった。

「気がつかれたんですね? びっくりしましたよ」
「アルファさん、この度は、ご心配をお掛けしてすいませんでした」

 アルファさんは、俺が寝ている間の作業の進行状態を話してくれた。

「とりあえず騎士団の出張所の内装は形になってきているので、数日もしたら常駐させても問題はないでしょう。あとは外柵ですが、あの手段は心配なので、普通に杭打ちをしませんか?」
「普通に杭打ちをしたら、俺なんか昼前に倒れちゃいますよ?」

 どうやら彼は俺の体力の無さを甘く見ているらしい。

「いえいえ、騎士団から力の余ってる奴らを連れてきますんで」
「外柵の作成は俺の受けた仕事なんで、きちっと片付けますよ。前回ひっくり返った理由はわかっていますんで、対策は考えてあります」
「それならいいんですが……イントさんの暴走行為の監視をしろとも言われているんで、くれぐれもやりすぎないでくださいよ?」

 暴走行為とか言われてたんですか……。

「広大な土地を歩き回るんで、馬がいたら助かるんですけどね、うちの馬を連れてきてもいいですか?」
「かまいませんけど、亀だったら表にいましたよ?」
「ああ、ベスパがいるなら平気です」

 食事を終えてアルファさんと表に出ると、玄関先で丸くなって寝ているベスパがいた。
 亀だから元々丸くできてるんですけどね。
 ベスパは俺に気づくと「きゅう」と切なそうな声を出す。
 大きな甲羅に黒い猫耳を付けられたベスパが、疲れきった顔付きでこちらに歩いてきた。

「かなり……子供達に遊んでもらったようですね、ベスパ」

 きゅうきゅうと鳴きながら、頭をこすり付けてくる。

「じゃあ、この前俺がひっくり返った場所まで行きますか」

 ベスパに跨がり出発しようとしたところに声がかかった。

「ダーリ~ン、待って~」

 孫の湯本館から出てきたヴィータがぱたぱたと駆け寄り、ベスパの背中に飛び乗る。

「どうしたんですか? これから仕事なんですけど?」
「お目付け役~、今日はあたしの当番」

 なるほど、監視役ですね……。

「自分の馬は詰め所に繋いでありますので、そこまで歩きます」

 アルファさんの歩調に合わせて詰め所に赴くと、大工の職人らしき人達が作業中だった。

「お疲れ様です。建物を作ったイントと申しますが、内装をけ負っていただいている大工さんですよね?」

 大工さん達は手を休め、こちらに向き直る。

「おう、おはようさん、鍛冶屋んとこの婿むこさんだべ? 話にゃ聞いてるで」

 そう言ってにっかりと笑い、手をあげてきた。

「魔法でささっと建てた建物なので、寸法とかはいい加減なんですが、手直しが必要な場所とかありますか? 直接指示を出してもらえれば、職人さん達の都合の良いように修正できますよ」
「おおそうかい、そりゃ助かるさ」

 職人さんの指示により、間口の調整といくつかの穴や筋彫すじぼり、寸法調整などをほどこしたあと、屋根き処理に便利なように足場を用意した。

「ははっ、こんなに楽な現場は初めてだわ。作業自体は今日、明日には終わっちまうな。石に穴開けるなんざ大工の仕事じゃねえしな、正直まいってたんだ」
「いえいえ、大変勉強になりました」

 詰め所の工事現場から離れ、俺が気絶したゴーレム大発生現場に向かうと、見覚えのある地形とは違う風景と、千体近くにも及ぶゴーレムの群れが体育座りで待機している姿が見えてきた。


 クマゴーレム達の視線の中で、俺は中央の全体を見渡せる場所に進む。彼らは顔だけはこちらに向けているが、体育座りのまま動かない。

「お待たせしましたクマ兄さん、仕事の時間です」

 俺が一声かけるとクマゴーレム達が一斉に立ち上がり、俺の前に整列してお得意のフロントラットスプレッド――両手を腰に当てて広背筋こうはいきんを広げるポーズを決める。
 総勢千人ほどのクマ兄さん達は、俺の指示を待っていたかのようにこちらを熱い視線で見ている。

「御心配をおかけしました」

 最初にクマ兄さん達に謝罪をすると、全員が首を横に降り、制止するように手のひらをこちらに向けて広げた。気にするなと言っているんだろう、俺はクマ兄さん達の漢気おとこぎに触れて涙をにじませてしまった。

「くっ……ありがとうございます……」

 アルファさんももらい泣きをしているようだ。
 ヴィータは心底あきれている顔付きだ。
 俺は地面から、フロントラットスプレッドのポーズを決めたクマ兄さんそっくりの頑丈な土人形を作り出した。

「ダーリン? あまり無理しないでよ?」

 ヴィータは魔法を使い始めた俺を見て、少し慌てたようだ。

「これはゴーレムじゃなくて単なる土人形なので、魔力をほとんど使わないんですよ」
「なら良いけど~」

 クマ兄さん達が自分そっくりな土人形を小脇に抱えて歩き出す。

「アルファさん、ゴーレム達に警戒区域の指示をしてもらえます?」

 馬にまたがるアルファさんのあとをクマ兄さん達が行列を作って歩いていくさまは、まさに聖者の行進だ。

「ダーリン? ゴーレムに人形を持たせてどうするの?」

 ヴィータが不思議そうに人形を作る俺を覗き込む。

「敷地を全部ゴーレムで囲んだら、また倒れちゃいますからね、人形とゴーレムを交互に立てるんですよ。人目につきやすい場所だったら、人形五に対してゴーレム一でも良いかな? と思いまして」

 ゴーレム密度を低くして、魔力をセーブするようにしてみたのだ。

「だったら~、人形じゃなくて、杭でも良かったんじゃ?」
「……」
「……」
「見る者に与える心理的影響までも考慮こうりょして設計された、孤児院用パトロールゴーレム、それがクマ兄さんである」
「譲れない何かがあるのね?」
「何もないです」

 俺は黙って石の杭を作り始めた。

「魔力は大切にね」

 ヴィータは満足げに俺の横にちょこんと座った。
 二メートルほどの長さの丈夫な杭を作り、待機中のクマ兄さんに、どんどん抱えて持っていってもらう。

「穴あけはあとで俺がやるから、等間隔で置いていってくださいね」

 クマ兄さんは偉そうに頷き、一人四本ずつ抱えて持っていく。
 そういえば杭を打つ形にするなら、柵の横板も必要だな。杭を立てたあとにその場で錬成して、直接くっつければいいだろう。問題は、作業しているクマ兄さん達を起動させるために込めた魔力がどれほど残っているかだ。
 クマ兄さんを錬成してから、二日間は寝込んでたらしい。今日で三日目だから、動かない人形になるのはそろそろだと計算している。
 クマ兄さん達がずっと体育座りで待機していたのなら、もう少し持つかな?
 何しろ自分の力で杭を打つなんてことになったら最悪だ。
 家出も考えなければならないだろう。
 黙々もくもくと杭を作っていると、ヴィータが立ち上がり俺の肩を掴んだ。

「はーい、そこまでー」
「へ? なんです?」
「魔法の使いすぎ~」
「えええええ? まだまだ平気ですよ?」
「魔力量は平気かもしれないけど、連続使用時間が長いから、少し休憩しましょ」
「いや、でも、時間が惜しいんですよ、早くしないとゴーレムの魔力が抜けちゃいますよ」

 ヴィータが俺の肩から腕にかけての関節を逆方向にめ始める。

「ちょっと早いけど休憩にしましょ~。お昼まではまだ時間があるし、ちょっと休憩~」

 ぐいぐいと引きずられ、ベスパが居眠りをしている日当たりの良い芝生しばふに強制的に座らされる。

「ダーリンは凄い魔法を使うけど、魔法の初心者なの。あたしだって簡単な魔法は使うんだから、魔法歴としてはダーリンよりも先輩なの~」

 芝生しばふの上で休憩していると、アルファさんが戻ってきた。

「イントさん、ゴーレムが杭を持ってくるようになったんですが、杭にすることにしたんですか?」
「いやぁ、魔力の使いすぎを心配してたんですよ、発想の転換ですね」

 ヴィータの提案を自分の発想のように話していると、アルファさんが言いにくそうに提案をしてくる。

「あの、前に防衛戦で使った壁とかってどうなんでしょう? 私の馬の後ろに乗せますので、馬に揺られながら壁を魔法で作っていけば、ゴーレムよりも魔力を使わないのでは?」

 その発想は無かった。
 それであれば杭をクマ兄さん達に持たせて、俺が穴掘って差し込んで、固定していって、横板を取り付けて、なんて手間がなくなる……しかし……問題が発生する。
 恥ずかしい。
 気づかなかったことが恥ずかしいのだ。

「いや……それはですね、えーあのー」
「その手で行きましょう、アルファさんありがと~」

 ヴィータが俺の意見を聞くまでもなく賛成する。

「あ、ありがとうございます」

 アルファさんもほっとした雰囲気を出して、ニコリと笑った。

「それでですね、壁を作るとなると、野生動物ならまず近寄りませんし、ゴーレムの配置を変えませんか? 対人向けに街道沿いに配置しましょう」
「対人ですか? 魔力が切れると単なる人形ですよ? あまり役に立たないと思うんですが」
「いえいえ、イントさんには気を悪くして欲しくないんですが、クマのゴーレムと言えばエンガルの魔王の代名詞になっているんですよ。各町の騎士団やハンターギルドで情報が共有されています」

 なんか嫌な代名詞だな……。

「そこでですね、人目につくところにあのゴーレムがあれば、盗賊は逃げ出しますし、そうでない者には観光名所として人気が出ると思うんですよ」

 目を輝かせるアルファさんは真剣らしい。

「観光名所ですか? ゴーレムが?」
「温泉にもいっぱい人が集まると思いますよ」

 温泉リゾートか……。

「まあ、人寄せは眉唾まゆつばとしても、温泉に人を呼び込めるってのは良いかもしれませんね」

 採れたての野菜と、エンガル名物か。労働力が子供ってのが問題だな。

「責任者として仕切っているのはエリーさんだし~、ここで孫の湯の運営を考えても~、しょうがないんじゃない?」
「もっともだ」
「もっともですね」

 ゴーレムの配置はアルファさんにお任せして、あとで隙間を壁で埋めていくことに決め、昼食に戻ることにした。


  ◇◇◇


 孫の湯の外観を眺めながら、正面入口の方に戻る。

「ちょっと見ないうちに大きくなってきましたねえ」
「自分で作っておいて何言ってるんだか、ダーリン変~」

 ヴィータがくすくすと笑いながら、正面入口から入っていく。

「おかえりーイント兄ちゃん!」

 子供達から声がかかる。
 なんか知らないうちに、名前を呼ばれておかえりって言われる環境ができて、嫁さんができて……。
 今の状況と昔の記憶を比べると、断然今の暮らしが幸せだな。
 毎日朝から晩まで重油にまみれて、帰ってきたら録り溜めたアニメを見ながらコンビニ弁当をむさぼる。たまの休みにはカーテンを閉めきって部屋にもり、一本の缶ビールに幸せを感じる。
 他人とのコミュニケーションは、おちゃらけながら浅く付き合い、決して深入りしない。

「思えば遠くに来たもんすねえ」

 ヴィータが心配そうに引き返してきて、俺のズボンの裾を掴む。

「どうしたの? ダーリン? また具合が悪い?」

 心配してくれる嫁さんの顔が、手を伸ばせば届く場所にある。

「幸せっすねえ」

 ヴィータの頭をぽんぽんと軽く撫でる。
 きょとんとした顔のヴィータが、くすくすと笑い出す。

「今頃気づいたの?」
「今頃気づいたっす」

 俺も笑い返す。

「まだまだこんなもんじゃないわよ~」

 ヴィータが俺の腕を取り、抱え込む。

「あああああ! 抜け駆けしてる!」

 デックスが目聡めざとく廊下の奥から見つけて駆け寄ってくる。

「幸せっすねえ……」

 デックスとエステアが俺の腕を抱え込んだヴィータを引きがし、離れた場所へ引きずっていくと三姉妹が円陣を組み始めた。
 ぼそぼそと声をひそめて話す内容は聞き取れないが、ものすごく嫌な予感しかしない。

「あ、あの、そろそろ帰りましょうか?」

 今度は三人でジャンケンを始めました。

「先に帰りますねー……」

 俺はそっと亀のベスパに跨ると、ポケットからサラミを取り出しベスパに食べさせる。

「全速力だベスパ」
「キュッ!」

 ベスパの身体が沈み込み土を引っ掻いて、勢い良く走り出した瞬間――その鼻先にククリナイフが突き刺さった。
 急停止したベスパは震える目で、ゆっくりと三姉妹の方へ視線を移すと、足取りも軽く三姉妹に向かって擦り寄っていった。

「キュ~」
「裏切り者!」

 とりあえず逃げ出そうとした罰で、正座をさせられ三人に囲まれる。
 孫の湯本館の入口では聖女リンダがニヤニヤとこちらを見ているので、奴が何か入れ知恵したらしいことはわかる。チラチラと三姉妹の様子をうかがっていると、デックスが口火を切ってきた。

「イント、貴方の故郷では結婚すると夫婦で旅行に行って、親交を深め合う土着信仰があるらしいわね?」

 土着信仰だったのか?

「その旅行をおろそかにすると~、神様がお怒りになって、ナリタリコンという天罰が下るって~」

 ヴィータが真剣な眼差しで聞いてくる。
 ヴィータは今にも泣きそうな顔で、俺の肩関節を外しにかかってきています。
 リンダの奴は何を教えた!

「迷信ですよ! リンダのデタラメですよ!」
「あんなんでも聖女とか言われた女だぜダンナ? 土着の宗教儀式は馬鹿にしちゃいけねえ」

 エステアは悩ましげに首を振る。

「デタラメっすよ、ウチはウチ、ヨソはヨソです」

 正直、表でアクティブに動き回るのは苦手だ。
 だって見回す限り大自然のこの世界、泊まりがけってアウトドアですよ? 虫はいっぱいいるし、平気で命を狙ってくる動物とか魔物とかいるし、こっちだって伊達だてにアサカーさんに出会うまで、山を彷徨さまよってた訳じゃありません。アウトドアの恐ろしさは身に染みてわかってるんです。
 しかもこの奥様達の無茶振りときたら、空手部のOB並に無茶を言ってきますから、絶対命の危険がともないます無理です。

「エステア説得」

 デックスがエステアに目で合図を送る。

「応!」

 がっしりとアイアンクローが俺のコメカミに食い込み始める。

「いだだだだだだ! わがりまじだ!」

 この世界の女性はどうして説得にアイアンクローを用いるのか?
 そう考えていると、デックスが口を開いた。

「物わかりの良い伴侶はんりょを持って幸せだわ! 最初は私ね!」

 へ?

「最初って何すか?」
「私達一人一人と儀式をするのよ! ハネムーンの教えにのっとってね」
「三回っすか?」
「「「三回!」」」
「はい……」

 よりによってアウトドア強行軍を三回もすることになりました。
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