異世界転移したよ!

八田若忠

文字の大きさ
上 下
77 / 81
web連載

情報

しおりを挟む
 お祭りは昔から好きだったけど、こんなに憂鬱なお祭りは初めてだ。

「はぁ……おやじさん○と△で600Nだ。そして型抜き2枚追加だ」

 俺は憂鬱な気分を吹き飛ばす為に、型抜き屋台でもう2時間も座り込んでいる。

「いた! イント君何やってるのこんなとこで!」

 型抜き屋台のテントをめくり上げ、大声を張り上げたのはナナさんだった。

「型抜きで一攫千金を狙ってますが?」

 型抜き屋台で一攫千金を狙う仲間たちも、うんうんと頷く。

「いいから来なさい!」

 ナナさんが型抜きテーブルを蹴り上げた。

「ぎゃああ!」 「けひっ!」

「なんて事を……一番のマナー違反ですよ! すまない……同志諸君」

 ぐいぐいと屋台の外に引っ張られた俺は、建物の影にまで引っ張られて行く。

「あの……なんですか、こんな物陰に引っ張ってきて」

「イント君あなたね、三姉妹に負けるなって言われたのよね?」

「え? まあはい」

「その負けられない人が、何故型抜きで一獲千金を狙ってるのよ?」

「なんか、一体感が好きで……」

 ナナさんはキョロキョロと辺りを見回し、俺の襟首を掴んで自分の方に引き寄せて来た。

「え、えっちな事は……」

 ナナさんが後頭部を殴りつけて来た。

「誰がえっちな事を強要するって言うのよ! いいから、耳を貸しなさい」

 ナナさんが小声でぼそぼそと喋りかけて来た。

「伯爵は帝国のギルドから、イント君の情報を引き出しているわ、イント君の魔法や攻撃方法などは全部伯爵に筒抜けよ、本来ギルドでは個人情報を横流しする事は無いんだけれど、帝国のギルドはやっているみたいよ」

「お、おう……」

 時が止まったかの様な静寂が流れる。

「ええとね、解りやすく言うわね、帝国はギルドの機密情報を、ブラックライセンスを持つハンターに不正に横流ししているの! こっちもブラックライセンス持ちのハンターにその点を指摘されたら、不公平感を無くすために情報公開も吝かではないなあとか、ササクのじじいがぶつぶつ呟いていたわよ!」

「でも、スポーツ的な模擬戦ですよね? そこまで必要っすか?」

「模擬戦でもね、もし大きくて、やたら素早い犬に飼い主が「殺すな」と命令して、イント君と模擬戦したら絶対死なない?」

「相手は一応人間すよ?」

「ブラックライセンス持ちは、余り人間として扱わない方がいいわね」

「……」

「……」

 ナナさんが溜息を吐く。

「インチキにギルドが手を貸すって言ってんのよ?」

「ギルドにインチキで手を借りると、後から大変だから嫌がってんすよ」

「しばらく目を離している間に小賢しくなって……」

「手腕が老獪になってますよ……」

 ナナさんがぐぬぬと呻き声を上げ、すたすたと人混みに消えて行く。

「やたら大きくて、素早い犬か……噛み付いて来るんですかねえ?」

 気配を消して物陰に隠れていたデックスが、フラリと姿を現して俺を蹴りつける。

「せっかく無料で情報をよこすって言うんだから、聞いておけば良かったのよ」

「後でその事をチラつかせて、無料で仕事やれって言ってきますよ?」

「そんな事は知らないって言えば通るわよ、ギルドでは広めて欲しくない情報だもの」

 あ……そっか、失敗した。

「今から行って聞いてきますか?」

「やめてよ……カッコ悪い」

 ついと空を見上げると、眩しかった日差しも傾いてきて、若干涼しくなった気もする。

「冷やしパインの屋台もありましたよね?」

「東の外れね、急ぐわよ!」

 デックスが俺の腕を掴み、人混みに向かって走りだした。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。