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web連載
恐怖の体現者
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執務室の中央に置かれた応接セットに、ぎゅうぎゅうに座った俺達はお茶とお菓子をつまみながら、ギルド長の話を聞く体制を整えた。
「それででだな……帝国のブラックライセンスハンターなのだが」
ギルド長は神妙な面持ちで話し始めた。
「イント、おんしを指名して会いたがっている」
若干疲れた表情で俺を指差す。
「ちょっと、いいか?」
エステアが手を挙げる。
「なんじゃ?」
「お菓子が無くなった、お代わりをくれ」
「……」
ぷるぷると震えながら、ギルド長は新人受付嬢を呼び出す。
「たびたびスマンが、茶菓子をありったけ持ってきてくれ……」
「ちょっと待ってよ」
デックスが新人受付嬢を呼び止める。
「私達お昼ごはんを食べる間も無く、呼び出されたのよね」
ギルド長が顔を真赤に染め上げ、爆発寸前になりながらも、ぎりぎりと変な音をたてながら我慢する。
「こいつらに出前をとってやれ……」
「あ~、わたしうどんがいい! 海老天うどん!」
リンダが手を挙げる。
海老天の正体を知ってか知らずか、リンダがはしゃいでいる。
「あ、じゃあ俺は素うどんで」
「海老天じゃないの? なんで?」
「通は素うどんなんだよ」
女三人寄れば姦しいと言うが、女密度の高い執務室は大騒ぎである。
「エビ天うどんって私、食べた事無い」
ナナさんも出前の注文を始めた。
「ナナくん……君までか? 一応職務中なんだがな?」
ギルド長がじろりと睨む。
「失礼しました。
それでは受付業務に戻りますので……」
ナナさんがソファから立ち上がりかけた所で、ギルド長が慌てて制止する。
「ま、まあナナくんも丁度お腹が減っただろう? 遠慮無く頼みたまえ」
「では遠慮無く」
この場で一番立場の弱い者が決定した瞬間だった。
新人受付嬢がぱたぱたと部屋を出て行き、ギルド長が咳払いをする。
「それででだな、相手はかなり御立腹でな、おんしに何か身に覚えが無いかと聞きたかったんじゃが」
「有る訳無いじゃないっすか、帝国の存在すら今聞いたばかりなのに」
「向こうはおんしの事を知っておったがのう?」
リンダがくすくすと笑い始めた。
「ギルドってどうして、自分の事を疑わないのかしらねえ?」
「どういうことじゃ?」
「ブラックライセンス持ちの情報を、ギルドで共有しているんだから、見も知らぬハンターの情報が、ぽろぽろ漏れだしているのって、ギルドしか無いんじゃない?」
ギルド長がぎくりとした顔付きで、視線を逸らす。
「情報は機密扱いなので、そうそう表には漏れ出さぬ筈じゃが」
「そ~お? アバスリの町で後片付けをしている時に、イント君の事を聞きに行ったら、素直に知っている事を全部教えてくれたわよ?」
不敵な笑みでギルド長を追い詰める。
「リンダ……お前たまに賢く見えるな?」
「たまにって何よ? これでも医学部出てるインテリ様よ?」
なんと……医学部! インテリな上にセレブだったのか。
「それなのに普段はあんなんなのか?」
「リンダ様はただ単に、子供を侍らして居るわけではありません! 子供達と会話をして、子供達の心に残る不安や傷を見極めて、心を癒やす治療をしているのです。新しい環境に慣れない子達や、親を恋しがる子供達の心の支えになっているのが、リンダ様なのです。リンダ様のお陰でオネショや夜泣きが激減したと、エリーさんも喜んでいました」
「そうだそうだ~」
「なので、多少行き過ぎたスキンシップは、目を瞑って頂きたいのです」
「そうだそうだ~」
やっぱり行き過ぎているのかよ……。
「今はロリコンの言い訳を聞いている場合じゃないのじゃがな……」
ギルド長のササクさんが項垂れた時に、扉を蹴破る轟音が響いた。
「何時まで待たせんじゃあああああああい! 黙って待っておれば何時迄も何時迄も! またこのまま次回に持越しになってしまうだろうがああ!」
扉を蹴破って入口の前で怒鳴っていたのは、テラテラにオイルを塗り光らせた筋肉を限界までパンプアップさせて、ボディビルの代表的なポーズ「フロント ダブルバイセップス」を決めているパンツ一丁の変態だった。
「黙って聞いておれば貴様ら途中からわざと、時間を引き伸ばしておったなあ! 許さんぞ!」
その時変態筋肉の背後から、更に巨大な殺気を纏った男が音もなく忍び寄っていた。
「おい……どけ、仕事の邪魔だ。俺は今イライラしてんだ、邪魔するとぶっ殺すぞ」
いつもの三倍不機嫌なうどん屋のマスターだった。
「あ、はい、すんません……」
変態筋肉はあっさりと入り口前から避けて壁際に寄った。
「それででだな……帝国のブラックライセンスハンターなのだが」
ギルド長は神妙な面持ちで話し始めた。
「イント、おんしを指名して会いたがっている」
若干疲れた表情で俺を指差す。
「ちょっと、いいか?」
エステアが手を挙げる。
「なんじゃ?」
「お菓子が無くなった、お代わりをくれ」
「……」
ぷるぷると震えながら、ギルド長は新人受付嬢を呼び出す。
「たびたびスマンが、茶菓子をありったけ持ってきてくれ……」
「ちょっと待ってよ」
デックスが新人受付嬢を呼び止める。
「私達お昼ごはんを食べる間も無く、呼び出されたのよね」
ギルド長が顔を真赤に染め上げ、爆発寸前になりながらも、ぎりぎりと変な音をたてながら我慢する。
「こいつらに出前をとってやれ……」
「あ~、わたしうどんがいい! 海老天うどん!」
リンダが手を挙げる。
海老天の正体を知ってか知らずか、リンダがはしゃいでいる。
「あ、じゃあ俺は素うどんで」
「海老天じゃないの? なんで?」
「通は素うどんなんだよ」
女三人寄れば姦しいと言うが、女密度の高い執務室は大騒ぎである。
「エビ天うどんって私、食べた事無い」
ナナさんも出前の注文を始めた。
「ナナくん……君までか? 一応職務中なんだがな?」
ギルド長がじろりと睨む。
「失礼しました。
それでは受付業務に戻りますので……」
ナナさんがソファから立ち上がりかけた所で、ギルド長が慌てて制止する。
「ま、まあナナくんも丁度お腹が減っただろう? 遠慮無く頼みたまえ」
「では遠慮無く」
この場で一番立場の弱い者が決定した瞬間だった。
新人受付嬢がぱたぱたと部屋を出て行き、ギルド長が咳払いをする。
「それででだな、相手はかなり御立腹でな、おんしに何か身に覚えが無いかと聞きたかったんじゃが」
「有る訳無いじゃないっすか、帝国の存在すら今聞いたばかりなのに」
「向こうはおんしの事を知っておったがのう?」
リンダがくすくすと笑い始めた。
「ギルドってどうして、自分の事を疑わないのかしらねえ?」
「どういうことじゃ?」
「ブラックライセンス持ちの情報を、ギルドで共有しているんだから、見も知らぬハンターの情報が、ぽろぽろ漏れだしているのって、ギルドしか無いんじゃない?」
ギルド長がぎくりとした顔付きで、視線を逸らす。
「情報は機密扱いなので、そうそう表には漏れ出さぬ筈じゃが」
「そ~お? アバスリの町で後片付けをしている時に、イント君の事を聞きに行ったら、素直に知っている事を全部教えてくれたわよ?」
不敵な笑みでギルド長を追い詰める。
「リンダ……お前たまに賢く見えるな?」
「たまにって何よ? これでも医学部出てるインテリ様よ?」
なんと……医学部! インテリな上にセレブだったのか。
「それなのに普段はあんなんなのか?」
「リンダ様はただ単に、子供を侍らして居るわけではありません! 子供達と会話をして、子供達の心に残る不安や傷を見極めて、心を癒やす治療をしているのです。新しい環境に慣れない子達や、親を恋しがる子供達の心の支えになっているのが、リンダ様なのです。リンダ様のお陰でオネショや夜泣きが激減したと、エリーさんも喜んでいました」
「そうだそうだ~」
「なので、多少行き過ぎたスキンシップは、目を瞑って頂きたいのです」
「そうだそうだ~」
やっぱり行き過ぎているのかよ……。
「今はロリコンの言い訳を聞いている場合じゃないのじゃがな……」
ギルド長のササクさんが項垂れた時に、扉を蹴破る轟音が響いた。
「何時まで待たせんじゃあああああああい! 黙って待っておれば何時迄も何時迄も! またこのまま次回に持越しになってしまうだろうがああ!」
扉を蹴破って入口の前で怒鳴っていたのは、テラテラにオイルを塗り光らせた筋肉を限界までパンプアップさせて、ボディビルの代表的なポーズ「フロント ダブルバイセップス」を決めているパンツ一丁の変態だった。
「黙って聞いておれば貴様ら途中からわざと、時間を引き伸ばしておったなあ! 許さんぞ!」
その時変態筋肉の背後から、更に巨大な殺気を纏った男が音もなく忍び寄っていた。
「おい……どけ、仕事の邪魔だ。俺は今イライラしてんだ、邪魔するとぶっ殺すぞ」
いつもの三倍不機嫌なうどん屋のマスターだった。
「あ、はい、すんません……」
変態筋肉はあっさりと入り口前から避けて壁際に寄った。
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