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ママ……ってわたしの事?
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「大丈夫かな。やっぱり疲れているよね、早めに部屋に案内しなくては」
「いえ、こんな風に出迎えていただいてとても光栄で……わっ」
話している途中に急にどしんとした衝撃をうけた。不思議に思って下を見ると、ぎゅうぎゅうと温かな塊が私の足に貼りついている。
「ママ!」
ぴょこんと私の半分にも満たない身長の小さい男の子が、私に抱き着いている。
嬉しそうな顔で私を見る目は大きく、大人よりも毛がもじゃもじゃとしていてかなり犬に近い。
ふわふわした毛が全体的に生えていて、もっこもこだ。銀色の毛並みは豪華で、あどけない笑顔が庇護欲を誘う。
可愛すぎる。動物と子供のいいとこどりかな?
「ママ、ママだ!」
可愛い声で、私のことを嬉しそうにママと呼んでもう一度ぎゅっと足を抱きしめた。毛がふわふわとくっついて、くすぐったい。
どうやら優しい上司も足に張り付いている子供も幻覚じゃないようだ。
「ねえ、可愛いさん。あなたは誰かしら」
「ぼくはリカランドだよ」
頭をなでると、金色の瞳を細めてぎゅうぎゅうと頭を擦り付けてくる。毛のふわふわとした感触が気持ちいい。子供特有の湿った温かな体温が伝わってくる。
ううう、可愛い。レイナルドの弟だろうか。
……嫁に来たというのに、ここの国の事も家族になる人の事も何もわからない。
「リカランドというのね。可愛いわね。どこから来たのかな?」
「ママに会いに来たよ! えへへ」
「ふふふ、私はあなたのママじゃないわ。あなたのママはどこなのかしら?」
「ううん、ママなんだよ」
私の足にまとわりついてリカランドはにこにことしている。この子の親はどの人なんだろう?
きょろきょろと周りを見ると、皆があからさまにほっとした雰囲気で私たちのことを見ていた。
なんだろう? ほほえましいとかじゃない感じ……。
レイナルドも驚いたように私の足に居るリカランドを見つめている。
「リカランド……」
「ねえ、ママ、好き!」
リカランドがそう言って笑うと、レイナルドは一瞬何故かぐしゃりと顔をゆがめ、そして、ふわりと花のように笑った。
そのあまりに綺麗な笑みに、どきりとする。
「リカランド……ああ、良かった。この子はあなたの事がすごく気に入ったようだ。フィリーナ、リカランドは私の息子なんだ」
「そうだったのですね。とても可愛い息子さんですね」
「ああ、そうだ。可愛く思えてよかった……彼は君の息子にもなるから」
かみしめる様に、秘密を教えるようにレイナルドがそっと私に告げた。
「えっ。私の結婚相手って陛下なのですか!? ……私は第二夫人って事だったんですね」
一夫一妻が染みついていたからこの可能性について全く考えていなかった!
何故王族との結婚が、と思ったけれどそういう事だったのか。獣人の国だから珍しい人間の第二夫人が欲しかったのかもしれない。
自ら出迎えたのは、自分の嫁だったからなのか……色々と衝撃を受けるが納得だ。
「違う。どうしてそういう話になるんだ。それに私が相手では不満なのか?」
私が心の中で頷いていると、何故かぶすっとした顔でレイナルドが抗議してくる。その顔があまりにも子供っぽくて、最初の美しい印象とのギャップで笑ってしまう。
「いえ、私に不満などありません」
そうだ。もちろん婚約破棄されたばかりの悪役令嬢に選択肢などない。それに、意外だったけれど、彼との結婚自体は嫌でもない気がした。
「ちがうよママー」
リカランドもぴょんぴょんと飛んで否定する。
「何が違うの?」
「ママは、ママ一人だよ!」
私の手をぎゅっと握り、ママは私だけだと真剣に伝えてくる。
どうやらリカランドは私の事をママと呼んでいる。多分だけどこの子は四歳ぐらいだろう。普通なら自分のママが誰かわからないなんてことはないはずだ。
……ということは。
「死別の奥様がいらしたのですね。失礼しました」
「それも違う」
確実に正解だと思い謝ったけれど、そっけなく首を振られた。
「……難しすぎませんか? 正解をおしえてください」
「フィリーナはなかなかせっかちだな」
私が解けない問題に悔しい気持ちで居ると、レイナルドはくすくすと笑った。正解をすぐに教えてくれる気はなさそうだ。
「リカランド、こっちへおいで。こんなところでずっと立ち話じゃなくて、移動しよう」
「やだ。ママとははなれない」
「わがまま言わないんだよ。フィリーナは長旅で疲れているから、こっちへおいで」
「やーだー。レイナルドとはいかなーい」
「そこはパパじゃないんですね」
ぐぐぐっと私の足に捕まって抗議を示すリカランドを、私はそっと抱きあげた。子供の温かな湿度を感じる。
私の腕の中に納まったリカランドは、小さな両手でぎゅっと私の首につかまった。
苦しい。力がつよい。
「ちょっとこっちにしてね」
手を外して自分の腕をぽんぽんとすると、わかったというように腕をぎゅっと握った。そのまま私の身体に身体を預け自由な感じに首を伸ばした。
ううう、やっぱり可愛すぎる。
そんな私達のやり取りを、なんだか泣きそうな顔でレイナルドが見ている。
「ありがとう、フィリーナ。一緒に美味しいご飯でも食べながら話そう。この国の料理はなかなか美味しいと思う。君も同じように感じてくれるといいんだけど」
「いえ、こんな風に出迎えていただいてとても光栄で……わっ」
話している途中に急にどしんとした衝撃をうけた。不思議に思って下を見ると、ぎゅうぎゅうと温かな塊が私の足に貼りついている。
「ママ!」
ぴょこんと私の半分にも満たない身長の小さい男の子が、私に抱き着いている。
嬉しそうな顔で私を見る目は大きく、大人よりも毛がもじゃもじゃとしていてかなり犬に近い。
ふわふわした毛が全体的に生えていて、もっこもこだ。銀色の毛並みは豪華で、あどけない笑顔が庇護欲を誘う。
可愛すぎる。動物と子供のいいとこどりかな?
「ママ、ママだ!」
可愛い声で、私のことを嬉しそうにママと呼んでもう一度ぎゅっと足を抱きしめた。毛がふわふわとくっついて、くすぐったい。
どうやら優しい上司も足に張り付いている子供も幻覚じゃないようだ。
「ねえ、可愛いさん。あなたは誰かしら」
「ぼくはリカランドだよ」
頭をなでると、金色の瞳を細めてぎゅうぎゅうと頭を擦り付けてくる。毛のふわふわとした感触が気持ちいい。子供特有の湿った温かな体温が伝わってくる。
ううう、可愛い。レイナルドの弟だろうか。
……嫁に来たというのに、ここの国の事も家族になる人の事も何もわからない。
「リカランドというのね。可愛いわね。どこから来たのかな?」
「ママに会いに来たよ! えへへ」
「ふふふ、私はあなたのママじゃないわ。あなたのママはどこなのかしら?」
「ううん、ママなんだよ」
私の足にまとわりついてリカランドはにこにことしている。この子の親はどの人なんだろう?
きょろきょろと周りを見ると、皆があからさまにほっとした雰囲気で私たちのことを見ていた。
なんだろう? ほほえましいとかじゃない感じ……。
レイナルドも驚いたように私の足に居るリカランドを見つめている。
「リカランド……」
「ねえ、ママ、好き!」
リカランドがそう言って笑うと、レイナルドは一瞬何故かぐしゃりと顔をゆがめ、そして、ふわりと花のように笑った。
そのあまりに綺麗な笑みに、どきりとする。
「リカランド……ああ、良かった。この子はあなたの事がすごく気に入ったようだ。フィリーナ、リカランドは私の息子なんだ」
「そうだったのですね。とても可愛い息子さんですね」
「ああ、そうだ。可愛く思えてよかった……彼は君の息子にもなるから」
かみしめる様に、秘密を教えるようにレイナルドがそっと私に告げた。
「えっ。私の結婚相手って陛下なのですか!? ……私は第二夫人って事だったんですね」
一夫一妻が染みついていたからこの可能性について全く考えていなかった!
何故王族との結婚が、と思ったけれどそういう事だったのか。獣人の国だから珍しい人間の第二夫人が欲しかったのかもしれない。
自ら出迎えたのは、自分の嫁だったからなのか……色々と衝撃を受けるが納得だ。
「違う。どうしてそういう話になるんだ。それに私が相手では不満なのか?」
私が心の中で頷いていると、何故かぶすっとした顔でレイナルドが抗議してくる。その顔があまりにも子供っぽくて、最初の美しい印象とのギャップで笑ってしまう。
「いえ、私に不満などありません」
そうだ。もちろん婚約破棄されたばかりの悪役令嬢に選択肢などない。それに、意外だったけれど、彼との結婚自体は嫌でもない気がした。
「ちがうよママー」
リカランドもぴょんぴょんと飛んで否定する。
「何が違うの?」
「ママは、ママ一人だよ!」
私の手をぎゅっと握り、ママは私だけだと真剣に伝えてくる。
どうやらリカランドは私の事をママと呼んでいる。多分だけどこの子は四歳ぐらいだろう。普通なら自分のママが誰かわからないなんてことはないはずだ。
……ということは。
「死別の奥様がいらしたのですね。失礼しました」
「それも違う」
確実に正解だと思い謝ったけれど、そっけなく首を振られた。
「……難しすぎませんか? 正解をおしえてください」
「フィリーナはなかなかせっかちだな」
私が解けない問題に悔しい気持ちで居ると、レイナルドはくすくすと笑った。正解をすぐに教えてくれる気はなさそうだ。
「リカランド、こっちへおいで。こんなところでずっと立ち話じゃなくて、移動しよう」
「やだ。ママとははなれない」
「わがまま言わないんだよ。フィリーナは長旅で疲れているから、こっちへおいで」
「やーだー。レイナルドとはいかなーい」
「そこはパパじゃないんですね」
ぐぐぐっと私の足に捕まって抗議を示すリカランドを、私はそっと抱きあげた。子供の温かな湿度を感じる。
私の腕の中に納まったリカランドは、小さな両手でぎゅっと私の首につかまった。
苦しい。力がつよい。
「ちょっとこっちにしてね」
手を外して自分の腕をぽんぽんとすると、わかったというように腕をぎゅっと握った。そのまま私の身体に身体を預け自由な感じに首を伸ばした。
ううう、やっぱり可愛すぎる。
そんな私達のやり取りを、なんだか泣きそうな顔でレイナルドが見ている。
「ありがとう、フィリーナ。一緒に美味しいご飯でも食べながら話そう。この国の料理はなかなか美味しいと思う。君も同じように感じてくれるといいんだけど」
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