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第44話 目覚め
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身体がともかく痛い。
ゆっくりと意識が浮上していくのを感じる。目を開けると、視界がぼやけている。
「あれ……わたし……」
綺麗な色の壁紙らしきものが見える。眠る前はこんな所だっただろうか……。
「あれ! もしかして起きた? ツムギちゃーん」
すぐそばから能天気に突き抜けた声が聞こえてくる。
身体は痛みで動かないので、目だけそちらに向けるとぼんやりとしたシルエットのミスリアが居る。
「ミスリア様、ここは……?」
「あ、もしかして目が見えてない? 師団長から眼鏡? 魔導具渡されてるんだよ。ちょっと待っててね」
声が近づいてきて、眼鏡という名の魔導具の腕輪をはめられる。途端に視界がクリアになり、ここがフィスラの私室だという事がわかった。
「わー私ってばフィスラ様のベッドに!」
さらりとしたシーツの上に寝かされているようだが、これはフィスラのものだ。慌てて身体を起こす。状況が全く分からない。
驚きすぎて急に起き上がったからか、身体に痛みが走った。
「ううう……痛い」
「ツムギちゃんまだ駄目だよー魔力だらけなんだから。そんなに魔力を入れてると、身体もおかしいはずだよ」
「魔力だらけ……? あああ、フィスラ様は無事ですか!」
急に意識がはっきりとする。
先程まで聖女の間に居たのに。あの後はどうなってしまったのだろう。
ミスリアはとても元気そうだが、フィスラが居ない。
心臓がどきどきして、冷や汗が出る。
まさか。
「師団長なら寝不足で弱ってるけど、他は全然元気だよー。師団長は回復魔法も効いたから大丈夫!」
安心させるように優しく微笑まれ、少し力が抜ける。それと同時にまた痛みが戻ってくる。
まったくもう無理しないんだよ、と言いながらミスリアが私の背中にクッションを入れてくれた。かなり体制が楽になる。
「痛いかな? 今ちょうど師団長からもらったから、はいこれ」
ミスリアが渡してくれるが、まったくよくわからない。
何か桶のようなものに、緑色の水がたまっている。飲み物にしては大きい。
ミスリアは当然のように私の手をとり、その水の中に入れた。手が入った途端、緑色の液体はぼんやりと光る青い液体に変わった。
何故か身体がすっと楽になる。
不思議に思っていると、またすぐに痛みは戻ってきた。
「まだ結構痛いかなー?」
「ええと、一瞬凄く楽になりました。今はまた痛いですけど。……これって、なんですか?」
「前に一緒に見たでしょー。ポーションだよ」
ミスリアは、慣れた手つきで見覚えのある瓶に先程の液体を詰めて蓋をする。そして三本に分けたポーションを、大事そうに箱に入れた。
箱にはすでにいくつかの瓶が入っていた。
「えっ。……もしかして、魔力をこれに移してるんですか?」
「そう。聖魔法はないけどツムギちゃんの身体に入ったことで、瘴気は魔力に変わったみたい。だけど、まだ身体が耐えられる魔力量を超えてるから痛いんだよ。このままどんどんポーションに変えていけば、ある程度の所で痛みはなくなると思う」
「そうだったんですね……」
この痛みがずっと続くものではなく、対処法もあったことにほっとする。
「そう。まだ魔力が多すぎて威圧みたいになってて、君に近づける人も少ないんだ。俺は魔力抵抗が強いから、ポーション作成隊には加わらずにここでツムギちゃんの容態を確認してたんだー。コノート師団長もそうだけど、強すぎる魔力って毒に近いよね」
「もしかして、フィスラ様は……」
「そう。三日間寝ずにポーション作りに勤しんでるよ! 今のペースで作ってたら1週間ぐらいで材料が尽きるから、明後日ぐらいからは素材狩りに行ってもらうところだったんだ」
寝不足で魔物と戦うと危ないからよかったよねえと呑気に笑うミスリアに、動揺する。
「三日……? 三日寝ずに作ってるんですか?」
「そう。ツムギちゃんは三日寝込んでたんだよ。こわかったよね」
「私は全然! 身体が痛いぐらいですし……。フィスラ様が心配です」
「あの人は頑丈に出来てるからきっと大丈夫だよー」
のんびりとした声のまま、暖かいミルクを持ってきてくれる。受け取ってしまったけれど、フィスラが気になって仕方がない。
見に行きたいけれど、身体が痛くてとても一人で歩けそうもない。
それに、ミスリアしかいないという事は、私の中の魔力はまだフィスラに悪影響を及ぼすのかもしれない。
「あの、フィスラ様は忙しいですし私の魔力の影響もあるとは思うんですが、フィスラ様にお会いできるのはいつになりますか?」
「そんなの、待ってれば……ほら」
ゆっくりと意識が浮上していくのを感じる。目を開けると、視界がぼやけている。
「あれ……わたし……」
綺麗な色の壁紙らしきものが見える。眠る前はこんな所だっただろうか……。
「あれ! もしかして起きた? ツムギちゃーん」
すぐそばから能天気に突き抜けた声が聞こえてくる。
身体は痛みで動かないので、目だけそちらに向けるとぼんやりとしたシルエットのミスリアが居る。
「ミスリア様、ここは……?」
「あ、もしかして目が見えてない? 師団長から眼鏡? 魔導具渡されてるんだよ。ちょっと待っててね」
声が近づいてきて、眼鏡という名の魔導具の腕輪をはめられる。途端に視界がクリアになり、ここがフィスラの私室だという事がわかった。
「わー私ってばフィスラ様のベッドに!」
さらりとしたシーツの上に寝かされているようだが、これはフィスラのものだ。慌てて身体を起こす。状況が全く分からない。
驚きすぎて急に起き上がったからか、身体に痛みが走った。
「ううう……痛い」
「ツムギちゃんまだ駄目だよー魔力だらけなんだから。そんなに魔力を入れてると、身体もおかしいはずだよ」
「魔力だらけ……? あああ、フィスラ様は無事ですか!」
急に意識がはっきりとする。
先程まで聖女の間に居たのに。あの後はどうなってしまったのだろう。
ミスリアはとても元気そうだが、フィスラが居ない。
心臓がどきどきして、冷や汗が出る。
まさか。
「師団長なら寝不足で弱ってるけど、他は全然元気だよー。師団長は回復魔法も効いたから大丈夫!」
安心させるように優しく微笑まれ、少し力が抜ける。それと同時にまた痛みが戻ってくる。
まったくもう無理しないんだよ、と言いながらミスリアが私の背中にクッションを入れてくれた。かなり体制が楽になる。
「痛いかな? 今ちょうど師団長からもらったから、はいこれ」
ミスリアが渡してくれるが、まったくよくわからない。
何か桶のようなものに、緑色の水がたまっている。飲み物にしては大きい。
ミスリアは当然のように私の手をとり、その水の中に入れた。手が入った途端、緑色の液体はぼんやりと光る青い液体に変わった。
何故か身体がすっと楽になる。
不思議に思っていると、またすぐに痛みは戻ってきた。
「まだ結構痛いかなー?」
「ええと、一瞬凄く楽になりました。今はまた痛いですけど。……これって、なんですか?」
「前に一緒に見たでしょー。ポーションだよ」
ミスリアは、慣れた手つきで見覚えのある瓶に先程の液体を詰めて蓋をする。そして三本に分けたポーションを、大事そうに箱に入れた。
箱にはすでにいくつかの瓶が入っていた。
「えっ。……もしかして、魔力をこれに移してるんですか?」
「そう。聖魔法はないけどツムギちゃんの身体に入ったことで、瘴気は魔力に変わったみたい。だけど、まだ身体が耐えられる魔力量を超えてるから痛いんだよ。このままどんどんポーションに変えていけば、ある程度の所で痛みはなくなると思う」
「そうだったんですね……」
この痛みがずっと続くものではなく、対処法もあったことにほっとする。
「そう。まだ魔力が多すぎて威圧みたいになってて、君に近づける人も少ないんだ。俺は魔力抵抗が強いから、ポーション作成隊には加わらずにここでツムギちゃんの容態を確認してたんだー。コノート師団長もそうだけど、強すぎる魔力って毒に近いよね」
「もしかして、フィスラ様は……」
「そう。三日間寝ずにポーション作りに勤しんでるよ! 今のペースで作ってたら1週間ぐらいで材料が尽きるから、明後日ぐらいからは素材狩りに行ってもらうところだったんだ」
寝不足で魔物と戦うと危ないからよかったよねえと呑気に笑うミスリアに、動揺する。
「三日……? 三日寝ずに作ってるんですか?」
「そう。ツムギちゃんは三日寝込んでたんだよ。こわかったよね」
「私は全然! 身体が痛いぐらいですし……。フィスラ様が心配です」
「あの人は頑丈に出来てるからきっと大丈夫だよー」
のんびりとした声のまま、暖かいミルクを持ってきてくれる。受け取ってしまったけれど、フィスラが気になって仕方がない。
見に行きたいけれど、身体が痛くてとても一人で歩けそうもない。
それに、ミスリアしかいないという事は、私の中の魔力はまだフィスラに悪影響を及ぼすのかもしれない。
「あの、フィスラ様は忙しいですし私の魔力の影響もあるとは思うんですが、フィスラ様にお会いできるのはいつになりますか?」
「そんなの、待ってれば……ほら」
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