40 / 54
第40話 聖女の襲撃
しおりを挟む
汚れた手を嫌そうにミッシェが払っている。
「どうしてこんなことをするの! 何が目的なの!」
どうしても我慢できずに、涙が出てしまう。
私が叫ぶのをミズキは楽しそうに微笑んでみている。
「何が目的って、聖女の間に連れていってもらうのよ。なんだかコノート師団長は私の事を全然好きにならないのよね。嫌だわ」
「信じられない男だ」
「あの人に聖女の間に連れていってもらうのを待っていたら、なんだか嫌な制約をかけてきたりしそうだから、不意打ちすることにしたの」
ふふふ、と笑う彼女はちょっとしたいたずらを仕掛けたような可愛さで言う。
この状況でなければ、ただ彼女の無邪気な笑顔にほほえましく感じただろう。子供のような残酷さなのだろうか。
底知れない恐ろしさを感じる。
しばらくして、慌てた顔をしたフィスラが部屋に入ってくる。そして、騎士に掴まっている私を見て顔を青くした。
ミズキはフィスラの顔がゆがむのを嬉しそうに見て、この雰囲気にあわない綺麗な礼をする。
「こんにちは。良かったわすぐに来てくれて。最近はこそこそしていてさっぱりお会いできなかったですものね。講義も急にお休みなんですもの。寂しかったわ」
「これは一体、何をしているんだ」
怒りを滲ませるフィスラの視線をものともせず、ミズキが小首をかしげる。
「全然お会いできないから、フィスラ様を呼んでいただこうと思って。こんなにすぐにお会い出来るだなんて、ツムギを訪ねたのは正解でしたわ」
「全く、聖女の要望を聞けないとは。早く聖女の間に連れて行くんだ」
「お言葉ですが殿下、浄化については万全の態勢で行うべきです。先日もお話しさせていただいたと思いますが。そして、彼女は私の部下です、拘束を解いてください」
静かに告げるフィスラの言葉を、ミズキは一蹴した。
「そういう話をするつもりはないの。聖女の間に連れていかないなら、ツムギは殺すわ」
「なんてことを!」
殺す、という言葉にすばやく反応した騎士が、私の胸元に短剣を当てた。ひやりとした輝きが、恐怖を誘う。
何があっても表情を変えないようにしようと思っていたのに、咄嗟に目を瞑ってしまう。その様子を見たフィスラは、手を握りしめて下を向いた。
悔しそうなその仕草に、私も悔しくなる。
私が捕まってしまったから。
「嫌なら、早く私を聖女の間まで連れて行くことね」
「……わかった。だが、何故こんな事を。遅かれ早かれ、浄化は行うのだ」
「そんな事、教える必要あるかしら? それにあなたは全然私の味方にならないじゃない」
「……魅了の話か」
「そう。見ての通り私の味方はたくさんいるわ。浄化が終わればもっとずっと多くの人が私に傅くようになる。早く行きましょう。それと、ツムギも連れて行くわ」
「何故だ。彼女は必要ないだろう。転移の邪魔だ」
「もちろん保険よ。三人になったら何をするかわからないもの。自爆でもされたら嫌だわ。流石に他の人を連れていくわけにはいかないしね」
「……いいだろう。だが、ツムギを拘束するのはやめろ。手を離してやれ。怪我をしても彼女は回復もできないんだ」
「こんな女、怪我したって関係ないだろう」
「魔法だって使えないただの少女だ。連れていくにしても、このままでは瘴気にあてられて倒れてしまう。私のそばに居なくては、連れて行くのでさえ危ないのだ」
フィスラが譲らないのを見ると、イライラしつつもミッシェは吐き捨てるように了承の言葉を口にした。
掴んでいた私の手を離し、フィスラの方に突き飛ばす。フィスラは抱きかかえるようにわたしの事を受け止めてくれたので、痛くなかった。
私はフィスラの体温を感じたくて、ぎゅうっと抱き着いた。
ミズキの狂気ともいえる行動がこわい。
フィスラは怒りを抑えるかのように、私の背中に回した腕に力を込めた。
「いいだろう。どうせ何もできないんだ。早く案内しろ」
「殿下、もう一度確認します。案内してもいいですが……聖女も危険にさらすことになるかもしれません」
「お前は本当に何もわかっていない。彼女は素晴らしい聖女なんだぞ。ミズキはこんな事で何かあったりしない。お前は聖女の邪魔をしたいのか!」
「そうですわ。私はすべての力を手に入れたいのです」
「……私にも、聖女の書を見せて頂ければ、もっとお力になれると思うのですが」
「あなたの助けが居るのはこの移転だけよコノート師団長」
「……わかりました。こちらに」
表情を消して、フィスラは二人を案内した。表情が読めない騎士たちも一緒だ。私は騎士に取り囲まれながらついていく。
「ツムギ、君は移転したことがないからわからないと思うが、移転はかなり体に負担がかかる。更に、聖女の間は瘴気が充満している。魔力抵抗がなく、聖魔法ももっていない君は非常に負担がかかるので、倒れないように私の近くに居るように」
「わかりました」
私が瘴気に影響を受けないように知っているので、これはミッシェとミズキに聞かせるものだろう。これで、私がフィスラのそばに居ても不自然ではない。
彼の気遣いが嬉しくて、この状況が苦しい。
「どうしてこんなことをするの! 何が目的なの!」
どうしても我慢できずに、涙が出てしまう。
私が叫ぶのをミズキは楽しそうに微笑んでみている。
「何が目的って、聖女の間に連れていってもらうのよ。なんだかコノート師団長は私の事を全然好きにならないのよね。嫌だわ」
「信じられない男だ」
「あの人に聖女の間に連れていってもらうのを待っていたら、なんだか嫌な制約をかけてきたりしそうだから、不意打ちすることにしたの」
ふふふ、と笑う彼女はちょっとしたいたずらを仕掛けたような可愛さで言う。
この状況でなければ、ただ彼女の無邪気な笑顔にほほえましく感じただろう。子供のような残酷さなのだろうか。
底知れない恐ろしさを感じる。
しばらくして、慌てた顔をしたフィスラが部屋に入ってくる。そして、騎士に掴まっている私を見て顔を青くした。
ミズキはフィスラの顔がゆがむのを嬉しそうに見て、この雰囲気にあわない綺麗な礼をする。
「こんにちは。良かったわすぐに来てくれて。最近はこそこそしていてさっぱりお会いできなかったですものね。講義も急にお休みなんですもの。寂しかったわ」
「これは一体、何をしているんだ」
怒りを滲ませるフィスラの視線をものともせず、ミズキが小首をかしげる。
「全然お会いできないから、フィスラ様を呼んでいただこうと思って。こんなにすぐにお会い出来るだなんて、ツムギを訪ねたのは正解でしたわ」
「全く、聖女の要望を聞けないとは。早く聖女の間に連れて行くんだ」
「お言葉ですが殿下、浄化については万全の態勢で行うべきです。先日もお話しさせていただいたと思いますが。そして、彼女は私の部下です、拘束を解いてください」
静かに告げるフィスラの言葉を、ミズキは一蹴した。
「そういう話をするつもりはないの。聖女の間に連れていかないなら、ツムギは殺すわ」
「なんてことを!」
殺す、という言葉にすばやく反応した騎士が、私の胸元に短剣を当てた。ひやりとした輝きが、恐怖を誘う。
何があっても表情を変えないようにしようと思っていたのに、咄嗟に目を瞑ってしまう。その様子を見たフィスラは、手を握りしめて下を向いた。
悔しそうなその仕草に、私も悔しくなる。
私が捕まってしまったから。
「嫌なら、早く私を聖女の間まで連れて行くことね」
「……わかった。だが、何故こんな事を。遅かれ早かれ、浄化は行うのだ」
「そんな事、教える必要あるかしら? それにあなたは全然私の味方にならないじゃない」
「……魅了の話か」
「そう。見ての通り私の味方はたくさんいるわ。浄化が終わればもっとずっと多くの人が私に傅くようになる。早く行きましょう。それと、ツムギも連れて行くわ」
「何故だ。彼女は必要ないだろう。転移の邪魔だ」
「もちろん保険よ。三人になったら何をするかわからないもの。自爆でもされたら嫌だわ。流石に他の人を連れていくわけにはいかないしね」
「……いいだろう。だが、ツムギを拘束するのはやめろ。手を離してやれ。怪我をしても彼女は回復もできないんだ」
「こんな女、怪我したって関係ないだろう」
「魔法だって使えないただの少女だ。連れていくにしても、このままでは瘴気にあてられて倒れてしまう。私のそばに居なくては、連れて行くのでさえ危ないのだ」
フィスラが譲らないのを見ると、イライラしつつもミッシェは吐き捨てるように了承の言葉を口にした。
掴んでいた私の手を離し、フィスラの方に突き飛ばす。フィスラは抱きかかえるようにわたしの事を受け止めてくれたので、痛くなかった。
私はフィスラの体温を感じたくて、ぎゅうっと抱き着いた。
ミズキの狂気ともいえる行動がこわい。
フィスラは怒りを抑えるかのように、私の背中に回した腕に力を込めた。
「いいだろう。どうせ何もできないんだ。早く案内しろ」
「殿下、もう一度確認します。案内してもいいですが……聖女も危険にさらすことになるかもしれません」
「お前は本当に何もわかっていない。彼女は素晴らしい聖女なんだぞ。ミズキはこんな事で何かあったりしない。お前は聖女の邪魔をしたいのか!」
「そうですわ。私はすべての力を手に入れたいのです」
「……私にも、聖女の書を見せて頂ければ、もっとお力になれると思うのですが」
「あなたの助けが居るのはこの移転だけよコノート師団長」
「……わかりました。こちらに」
表情を消して、フィスラは二人を案内した。表情が読めない騎士たちも一緒だ。私は騎士に取り囲まれながらついていく。
「ツムギ、君は移転したことがないからわからないと思うが、移転はかなり体に負担がかかる。更に、聖女の間は瘴気が充満している。魔力抵抗がなく、聖魔法ももっていない君は非常に負担がかかるので、倒れないように私の近くに居るように」
「わかりました」
私が瘴気に影響を受けないように知っているので、これはミッシェとミズキに聞かせるものだろう。これで、私がフィスラのそばに居ても不自然ではない。
彼の気遣いが嬉しくて、この状況が苦しい。
20
お気に入りに追加
1,788
あなたにおすすめの小説

恋愛は見ているだけで十分です
みん
恋愛
孤児院育ちのナディアは、前世の記憶を持っていた。その為、今世では恋愛なんてしない!自由に生きる!と、自立した女魔道士の路を歩む為に頑張っている。
そんな日々を送っていたが、また、前世と同じような事が繰り返されそうになり……。
色んな意味で、“じゃない方”なお話です。
“恋愛は、見ているだけで十分よ”と思うナディア。“勿論、溺愛なんて要りませんよ?”
今世のナディアは、一体どうなる??
第一章は、ナディアの前世の話で、少しシリアスになります。
❋相変わらずの、ゆるふわ設定です。
❋主人公以外の視点もあります。
❋気を付けてはいますが、誤字脱字が多いかもしれません。すみません。
❋メンタルも、相変わらず豆腐並みなので、緩い気持ちで読んでいただけると幸いです。
出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~
白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。
父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。
財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。
それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。
「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」
覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜
波間柏
恋愛
仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。
短編ではありませんが短めです。
別視点あり


おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23

嫌われ聖女は魔獣が跋扈する辺境伯領に押し付けられる
kae
恋愛
魔獣の森と国境の境目の辺境領地の領主、シリウス・レングナーの元に、ある日結婚を断ったはずの聖女サラが、隣の領からやってきた。
これまでの縁談で紹介されたのは、魔獣から国家を守る事でもらえる報奨金だけが目当ての女ばかりだった。
ましてや長年仲が悪いザカリアス伯爵が紹介する女なんて、スパイに決まっている。
しかし豪華な馬車でやってきたのだろうという予想を裏切り、聖女サラは魔物の跋扈する領地を、ただ一人で歩いてきた様子。
「チッ。お前のようなヤツは、嫌いだ。見ていてイライラする」
追い出そうとするシリウスに、サラは必死になって頭を下げる「私をレングナー伯爵様のところで、兵士として雇っていただけないでしょうか!?」
ザカリアス領に戻れないと言うサラを仕方なく雇って一月ほどしたある日、シリウスは休暇のはずのサラが、たった一人で、肩で息をしながら魔獣の浄化をしている姿を見てしまう。

魔力を持たずに生まれてきた私が帝国一の魔法使いと婚約することになりました
ふうか
恋愛
レティシアは魔力を持つことが当たり前の世界でただ一人、魔力を持たずに生まれてきた公爵令嬢である。
そのために、家族からは冷遇されて育った彼女は10歳のデビュタントで一人の少年と出会った。その少年の名はイサイアス。皇弟の息子で、四大公爵の一つアルハイザー公爵家の嫡男である。そしてイサイアスは周囲に影響を与えてしまうほど多くの魔力を持つ少年だった。
イサイアスとの出会いが少しづつレティシアの運命を変え始める。
これは魔力がないせいで冷遇されて来た少女が幸せを掴むための物語である。
※1章完結※
追記 2020.09.30
2章結婚編を加筆修正しながら更新していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる