【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香

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第39話 割られたペンダント

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 不穏な空気に気が付いたのは、それから一週間もしないうちだった。

「マスリー、いったいお城の中で何があったの?」

 塔の中に居ても、なにかが起きている事がわかった。魔導師団の所属の面々が研究も差し置いて何度も出入りしている。

 マスリーは紅茶を淹れながら、困った顔をした。

「私のメイド仲間に聞いたのですが、聖女の為の騎士団が結成されたらしいんですよね」

「……特に問題なさそうな話に思えるけど」

「次々とその騎士団への編入希望者があらわれて、それが実績のある人ばかりみたいで大変な事になっているみたいなんです。塔から魔法師が移動しているのは、彼らの代わりの警護をしたり、何が起こっているかの調査をしているみたいで。なんだかちょっと怖いですよね」

「状況がわからないし、なんだか嫌な感じだね」

 フィスラもとても忙しそうで、あれから会えていない。フィスラから指示があるまで出歩かない方がいいかもしれない。

「今日はお菓子でも焼いて、フィスラ様に差し入れでもしようかな」

 本人と直接会えなくても、メイド経由で渡してもらえばいい。
 そう思ってマスリーと作るものについて相談していると、控えめなノックが聞こえた。

「あら、コノート師団長かしら」

 マスリーが扉を開くと、そこには思いもよらない人物がいた。

「聖女様……」

 ミズキはミッシェと四人の騎士を従えて、私の部屋にまるで王女の様に入ってきた。

「良かった、部屋に居て。探す手間が省けたわ」

 嬉しそうに笑う彼女は、まるで無邪気な子供のようだった。その邪気のなさが、逆にぞっとさせる。

 私は動揺を隠して、歓迎の笑みを浮かべた。

「聖女様、お久しぶりです。塔にはいらっしゃらないと伺っていたので、とても驚きました。今日はどうされたのですか?」

「この国に彼女の入れない場所などない」

 ミズキに聞いたのに、ミッシェが答える。
 フィスラからは、聖女であれど正式な手続きをしないものは研究所としての塔には入れないと聞いていたのに。

「ようこそおいでくださいました。殿下、聖女様。マスリー、お茶をおいれして」

 動揺している場合じゃない。
 私は立ち上がってマスリーにお茶を頼む。

 何か粗相があったら付け込まれるかもしれない。私と同じように驚いていたマスリーに声をかける。
 それでも、マスリーは戸惑ったように私の事を見つめていた。

「大丈夫よ、あなたは下がって」

「わかりました」

 しかしミズキがマスリーに向かってにこりと声をかけると、マスリーは私の事を気にした素振りもなく、素直に下がった。

 彼女らしくない行動に驚く。いくら聖女が上位者と言えど、いつも私の事を気にしてくれている彼女が目も合わせずに下がるだなんて。

 何かがおかしい。

 ミズキはマスリーが下がったのを見てから、あたりを見渡す。

「ツムギ、コノート師団長はどこかしら」

「師団長は忙しく、今日は会っていません。行先は私にもわかりません」

 私が首を振ると、ミズキは首を傾げて残念そうにため息をつく。

「ここにもいないとなると、本当に、何処に行ってしまったのかしら」

「……ツムギ、そのペンダントはパーティーでもつけていたものだな。それならば、コノート師団長に贈られたものだろう?」

 ミッシェが目をすがめて私の胸元を見た。そこにはフィスラに貰ったペンダントがある。
 フィスラから、自分が居ないときは代わりにつけてくれと言われて肌身離さずつけていた。

 その獲物を狙うような仕草に、怖くなってペンダントを握る。

「あの男の事だ。このペンダントの石に何かあればわかるようになっているはずだ」

「あらそうなのね。それをよこしなさい、ツムギ」

 優し気に手を差し出されるが、渡す気はない。私は気圧されるように一歩後ろに下がった。

 しかし、その後ろにはいつの間にか騎士が居て、私はあっけなく後ろ手をとられた。

「痛いっ……」

 そのまま引き倒すように床に転がされる。

「動かないようにしておいて。……これね。見た目には何の変哲もないのね。魔法って不思議だわ」

「この色はコノート師団長の色だろう。あの男にもこんな執着心があったとはな」

「この女に何か魅力でもあるのかしら」

「それこそ不思議だな」

 私のネックレスを引きちぎるように奪い、二人が石を見つめながら嘲笑する。
 フィスラの気持ちを踏みにじられ、私の目からは涙が零れそうになる。

 私はフィスラの足を引っ張っている。最悪だ。
 安全で居るように言われたのに。
 それしかできないのに。

「これを壊せばいいのかしら」

「そうだ。それは私がやろう」

 パリン、と軽い音がしてフィスラからもらったペンダントはあっけなくバラバラになった。
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