【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香

文字の大きさ
上 下
36 / 54

第36話 宝石に込めた想い

しおりを挟む
 フィスラの私室に来るのは、勝手に怒ってしまった日以来だ。
 結果的にお友達という地位を獲得できたので良かったけれど、なんだか気恥しい。

 あの日と同じように、フィスラは手ずからお茶を淹れてくれる。ソファに隣り合って座ったので、下を向けば顔が見えないのがちょっと助かった。

「フィスラ様って何でもできますよね」

 この間と違う銘柄だけど、これもとても美味しい。
 お茶を淹れる才能まであるだなんて、どれだけ色々な事が出来るんだろう。

「そうでもないと思うが。紅茶に関しては、確かに淹れることが多いから練習はしたな」

「フィスラ様が練習とか、ちょっと想像つかないかも」

「そうか?」

「最年少で師団長とか、なんだかとってもキラキラした経歴ですし。評判だってすごく良さそうです」

「ツムギはあまり他の人とまだ交流がないからそう思うのだ」

「そうですか? ミスリア様もフィスラ様の事を尊敬してそうでしたけど」

「いつもそうは思えない態度だが」

 ミスリアの事を思い出したのか、フィスラが嫌な顔をする。
 すぐに顔に出るのが面白くて笑ってしまう。

「紅茶も美味しいですしね」

「ツムギの作る焼き菓子は美味しかった」

 急な反撃に、あっという間に頬が赤くなってしまった。ちらりとフィスラを見ると、彼もこちらを見ていたのでしっかりと目があってしまった。

「わー!」

 びっくりして距離をとろうと後ずさった私の手を、フィスラがさっとつかんだ。

「なんで逃げるんだ。私の隣は嫌なのか?」

 不満げな顔の彼を見て、こんな態度じゃ嫌な思いをさせてしまうと考え直して、元の距離に戻る。

 ソファは距離が近い。
 意識するとともかく恥ずかしい。

 恋愛経験の全くない私には、こんなに格好いい人と二人からしてハードルが高いのに。

 更には好きな人だなんて。

 恨めしい気もしでフィスラを見る。
 そう、好きな人だ。

 いつから好きになってしまったんだろう。友達でいられるぐらいに気持ちを抑えていたかったのに。

 フィスラは、顔はキラキラと整っているし、声だってとっても素敵だ。
 中身だって優しいし周りに気を使ってるし、それなのに結構毒舌だし。
 一緒に居ると身分差を感じない楽しさだし、貴族なのに顔に出たりこうやってお茶を淹れてくれたり……。

 いい所が次々と浮かんでくる。
 恐ろしい。

 これは高嶺の花どころか天にある花だ。
 全く手が届かない。

 どうして、こんな人を好きになってしまったんだろう。
 でも、こんな人だからこそ好きにならずにはいられない。

 そう思う私の胸元に、彼は手を伸ばした。
 そこにはフィスラに貰った、ネックレスがある。

 今の軽装には合わないのはわかっていたけれど、フィスラに会うと思ったらそのままつけたくなってしまったのだ。

 その黒い石を、彼は自称気味に笑んで撫でた。

「この間聞かれたことがあっただろう? このネックレスを付ける事で恋人と間違われたりしないのかと」

「あわわ、あれは勉強不足で恥ずかしい事言ってすいませんでした……」

 フィスラはネックレスから手を離すと、そのまま私の頭を撫でた。

「あれは間違いではない」

「どういう事ですか……?」

「私は、お前と恋人だと思われるように贈った」

 まっすぐこちらを見るフィスラの瞳に目が吸い寄せられるように、視線をそらせられない。

「それは何かの作戦的な事でしょうか」

「そうだな。ミッシェには少なくとも私が君の後ろ盾であることは伝わっただろう。他の女性たちには、私へのけん制になる」

 続けられた言葉は事務的で納得できるものだったので、緊張が解け力が抜けた。

「だから、誰からも話しかけられなかったんですね! 聞かれたら研究助手だと答えると言われていたのに、全然聞かれないし話しかけられないし不思議だと思っていました。何の対策もしないと、引く手あまたで大変ですもんね」

 モテる男は大変だ。私はフィスラが女性に掴まっている間はどうしたらいいのか、凄く考えていたので助かったけれど。
 納得のセリフに頷いていたが、フィスラは首を振った。

「どれも確かに君に贈ろうと思って選んでいた時に考えていたことで、本音のつもりだった。だがそれらは全て建前だった。そのネックレスを付けた君を見た時にわかったんだ」

「え……?」

 頭に置かれていた手が、いつの間にか頬を撫でる。

「私がこれを君につけてほしかったんだ。意味も教えずに、すまなかった。外そう」

 その手がそのままネックレスを外してしまいそうで、私はぎゅっとフィスラの手を掴んだ。
 フィスラの手首はごつごつとしていて私の手ではしっかり握れなくて、ああ男の人なんだなと思う。

「外しませんよ。これは私がフィスラ様に貰って、私がつけたくてつけているんですから」

 フィスラの言葉は私にとっては夢のようで、もちろん外すはずがない。

「ツムギ。他の宝石を贈ることはもちろんできるから」

 フィスラは何故か私が宝石欲しさに渋っているように見えるらしい。

 私はフィスラの頬をぎゅっとつねった。
 怪訝そうに顔を顰めたが、無駄に痛いと騒いだりはしないのは貴族だからなのか。

 ……ミッシェ辺りは騒ぎそうかも。
 勝手に失礼な想像をしながら、ぐにぐにとフィスラの頬をつねる。

「それより前にいう事があるんじゃないですか」

「申し訳ない……? 謝罪の言葉が足りなかっただろうか」

 何もピンときてなさそうな顔で、フィスラが呟く。

「そういう謎の謝罪じゃないです。……これで勘違いだったら、私もう死ぬしかないですけど、私の事をどう思っているかとかです!」
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

恋愛は見ているだけで十分です

みん
恋愛
孤児院育ちのナディアは、前世の記憶を持っていた。その為、今世では恋愛なんてしない!自由に生きる!と、自立した女魔道士の路を歩む為に頑張っている。 そんな日々を送っていたが、また、前世と同じような事が繰り返されそうになり……。 色んな意味で、“じゃない方”なお話です。 “恋愛は、見ているだけで十分よ”と思うナディア。“勿論、溺愛なんて要りませんよ?” 今世のナディアは、一体どうなる?? 第一章は、ナディアの前世の話で、少しシリアスになります。 ❋相変わらずの、ゆるふわ設定です。 ❋主人公以外の視点もあります。 ❋気を付けてはいますが、誤字脱字が多いかもしれません。すみません。 ❋メンタルも、相変わらず豆腐並みなので、緩い気持ちで読んでいただけると幸いです。

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

波間柏
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~

白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。 父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。 財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。 それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。 「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」 覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

異世界でも、とりあえず生きておく

波間柏
恋愛
 大学の図書室で友達を待っていたのにどうやら寝てしまったようで。目を覚ました時、何故か私は戦いの渦中に座っていた。 いや、何処よここは? どうした私?

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

塔の魔王は小さな花を慈しむ

トウリン
恋愛
セイラム国第一王子アストールは、その強大過ぎる魔力故に人と交わることができず、辺境の塔に身を置いていた。彼の力を恐れるあまりに、使用人はいつかない。いい加減、数えるのにも飽きた頃、彼の前に連れてこられたのは、まだ幼いフラウという名の少女だった。彼女もまた、ある理由から孤独の中に身を置いていて…… 己の不幸に囚われていた傲慢な王子と人の温もりを知らない無垢な少女は、互いにかけがえのない相手となっていく。

美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました

葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。 前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ! だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます! 「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」 ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?  私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー! ※約六万字で完結するので、長編というより中編です。 ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...