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第33話 エスコート
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こそこそと話しながらも、会場に入る。フィスラのエスコートは完璧で、とても歩きやすい。
しかし、会場に入って気が付いたけれど、フィスラはとても目立つ。
驚いた顔をしている男性や、赤くなっているご令嬢の視線を凄く感じる。
フィスラは全身黒地に刺繍が施されたスーツに、マントをつけている。色味は決して派手ではないのに、とても目を引く。
まずフィスラに驚いて、隣に居る私の事をまじまじと見る。
好奇心や、あからさまな敵意を向けられているような視線も多く少し怯んでしまう。
私が失敗するとフィスラが恥をかいてしまう。
それは嫌だ。
その気持ちだけで、しっかりと前を向き視線を何でもないような顔で流していく。
フィスラはそういう視線に慣れているのか、私の歩きを気遣いつつ中心の方に向かっていく。
視線だけで誰にも呼び止められないのは、フィスラが高位者のせいだろうか。
「わーツムギちゃん今日は綺麗だね」
「わ、ミスリア様」
声をかけられて振り向くと、フィスラと同じマントをつけたミスリアがにこにこと立っていた。
黒を基調にしているフィスラとは違い、マントは黒いもののミスリアは紫地のスーツでとても可愛く似合っている。
「最初、誰かわからなかった。皆もあのご令嬢は誰だって噂してるよ」
秘密を教えるように声を潜めてくすくすと笑う。その仕草は年齢不詳なミステリアスさがあって、どきりとしてしまう。
とてももてそう。
「ラリー侯爵は私のパートナーに一体何をしているのだ?」
もてる男に圧倒されていると、隣から冷ややかな声が聞こえる。途端にばっとミスリアが私の近くからひいた。
「やだなーコノート師団長。挨拶ですよ」
ミスリアは苦笑いをしているが、私はかなり動揺していた。
「侯爵……」
「あーあ。ばらさないでほしかったのに。全然緊張しないでいいし気にしないでほしいなー同じコノート師団長の部下だという事で仲良くしよう」
貴族だろうとは思っていたが、思った以上の高い地位に冷や汗が出る。
軽口を叩いてしまっていたけれど、首を切られてもおかしくなかったのではないか。
王城は危険がいっぱいだ。
「そうだツムギ。人のパートナーにあんなに近づくなど貴族のすることではない。貴族ではないのだろうか」
「まあまあ、ツムギちゃんと俺の仲だからー」
「ラリー侯爵」
凍りつきそうに恐ろしい声がして、流石にミスリアも軽口をやめて話題を変えた。
「すいませーん。嫉妬深い男は嫌われると思いますけどね。……ねえねえ、コノート師団長がすごーく久しぶりにパーティーに登場したから、かなり注目されてるんだよ。ツムギちゃんも視線が気にならなかった?」
「えっ。久しぶりなんですか? 見られているとは思っていましたが、フィスラ様が格好いいからかと」
素直に答えると、ミスリアは吹き出した。慌ててフィスラを見ると、顔を赤くして険しい顔で違う方向を見ていた。
また失言だ。
「あわわ。私個人の意見というか、皆フィスラ様の事格好いいって人気だという噂を聞いたというかなんというか」
「そんなに慌てなくていいよ。人気ですもんねー師団長。参加すると女性をたーくさん紹介されてますよね」
「やっぱりそうですよね……」
隣に居るフィスラを見上げると、ミスリアを不機嫌そうに見ている。
こんな顔すら、とても絵になるのだ。
更に話も面白いし面倒見もいい。
「凄く優良物件ですよね」
「優良物件! 確かにそうだねー」
「女性は紹介されるが、別に紹介だけで何かあるわけではない」
フィスラが反論しているが、紹介されるという事は何かあるという事ではないだろうか。
「ツムギちゃんもすっごく可愛いし、お似合いの二人だから今日は安全だね」
意味ありげな顔でミスリアが笑う。
「フィスラ様の役に立てたのなら良かったです!」
フィスラ様が喜んでくれているといいなと思って見あげると、思った以上に難しい顔をしている。
「あれ……あんまり役に立ってませんでしたか?」
「いや、先程も言ったように、君は完璧なパートナーだ。とても綺麗だと思っている」
慌てて尋ねると、フィスラは私の腰を引き寄せ耳元でささやいた。
そんな風に甘く返されて、私はただ赤くなるしかできない。
「邪魔者は消えますねー。もう式典が始まるからまた後で!」
ミスリアのからかう様な声が耳に残った。
「じゃあ、行こう」
何事もなかったように、フィスラは私をエスコートして歩き出す。歩くたびにさっと道が開け、あっという間に玉座の前にきた。私がこんな場所に居ていいのだろうか。
「そこだ」
しかし、会場に入って気が付いたけれど、フィスラはとても目立つ。
驚いた顔をしている男性や、赤くなっているご令嬢の視線を凄く感じる。
フィスラは全身黒地に刺繍が施されたスーツに、マントをつけている。色味は決して派手ではないのに、とても目を引く。
まずフィスラに驚いて、隣に居る私の事をまじまじと見る。
好奇心や、あからさまな敵意を向けられているような視線も多く少し怯んでしまう。
私が失敗するとフィスラが恥をかいてしまう。
それは嫌だ。
その気持ちだけで、しっかりと前を向き視線を何でもないような顔で流していく。
フィスラはそういう視線に慣れているのか、私の歩きを気遣いつつ中心の方に向かっていく。
視線だけで誰にも呼び止められないのは、フィスラが高位者のせいだろうか。
「わーツムギちゃん今日は綺麗だね」
「わ、ミスリア様」
声をかけられて振り向くと、フィスラと同じマントをつけたミスリアがにこにこと立っていた。
黒を基調にしているフィスラとは違い、マントは黒いもののミスリアは紫地のスーツでとても可愛く似合っている。
「最初、誰かわからなかった。皆もあのご令嬢は誰だって噂してるよ」
秘密を教えるように声を潜めてくすくすと笑う。その仕草は年齢不詳なミステリアスさがあって、どきりとしてしまう。
とてももてそう。
「ラリー侯爵は私のパートナーに一体何をしているのだ?」
もてる男に圧倒されていると、隣から冷ややかな声が聞こえる。途端にばっとミスリアが私の近くからひいた。
「やだなーコノート師団長。挨拶ですよ」
ミスリアは苦笑いをしているが、私はかなり動揺していた。
「侯爵……」
「あーあ。ばらさないでほしかったのに。全然緊張しないでいいし気にしないでほしいなー同じコノート師団長の部下だという事で仲良くしよう」
貴族だろうとは思っていたが、思った以上の高い地位に冷や汗が出る。
軽口を叩いてしまっていたけれど、首を切られてもおかしくなかったのではないか。
王城は危険がいっぱいだ。
「そうだツムギ。人のパートナーにあんなに近づくなど貴族のすることではない。貴族ではないのだろうか」
「まあまあ、ツムギちゃんと俺の仲だからー」
「ラリー侯爵」
凍りつきそうに恐ろしい声がして、流石にミスリアも軽口をやめて話題を変えた。
「すいませーん。嫉妬深い男は嫌われると思いますけどね。……ねえねえ、コノート師団長がすごーく久しぶりにパーティーに登場したから、かなり注目されてるんだよ。ツムギちゃんも視線が気にならなかった?」
「えっ。久しぶりなんですか? 見られているとは思っていましたが、フィスラ様が格好いいからかと」
素直に答えると、ミスリアは吹き出した。慌ててフィスラを見ると、顔を赤くして険しい顔で違う方向を見ていた。
また失言だ。
「あわわ。私個人の意見というか、皆フィスラ様の事格好いいって人気だという噂を聞いたというかなんというか」
「そんなに慌てなくていいよ。人気ですもんねー師団長。参加すると女性をたーくさん紹介されてますよね」
「やっぱりそうですよね……」
隣に居るフィスラを見上げると、ミスリアを不機嫌そうに見ている。
こんな顔すら、とても絵になるのだ。
更に話も面白いし面倒見もいい。
「凄く優良物件ですよね」
「優良物件! 確かにそうだねー」
「女性は紹介されるが、別に紹介だけで何かあるわけではない」
フィスラが反論しているが、紹介されるという事は何かあるという事ではないだろうか。
「ツムギちゃんもすっごく可愛いし、お似合いの二人だから今日は安全だね」
意味ありげな顔でミスリアが笑う。
「フィスラ様の役に立てたのなら良かったです!」
フィスラ様が喜んでくれているといいなと思って見あげると、思った以上に難しい顔をしている。
「あれ……あんまり役に立ってませんでしたか?」
「いや、先程も言ったように、君は完璧なパートナーだ。とても綺麗だと思っている」
慌てて尋ねると、フィスラは私の腰を引き寄せ耳元でささやいた。
そんな風に甘く返されて、私はただ赤くなるしかできない。
「邪魔者は消えますねー。もう式典が始まるからまた後で!」
ミスリアのからかう様な声が耳に残った。
「じゃあ、行こう」
何事もなかったように、フィスラは私をエスコートして歩き出す。歩くたびにさっと道が開け、あっという間に玉座の前にきた。私がこんな場所に居ていいのだろうか。
「そこだ」
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