【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香

文字の大きさ
上 下
33 / 54

第33話 エスコート

しおりを挟む
 こそこそと話しながらも、会場に入る。フィスラのエスコートは完璧で、とても歩きやすい。

 しかし、会場に入って気が付いたけれど、フィスラはとても目立つ。
 驚いた顔をしている男性や、赤くなっているご令嬢の視線を凄く感じる。

 フィスラは全身黒地に刺繍が施されたスーツに、マントをつけている。色味は決して派手ではないのに、とても目を引く。
 まずフィスラに驚いて、隣に居る私の事をまじまじと見る。
 好奇心や、あからさまな敵意を向けられているような視線も多く少し怯んでしまう。

 私が失敗するとフィスラが恥をかいてしまう。
 それは嫌だ。
 その気持ちだけで、しっかりと前を向き視線を何でもないような顔で流していく。

 フィスラはそういう視線に慣れているのか、私の歩きを気遣いつつ中心の方に向かっていく。
 視線だけで誰にも呼び止められないのは、フィスラが高位者のせいだろうか。

「わーツムギちゃん今日は綺麗だね」

「わ、ミスリア様」

 声をかけられて振り向くと、フィスラと同じマントをつけたミスリアがにこにこと立っていた。
 黒を基調にしているフィスラとは違い、マントは黒いもののミスリアは紫地のスーツでとても可愛く似合っている。

「最初、誰かわからなかった。皆もあのご令嬢は誰だって噂してるよ」

 秘密を教えるように声を潜めてくすくすと笑う。その仕草は年齢不詳なミステリアスさがあって、どきりとしてしまう。

 とてももてそう。

「ラリー侯爵は私のパートナーに一体何をしているのだ?」

 もてる男に圧倒されていると、隣から冷ややかな声が聞こえる。途端にばっとミスリアが私の近くからひいた。

「やだなーコノート師団長。挨拶ですよ」

 ミスリアは苦笑いをしているが、私はかなり動揺していた。

「侯爵……」

「あーあ。ばらさないでほしかったのに。全然緊張しないでいいし気にしないでほしいなー同じコノート師団長の部下だという事で仲良くしよう」

 貴族だろうとは思っていたが、思った以上の高い地位に冷や汗が出る。
 軽口を叩いてしまっていたけれど、首を切られてもおかしくなかったのではないか。

 王城は危険がいっぱいだ。

「そうだツムギ。人のパートナーにあんなに近づくなど貴族のすることではない。貴族ではないのだろうか」

「まあまあ、ツムギちゃんと俺の仲だからー」

「ラリー侯爵」

 凍りつきそうに恐ろしい声がして、流石にミスリアも軽口をやめて話題を変えた。

「すいませーん。嫉妬深い男は嫌われると思いますけどね。……ねえねえ、コノート師団長がすごーく久しぶりにパーティーに登場したから、かなり注目されてるんだよ。ツムギちゃんも視線が気にならなかった?」

「えっ。久しぶりなんですか? 見られているとは思っていましたが、フィスラ様が格好いいからかと」

 素直に答えると、ミスリアは吹き出した。慌ててフィスラを見ると、顔を赤くして険しい顔で違う方向を見ていた。

 また失言だ。

「あわわ。私個人の意見というか、皆フィスラ様の事格好いいって人気だという噂を聞いたというかなんというか」

「そんなに慌てなくていいよ。人気ですもんねー師団長。参加すると女性をたーくさん紹介されてますよね」

「やっぱりそうですよね……」

 隣に居るフィスラを見上げると、ミスリアを不機嫌そうに見ている。
 こんな顔すら、とても絵になるのだ。
 更に話も面白いし面倒見もいい。

「凄く優良物件ですよね」

「優良物件! 確かにそうだねー」

「女性は紹介されるが、別に紹介だけで何かあるわけではない」

 フィスラが反論しているが、紹介されるという事は何かあるという事ではないだろうか。

「ツムギちゃんもすっごく可愛いし、お似合いの二人だから今日は安全だね」

 意味ありげな顔でミスリアが笑う。

「フィスラ様の役に立てたのなら良かったです!」

 フィスラ様が喜んでくれているといいなと思って見あげると、思った以上に難しい顔をしている。

「あれ……あんまり役に立ってませんでしたか?」

「いや、先程も言ったように、君は完璧なパートナーだ。とても綺麗だと思っている」

 慌てて尋ねると、フィスラは私の腰を引き寄せ耳元でささやいた。
 そんな風に甘く返されて、私はただ赤くなるしかできない。

「邪魔者は消えますねー。もう式典が始まるからまた後で!」

 ミスリアのからかう様な声が耳に残った。

「じゃあ、行こう」

 何事もなかったように、フィスラは私をエスコートして歩き出す。歩くたびにさっと道が開け、あっという間に玉座の前にきた。私がこんな場所に居ていいのだろうか。

「そこだ」
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

恋愛は見ているだけで十分です

みん
恋愛
孤児院育ちのナディアは、前世の記憶を持っていた。その為、今世では恋愛なんてしない!自由に生きる!と、自立した女魔道士の路を歩む為に頑張っている。 そんな日々を送っていたが、また、前世と同じような事が繰り返されそうになり……。 色んな意味で、“じゃない方”なお話です。 “恋愛は、見ているだけで十分よ”と思うナディア。“勿論、溺愛なんて要りませんよ?” 今世のナディアは、一体どうなる?? 第一章は、ナディアの前世の話で、少しシリアスになります。 ❋相変わらずの、ゆるふわ設定です。 ❋主人公以外の視点もあります。 ❋気を付けてはいますが、誤字脱字が多いかもしれません。すみません。 ❋メンタルも、相変わらず豆腐並みなので、緩い気持ちで読んでいただけると幸いです。

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

波間柏
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~

白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。 父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。 財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。 それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。 「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」 覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

異世界でも、とりあえず生きておく

波間柏
恋愛
 大学の図書室で友達を待っていたのにどうやら寝てしまったようで。目を覚ました時、何故か私は戦いの渦中に座っていた。 いや、何処よここは? どうした私?

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

塔の魔王は小さな花を慈しむ

トウリン
恋愛
セイラム国第一王子アストールは、その強大過ぎる魔力故に人と交わることができず、辺境の塔に身を置いていた。彼の力を恐れるあまりに、使用人はいつかない。いい加減、数えるのにも飽きた頃、彼の前に連れてこられたのは、まだ幼いフラウという名の少女だった。彼女もまた、ある理由から孤独の中に身を置いていて…… 己の不幸に囚われていた傲慢な王子と人の温もりを知らない無垢な少女は、互いにかけがえのない相手となっていく。

美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました

葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。 前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ! だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます! 「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」 ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?  私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー! ※約六万字で完結するので、長編というより中編です。 ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...