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第32話 フィスラの瞳の色の宝石
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「今の話を聞いたら、何にも大丈夫そうではなかった気もするが、そうだな」
フィスラはふっと笑って、グラスをゆっくりとあおった。その仕草はとても会社の飲み会とは違う優雅なしぐさで、思わず見とれてしまう。
「何を見てるんだ?」
「綺麗だなと思って」
私が思わず言うと、フィスラはにやっと笑った。
「ご褒美だもんな」
「わーそれは忘れてください一刻も早く速やかに」
「いや、何かに使おうと思うから。手数は多いに越したことはないからな」
「平民と貴族ってだけで弱いのに!」
笑いながらお酒はみるみる減っていく。ひとしきり笑った後、フィスラは真面目な顔をした。
「私は、責任感から一緒に居るのではないからな」
「何ですか急に。」
「気にしてるかと思って……いや、違うな。私が気になっていたのだ」
「フィスラ様がですか? 私、お友達だと言ってくれて嬉しかったです。それで、気持ちは凄くすっきりしました」
「そうか。……これを、私から」
フィスラに小さな細長い箱を渡される。
「開けていいんですか?」
「当然だ」
箱を開けると、中には深い黒の宝石のついたネックレスが入っていた。
「パーティーにはこれをつけてほしい」
私は戸惑ったまま、フィスラを見た。彼はまっすぐに私の事を見ていて、思わず目を逸らしてしまう。
瞳の色の宝石は恋人の証だ。
少しマナーをかじっただけの私が知っているぐらいだ。フィスラが知らないはずがないと思う。それとも私の知らない意味があるのだろうか。
「……恋人と間違われちゃいませんか?」
ぐるぐると悩んだ結果私の口から出たのは凄く失礼なセリフだった。それなのに、フィスラは優しく私の手をとった。
微笑んだまま、箱を持つ私の手に、自分の手を重ねた。
「今は、受け取ってくれ。君の為に選んだんだ」
「……わかりました」
多分フィスラ深い意味はなかったのに、変な事を言ってしまった。
逆に自分が意識してしまっている。ううう。
「つけさせてくれ」
箱からキラキラしたネックレスをとり、フィスラが私の後ろに回りつけてくれる。ネックレスを男の人からつけてもらうのなんて初めての経験で、恥ずかしくなる。
そっと髪を横に流したフィスラの指の体温すら感じそうだ。
心臓の音がどきどきと大きく聞こえてきて、これではフィスラに聞かれるんじゃないかと心配になってしまう。
「どうだろう」
「ありがとうございます。とても綺麗です……」
首元にある黒い石を、やっぱり意識してしまう。深い黒。
とても綺麗で、フィスラの方を見ると同じように綺麗な瞳があった。
「フィスラ様の瞳も、やっぱりとても綺麗ですね」
「ありがとう。何故かツムギに言われると、嬉しい」
目を細めて笑うフィスラに、変な気持ちを持ったことを反省して振り払う。
もう一度酒瓶を持ち、グラスに注ぐ。
「乾杯しましょう!」
「何にだ?」
「うーん、聖女召喚の成功に!」
「……そうだな。成功に」
フィスラは成功の言葉にびっくりしていたが、私が今楽しいという意味だという事はは伝わったようだ。
グラスを合わせるととても綺麗な音がして、お酒はするすると喉の奥に入っていった。
**********
パーティーの日になった。
塔から馬車でお迎えがあった為、ドレスとヒールであの距離を歩かなくて済んだことにほっとした。
今日も濃いメイクにフィスラから贈られたドレスとネックレスをつけている。
髪の毛はマスリーによって複雑に編み込まれて、派手だ。
触ると硬い。
聖女お披露目を目的としたこのパーティーは、思っていた以上に盛大なものだった。城にある大広間はもちろん、至る所に花が飾られている。
敷物は豪奢なものに変わり、きらびやかな演出だ。
大広間の他に、歓談室としていくつもの部屋が解放されているらしい。迷子になりそう。
「私が隣に居て迷子になるはずがないだろう」
心の声を読み取ったかのように、フィスラが理解できない顔をしている。
「なんでわかったんですか?」
「きょろきょろとして、部屋の位置関係をぶつぶつと呟いていれば誰でもわかる。美しくないからやめるように」
普通に注意されてしまった。しかし、貴族ではないにしろパーティーに出る以上確かにきょろきょろしているのは良くない。
私はフィスラの腕をもう一度しっかりと掴み、講師との授業を思い出しつつ決意した。
「……力が強い」
「うわー! ごめんなさい」
「他の人にはやらないように」
「気をつけます……」
私は気を付けてそっと、手をかけるだけにした。フィスラは頷いたので間違いないはずだ。
他の誰かとこんな風にパーティーに出ることはない気がするが、気をつけなくては。
「じゃあ行こう。……今日も綺麗だ。ドレスも宝石も、とてもよく似合っている」
会場に入る前に不意打ちのように褒められて、私はまたぎゅっとフィスラの手を掴んでしまった。それを感じて、してやったり顔で笑う。
「いいパートナーだ」
「マナー教師からはちゃんと合格が出たんですよ。本当です」
「知っている。逐一報告をあげさせていたからな」
「ええ!」
「大きい声を出さないように」
フィスラはふっと笑って、グラスをゆっくりとあおった。その仕草はとても会社の飲み会とは違う優雅なしぐさで、思わず見とれてしまう。
「何を見てるんだ?」
「綺麗だなと思って」
私が思わず言うと、フィスラはにやっと笑った。
「ご褒美だもんな」
「わーそれは忘れてください一刻も早く速やかに」
「いや、何かに使おうと思うから。手数は多いに越したことはないからな」
「平民と貴族ってだけで弱いのに!」
笑いながらお酒はみるみる減っていく。ひとしきり笑った後、フィスラは真面目な顔をした。
「私は、責任感から一緒に居るのではないからな」
「何ですか急に。」
「気にしてるかと思って……いや、違うな。私が気になっていたのだ」
「フィスラ様がですか? 私、お友達だと言ってくれて嬉しかったです。それで、気持ちは凄くすっきりしました」
「そうか。……これを、私から」
フィスラに小さな細長い箱を渡される。
「開けていいんですか?」
「当然だ」
箱を開けると、中には深い黒の宝石のついたネックレスが入っていた。
「パーティーにはこれをつけてほしい」
私は戸惑ったまま、フィスラを見た。彼はまっすぐに私の事を見ていて、思わず目を逸らしてしまう。
瞳の色の宝石は恋人の証だ。
少しマナーをかじっただけの私が知っているぐらいだ。フィスラが知らないはずがないと思う。それとも私の知らない意味があるのだろうか。
「……恋人と間違われちゃいませんか?」
ぐるぐると悩んだ結果私の口から出たのは凄く失礼なセリフだった。それなのに、フィスラは優しく私の手をとった。
微笑んだまま、箱を持つ私の手に、自分の手を重ねた。
「今は、受け取ってくれ。君の為に選んだんだ」
「……わかりました」
多分フィスラ深い意味はなかったのに、変な事を言ってしまった。
逆に自分が意識してしまっている。ううう。
「つけさせてくれ」
箱からキラキラしたネックレスをとり、フィスラが私の後ろに回りつけてくれる。ネックレスを男の人からつけてもらうのなんて初めての経験で、恥ずかしくなる。
そっと髪を横に流したフィスラの指の体温すら感じそうだ。
心臓の音がどきどきと大きく聞こえてきて、これではフィスラに聞かれるんじゃないかと心配になってしまう。
「どうだろう」
「ありがとうございます。とても綺麗です……」
首元にある黒い石を、やっぱり意識してしまう。深い黒。
とても綺麗で、フィスラの方を見ると同じように綺麗な瞳があった。
「フィスラ様の瞳も、やっぱりとても綺麗ですね」
「ありがとう。何故かツムギに言われると、嬉しい」
目を細めて笑うフィスラに、変な気持ちを持ったことを反省して振り払う。
もう一度酒瓶を持ち、グラスに注ぐ。
「乾杯しましょう!」
「何にだ?」
「うーん、聖女召喚の成功に!」
「……そうだな。成功に」
フィスラは成功の言葉にびっくりしていたが、私が今楽しいという意味だという事はは伝わったようだ。
グラスを合わせるととても綺麗な音がして、お酒はするすると喉の奥に入っていった。
**********
パーティーの日になった。
塔から馬車でお迎えがあった為、ドレスとヒールであの距離を歩かなくて済んだことにほっとした。
今日も濃いメイクにフィスラから贈られたドレスとネックレスをつけている。
髪の毛はマスリーによって複雑に編み込まれて、派手だ。
触ると硬い。
聖女お披露目を目的としたこのパーティーは、思っていた以上に盛大なものだった。城にある大広間はもちろん、至る所に花が飾られている。
敷物は豪奢なものに変わり、きらびやかな演出だ。
大広間の他に、歓談室としていくつもの部屋が解放されているらしい。迷子になりそう。
「私が隣に居て迷子になるはずがないだろう」
心の声を読み取ったかのように、フィスラが理解できない顔をしている。
「なんでわかったんですか?」
「きょろきょろとして、部屋の位置関係をぶつぶつと呟いていれば誰でもわかる。美しくないからやめるように」
普通に注意されてしまった。しかし、貴族ではないにしろパーティーに出る以上確かにきょろきょろしているのは良くない。
私はフィスラの腕をもう一度しっかりと掴み、講師との授業を思い出しつつ決意した。
「……力が強い」
「うわー! ごめんなさい」
「他の人にはやらないように」
「気をつけます……」
私は気を付けてそっと、手をかけるだけにした。フィスラは頷いたので間違いないはずだ。
他の誰かとこんな風にパーティーに出ることはない気がするが、気をつけなくては。
「じゃあ行こう。……今日も綺麗だ。ドレスも宝石も、とてもよく似合っている」
会場に入る前に不意打ちのように褒められて、私はまたぎゅっとフィスラの手を掴んでしまった。それを感じて、してやったり顔で笑う。
「いいパートナーだ」
「マナー教師からはちゃんと合格が出たんですよ。本当です」
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