28 / 54
第28話 朝の突撃再び
しおりを挟む
「おはよう。ツムギ」
昨日の気まずさを何一つ感じていないような綺麗な顔が、目の前にあった。
私はため息をついて、頭をがりがりとかいた。
「ええと、おはようございます。どうしましたこんな早朝に」
私は気まずさでいっぱいだ。
ベッドに入ってからも何でこんなに怒ってしまったのかと、恥ずかしさに悶えながら寝たのだ。
落ち着いてからゆっくり謝ろうと思っていたのに、不意打ちだ。
「昨日の件を、君に聞こうと思って」
それでも、真面目な顔でフィスラが言うので申し訳なくなった。本当は私が謝らなければいけないとわかっていたのに。
真剣な目に、私の事を理解しようとしてくれているのが伝わってくる。
圧倒的に地位が違うのに、私が無視したところで困る事なんてまるでないのに。
私の意思をあくまで確認に来てくれた。
自分が嫌になってしまう。狭量すぎる。ここまでしてもらってまだ拗ねるなんて事は出来ない。
「フィスラ様は、朝食はもうとりましたか?」
「まだ食べていない。そろそろ起きるかと思ってすぐに来たのだ」
「そうしたら、良ければお付き合いください。着替えてきますので、先に食堂でお待ちいただけますか?」
私がそう言うと、フィスラはほっとした顔で頷いた。
びっくりしたものの気になったら猪突猛進なんだ、と何だかおかしくなった。
素直に謝ろう。私は急いでマスリーを呼んだ。
**********
「……」
何だかとても空気が重い。
いつものフィスラであれば、無口ではあるものの話しかけにくいと思ったことなどなかった。
そう考えると、かなり気を使ってくれていたのだとわかる。
それを、自分に同情してるなら嫌だなんて自分勝手な理由で感じ悪くしてしまったことに、再び反省する。
空気が重いのは自分のせいだ。
「フィスラ様」
私が声をかけると、無言でスープを飲んでいたフィスラの肩がびくっと揺れた。
「昨日は、勝手に怒ったりして、申し訳ありませんでした」
勇気があるうちに、頭を下げる。
恥ずかしい。
「ツムギ」
頭を下げたままでいると、フィスラの声が優しげに響いた。
「私は君の事をかわいそうだと思って、こうしているのではない」
昨日の言葉への返事だ。私は自称気味に笑った。
「わかっています。フィスラ様は責任感のある方ですし、こうしてとても良くしてもらっています。私が勝手になんか感情がバーンとなってしまったんです」
「ばーん」
フィスラが子供みたいに擬音を繰り返すのがおかしくて笑ってしまう。
「……端的に言うと、仲良くなったと思ったんです」
「誰と誰が?」
「私とフィスラ様が、です。あ、平民が貴族の方に仲良くとか言うと不敬になったりしますか?」
慌てて確認する。何が不敬かわからないのに、砕けた言葉を使いすぎた。フィスラは不思議そうな顔をしたまま、首を横に振った。
「私に対して、君の行動で不敬になる事はない」
そんな事簡単に言っていいんだろうか。でも不敬にならないなら、言いたいことが言えていいか。今は言葉を選ぶのが難しい。
「不敬にならないなら良かったです。ええと、フィスラ様は話しやすいですし一緒に居て楽しかったので、仲良くなった気持ちになっていたんです」
「……話しやすいとは、初めて言われたな」
「そうなんですか? ちょっと毒舌だけど面白いですよね。あ、今のも不敬にしないでくださいね」
「もちろんだ」
「だから、聖女様と同等にしあわせにっていうのを聞いて、悲しくなっちゃったんです。自分勝手ですよね。責任感で、私の幸せを聖女様と同じぐらいまで引き上げてくれようとしてるんだって思ったら、ばーんと」
「ばーんと」
またフィスラは繰り返す。貴族は擬音を使わないのだろうか。
「責任感だけで一緒に居るっていうのが、嫌だったんです。勝手に怒ってごめんなさい。今の生活はとても快適で、本当に有難いと思っています。お友達もちゃんと作りますね」
私は俯きながら頬に手を当てて、笑った。
赤くなっていないといいけれど。
馬鹿みたいな感情を話すのはとても恥ずかしかった。呆れないでほしいけど、怖くてフィスラの顔を見られない。
「私は、ツムギと友達になってもいい」
思いもよらないフィスラの言葉に、赤くなる頬を忘れて顔をあげた。
無表情なのに頬を赤くしたフィスラと目があう。
「フィスラ様……え?」
「私は、召喚の責任感とは別に、ツムギと話していると楽しいので友達になってもいいといったのだ」
赤いままなのに、まっすぐに私の顔を見ながら言ってくれる。
……嬉しい。
フィスラの言葉で、もやもやしていたものが、全部綺麗になくなったのを感じる。
この赤さが、嘘じゃないと言ってくれているようで、私は嬉しさで涙が出てきてしまう。
「フィスラ様、嬉しいです。私の勝手な気持ちだったのに、裏切られたような気持ちになって……。それに、舞い上がってたことにも気が付いて恥ずかしかったんです。だから、そう言ってもらえて本当に、嬉しいし救われました。これからもよろしくお願いします」
頭を下げると、フィスラは鷹揚に頷いた。
その仕草がおかしくて、私は笑ってしまう。
「もーフィスラ様って偉そうです!」
「実際偉いからな」
フィスラもまだうっすらと赤いままにやりと笑う。私の顔も赤いだろう。
「そんな偉い人じゃ庶民には雲の上の存在です」
「友達になったのだろう?」
「そうでした。有りがたき幸せでございます」
「嘘っぽいな。私もモルモットの友人が出来てとても楽しみだ」
「わーこわい! やっぱり猟奇的!」
下らない話をしながら食べた食事は、マナーはともかくとても楽しく、美味しかった。
昨日の気まずさを何一つ感じていないような綺麗な顔が、目の前にあった。
私はため息をついて、頭をがりがりとかいた。
「ええと、おはようございます。どうしましたこんな早朝に」
私は気まずさでいっぱいだ。
ベッドに入ってからも何でこんなに怒ってしまったのかと、恥ずかしさに悶えながら寝たのだ。
落ち着いてからゆっくり謝ろうと思っていたのに、不意打ちだ。
「昨日の件を、君に聞こうと思って」
それでも、真面目な顔でフィスラが言うので申し訳なくなった。本当は私が謝らなければいけないとわかっていたのに。
真剣な目に、私の事を理解しようとしてくれているのが伝わってくる。
圧倒的に地位が違うのに、私が無視したところで困る事なんてまるでないのに。
私の意思をあくまで確認に来てくれた。
自分が嫌になってしまう。狭量すぎる。ここまでしてもらってまだ拗ねるなんて事は出来ない。
「フィスラ様は、朝食はもうとりましたか?」
「まだ食べていない。そろそろ起きるかと思ってすぐに来たのだ」
「そうしたら、良ければお付き合いください。着替えてきますので、先に食堂でお待ちいただけますか?」
私がそう言うと、フィスラはほっとした顔で頷いた。
びっくりしたものの気になったら猪突猛進なんだ、と何だかおかしくなった。
素直に謝ろう。私は急いでマスリーを呼んだ。
**********
「……」
何だかとても空気が重い。
いつものフィスラであれば、無口ではあるものの話しかけにくいと思ったことなどなかった。
そう考えると、かなり気を使ってくれていたのだとわかる。
それを、自分に同情してるなら嫌だなんて自分勝手な理由で感じ悪くしてしまったことに、再び反省する。
空気が重いのは自分のせいだ。
「フィスラ様」
私が声をかけると、無言でスープを飲んでいたフィスラの肩がびくっと揺れた。
「昨日は、勝手に怒ったりして、申し訳ありませんでした」
勇気があるうちに、頭を下げる。
恥ずかしい。
「ツムギ」
頭を下げたままでいると、フィスラの声が優しげに響いた。
「私は君の事をかわいそうだと思って、こうしているのではない」
昨日の言葉への返事だ。私は自称気味に笑った。
「わかっています。フィスラ様は責任感のある方ですし、こうしてとても良くしてもらっています。私が勝手になんか感情がバーンとなってしまったんです」
「ばーん」
フィスラが子供みたいに擬音を繰り返すのがおかしくて笑ってしまう。
「……端的に言うと、仲良くなったと思ったんです」
「誰と誰が?」
「私とフィスラ様が、です。あ、平民が貴族の方に仲良くとか言うと不敬になったりしますか?」
慌てて確認する。何が不敬かわからないのに、砕けた言葉を使いすぎた。フィスラは不思議そうな顔をしたまま、首を横に振った。
「私に対して、君の行動で不敬になる事はない」
そんな事簡単に言っていいんだろうか。でも不敬にならないなら、言いたいことが言えていいか。今は言葉を選ぶのが難しい。
「不敬にならないなら良かったです。ええと、フィスラ様は話しやすいですし一緒に居て楽しかったので、仲良くなった気持ちになっていたんです」
「……話しやすいとは、初めて言われたな」
「そうなんですか? ちょっと毒舌だけど面白いですよね。あ、今のも不敬にしないでくださいね」
「もちろんだ」
「だから、聖女様と同等にしあわせにっていうのを聞いて、悲しくなっちゃったんです。自分勝手ですよね。責任感で、私の幸せを聖女様と同じぐらいまで引き上げてくれようとしてるんだって思ったら、ばーんと」
「ばーんと」
またフィスラは繰り返す。貴族は擬音を使わないのだろうか。
「責任感だけで一緒に居るっていうのが、嫌だったんです。勝手に怒ってごめんなさい。今の生活はとても快適で、本当に有難いと思っています。お友達もちゃんと作りますね」
私は俯きながら頬に手を当てて、笑った。
赤くなっていないといいけれど。
馬鹿みたいな感情を話すのはとても恥ずかしかった。呆れないでほしいけど、怖くてフィスラの顔を見られない。
「私は、ツムギと友達になってもいい」
思いもよらないフィスラの言葉に、赤くなる頬を忘れて顔をあげた。
無表情なのに頬を赤くしたフィスラと目があう。
「フィスラ様……え?」
「私は、召喚の責任感とは別に、ツムギと話していると楽しいので友達になってもいいといったのだ」
赤いままなのに、まっすぐに私の顔を見ながら言ってくれる。
……嬉しい。
フィスラの言葉で、もやもやしていたものが、全部綺麗になくなったのを感じる。
この赤さが、嘘じゃないと言ってくれているようで、私は嬉しさで涙が出てきてしまう。
「フィスラ様、嬉しいです。私の勝手な気持ちだったのに、裏切られたような気持ちになって……。それに、舞い上がってたことにも気が付いて恥ずかしかったんです。だから、そう言ってもらえて本当に、嬉しいし救われました。これからもよろしくお願いします」
頭を下げると、フィスラは鷹揚に頷いた。
その仕草がおかしくて、私は笑ってしまう。
「もーフィスラ様って偉そうです!」
「実際偉いからな」
フィスラもまだうっすらと赤いままにやりと笑う。私の顔も赤いだろう。
「そんな偉い人じゃ庶民には雲の上の存在です」
「友達になったのだろう?」
「そうでした。有りがたき幸せでございます」
「嘘っぽいな。私もモルモットの友人が出来てとても楽しみだ」
「わーこわい! やっぱり猟奇的!」
下らない話をしながら食べた食事は、マナーはともかくとても楽しく、美味しかった。
17
お気に入りに追加
1,788
あなたにおすすめの小説

恋愛は見ているだけで十分です
みん
恋愛
孤児院育ちのナディアは、前世の記憶を持っていた。その為、今世では恋愛なんてしない!自由に生きる!と、自立した女魔道士の路を歩む為に頑張っている。
そんな日々を送っていたが、また、前世と同じような事が繰り返されそうになり……。
色んな意味で、“じゃない方”なお話です。
“恋愛は、見ているだけで十分よ”と思うナディア。“勿論、溺愛なんて要りませんよ?”
今世のナディアは、一体どうなる??
第一章は、ナディアの前世の話で、少しシリアスになります。
❋相変わらずの、ゆるふわ設定です。
❋主人公以外の視点もあります。
❋気を付けてはいますが、誤字脱字が多いかもしれません。すみません。
❋メンタルも、相変わらず豆腐並みなので、緩い気持ちで読んでいただけると幸いです。
出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~
白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。
父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。
財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。
それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。
「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」
覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜
波間柏
恋愛
仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。
短編ではありませんが短めです。
別視点あり


おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23

嫌われ聖女は魔獣が跋扈する辺境伯領に押し付けられる
kae
恋愛
魔獣の森と国境の境目の辺境領地の領主、シリウス・レングナーの元に、ある日結婚を断ったはずの聖女サラが、隣の領からやってきた。
これまでの縁談で紹介されたのは、魔獣から国家を守る事でもらえる報奨金だけが目当ての女ばかりだった。
ましてや長年仲が悪いザカリアス伯爵が紹介する女なんて、スパイに決まっている。
しかし豪華な馬車でやってきたのだろうという予想を裏切り、聖女サラは魔物の跋扈する領地を、ただ一人で歩いてきた様子。
「チッ。お前のようなヤツは、嫌いだ。見ていてイライラする」
追い出そうとするシリウスに、サラは必死になって頭を下げる「私をレングナー伯爵様のところで、兵士として雇っていただけないでしょうか!?」
ザカリアス領に戻れないと言うサラを仕方なく雇って一月ほどしたある日、シリウスは休暇のはずのサラが、たった一人で、肩で息をしながら魔獣の浄化をしている姿を見てしまう。

魔力を持たずに生まれてきた私が帝国一の魔法使いと婚約することになりました
ふうか
恋愛
レティシアは魔力を持つことが当たり前の世界でただ一人、魔力を持たずに生まれてきた公爵令嬢である。
そのために、家族からは冷遇されて育った彼女は10歳のデビュタントで一人の少年と出会った。その少年の名はイサイアス。皇弟の息子で、四大公爵の一つアルハイザー公爵家の嫡男である。そしてイサイアスは周囲に影響を与えてしまうほど多くの魔力を持つ少年だった。
イサイアスとの出会いが少しづつレティシアの運命を変え始める。
これは魔力がないせいで冷遇されて来た少女が幸せを掴むための物語である。
※1章完結※
追記 2020.09.30
2章結婚編を加筆修正しながら更新していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる