【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香

文字の大きさ
上 下
27 / 54

第27話 優しさの理由は?

しおりを挟む
 フィスラの私室は思っていた以上に豪華だった。

 天蓋付きのベッドにサイドテーブル、そして良くわからない何かがたくさん置いてある一角。
 テーブルセットも何もかもが私のものとは雲泥の差の質のものだとわかる。

 私の部屋も日本の時と比べて相当豪華だと思っていたけれど、本当のお金持ちはちがう……!

 さり気なく置かれている布類もすべて手の込んだ厚い刺繍が施されている。キラキラとついている飾りは宝石なのか……。
 ガラスであってほしいと思いつつ宝石なんだろうなという謎の諦めを持ちつつ、案内されたソファに座る。

 フィスラは、自分は座らずに良くわからないものがたくさん置いてある一角に向かう。そして、紅茶をもって私の隣に座った。

「あの場所、ミニキッチンなんですね」

「魔導具が置いてある場所だ。飲み物が欲しいときにも便利だろう? 夜だとメイドを呼ぶのは面倒な時もある」

 夜でもメイドさんってお茶入れてくれるんだ。新しい発見だ。

「魔導具って便利ですね」

「そうだな。便利にする為に作っている」

「そういうのって有り難いですよね。きっと私もお世話になる事も多いと思いますし」

「そうだな……。私の作品を見かける事は多いかもしれない。生活になじんでいて気が付かない事の方が多いと思うけれど」

「いいお仕事ですね。生活が良くなるのって、嬉しいですよね」

「ああ。当たり前のように必要とされているのを見るのも楽しいものだ」

 魔導具の話で微笑むフィスラは、この仕事が好きなんだな。私はなんだか嬉しくなって、お茶を飲んだ。

 フィスラの入れてくれたお茶は、覚えのある華やかな味のものだった。

「これって、もしかして」

「そうだ。この間美味しいと言っていただろう? 手配していたのだがまだ渡せていなかったので丁度良かった。後で持っていきない」

「ありがとうございます。嬉しいです」

 私の好みを覚えていてくれたなんて嬉しい。

 生活もそうだし、会話も楽しい。
 この人と仕事をするのも忙しくなりそうだけど楽しそうだ。
 先の事が少しずつ楽しみになってきているのを感じた。

 私はすっかりフィスラに依存してしまっている気がする。危ない危ない気をつけなければ。
 そう思う私に、フィスラは眉を下げて答えた。

「私は、君には快適に過ごしてもらいたいと思っている。聖女と同等に」

 その表情とその言葉に、私は思い知らされた。

 フィスラは私に責任を感じている。

 その事実が私の心に重くのしかかった。

「快適に過ごしてますよ。ドレスだっていただいて、きっと、パーティーだって楽しいと思うし、マスリーも可愛いし、食事も美味しくていいところだし、仕事だってこれから安定して働けるって……」

 振り払うような気持ちでここに着て良かったところを、指折り数えてみせる。それで、フィスラが感じている責任の重さに更に気が付いてしまう。

 全部フィスラが私の為にしてくれたことだ。
 フィスラが召喚したから。
 してしまったから。

 身体冷えて、息苦しくなる。
 浮かれていた気持ちに冷水をかけられたように、私の気持ちは大きく沈んだ。目の前が暗くなって、フィスラの事が遠くに感じる。

「ならば、良かった。ツムギがこんな風にお礼など、本来なら必要もないので気にしなくていい」

 フィスラはほっとした表情で頷いて見せたが、私はなんだかもう、限界だった。

「私はフィスラ様にとって、召喚に巻き込まれたかわいそうな子ですか? そうではないのです。そう思ってほしくないんです!」

 気が付いたらフィスラに向かって早口でまくし立ててしまった。

 馬鹿みたい。
 あまりにも馬鹿みたいで、私の目には涙がにじんだ。

「ツムギ」

 戸惑ったフィスラの声が聞こえる。当然だ。
 優しくしてくれたのに、私が急に怒り出してびっくりしただろう。

 わかっているのに、止められなかった。

「私に責任を感じて優しくされるのは、有難いってわかってます。それでも、その行為の理由が責任だけだなんて!」

 仲良くなった気がしてた。でも、相手が責任感だけだって思ったら嫌すぎた。
 会話は楽しかったし、楽しんでくれていると思っていた。

 馬鹿みたい。

「ごめんなさい。今日はもう帰ります。お茶ありがとうございました。お菓子は良ければもらってください。捨ててもいいので」

 フィスラの顔が見られなくて、私はそのまま下を向いてドアからさっと出た。

 フィスラが私の名前を呼んでいたが、恥ずかしくてもう無理だった。

 マスリーは泣きながら戻ってきた私を見て驚いた顔をしたが、そのままベッドに向かった私に声をかけずにそっと出て行ってくれた。

 本当にできるメイドさんだ。

 私と彼女の間にあるものは、友情なのかな。それともただの主従関係なのだろうか。

 私は、良くわからなくなってしまった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

恋愛は見ているだけで十分です

みん
恋愛
孤児院育ちのナディアは、前世の記憶を持っていた。その為、今世では恋愛なんてしない!自由に生きる!と、自立した女魔道士の路を歩む為に頑張っている。 そんな日々を送っていたが、また、前世と同じような事が繰り返されそうになり……。 色んな意味で、“じゃない方”なお話です。 “恋愛は、見ているだけで十分よ”と思うナディア。“勿論、溺愛なんて要りませんよ?” 今世のナディアは、一体どうなる?? 第一章は、ナディアの前世の話で、少しシリアスになります。 ❋相変わらずの、ゆるふわ設定です。 ❋主人公以外の視点もあります。 ❋気を付けてはいますが、誤字脱字が多いかもしれません。すみません。 ❋メンタルも、相変わらず豆腐並みなので、緩い気持ちで読んでいただけると幸いです。

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

波間柏
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~

白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。 父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。 財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。 それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。 「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」 覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

異世界でも、とりあえず生きておく

波間柏
恋愛
 大学の図書室で友達を待っていたのにどうやら寝てしまったようで。目を覚ました時、何故か私は戦いの渦中に座っていた。 いや、何処よここは? どうした私?

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

塔の魔王は小さな花を慈しむ

トウリン
恋愛
セイラム国第一王子アストールは、その強大過ぎる魔力故に人と交わることができず、辺境の塔に身を置いていた。彼の力を恐れるあまりに、使用人はいつかない。いい加減、数えるのにも飽きた頃、彼の前に連れてこられたのは、まだ幼いフラウという名の少女だった。彼女もまた、ある理由から孤独の中に身を置いていて…… 己の不幸に囚われていた傲慢な王子と人の温もりを知らない無垢な少女は、互いにかけがえのない相手となっていく。

美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました

葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。 前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ! だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます! 「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」 ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?  私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー! ※約六万字で完結するので、長編というより中編です。 ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...