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第25話 ドレスとお礼
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「コノート様からドレスが届きました!」
本当に弾むような声で、マスリーが嬉しそうに大きな箱を持ってきた。
「ドレス……?」
「そうです! パーティー用のですね!」
マスリーはうきうきとしているが、私は首を傾げてしまう。
すでにドレスは三着届いている。
私の部屋はあれから、ベッドとサイドテーブルソファの他に、謎の一目で高価だとわかる壺や絵画、衣装棚などが運び込まれている。
研究室の中にある部屋だけれど、ここだけ見れば貴族の部屋だという感想のきらびやかさだ。
必要なものはなさそうに思えると言ったら、お任せくださいとマスリーがうきうきと手配してくれている。
次々と用意してくれているが、お金はどこから出ているのだろう。そして、必要なものはなさそうと言ったのに、何故こんなに豪華になってしまったのだろう。
フィスラはミズキが豪華な生活をしていると言っていたが、これでは私もフィスラに呆れられたりしないだろうか。
「これがパーティー用ではなかったの?」
今日はマナー講座がある為、きっちりとドレスに袖を通している。コルセットは苦しいけれど、レースがたっぷり使われていてとても高価だとわかるドレスだ。
「それでもパーティーに出て全くおかしくない品物ではありますが、コノート様の隣に並ぶには足りないかもしれません。ほら、こちらを見てください。この刺繍は素晴らしいです。……本当に、いいものだわ」
そう広げられたドレスは圧倒されるくらいに綺麗だった。深い赤に複雑な模様が刺繍してあり、それが派手すぎずに高級感を出している。
細かい刺繍はやはり手縫いなのだろうか……労力が恐ろしいことになりそうだ。
「凄い綺麗ね……」
それでも、広げて手に取る
とやっぱりときめくものがある。綺麗な服はもとよりとても好きだ。
「これはだいぶコノート様も力が入っていますわ」
「そんな事がわかるの?」
「はい。この刺繍はかなり手が込んでいますし、この部分なんて黒い宝石が織り込まれています」
「えっ。この部分って宝石なの? 高そう過ぎてこわい」
黒くキラキラ光っている部分は確かに綺麗だけれど、宝石だと思うと恐ろしい。
「そうです。しかもコノート様の色ですね。こういう風に自分の色を相手の方に来ていただくのが本当に素敵なんですよ」
「確かに素敵だけど……。私で大丈夫かしら」
どちらかというと少し怯んでしまう。フィスラは割と気楽そうにパーティーへの参加の話をしていたけれど、こんなものを着たら注目されてしまいそうだ。
私の心配を感じ取ったのか、マスリーはにっこり笑った。
「コノート様が選んだ方なんですよ。自信を持って参加しないと失礼になります」
「確かにそうだわ。フィスラ様の顔をつぶすわけにはいかないよね」
私は衣装を当てて考える。キラキラで派手な衣装。これはどう考えてもこの顔ではだめだ。確実に服に負けてしまう。それでは失礼だ。
目立たないようにしたいけれど、フィスラ様に恥をかかせるのは絶対に嫌だ。
私はため息をついて、マスリーを手招きした。
「この間みたいなお化粧も良かったのだけど、今度はすごく濃いお化粧にしてもらってもいい?」
「濃いお化粧ですか?」
聞けば、ここの世界は彫が深いタイプの人間ばかりらしく、私みたいな地味な顔を派手にする技術はないようだ。
ラッキーな事に私は趣味でコスプレをしていた。地味な顔だけあって、どんな顔にでも違和感がないと評判だったのだ。
これを再現するのがいいだろう。
マナーをはずれない程度にがつんと濃くしよう。というか、この派手な衣装に耐えられる日本人はほとんどいないはずだ。
希少なその一人にミズキが入っているのは間違いないけれど。
私はマスリーに化粧道具を持ってきてもらい、二人で練習することにした。
久しぶりの事に、ちょっと楽しくなってきた。
「でも、その前にフィスラ様にお礼をしないとね。手伝ってもらえるかな」
本当に弾むような声で、マスリーが嬉しそうに大きな箱を持ってきた。
「ドレス……?」
「そうです! パーティー用のですね!」
マスリーはうきうきとしているが、私は首を傾げてしまう。
すでにドレスは三着届いている。
私の部屋はあれから、ベッドとサイドテーブルソファの他に、謎の一目で高価だとわかる壺や絵画、衣装棚などが運び込まれている。
研究室の中にある部屋だけれど、ここだけ見れば貴族の部屋だという感想のきらびやかさだ。
必要なものはなさそうに思えると言ったら、お任せくださいとマスリーがうきうきと手配してくれている。
次々と用意してくれているが、お金はどこから出ているのだろう。そして、必要なものはなさそうと言ったのに、何故こんなに豪華になってしまったのだろう。
フィスラはミズキが豪華な生活をしていると言っていたが、これでは私もフィスラに呆れられたりしないだろうか。
「これがパーティー用ではなかったの?」
今日はマナー講座がある為、きっちりとドレスに袖を通している。コルセットは苦しいけれど、レースがたっぷり使われていてとても高価だとわかるドレスだ。
「それでもパーティーに出て全くおかしくない品物ではありますが、コノート様の隣に並ぶには足りないかもしれません。ほら、こちらを見てください。この刺繍は素晴らしいです。……本当に、いいものだわ」
そう広げられたドレスは圧倒されるくらいに綺麗だった。深い赤に複雑な模様が刺繍してあり、それが派手すぎずに高級感を出している。
細かい刺繍はやはり手縫いなのだろうか……労力が恐ろしいことになりそうだ。
「凄い綺麗ね……」
それでも、広げて手に取る
とやっぱりときめくものがある。綺麗な服はもとよりとても好きだ。
「これはだいぶコノート様も力が入っていますわ」
「そんな事がわかるの?」
「はい。この刺繍はかなり手が込んでいますし、この部分なんて黒い宝石が織り込まれています」
「えっ。この部分って宝石なの? 高そう過ぎてこわい」
黒くキラキラ光っている部分は確かに綺麗だけれど、宝石だと思うと恐ろしい。
「そうです。しかもコノート様の色ですね。こういう風に自分の色を相手の方に来ていただくのが本当に素敵なんですよ」
「確かに素敵だけど……。私で大丈夫かしら」
どちらかというと少し怯んでしまう。フィスラは割と気楽そうにパーティーへの参加の話をしていたけれど、こんなものを着たら注目されてしまいそうだ。
私の心配を感じ取ったのか、マスリーはにっこり笑った。
「コノート様が選んだ方なんですよ。自信を持って参加しないと失礼になります」
「確かにそうだわ。フィスラ様の顔をつぶすわけにはいかないよね」
私は衣装を当てて考える。キラキラで派手な衣装。これはどう考えてもこの顔ではだめだ。確実に服に負けてしまう。それでは失礼だ。
目立たないようにしたいけれど、フィスラ様に恥をかかせるのは絶対に嫌だ。
私はため息をついて、マスリーを手招きした。
「この間みたいなお化粧も良かったのだけど、今度はすごく濃いお化粧にしてもらってもいい?」
「濃いお化粧ですか?」
聞けば、ここの世界は彫が深いタイプの人間ばかりらしく、私みたいな地味な顔を派手にする技術はないようだ。
ラッキーな事に私は趣味でコスプレをしていた。地味な顔だけあって、どんな顔にでも違和感がないと評判だったのだ。
これを再現するのがいいだろう。
マナーをはずれない程度にがつんと濃くしよう。というか、この派手な衣装に耐えられる日本人はほとんどいないはずだ。
希少なその一人にミズキが入っているのは間違いないけれど。
私はマスリーに化粧道具を持ってきてもらい、二人で練習することにした。
久しぶりの事に、ちょっと楽しくなってきた。
「でも、その前にフィスラ様にお礼をしないとね。手伝ってもらえるかな」
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