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第24話 密談
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食事は個室だったので、少しほっとする。広めのテーブルの真ん中にはキャンドルが付いていてとっても可愛い。
「君の食事マナーを確認してやろう」
一気に緊張が走る。硬直する私に、フィスラは吹き出す。
「冗談だ。気を付けては貰いたいが、個室なのだし気楽にしてくれ。マナーに迷えば質問してもらって構わない。君に好き嫌いはあったか?」
「うーん、特に思いつくものはないですね」
「そうしたら、私のおすすめのコースで頼もう」
フィスラはさっと店員に指示すると、運ばれてきた食前酒を口にする。
さっと飲み干すと、ふうっと息をついた。
「良く飲みますね」
「君も飲むといい。ここは食事も美味しいが酒もいいものを出す」
「フィスラ様って酒飲みだったんですね」
貴族然としたフィスラの意外な姿が微笑ましい。
「……君の国では、ミズキのような女性は多いのか?」
言葉を選ぶように発せられた内容の理由は謎だったけれど、憮然としたフィスラの顔を見て今日のお出かけの理由を悟る。
「聖女さまとの個人授業で何かあったんですか?」
「彼女とずっと一緒に居ると非常に疲れる。貴族の女性は芯はしっかりしていることは多いし、世間知らずでわがままな事も多い。しかし、今まで感じた何よりも疲れる」
「聖女さまは自分に自信があるタイプでしたよね、綺麗だとそうなるのかな、と思いました」
「綺麗かもしれないが、疲れるのが先行して顔の良さが全くわからない」
「フィスラ様は自分より高位の女性があまりいなかったからかもしれませんねー」
「ミッシェ殿下は楽しそうだったな。ああいうタイプに振り回されるのが好きなのかもしれない。それとも何か嫌味を聞くのが楽しいタイプなのだろうか」
「殿下をそんな変な性癖持ちみたいに言わないでください」
「間違ってないだろう」
馬鹿にしたように笑うフィスラは絶対不敬だ。
ここが個室で良かった。
「ここの会話漏れたりしないですよね……」
「このキャンドルは魔導具で、盗聴防止となっている」
「うわー密談用! あやしい! 密会だ密会だ」
「子供みたいに騒ぐのではない」
そう言いつつも、フィスラは私の手にキャンドルを乗せてくれた、火が見えているのに熱くない。
仕組みがわからないけれど、凄い。
「日本にはこんなのなかったです。凄いなー」
「そうだ。凄いだろう」
深く頷くフィスラにピンとくる。
「……もしかしてフィスラ様が作ったんですか?」
「そうだ。ここのオーナーは私で、魔導具も私が作ったものを使用している」
「ちょっと規模が大きすぎて何の話だか分かりませんね」
「わかるだろう」
「貴族の遊びなのかな、的な」
「貴族といえど資産はあるだけいいからな。特に個人でも遊びたいならな」
「遊び……! いかがわしいやつですか」
私が疑わしい目で見ると、フィスラはふっと笑って私の髪を撫でた。
「そういう風に見えるか?」
「もっとおかたい人だと思ってました」
距離はすごく近いけれど、遊んでるイメージではなかった。
「君には何故か近くなってしまう。不思議だな」
私の髪を撫でながら本当に不思議そうにフィスラが言うので、私は自分が特別な存在かのように思えてしまう。
「特別な魅力でもあるんでしょうか」
誤魔化したくてふざけて言うと、フィスラは真面目な顔のまま頷いた。
「君は無魔力で、とても興味深い。そのせいかもしれないな」
「全然いいところじゃなかった!」
「でも、ツムギと居ると落ち着くのは間違いない。いい加減聖女とのやり取りに飽き飽きしていたので、今日はどうしてもゆっくりしたかったのだ」
フィスラの無理無理のお出かけの理由がわかった。
「私とお出かけしてて大丈夫なんですか?」
「今日は部下と行く市場調査だ」
きっぱりと嘘をつく。
その堂々とした姿に笑ってしまう。
「それなら仕方ありませんね」
「そうだ。城に居るとミッシェ殿下も驚くほどしつこい。聖女に努力するように言った方が建設的だ」
「そういう時は褒めて褒めて褒めてやる気を出させるんです!!」
「なんだその謎の確信めいた助言は」
「可愛い子は褒められなれているので、ちょっと褒めたぐらいではきっとやる気が出ないに違いありません」
「ツムギも大概偏見が凄いな」
「私は少し褒めてもらえればやる気が出るので、コスパがいいですよ」
「あんまりいい売り文句ではないなそれは」
「うーん。確かにそうかも……」
「ツムギには魅力がちゃんとあるだろう? しっかりしたまえ」
真面目な顔で褒められてしまい、私はなんて答えていいかわからなくなってしまった。
目の前にあるお酒をぐいっと飲む。
「いいところを教えてください」
「……ちょっと、今は思いつかない」
さっと目をそらされて、私はやっぱり面白くなって笑ってしまった。
フィスラのお店の食事は素晴らしく、高級店に相応しい味だった。デザートまでしっかり頂いてすっかりくつろいだ気持ちになる。
「これから何処に行く予定ですか?」
お酒は昼間だからか、食前酒以外は出てこなかった。
暖かい珈琲が出てきて嬉しい。紅茶ばっかりだと何となく思っていた。
「君もおなか一杯になったことだし、君の服を買いに行こう」
「……服はありますし、今いっぱい食べてしまったばっかりですよ!」
「パーティーでたくさん食べても大丈夫だな」
「わー確かに何もできないから食べてばっかりになりそう」
「私も付き合って食べよう」
「こうなったら二人で太りましょう」
楽しそうに笑うフィスラに、甘いものをたくさん与えて太らせてやろうとひそかに計画した。
「君の食事マナーを確認してやろう」
一気に緊張が走る。硬直する私に、フィスラは吹き出す。
「冗談だ。気を付けては貰いたいが、個室なのだし気楽にしてくれ。マナーに迷えば質問してもらって構わない。君に好き嫌いはあったか?」
「うーん、特に思いつくものはないですね」
「そうしたら、私のおすすめのコースで頼もう」
フィスラはさっと店員に指示すると、運ばれてきた食前酒を口にする。
さっと飲み干すと、ふうっと息をついた。
「良く飲みますね」
「君も飲むといい。ここは食事も美味しいが酒もいいものを出す」
「フィスラ様って酒飲みだったんですね」
貴族然としたフィスラの意外な姿が微笑ましい。
「……君の国では、ミズキのような女性は多いのか?」
言葉を選ぶように発せられた内容の理由は謎だったけれど、憮然としたフィスラの顔を見て今日のお出かけの理由を悟る。
「聖女さまとの個人授業で何かあったんですか?」
「彼女とずっと一緒に居ると非常に疲れる。貴族の女性は芯はしっかりしていることは多いし、世間知らずでわがままな事も多い。しかし、今まで感じた何よりも疲れる」
「聖女さまは自分に自信があるタイプでしたよね、綺麗だとそうなるのかな、と思いました」
「綺麗かもしれないが、疲れるのが先行して顔の良さが全くわからない」
「フィスラ様は自分より高位の女性があまりいなかったからかもしれませんねー」
「ミッシェ殿下は楽しそうだったな。ああいうタイプに振り回されるのが好きなのかもしれない。それとも何か嫌味を聞くのが楽しいタイプなのだろうか」
「殿下をそんな変な性癖持ちみたいに言わないでください」
「間違ってないだろう」
馬鹿にしたように笑うフィスラは絶対不敬だ。
ここが個室で良かった。
「ここの会話漏れたりしないですよね……」
「このキャンドルは魔導具で、盗聴防止となっている」
「うわー密談用! あやしい! 密会だ密会だ」
「子供みたいに騒ぐのではない」
そう言いつつも、フィスラは私の手にキャンドルを乗せてくれた、火が見えているのに熱くない。
仕組みがわからないけれど、凄い。
「日本にはこんなのなかったです。凄いなー」
「そうだ。凄いだろう」
深く頷くフィスラにピンとくる。
「……もしかしてフィスラ様が作ったんですか?」
「そうだ。ここのオーナーは私で、魔導具も私が作ったものを使用している」
「ちょっと規模が大きすぎて何の話だか分かりませんね」
「わかるだろう」
「貴族の遊びなのかな、的な」
「貴族といえど資産はあるだけいいからな。特に個人でも遊びたいならな」
「遊び……! いかがわしいやつですか」
私が疑わしい目で見ると、フィスラはふっと笑って私の髪を撫でた。
「そういう風に見えるか?」
「もっとおかたい人だと思ってました」
距離はすごく近いけれど、遊んでるイメージではなかった。
「君には何故か近くなってしまう。不思議だな」
私の髪を撫でながら本当に不思議そうにフィスラが言うので、私は自分が特別な存在かのように思えてしまう。
「特別な魅力でもあるんでしょうか」
誤魔化したくてふざけて言うと、フィスラは真面目な顔のまま頷いた。
「君は無魔力で、とても興味深い。そのせいかもしれないな」
「全然いいところじゃなかった!」
「でも、ツムギと居ると落ち着くのは間違いない。いい加減聖女とのやり取りに飽き飽きしていたので、今日はどうしてもゆっくりしたかったのだ」
フィスラの無理無理のお出かけの理由がわかった。
「私とお出かけしてて大丈夫なんですか?」
「今日は部下と行く市場調査だ」
きっぱりと嘘をつく。
その堂々とした姿に笑ってしまう。
「それなら仕方ありませんね」
「そうだ。城に居るとミッシェ殿下も驚くほどしつこい。聖女に努力するように言った方が建設的だ」
「そういう時は褒めて褒めて褒めてやる気を出させるんです!!」
「なんだその謎の確信めいた助言は」
「可愛い子は褒められなれているので、ちょっと褒めたぐらいではきっとやる気が出ないに違いありません」
「ツムギも大概偏見が凄いな」
「私は少し褒めてもらえればやる気が出るので、コスパがいいですよ」
「あんまりいい売り文句ではないなそれは」
「うーん。確かにそうかも……」
「ツムギには魅力がちゃんとあるだろう? しっかりしたまえ」
真面目な顔で褒められてしまい、私はなんて答えていいかわからなくなってしまった。
目の前にあるお酒をぐいっと飲む。
「いいところを教えてください」
「……ちょっと、今は思いつかない」
さっと目をそらされて、私はやっぱり面白くなって笑ってしまった。
フィスラのお店の食事は素晴らしく、高級店に相応しい味だった。デザートまでしっかり頂いてすっかりくつろいだ気持ちになる。
「これから何処に行く予定ですか?」
お酒は昼間だからか、食前酒以外は出てこなかった。
暖かい珈琲が出てきて嬉しい。紅茶ばっかりだと何となく思っていた。
「君もおなか一杯になったことだし、君の服を買いに行こう」
「……服はありますし、今いっぱい食べてしまったばっかりですよ!」
「パーティーでたくさん食べても大丈夫だな」
「わー確かに何もできないから食べてばっかりになりそう」
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