【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香

文字の大きさ
上 下
24 / 54

第24話 密談

しおりを挟む
 食事は個室だったので、少しほっとする。広めのテーブルの真ん中にはキャンドルが付いていてとっても可愛い。

「君の食事マナーを確認してやろう」

 一気に緊張が走る。硬直する私に、フィスラは吹き出す。

「冗談だ。気を付けては貰いたいが、個室なのだし気楽にしてくれ。マナーに迷えば質問してもらって構わない。君に好き嫌いはあったか?」

「うーん、特に思いつくものはないですね」

「そうしたら、私のおすすめのコースで頼もう」

 フィスラはさっと店員に指示すると、運ばれてきた食前酒を口にする。
 さっと飲み干すと、ふうっと息をついた。

「良く飲みますね」

「君も飲むといい。ここは食事も美味しいが酒もいいものを出す」

「フィスラ様って酒飲みだったんですね」

 貴族然としたフィスラの意外な姿が微笑ましい。

「……君の国では、ミズキのような女性は多いのか?」

 言葉を選ぶように発せられた内容の理由は謎だったけれど、憮然としたフィスラの顔を見て今日のお出かけの理由を悟る。

「聖女さまとの個人授業で何かあったんですか?」

「彼女とずっと一緒に居ると非常に疲れる。貴族の女性は芯はしっかりしていることは多いし、世間知らずでわがままな事も多い。しかし、今まで感じた何よりも疲れる」

「聖女さまは自分に自信があるタイプでしたよね、綺麗だとそうなるのかな、と思いました」

「綺麗かもしれないが、疲れるのが先行して顔の良さが全くわからない」

「フィスラ様は自分より高位の女性があまりいなかったからかもしれませんねー」

「ミッシェ殿下は楽しそうだったな。ああいうタイプに振り回されるのが好きなのかもしれない。それとも何か嫌味を聞くのが楽しいタイプなのだろうか」

「殿下をそんな変な性癖持ちみたいに言わないでください」

「間違ってないだろう」

 馬鹿にしたように笑うフィスラは絶対不敬だ。
 ここが個室で良かった。

「ここの会話漏れたりしないですよね……」

「このキャンドルは魔導具で、盗聴防止となっている」

「うわー密談用! あやしい! 密会だ密会だ」

「子供みたいに騒ぐのではない」

 そう言いつつも、フィスラは私の手にキャンドルを乗せてくれた、火が見えているのに熱くない。
 仕組みがわからないけれど、凄い。

「日本にはこんなのなかったです。凄いなー」

「そうだ。凄いだろう」

 深く頷くフィスラにピンとくる。

「……もしかしてフィスラ様が作ったんですか?」

「そうだ。ここのオーナーは私で、魔導具も私が作ったものを使用している」

「ちょっと規模が大きすぎて何の話だか分かりませんね」

「わかるだろう」

「貴族の遊びなのかな、的な」

「貴族といえど資産はあるだけいいからな。特に個人でも遊びたいならな」

「遊び……! いかがわしいやつですか」

 私が疑わしい目で見ると、フィスラはふっと笑って私の髪を撫でた。

「そういう風に見えるか?」

「もっとおかたい人だと思ってました」

 距離はすごく近いけれど、遊んでるイメージではなかった。

「君には何故か近くなってしまう。不思議だな」

 私の髪を撫でながら本当に不思議そうにフィスラが言うので、私は自分が特別な存在かのように思えてしまう。

「特別な魅力でもあるんでしょうか」

 誤魔化したくてふざけて言うと、フィスラは真面目な顔のまま頷いた。

「君は無魔力で、とても興味深い。そのせいかもしれないな」

「全然いいところじゃなかった!」

「でも、ツムギと居ると落ち着くのは間違いない。いい加減聖女とのやり取りに飽き飽きしていたので、今日はどうしてもゆっくりしたかったのだ」

 フィスラの無理無理のお出かけの理由がわかった。

「私とお出かけしてて大丈夫なんですか?」

「今日は部下と行く市場調査だ」

 きっぱりと嘘をつく。
 その堂々とした姿に笑ってしまう。

「それなら仕方ありませんね」

「そうだ。城に居るとミッシェ殿下も驚くほどしつこい。聖女に努力するように言った方が建設的だ」

「そういう時は褒めて褒めて褒めてやる気を出させるんです!!」

「なんだその謎の確信めいた助言は」

「可愛い子は褒められなれているので、ちょっと褒めたぐらいではきっとやる気が出ないに違いありません」

「ツムギも大概偏見が凄いな」

「私は少し褒めてもらえればやる気が出るので、コスパがいいですよ」

「あんまりいい売り文句ではないなそれは」

「うーん。確かにそうかも……」

「ツムギには魅力がちゃんとあるだろう? しっかりしたまえ」

 真面目な顔で褒められてしまい、私はなんて答えていいかわからなくなってしまった。

 目の前にあるお酒をぐいっと飲む。

「いいところを教えてください」

「……ちょっと、今は思いつかない」

 さっと目をそらされて、私はやっぱり面白くなって笑ってしまった。

 フィスラのお店の食事は素晴らしく、高級店に相応しい味だった。デザートまでしっかり頂いてすっかりくつろいだ気持ちになる。

「これから何処に行く予定ですか?」

 お酒は昼間だからか、食前酒以外は出てこなかった。
 暖かい珈琲が出てきて嬉しい。紅茶ばっかりだと何となく思っていた。

「君もおなか一杯になったことだし、君の服を買いに行こう」

「……服はありますし、今いっぱい食べてしまったばっかりですよ!」

「パーティーでたくさん食べても大丈夫だな」

「わー確かに何もできないから食べてばっかりになりそう」

「私も付き合って食べよう」

「こうなったら二人で太りましょう」

 楽しそうに笑うフィスラに、甘いものをたくさん与えて太らせてやろうとひそかに計画した。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

恋愛は見ているだけで十分です

みん
恋愛
孤児院育ちのナディアは、前世の記憶を持っていた。その為、今世では恋愛なんてしない!自由に生きる!と、自立した女魔道士の路を歩む為に頑張っている。 そんな日々を送っていたが、また、前世と同じような事が繰り返されそうになり……。 色んな意味で、“じゃない方”なお話です。 “恋愛は、見ているだけで十分よ”と思うナディア。“勿論、溺愛なんて要りませんよ?” 今世のナディアは、一体どうなる?? 第一章は、ナディアの前世の話で、少しシリアスになります。 ❋相変わらずの、ゆるふわ設定です。 ❋主人公以外の視点もあります。 ❋気を付けてはいますが、誤字脱字が多いかもしれません。すみません。 ❋メンタルも、相変わらず豆腐並みなので、緩い気持ちで読んでいただけると幸いです。

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

波間柏
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~

白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。 父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。 財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。 それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。 「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」 覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

異世界でも、とりあえず生きておく

波間柏
恋愛
 大学の図書室で友達を待っていたのにどうやら寝てしまったようで。目を覚ました時、何故か私は戦いの渦中に座っていた。 いや、何処よここは? どうした私?

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

塔の魔王は小さな花を慈しむ

トウリン
恋愛
セイラム国第一王子アストールは、その強大過ぎる魔力故に人と交わることができず、辺境の塔に身を置いていた。彼の力を恐れるあまりに、使用人はいつかない。いい加減、数えるのにも飽きた頃、彼の前に連れてこられたのは、まだ幼いフラウという名の少女だった。彼女もまた、ある理由から孤独の中に身を置いていて…… 己の不幸に囚われていた傲慢な王子と人の温もりを知らない無垢な少女は、互いにかけがえのない相手となっていく。

美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました

葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。 前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ! だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます! 「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」 ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?  私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー! ※約六万字で完結するので、長編というより中編です。 ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...