【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香

文字の大きさ
上 下
23 / 54

第23話 市場調査

しおりを挟む
「え? 今なんて言いましたか?」

「買い物に出かけようと言ったのだ。君は目だけじゃなくて耳も弱いのか?」

 お堅いフィスラからそんなお誘いが来るとは思っていなかった私は、目を瞬かせた。

「大分失礼な言い方でしたけど、お買い物のお誘いでしたか?」

「そうだ。この程度もわからないとは庶民というのはつらいものだな……かわいそうに」

「また失礼なこと言いましたね。ええと、何か買ってくれるんですか?」

「君は何か欲しいものがあるのか?」

 何故か悩むような顔で言われれば、首を傾げてしまう。

 引越し中ではあるけれど、もともと部屋にはフィスラが手配した家具が置いてあり、マスリーがどこからか持ってきた敷物をひいてくれた。

 ベッドは安定で豪華だし、リネン類はホテルのように日々交換されている。

「確かに欲しいものと聞かれれば、あんまりないかもしれませんね。ちょっと部屋が殺風景な気がしなくもないですけど。あ、本が売っていればほしいです」

「本は図書館にあるものではいけないのか? メイドに持ってきてもらえると思うが」

「ええと、もうちょっと俗物的なものが欲しいというか、恋愛ものとか読みたいなーなんて」

 私が言い淀みながら伝えると、フィスラは鼻で笑った。

「恋愛もの、ね」

「楽しいんですよ本当ですよ! フィスラ様は恋愛ものなんて読まないと思いますけど……」

 現実が小説のようにもてそうだ。私は本に夢を見ているのだほおっておいてほしい。

「人の趣味にはケチをつけない主義だ。問題ない」

「さっきの笑い方は絶対ケチつけてました!」

 私が反論するとフィスラは大きく笑った。

「まあ、君は文字も読める事だし、本屋に連れ行ってやろう。好きなものを買うといい」

「わー嬉しい! 庭園で活字読みながら紅茶とか夢のような生活が……! 楽しみにしてます」

「ツムギはこれから仕事が始まるのを忘れないように」

 浮かれていたら、注意されてしまった。も
 ちろん忘れてはいないけれど、この間の夜の散歩も良かった。

「そもそもここに住んでいる人は、お買いものはどうしてるんでしょうか」

「定例で商品を持ってくる商会があるのでそこから購入するか、城下町まで下りて買い物に行くかのどちらかだ。城に住んでいないものも多数いるので、そういう者たちは普段城下町に住んでいる。治安も良く物も悪くないので、買い物ならここに来るのがいいだろう。それ以上進むと治安が悪い部分もあるので注意するように」

 意外と注意事項が優しい。

「わかりました。フィスラ様は何が買いたいんですか?」

「……市場調査だ」

「なんだか曖昧な理由ですね……怪しい」

「……今日は市場調査でどうしても城下町に行きたい」

 フィスラからは何か思いつめた気迫を感じたので、私は良くわからないまま素直に頷いた。

 そのまま塔の前で着替えて待ち合わせをしたけれど、マスリーから勧められたのは動きにくそうなドレスだった。
 フィスラも正装ではないだろうが、あからさまに貴族的な服を着ていた。

「なんだかお忍び感がない服装ですね……」

「何故そんな発想になったのだ。お忍びだといつそんな話をした」

「なんていうか、こういう時ってラフな格好をしてお忍びで城下町を探索! というイメージだったんでびっくりしました」

「こちらの方がびっくりだ。これから買い物をするのになぜ身分を隠す。身分を隠すとそもそも入れない店だってあるだろう?」

「一見さんお断りのお店があるだなんて、私ひとりじゃ買い物行けなくないですか?」

「市場もやっているので安心するといい。私が見たい魔導具に関しては、ある程度の身分がないと見れないが、君が正式に入団すれば証明書を渡すので問題ない」

「そんな高級店にひとりで行くのはこわいです……」

「その時は私に相談してくれれば付き合おう」

 それはそれでこわいな、と思ったけれど口には出さずに馬車に乗り込む。
 馬車は申請すれば誰でも使えるらしい。有り難い制度だ。

「……平民が使える馬車は乗り心地が良くないので、どこかに行く際には私か他の誰かを呼ぶように」

 気まずそうに告げられた内容は世知辛い。でもあからさまにいい布を使っている内装は、それはそうだよなという感じだ。
 平民が使って汚したりすれば、弁償が難しいに違いない。

 馬車は優雅に門を抜け、すぐに喧騒があらわれた。

 城の様子から予想はしていたが、この国は裕福な部類のようだ。もちろん日本のようにビルが建っていたりなんて事はないが、城を出てすぐは大きな戸建てが並んでいる。

「ここってやっぱり貴族の人が住んでるんですか?」

「そうだ。よくわかるな」

「すごい広さですし、なんか定番かなあと」

「ツムギの国もそうだったのか?」

「日本に貴族はいません。……召喚される聖女っていつも地球からなんですか?」

「前にも言ったかもしれないが、聖女に対する資料は極端に少ないんだ。だが、たぶん決まっていない」

「不思議ですねー召喚って」

「そろそろ着くぞ」

 馬車が止まったのは大きなお店のすぐ前だった。フィスラは先に降りて、エスコートしてくれる。階段なんて一人で降りられるのに、手をとるのが照れ臭い。

 貴族マナーは自分に自信がないと、申し訳なくなるばかりだと思う。

「まずは食事にしよう。お嬢様」

 私の気持ちを読んだかのように、綺麗な笑顔でフィスラは私の手を握った。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

恋愛は見ているだけで十分です

みん
恋愛
孤児院育ちのナディアは、前世の記憶を持っていた。その為、今世では恋愛なんてしない!自由に生きる!と、自立した女魔道士の路を歩む為に頑張っている。 そんな日々を送っていたが、また、前世と同じような事が繰り返されそうになり……。 色んな意味で、“じゃない方”なお話です。 “恋愛は、見ているだけで十分よ”と思うナディア。“勿論、溺愛なんて要りませんよ?” 今世のナディアは、一体どうなる?? 第一章は、ナディアの前世の話で、少しシリアスになります。 ❋相変わらずの、ゆるふわ設定です。 ❋主人公以外の視点もあります。 ❋気を付けてはいますが、誤字脱字が多いかもしれません。すみません。 ❋メンタルも、相変わらず豆腐並みなので、緩い気持ちで読んでいただけると幸いです。

出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~

白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。 父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。 財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。 それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。 「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」 覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

波間柏
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

異世界でも、とりあえず生きておく

波間柏
恋愛
 大学の図書室で友達を待っていたのにどうやら寝てしまったようで。目を覚ました時、何故か私は戦いの渦中に座っていた。 いや、何処よここは? どうした私?

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

嫌われ聖女は魔獣が跋扈する辺境伯領に押し付けられる

kae
恋愛
 魔獣の森と国境の境目の辺境領地の領主、シリウス・レングナーの元に、ある日結婚を断ったはずの聖女サラが、隣の領からやってきた。  これまでの縁談で紹介されたのは、魔獣から国家を守る事でもらえる報奨金だけが目当ての女ばかりだった。  ましてや長年仲が悪いザカリアス伯爵が紹介する女なんて、スパイに決まっている。  しかし豪華な馬車でやってきたのだろうという予想を裏切り、聖女サラは魔物の跋扈する領地を、ただ一人で歩いてきた様子。  「チッ。お前のようなヤツは、嫌いだ。見ていてイライラする」  追い出そうとするシリウスに、サラは必死になって頭を下げる「私をレングナー伯爵様のところで、兵士として雇っていただけないでしょうか!?」  ザカリアス領に戻れないと言うサラを仕方なく雇って一月ほどしたある日、シリウスは休暇のはずのサラが、たった一人で、肩で息をしながら魔獣の浄化をしている姿を見てしまう。

魔力を持たずに生まれてきた私が帝国一の魔法使いと婚約することになりました

ふうか
恋愛
レティシアは魔力を持つことが当たり前の世界でただ一人、魔力を持たずに生まれてきた公爵令嬢である。 そのために、家族からは冷遇されて育った彼女は10歳のデビュタントで一人の少年と出会った。その少年の名はイサイアス。皇弟の息子で、四大公爵の一つアルハイザー公爵家の嫡男である。そしてイサイアスは周囲に影響を与えてしまうほど多くの魔力を持つ少年だった。 イサイアスとの出会いが少しづつレティシアの運命を変え始める。 これは魔力がないせいで冷遇されて来た少女が幸せを掴むための物語である。 ※1章完結※ 追記 2020.09.30 2章結婚編を加筆修正しながら更新していきます。

処理中です...