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第15話 聖女様
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「それで、王子様はどういったご用件なんですか?」
「王子様ではなくミッシェ殿下と呼ぶように。私の事は今のままで大丈夫だ。聖女の事も、ミズキちゃんではなく聖女様と呼ぶのがいいだろう」
「わかりました。気をつけます」
慣れない呼び方は難しい。不敬への罰が非常に重そうなので、出来るだけ黙っておいた方がいいかもしれない。
特に、ミズキとの上下関係を意識するのは、気をつけなければいけない。
「夜に伝令が来ただけなので、詳細はわからぬ。しかし、聖女に関することであるのは確かだろう。聖女と一緒に、という事だった」
「聖女様と同郷だから、聞きたいことがあるのでしょうか。もともと知り合いではなく話したことはないですが。それでも日本人だし聖女様の生活は大丈夫か気になっていたので、会えるのは良かったです」
「会えていいものなのかはわからないが、今日ツムギを雇ったことは伝えるのでそのつもりで」
「報告が居るんですね。具体的な雇用条件とかって教えて貰ったりできますか? 何か契約書とか出るんでしょうか」
日本人としてブラック企業に勤めていただけあって、私の許容範囲は広いと思う。
更にここでフィスラの庇護下にあると周りに知らしめてもらえるなら、それだけでかなりの好条件である。
「契約書は今日作成しよう。その時に雇用条件も相談だ。私は案外お金持ちなので、そこまで心配はいらないだろう」
「案外って嘘ですよね」
「確かにそうだな。大金持ちの間違いだ」
なんだかんだフィスラとは雑談で盛り上がりながら、呼ばれている部屋に向かった。
ミッシェの指定した部屋は、重々しい扉に、それを守る様に騎士が二人並んでいる。当然のように帯剣をしており、威圧感がありこわい。
私は知らずフィスラのローブを掴んでしまう。
「どうした?」
「ああ……すいません。帯剣している方に馴染みがなくて」
「魔法はない世界だと聞いていたが、剣はないのか?」
「剣自体はあると思いますが、剣を間近で見た事ないです」
「召喚の際に過去の文献は見たが、だいぶ違うのだな。かなり断片的な資料しかなかったから、またその内聞かせてくれ」
「はい。是非」
日本にも興味があるようだ。色々細かく聞かれてもわからない事が多そうで申し訳ないけれど、少しでも役に立てばいいと思う。
フィスラが合図を送ると、騎士がさっと扉を開いてくれた。
扉の中は、思ったよりは広くなく、それでも豪華さが段違いの部屋だった。
ローテーブルをはさんで、優雅な形の三人掛けくらいのソファが向かい合っている。
テーブルセットがあるだけのこの部屋は、応接室的な役割なのだろうか。
「よく来てくれたな。フィスラ師団長とツムギ」
仰々しい口調で、テーブルの前に居たミッシェが出迎えてくれる。
テーブルにはティーセットに軽食が用意されており、ちょっとしたティーパーティーのようだ。更に小さめの花器に白い可憐な花が飾ってあり、とても華やかな香りが部屋いっぱいに広がっている。
ミッシェの隣にはミズキが並んでいた。相変わらずの美少女だ。
濃い色のレースがあしらわれた青のドレスを着ていて、それが違和感なく似合っている。
サラサラの黒髪は横で三つ編みされていて、生花も一緒に編みこまれている。とても清楚な装いだ。
聖女と言われて、まったく違和感のない様子に、私は圧倒される。
ここの顔面偏差値は、高すぎる。
ミッシェは金糸をふんだんに使った白の衣装に、これまた豪華なマントをしている。
フィスラも実用性の全くなさそうな、黒地に同じ黒い糸でかなり凝った刺繍がされたローブを着ている。どちらも一目で高そうで、それに全く負けていない顔面をしている。
私は薄い桃色のドレスで、似合っていなくもないと思うけれどそれだけだ。
特徴のあまりない薄い顔なので、日本では濃い化粧をすれば映えると言われていたけど、今日は薄い顔に薄い化粧だ。
これは戦えない。
私の戦意喪失ぶりには誰も気にした様子もなく、ミッシェは椅子に座るように促した。
「ゆっくりお茶をしながら、話をしようじゃないか。今日は甘いものをたくさん用意したので、気に入るといいのだが」
「そういった事は気にしないでくれ。さあ、席に着いたら早く本題に入ろう。何の用だ」
ミッシェは気遣いらしきものを無碍にされて、不快そうに顔を顰める。
「お招きいただき、ありがとうございます」
上司の言動に引っ張られるのもまずい平民は、お礼はするけど出来るだけ黙って過ごすことを決意した。
「それで、あなたはいつまでこの王城に居るつもりなの? ツムギ」
「王子様ではなくミッシェ殿下と呼ぶように。私の事は今のままで大丈夫だ。聖女の事も、ミズキちゃんではなく聖女様と呼ぶのがいいだろう」
「わかりました。気をつけます」
慣れない呼び方は難しい。不敬への罰が非常に重そうなので、出来るだけ黙っておいた方がいいかもしれない。
特に、ミズキとの上下関係を意識するのは、気をつけなければいけない。
「夜に伝令が来ただけなので、詳細はわからぬ。しかし、聖女に関することであるのは確かだろう。聖女と一緒に、という事だった」
「聖女様と同郷だから、聞きたいことがあるのでしょうか。もともと知り合いではなく話したことはないですが。それでも日本人だし聖女様の生活は大丈夫か気になっていたので、会えるのは良かったです」
「会えていいものなのかはわからないが、今日ツムギを雇ったことは伝えるのでそのつもりで」
「報告が居るんですね。具体的な雇用条件とかって教えて貰ったりできますか? 何か契約書とか出るんでしょうか」
日本人としてブラック企業に勤めていただけあって、私の許容範囲は広いと思う。
更にここでフィスラの庇護下にあると周りに知らしめてもらえるなら、それだけでかなりの好条件である。
「契約書は今日作成しよう。その時に雇用条件も相談だ。私は案外お金持ちなので、そこまで心配はいらないだろう」
「案外って嘘ですよね」
「確かにそうだな。大金持ちの間違いだ」
なんだかんだフィスラとは雑談で盛り上がりながら、呼ばれている部屋に向かった。
ミッシェの指定した部屋は、重々しい扉に、それを守る様に騎士が二人並んでいる。当然のように帯剣をしており、威圧感がありこわい。
私は知らずフィスラのローブを掴んでしまう。
「どうした?」
「ああ……すいません。帯剣している方に馴染みがなくて」
「魔法はない世界だと聞いていたが、剣はないのか?」
「剣自体はあると思いますが、剣を間近で見た事ないです」
「召喚の際に過去の文献は見たが、だいぶ違うのだな。かなり断片的な資料しかなかったから、またその内聞かせてくれ」
「はい。是非」
日本にも興味があるようだ。色々細かく聞かれてもわからない事が多そうで申し訳ないけれど、少しでも役に立てばいいと思う。
フィスラが合図を送ると、騎士がさっと扉を開いてくれた。
扉の中は、思ったよりは広くなく、それでも豪華さが段違いの部屋だった。
ローテーブルをはさんで、優雅な形の三人掛けくらいのソファが向かい合っている。
テーブルセットがあるだけのこの部屋は、応接室的な役割なのだろうか。
「よく来てくれたな。フィスラ師団長とツムギ」
仰々しい口調で、テーブルの前に居たミッシェが出迎えてくれる。
テーブルにはティーセットに軽食が用意されており、ちょっとしたティーパーティーのようだ。更に小さめの花器に白い可憐な花が飾ってあり、とても華やかな香りが部屋いっぱいに広がっている。
ミッシェの隣にはミズキが並んでいた。相変わらずの美少女だ。
濃い色のレースがあしらわれた青のドレスを着ていて、それが違和感なく似合っている。
サラサラの黒髪は横で三つ編みされていて、生花も一緒に編みこまれている。とても清楚な装いだ。
聖女と言われて、まったく違和感のない様子に、私は圧倒される。
ここの顔面偏差値は、高すぎる。
ミッシェは金糸をふんだんに使った白の衣装に、これまた豪華なマントをしている。
フィスラも実用性の全くなさそうな、黒地に同じ黒い糸でかなり凝った刺繍がされたローブを着ている。どちらも一目で高そうで、それに全く負けていない顔面をしている。
私は薄い桃色のドレスで、似合っていなくもないと思うけれどそれだけだ。
特徴のあまりない薄い顔なので、日本では濃い化粧をすれば映えると言われていたけど、今日は薄い顔に薄い化粧だ。
これは戦えない。
私の戦意喪失ぶりには誰も気にした様子もなく、ミッシェは椅子に座るように促した。
「ゆっくりお茶をしながら、話をしようじゃないか。今日は甘いものをたくさん用意したので、気に入るといいのだが」
「そういった事は気にしないでくれ。さあ、席に着いたら早く本題に入ろう。何の用だ」
ミッシェは気遣いらしきものを無碍にされて、不快そうに顔を顰める。
「お招きいただき、ありがとうございます」
上司の言動に引っ張られるのもまずい平民は、お礼はするけど出来るだけ黙って過ごすことを決意した。
「それで、あなたはいつまでこの王城に居るつもりなの? ツムギ」
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