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第14話 近すぎる距離と平民
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「今日は残念ながら、ミッシェ殿下がお呼びだ。それで、貴重な研究時間を割かなければいけないので、朝から来たというわけだ。……無能野郎は何故か二人で来てほしいということだから、本当に仕方がないが食事後は彼の誘いに行くしかない」
「仮にも王子様に対してそんなすらすら悪口が出てくるって大丈夫ですか」
「今まで言う相手が居なかったから特に口に出したことはなかったが、確かにツムギが居ると止まらないレベルで出てくるな。何かの呪いだろうか」
「元の性格が悪かったんじゃないですかね……」
私の素直な感想を、フィスラは笑い飛ばした。
「面白いことを言うな! ツムギはなかなか一緒に居ると飽きないな。モルモットとしても素晴らしそうだし」
「モルモットについては、虐待のような言いようだったのに」
「新しい言葉を覚えたら使いたい。可愛い子供の様だろう」
「全くそうは思いません。……あと、私の部屋は客室だとはいえ、男性が勝手に出入りしていい場所じゃない気がするんですがどうでしょうか。こちらの貴族の方は、気にしないのでしょうか」
「気にするか気にしないでいえば、貴族のマナーとしては全く駄目だな」
「それなら」
「ただし、君は今のままでは平民なので、特に問題にはならない」
「えええ。平民ってかわいそうすぎる立場……」
フィスラはさっと私の方に身体を寄せてほほ笑んだ。そして、芝居がかった仕草で肩を撫で私の顎を掴んだ。
急な距離の詰め方に、私ははっきりと動揺してしまう。
顔がかっと赤くなり、心臓が早鐘を打つ。
何といっても、性格は腐っているが顔は今まで見た事がないぐらいに素晴らしいのだ。
近くで見ても、何の欠点も見つけられない。
それどころか、クマがで出来ていてお疲れ肌なのに毛穴が見当たらない。自分の寝起きでがさがさの肌の事を思い出し、今度は青くなった。
あわあわしていると、ぐっと顎を持った手に力が入った。
「この距離で考え事か?」
息がかかりそうだ。
私は寝起きだし歯磨きもしていない。恐ろしい事実を思い出してしまった。
驚くほど近い距離の顔に、自分の欠点ばかりが思い出されてくる。
格好良すぎる。
もう何もかもをなかったことにしたくて、ぎゅっと目をつむる。
「やめてください」
「平民の君には、残念ながらこういう拒否権もない」
「ひー! フィスラ様はよりどりみどりなので、私みたいな喪女に手を出すのはやめてくださいー!」
顔を守る様に両手をクロスすると、ふっと笑った気配がした。目を開けると、いたずらっぽく笑っている。
全然イメージじゃない顔に、再びどきりとする。
「冗談だ」
「ええええ。どうして朝からこんな激しい冗談を……」
「立場をわからせてやろうかと思ってな。貴族に対しての平民は圧倒的に弱者だ。気をつけろ。特に外野が居る時は、どうにもならない場合がある」
これはもしかして、フィスラなりの親切なのだろうか。
まっすぐにこちらを見つめる瞳には、やはり心配が見える気がして、私は素直に頷いた。
ミッシェと会う際はかなり気をつけなければならないという事だ。
「わかりました気をつけます。……でも、これってどちらかといえばご褒美では?」
「これがご褒美になるとは、覚えておこう」
ふふん、と笑ってフィスラは立ち上がった。
私ははっきりと失言を悟った。
「ところで、喪女というのはなんだ?」
更に痛いところをついてくるフィスラに、非常に言いたくないけれど平民は素直に教えるしかない。
「……もてたことがない女の俗称です」
フィスラは吹き出し、そのままくつくつと笑いながら部屋を出て行った。
悔しい。
フィスラが出て行ってすぐに、メイドのマスリーが入ってくる。
私は平民ができるせめてもの抵抗として、ゆっくり着替えることにした。
「仮にも王子様に対してそんなすらすら悪口が出てくるって大丈夫ですか」
「今まで言う相手が居なかったから特に口に出したことはなかったが、確かにツムギが居ると止まらないレベルで出てくるな。何かの呪いだろうか」
「元の性格が悪かったんじゃないですかね……」
私の素直な感想を、フィスラは笑い飛ばした。
「面白いことを言うな! ツムギはなかなか一緒に居ると飽きないな。モルモットとしても素晴らしそうだし」
「モルモットについては、虐待のような言いようだったのに」
「新しい言葉を覚えたら使いたい。可愛い子供の様だろう」
「全くそうは思いません。……あと、私の部屋は客室だとはいえ、男性が勝手に出入りしていい場所じゃない気がするんですがどうでしょうか。こちらの貴族の方は、気にしないのでしょうか」
「気にするか気にしないでいえば、貴族のマナーとしては全く駄目だな」
「それなら」
「ただし、君は今のままでは平民なので、特に問題にはならない」
「えええ。平民ってかわいそうすぎる立場……」
フィスラはさっと私の方に身体を寄せてほほ笑んだ。そして、芝居がかった仕草で肩を撫で私の顎を掴んだ。
急な距離の詰め方に、私ははっきりと動揺してしまう。
顔がかっと赤くなり、心臓が早鐘を打つ。
何といっても、性格は腐っているが顔は今まで見た事がないぐらいに素晴らしいのだ。
近くで見ても、何の欠点も見つけられない。
それどころか、クマがで出来ていてお疲れ肌なのに毛穴が見当たらない。自分の寝起きでがさがさの肌の事を思い出し、今度は青くなった。
あわあわしていると、ぐっと顎を持った手に力が入った。
「この距離で考え事か?」
息がかかりそうだ。
私は寝起きだし歯磨きもしていない。恐ろしい事実を思い出してしまった。
驚くほど近い距離の顔に、自分の欠点ばかりが思い出されてくる。
格好良すぎる。
もう何もかもをなかったことにしたくて、ぎゅっと目をつむる。
「やめてください」
「平民の君には、残念ながらこういう拒否権もない」
「ひー! フィスラ様はよりどりみどりなので、私みたいな喪女に手を出すのはやめてくださいー!」
顔を守る様に両手をクロスすると、ふっと笑った気配がした。目を開けると、いたずらっぽく笑っている。
全然イメージじゃない顔に、再びどきりとする。
「冗談だ」
「ええええ。どうして朝からこんな激しい冗談を……」
「立場をわからせてやろうかと思ってな。貴族に対しての平民は圧倒的に弱者だ。気をつけろ。特に外野が居る時は、どうにもならない場合がある」
これはもしかして、フィスラなりの親切なのだろうか。
まっすぐにこちらを見つめる瞳には、やはり心配が見える気がして、私は素直に頷いた。
ミッシェと会う際はかなり気をつけなければならないという事だ。
「わかりました気をつけます。……でも、これってどちらかといえばご褒美では?」
「これがご褒美になるとは、覚えておこう」
ふふん、と笑ってフィスラは立ち上がった。
私ははっきりと失言を悟った。
「ところで、喪女というのはなんだ?」
更に痛いところをついてくるフィスラに、非常に言いたくないけれど平民は素直に教えるしかない。
「……もてたことがない女の俗称です」
フィスラは吹き出し、そのままくつくつと笑いながら部屋を出て行った。
悔しい。
フィスラが出て行ってすぐに、メイドのマスリーが入ってくる。
私は平民ができるせめてもの抵抗として、ゆっくり着替えることにした。
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