【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香

文字の大きさ
上 下
12 / 54

第12話 夜の散歩

しおりを挟む

 マスリーにも迷惑をかけてしまった事に悲しくなる。マスリーは慌てたように両手を振った。

「いえいえ。出てはいけないなんて事ありませんよ。でも王城は広いですし、今は混乱しているところもあるので不快な思いをさせたのでは、と」

「私は大丈夫だけど、混乱って?」

「そうです。聖女様が召喚されて、ツムギ様の立場がはっきりしていないので皆がどういう風に接していいかわからないというか……」

 言葉を選んで言ってくれるマスリーは優しい。

 多分、一緒に召喚されて邪魔者扱いなのだろう。昨日の今日で、すでに王城全体がそういう雰囲気になっているとは思わなかったけれど。

 フィスラは普通だったし。彼とマスリーが特別だったのだと、今更ながらに思い知る。

「マスリーありがとう。私は本当に大丈夫だったから」

「ツムギ様……。私、お茶を用意してきますね!」

 気にしてないと言うように笑いかけると、マスリーは眉を下げて笑った。手をぎゅっと握って、目線を合わせて笑いかけてくれた。
 その優しさに、私もやっと笑い返すことができた。

 マスリーは私が立て直したのを見ると、すぐにお茶を用意してくれた。
 暖かいお茶が美味しい。
 いい香りが広がる紅茶は、甘くて心が落ち着く。

「お砂糖たっぷりだね……美味しい」

「ツムギ様はお疲れそうだったので、勝手に、ですけど。甘いもの取ると落ち着きますよね」

「うん。すんごく落ち着いたよ。やっぱりちょっとまいっちゃってたところもあったから」

「……私が言うのも微妙だと思うんですけど、聖女召喚っていう三百年ぶりの一大イベントで、凄くピリピリしていたんです。それで、聖女様とツムギさまが召喚されたことで混乱があったんです。更に、コノート師団長はその事に言及していないですし、それなのにツムギ様の方を大事に扱っているように見えて……」

 申し訳なさそうに、マスリーが教えてくれる。フィスラの態度は、やっぱり少し一般的ではないようだ。ただ、私が気に入っているからとかではない。

 聖女そのものよりも、自分の興味の方に引っ張られているせいだろう。

「確かに、ピリピリしていたところに二人いたら混乱しますよね……」

「そうなんです。でも、私はツムギ様の事とても好きですし、皆もそのうち慣れると思うので!」

 ぐぐぐっと力を込めて力説される。彼女の優しさが嬉しい。私も、すっかりマスリーの事が大好きだ。

「私、今日やる事がなくて困っていたの。良かったら、一緒にお茶してくれないかな」

 メイドという立場的にどうか心配だったけれど、マスリーは嬉しそうに頷いてくれた。

 マスリーはその後も予定がない私に気遣って、王城を案内してくれたりした。
 周りの視線は気になったものの、数は少ないが挨拶をしてくれる人も居て全員が私の存在を疎んでいるわけでもない事がわかって、ほっとした。

 王城は広大で、歩き回って疲れた私はお昼寝までしてしまい、あっという間に夜になった。

「いい風だなあ」

 夜になって、マスリーから日中案内してもらった庭園に一人で出てきた。夜でも見張りの人は居るし、王城自体は誰でも入れるところではないので安全だ。

 何というか、一人で星を見る気分だったのだ。昨日部屋に一人で、静かすぎる事に悲しくなってしまったのもある。

 庭園にあるベンチの一つに座る。
 近くにはバラがたくさん咲き誇っていて、とてもいい匂いがする。

 どういう仕組みかあたりは薄ぼんやり明るく、幻想的だ。

 薔薇の香りにはリラックス効果があると見た事がある。
 目をつむってその匂いを嗅いでいると、確かに心が穏やかになるような気がする。

 上を見ると、驚くほどにはっきりと満天の星が見えた。

「綺麗……。日本では、星なんてしばらく見た事なかったな……」

 キラキラと光る星はたくさんで、目の前に広がる雄大な光景に目を奪われる。
 広がる空に寂しい気持ちになってしまった私は、気持ちを切り替えようとマスリーが用意してくれたバスケットを開けた。

「わー可愛い」

 中には水筒に入ったお茶と、可愛くアイシングされたクッキーが入っていた。誰が作ったのだろう、リボンのついた猫の形のクッキーに自然と笑みがこぼれる。

「ここの世界にも、猫がいるんだなー。そのうち飼いたいな」

 誰もいなくても、猫が居ればそれで大丈夫かもしれない。

 なんとなく齧る気になれなくて、クッキーを持ったまま、星を見ながらお茶を飲んだ。
 寒くないけれど、こういう時にあったかいのは何だか嬉しい。

「こんな所でなにをしているんだ君は」

 呆れたような声が聞こえて、そちらに目を向けるとこんな時間なのにかっつりと着込んだ格好をしたフィスラが立っていた。

「え? フィスラ様何をなさっているんですか?」
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

恋愛は見ているだけで十分です

みん
恋愛
孤児院育ちのナディアは、前世の記憶を持っていた。その為、今世では恋愛なんてしない!自由に生きる!と、自立した女魔道士の路を歩む為に頑張っている。 そんな日々を送っていたが、また、前世と同じような事が繰り返されそうになり……。 色んな意味で、“じゃない方”なお話です。 “恋愛は、見ているだけで十分よ”と思うナディア。“勿論、溺愛なんて要りませんよ?” 今世のナディアは、一体どうなる?? 第一章は、ナディアの前世の話で、少しシリアスになります。 ❋相変わらずの、ゆるふわ設定です。 ❋主人公以外の視点もあります。 ❋気を付けてはいますが、誤字脱字が多いかもしれません。すみません。 ❋メンタルも、相変わらず豆腐並みなので、緩い気持ちで読んでいただけると幸いです。

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

波間柏
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~

白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。 父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。 財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。 それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。 「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」 覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

異世界でも、とりあえず生きておく

波間柏
恋愛
 大学の図書室で友達を待っていたのにどうやら寝てしまったようで。目を覚ました時、何故か私は戦いの渦中に座っていた。 いや、何処よここは? どうした私?

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

塔の魔王は小さな花を慈しむ

トウリン
恋愛
セイラム国第一王子アストールは、その強大過ぎる魔力故に人と交わることができず、辺境の塔に身を置いていた。彼の力を恐れるあまりに、使用人はいつかない。いい加減、数えるのにも飽きた頃、彼の前に連れてこられたのは、まだ幼いフラウという名の少女だった。彼女もまた、ある理由から孤独の中に身を置いていて…… 己の不幸に囚われていた傲慢な王子と人の温もりを知らない無垢な少女は、互いにかけがえのない相手となっていく。

美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました

葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。 前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ! だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます! 「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」 ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?  私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー! ※約六万字で完結するので、長編というより中編です。 ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...