10 / 54
第10話 世知辛いポーション事情
しおりを挟む
抗議は無視してじっと顔を見る。
疲れが滲む顔だ。
研究用の実験はともかく、睡眠時間を削って眼鏡を作ってくれたなんて、優しいな。
冷たい感じで口も悪いけれど、いい人だ。
少なくとも、私には優しい。
「ポーションも使ってみよう。ポーションとは魔力を回復するもので、とても貴重なものだ」
「え? そうなんですか?」
ポーションと言えば、冒険中に魔力が切れたらすぐさま飲むアイテムというイメージで、希少性について感じたことはなかった。
「そうだ。心して飲むように」
「なんか素材が高かったりとかするんですか?」
「素材自体は特に珍しいものではないな。液を作るのも、まあ魔法師団に所属しているものなら問題なく作れるだろう」
魔法師団のレベルがわからないが、どうも作るのも簡単ではなさそうな気配がする。
「それでなんで高いんですか?」
「値段じゃない。魔力が貴重なのだ。この世界ならだれでも魔力を持っているが、通常その魔力量はそれほど多くない。そして、きちんと魔法を行使するためにはある程度の技術が必要だ。魔力量があるものは貴族に多く、そういうものは魔力を使う仕事にほぼついている。それはわかるな?」
「魔力があるといろいろ出来そうですものね」
「そうだ。ポーションは魔力を保存する液だ。貴重なのはわかるだろう」
「どういうことですか?」
全く分からなかったので質問すると、フィスラは哀れな目で私を見た。
冷たい目よりも悲しい。
それでも、ため息をついて答えてくれる。
「日中使用しているので、ポーションに保存できる魔力は少ないという事だ」
「……もしかして、保存ってそのままの意味ですか? 魔力を入れるとその分の魔力が取り出せる的な」
「その通りだ。やっとわかったか」
「私達の世界では、小説やゲームでポーションが出てくるんですけど、それは薬草とかを調合して作る、魔力が回復するアイテムって感じだったんです。魔力を保存ではなく、飲むと回復するアイテムという感じでした。保存だと全然意味合いが違いますね……」
「そんな便利なものがあれば、すぐさま使いたいものだ」
ため息をつかれた。
この世界ではポーションがただ魔力を保存できる液だったとは。
本数が作れるはずがない。
「これがポーションだ」
緑色の液体が小さいガラス瓶に入っているものを、フィスラは取り出した。
じっと見ても特に何の変哲もない液体に見える。
さっと渡されてそのまま受け取ったけれど、瓶自体も不思議なところはない。
「飲むと魔力が吸収されて回復する。飲んでみてくれ」
「……美味しいですか?」
「早くしろ」
軽口は全く通じず、冷たく返される。仕方なく瓶を開けて匂いを嗅いでみる。草っぽい臭いはするものの、そこまで変な匂いではない。
じっと見られているのでプレッシャーが凄い。
諦めて一気にあおる。
「思ったより普通の日本茶っぽい味でした。でも、美味しいって程ではないかな」
「私が聞いているのは味ではない」
「身体の変化は特に感じません」
首を傾げつつ報告すると、がしっと頭を掴まれる。
「魔力は相変わらず全くないな。本当にもったいない」
「もったいないとか言わないでください!」
「私の魔力だぞ。希少だ」
「ううう。希少っぽいですけど余りものでもありますよね」
「そうとも言えなくもないが、欲しがっているものは多数いるので価値は高い。もったいないであっているだろう」
「不可抗力です……」
自分で飲ませておいて酷い言いようである。
「それにしても魔力って儲かりそうですね」
「そうだな。戦争などでポーションが多数用意できれば戦況は全く変わってくるだろう。それでなくても魔導具の作成には魔力がたくさん必要だ。魔力はあればあるだけ良いな」
せめて魔力が豊富だったら、それだけで大事にされたのかもしれない。
その後も別の薬を飲まされたり、謎の棒を持たされたりしながらフィスラは私の体質を確認していく。
火の魔法は熱いし、水で手を洗う事もできた。
魔法で存在しているものに関しては干渉できるようだ。
「結論から言うと、魔力に反応するものとしない魔法があるようだ。その辺の選定を行っていきたい。今後に生かせるものがあるかもしれない」
「……それは、このままここで生活できるくらい役に立てる可能性があるという事ですか?」
私が緊張しながら問うと、フィスラは鷹揚に頷いた。
「私が君を個人的に雇おう、ツムギ。これからよろしくな」
その笑顔の裏に、モルモット逃がさないという意思が透けて見えた。
それでも、しばらく私の生活が保障されるのは間違いない。
「よろしくお願いします!」
私はすぐに飛びついた。
「色々な可能性がありそうだ。今すぐは、爆発性のものを身につけさせて、相手が油断して触るのを待つなどの暗殺での活用しか思いつかないが……」
「頑張って! 研究しましょう」
暗殺などに使われるのは困る。ともかく研究で結果を出す必要があるとわかった。
私にも提案できるものがあるかもしれないから、全力で探すことにしようと固く決意する。
「それだと使い捨てになるからな。安心しろ」
全然安心できないような言葉を、安心させるように目を見て言われる。
私は異世界の生活の安定を祈った。
疲れが滲む顔だ。
研究用の実験はともかく、睡眠時間を削って眼鏡を作ってくれたなんて、優しいな。
冷たい感じで口も悪いけれど、いい人だ。
少なくとも、私には優しい。
「ポーションも使ってみよう。ポーションとは魔力を回復するもので、とても貴重なものだ」
「え? そうなんですか?」
ポーションと言えば、冒険中に魔力が切れたらすぐさま飲むアイテムというイメージで、希少性について感じたことはなかった。
「そうだ。心して飲むように」
「なんか素材が高かったりとかするんですか?」
「素材自体は特に珍しいものではないな。液を作るのも、まあ魔法師団に所属しているものなら問題なく作れるだろう」
魔法師団のレベルがわからないが、どうも作るのも簡単ではなさそうな気配がする。
「それでなんで高いんですか?」
「値段じゃない。魔力が貴重なのだ。この世界ならだれでも魔力を持っているが、通常その魔力量はそれほど多くない。そして、きちんと魔法を行使するためにはある程度の技術が必要だ。魔力量があるものは貴族に多く、そういうものは魔力を使う仕事にほぼついている。それはわかるな?」
「魔力があるといろいろ出来そうですものね」
「そうだ。ポーションは魔力を保存する液だ。貴重なのはわかるだろう」
「どういうことですか?」
全く分からなかったので質問すると、フィスラは哀れな目で私を見た。
冷たい目よりも悲しい。
それでも、ため息をついて答えてくれる。
「日中使用しているので、ポーションに保存できる魔力は少ないという事だ」
「……もしかして、保存ってそのままの意味ですか? 魔力を入れるとその分の魔力が取り出せる的な」
「その通りだ。やっとわかったか」
「私達の世界では、小説やゲームでポーションが出てくるんですけど、それは薬草とかを調合して作る、魔力が回復するアイテムって感じだったんです。魔力を保存ではなく、飲むと回復するアイテムという感じでした。保存だと全然意味合いが違いますね……」
「そんな便利なものがあれば、すぐさま使いたいものだ」
ため息をつかれた。
この世界ではポーションがただ魔力を保存できる液だったとは。
本数が作れるはずがない。
「これがポーションだ」
緑色の液体が小さいガラス瓶に入っているものを、フィスラは取り出した。
じっと見ても特に何の変哲もない液体に見える。
さっと渡されてそのまま受け取ったけれど、瓶自体も不思議なところはない。
「飲むと魔力が吸収されて回復する。飲んでみてくれ」
「……美味しいですか?」
「早くしろ」
軽口は全く通じず、冷たく返される。仕方なく瓶を開けて匂いを嗅いでみる。草っぽい臭いはするものの、そこまで変な匂いではない。
じっと見られているのでプレッシャーが凄い。
諦めて一気にあおる。
「思ったより普通の日本茶っぽい味でした。でも、美味しいって程ではないかな」
「私が聞いているのは味ではない」
「身体の変化は特に感じません」
首を傾げつつ報告すると、がしっと頭を掴まれる。
「魔力は相変わらず全くないな。本当にもったいない」
「もったいないとか言わないでください!」
「私の魔力だぞ。希少だ」
「ううう。希少っぽいですけど余りものでもありますよね」
「そうとも言えなくもないが、欲しがっているものは多数いるので価値は高い。もったいないであっているだろう」
「不可抗力です……」
自分で飲ませておいて酷い言いようである。
「それにしても魔力って儲かりそうですね」
「そうだな。戦争などでポーションが多数用意できれば戦況は全く変わってくるだろう。それでなくても魔導具の作成には魔力がたくさん必要だ。魔力はあればあるだけ良いな」
せめて魔力が豊富だったら、それだけで大事にされたのかもしれない。
その後も別の薬を飲まされたり、謎の棒を持たされたりしながらフィスラは私の体質を確認していく。
火の魔法は熱いし、水で手を洗う事もできた。
魔法で存在しているものに関しては干渉できるようだ。
「結論から言うと、魔力に反応するものとしない魔法があるようだ。その辺の選定を行っていきたい。今後に生かせるものがあるかもしれない」
「……それは、このままここで生活できるくらい役に立てる可能性があるという事ですか?」
私が緊張しながら問うと、フィスラは鷹揚に頷いた。
「私が君を個人的に雇おう、ツムギ。これからよろしくな」
その笑顔の裏に、モルモット逃がさないという意思が透けて見えた。
それでも、しばらく私の生活が保障されるのは間違いない。
「よろしくお願いします!」
私はすぐに飛びついた。
「色々な可能性がありそうだ。今すぐは、爆発性のものを身につけさせて、相手が油断して触るのを待つなどの暗殺での活用しか思いつかないが……」
「頑張って! 研究しましょう」
暗殺などに使われるのは困る。ともかく研究で結果を出す必要があるとわかった。
私にも提案できるものがあるかもしれないから、全力で探すことにしようと固く決意する。
「それだと使い捨てになるからな。安心しろ」
全然安心できないような言葉を、安心させるように目を見て言われる。
私は異世界の生活の安定を祈った。
14
お気に入りに追加
1,787
あなたにおすすめの小説

恋愛は見ているだけで十分です
みん
恋愛
孤児院育ちのナディアは、前世の記憶を持っていた。その為、今世では恋愛なんてしない!自由に生きる!と、自立した女魔道士の路を歩む為に頑張っている。
そんな日々を送っていたが、また、前世と同じような事が繰り返されそうになり……。
色んな意味で、“じゃない方”なお話です。
“恋愛は、見ているだけで十分よ”と思うナディア。“勿論、溺愛なんて要りませんよ?”
今世のナディアは、一体どうなる??
第一章は、ナディアの前世の話で、少しシリアスになります。
❋相変わらずの、ゆるふわ設定です。
❋主人公以外の視点もあります。
❋気を付けてはいますが、誤字脱字が多いかもしれません。すみません。
❋メンタルも、相変わらず豆腐並みなので、緩い気持ちで読んでいただけると幸いです。

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜
波間柏
恋愛
仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。
短編ではありませんが短めです。
別視点あり

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。
出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~
白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。
父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。
財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。
それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。
「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」
覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!


おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23

塔の魔王は小さな花を慈しむ
トウリン
恋愛
セイラム国第一王子アストールは、その強大過ぎる魔力故に人と交わることができず、辺境の塔に身を置いていた。彼の力を恐れるあまりに、使用人はいつかない。いい加減、数えるのにも飽きた頃、彼の前に連れてこられたのは、まだ幼いフラウという名の少女だった。彼女もまた、ある理由から孤独の中に身を置いていて……
己の不幸に囚われていた傲慢な王子と人の温もりを知らない無垢な少女は、互いにかけがえのない相手となっていく。
美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました
葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。
前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ!
だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます!
「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」
ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?
私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー!
※約六万字で完結するので、長編というより中編です。
※他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる