【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香

文字の大きさ
上 下
6 / 54

第6話 意外と過保護

しおりを挟む
 私のイメージする貴族が使っている長いテーブルの端と端ではなく、十人掛けに向かい合って座ったので、話はしやすい。しかし、整った顔を目の前に食事は落ち着かないことこの上ない。

 それでもお腹がすいていた為、いただきますと小さく呟き手を付けた。
 謎のお肉を恐る恐る口に入れると、肉汁と香辛料が口いっぱいに広がった。

「わわわ。凄く美味しい! 異世界料理美味しいですね!」

「異世界……。まあ、ツムギにとってここは異世界か」

「そうですね。今のところ異世界って感じたのは眼鏡ぐらいですけど。後、髪の毛と目の色ですね。日本ではこんなカラフルな地毛の人は居ないので、フィスラ様みたいな黒髪はちょっと安心感有りますね」

 顔のつくりは全然安心感ないけれど、と私は胸の内で付け足した。

「確かにミズキも黒髪だったな。これがツムギの世界の標準なのだな」

「中には染めてる人も居ますけどね。……あの、ミズキちゃんはどうしてますか? まだ若いし泣いていたりしないでしょうか」

 更に言うならば目の前の師団長に手を切られている。
 恐ろしすぎる事態ではないだろうか。

「聖女に関しては、ミッシェ殿下がどうにかしているだろう。彼が主の担当となる。それにずっと泣いているなんてことはない。君だってそうだろう?」

「聖女は王族案件なんですね。……私は、びっくりはしていますよ。それに私はいい年ですし、両親がもう亡くなってしまっているので。でもミズキちゃんはそうじゃないと思うんですよね」

 五年間に両親は事故で亡くなってしまった。
 お友達や職場に良くしゃべる人は居たけれど、両親を失った喪失感は大きかった。なので、異世界にきても仕方がないと諦められる程度だ。

 唯一気になるのはゲームや本の続きが見られなくなることぐらいか。別の趣味であるコスプレは、この世界がコスプレみたいで逆に充実しそうな気がする。

 その趣味も、社会人になってからすっかり遠ざかってしまっていたし……。

「ツムギが大丈夫なら、大丈夫だ。前の世界に未練が残るようなものは、召喚されない。そこまでの強制力はないんだ。だからミズキもお前と似たようなものだろう。気にする必要はない。聖女である分、彼女は満足できる待遇になるだろう」

「そう、だったんですね」

 召喚に抗うような思いがないって事か……ある意味親切なシステムだな。
 私は不幸な人が居なかったので、安心してほっと息をついた。

「それなら、心配せずに美味しい食事を楽しむことにします!」

「それはそれで切り替えが早いな」

「えええ。フィスラ様が気持ち切り替えろって感じだったのに!」

 私がそう抗議すると、フィスラは可笑しそうにくつくつと笑った。それが印象よりも幼く見えて、びっくりする。

「この国は、他の国と比べても食事は比較的美味しいらしい。良かったな」

「フィスラ様もラッキーですね。庶民も食事が美味しいといいのですが。美味しい食べ物はそれだけでもちょっとした楽しみになりますし」

「まあ、私は普段はもっと簡単な食事が多いけどな」

「えらい人でもそうなんですね。じゃあ今日はゆっくり美味しく食べてください。……私が招いたわけではないですが」

「ツムギは朝から良く食べるな」

「それは、ただ昨日食べてないからです! 口に出しちゃ良くない奴です」

 **********

 食事を終えるとすぐに、メイドに外出着に着替えるからと連れ出された。その間フィスラは優雅にお茶を飲んで待っているらしい。

 やっぱり余裕そうな気がする……少なくとも忙しい人の行動ではない。

 終わったら自力でフィスラを訪ねに向かうと言っても、研究棟は危険だからと言って首を縦に振らなかった。

 意外な事に猟奇的なのに過保護らしい。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

恋愛は見ているだけで十分です

みん
恋愛
孤児院育ちのナディアは、前世の記憶を持っていた。その為、今世では恋愛なんてしない!自由に生きる!と、自立した女魔道士の路を歩む為に頑張っている。 そんな日々を送っていたが、また、前世と同じような事が繰り返されそうになり……。 色んな意味で、“じゃない方”なお話です。 “恋愛は、見ているだけで十分よ”と思うナディア。“勿論、溺愛なんて要りませんよ?” 今世のナディアは、一体どうなる?? 第一章は、ナディアの前世の話で、少しシリアスになります。 ❋相変わらずの、ゆるふわ設定です。 ❋主人公以外の視点もあります。 ❋気を付けてはいますが、誤字脱字が多いかもしれません。すみません。 ❋メンタルも、相変わらず豆腐並みなので、緩い気持ちで読んでいただけると幸いです。

出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~

白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。 父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。 財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。 それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。 「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」 覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

波間柏
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

異世界でも、とりあえず生きておく

波間柏
恋愛
 大学の図書室で友達を待っていたのにどうやら寝てしまったようで。目を覚ました時、何故か私は戦いの渦中に座っていた。 いや、何処よここは? どうした私?

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

嫌われ聖女は魔獣が跋扈する辺境伯領に押し付けられる

kae
恋愛
 魔獣の森と国境の境目の辺境領地の領主、シリウス・レングナーの元に、ある日結婚を断ったはずの聖女サラが、隣の領からやってきた。  これまでの縁談で紹介されたのは、魔獣から国家を守る事でもらえる報奨金だけが目当ての女ばかりだった。  ましてや長年仲が悪いザカリアス伯爵が紹介する女なんて、スパイに決まっている。  しかし豪華な馬車でやってきたのだろうという予想を裏切り、聖女サラは魔物の跋扈する領地を、ただ一人で歩いてきた様子。  「チッ。お前のようなヤツは、嫌いだ。見ていてイライラする」  追い出そうとするシリウスに、サラは必死になって頭を下げる「私をレングナー伯爵様のところで、兵士として雇っていただけないでしょうか!?」  ザカリアス領に戻れないと言うサラを仕方なく雇って一月ほどしたある日、シリウスは休暇のはずのサラが、たった一人で、肩で息をしながら魔獣の浄化をしている姿を見てしまう。

魔力を持たずに生まれてきた私が帝国一の魔法使いと婚約することになりました

ふうか
恋愛
レティシアは魔力を持つことが当たり前の世界でただ一人、魔力を持たずに生まれてきた公爵令嬢である。 そのために、家族からは冷遇されて育った彼女は10歳のデビュタントで一人の少年と出会った。その少年の名はイサイアス。皇弟の息子で、四大公爵の一つアルハイザー公爵家の嫡男である。そしてイサイアスは周囲に影響を与えてしまうほど多くの魔力を持つ少年だった。 イサイアスとの出会いが少しづつレティシアの運命を変え始める。 これは魔力がないせいで冷遇されて来た少女が幸せを掴むための物語である。 ※1章完結※ 追記 2020.09.30 2章結婚編を加筆修正しながら更新していきます。

処理中です...