【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香

文字の大きさ
上 下
1 / 54

第1話 聖女召喚のじゃない方

しおりを挟む
 聖女召喚って、本当にあるんだなあ。

 ふかふかのベッドで、謎のいい匂いのお香に包まれながら、私は他人事のように考えた。
 異世界転移、という今までアニメやラノベでしか見た事なかった世界に自分が居るのだという実感が、なかなか湧いてこない。

 実際、聖女に関しては他人事だったのだが。

 **********

「儀式は無事に成功だ!」

 周りから歓喜に盛り上がる声が聞こえる。

 仕事を終えてのコンビニ帰り。
 目の前で光る何かを見たと思ったら、次の瞬間にはゲームのような仰々しい衣装を着た人々に囲まれていた。
 彼らはご丁寧に髪の色も目の色もカラフルだ。

 教会のような荘厳な雰囲気で、ステンドグラスのようなものがはめ込まれている。
 周りはほの暗く、ろうそくのような明かりでぐるりと周りを囲まれていた。

「ここは何処……?」

 状況が把握できずに呆然としていると、隣から声が聞こえる。

 そこで、私は自分の隣にもう一人少女がいる事に気が付いた。

 黒髪の可愛い女の子が、この空間で唯一私に馴染みのあるセーラー服を着ている。
 上半身を起こし、半分倒れ込む彼女の下には、光る魔法陣のようなものが見えた。

 その円の中心に彼女が居る。

 声をかけようか迷っていると、金髪のとても顔が整った豪華な顔をしている青年が、早い足取りで私たちに近づいてくる。
 彼の後ろには肩までの黒髪に重々しいローブを着た、こちらも整った顔をした青年がゆっくりと続く。

 ここの顔面偏差値高すぎじゃない?

 私は驚いて周りを見たけれど、他の人はそうでもなさそうだった。
 良かった。

 しかし、こちらに来た見る彼らの空気は剣呑だ。金髪はイライラした様子を隠しもせずに、声を荒げた。

「これは……どういうことだ。何故二人いるんだ、コノート師団長」

「聖女召喚の儀式の際に、何故か1匹紛れてしまったようだな。……これはどういった事だ」

「そんな軽く言うことじゃないだろう。そして、この二人のうちどちらが聖女なんだ。早く調べろ!」

「……ミッシェ殿下の仰せのままに」

 黒髪の男の人が、金髪に恭しく礼をした。その芝居がかった仕草が見た目と相まって本当に格好良くて、思わずどきりとしてしまう。

 しかも殿下って事は、このキラキラの金髪の男の人は王子様なの?
 うわー顔も良くて地位も高いとかミラクルすぎる。

 黒髪の人も師団長と呼ばれていたので、こちらも高い地位に違いない。
 とても凄そうな二人に、私の心は一瞬浮足立った。

 しかし、そんな事を考えている場合ではない。

 近くで言い争っている二人は、聖女召喚と言った。
 そしてどちらが本物かと。
 という事は、偽物が居るということだ。

 私はこの状況をなんとなく理解した。

 先程から周りに圧倒されているらしい、驚いた顔をした女の子。黒髪はさらさらのつやつやで、天使の輪が光っている。
 ぱっちりとした二重にはっきりとした可愛い顔の作りは、まさに聖女。

 セーラー服を着ている事だし、きっと女子高生だろう。

 片や、コンビニ帰りの私は仕事疲れで目にくまが出来ている。加えて疲れ切っている金曜だったのでスーツはよれよれ、地味顔で眼鏡。更に言うなら年齢もアラサーだ。

 間違いない。セーラー服の彼女が聖女だ。
 そもそも魔法陣の中心には、彼女が居るし。

 私は自分の立場のまずさを自覚した。

 聖女じゃないからって、このまま放り出されたり、しないよね?

 私の気持ちもお構いなしに、師団長は女子高生の前に立った。

 女子高生は気圧されたように後ろに下がろうとするが、彼はさっと彼女の腕をつかみ逃げられないようにした。
 女子高生が不快そうに手を外そうとするが、気にする素振りもない。そのまま空いている方の手を女子高生の頭の上に乗せ、目をつむる。

 しばらくそうしていたが、突然何事もなかったように手を離した。そのまま私の前までやってくる。

 近くで見ても、本当に驚くほど整った顔だ。冷たい顔をしているが、長い黒髪は重々しい衣装ともあっている。
 私がじっと観察していると、彼は不思議そうに小首をかしげた。

 先程と同じように頭に手をやろうとしたようだが、その手は方向を変え私の眼鏡にそっと触れた。

「なんだこれは」

「え? あ、これは眼鏡です。私は目が悪いので」

「ふうん。なぜわざわざこんなものをしているんだ。そんなのは魔法で治せば良かろう。邪魔だ」

 彼がそう言うと、何の予備動作もなく私の眼鏡は砕けた。
 すっかり跡形もなくなってしまった。途端に私の視界はぼやけてしまう。

「えっ。なにするの! これしかないのに!」
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

恋愛は見ているだけで十分です

みん
恋愛
孤児院育ちのナディアは、前世の記憶を持っていた。その為、今世では恋愛なんてしない!自由に生きる!と、自立した女魔道士の路を歩む為に頑張っている。 そんな日々を送っていたが、また、前世と同じような事が繰り返されそうになり……。 色んな意味で、“じゃない方”なお話です。 “恋愛は、見ているだけで十分よ”と思うナディア。“勿論、溺愛なんて要りませんよ?” 今世のナディアは、一体どうなる?? 第一章は、ナディアの前世の話で、少しシリアスになります。 ❋相変わらずの、ゆるふわ設定です。 ❋主人公以外の視点もあります。 ❋気を付けてはいますが、誤字脱字が多いかもしれません。すみません。 ❋メンタルも、相変わらず豆腐並みなので、緩い気持ちで読んでいただけると幸いです。

出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~

白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。 父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。 財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。 それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。 「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」 覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

波間柏
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

異世界でも、とりあえず生きておく

波間柏
恋愛
 大学の図書室で友達を待っていたのにどうやら寝てしまったようで。目を覚ました時、何故か私は戦いの渦中に座っていた。 いや、何処よここは? どうした私?

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

嫌われ聖女は魔獣が跋扈する辺境伯領に押し付けられる

kae
恋愛
 魔獣の森と国境の境目の辺境領地の領主、シリウス・レングナーの元に、ある日結婚を断ったはずの聖女サラが、隣の領からやってきた。  これまでの縁談で紹介されたのは、魔獣から国家を守る事でもらえる報奨金だけが目当ての女ばかりだった。  ましてや長年仲が悪いザカリアス伯爵が紹介する女なんて、スパイに決まっている。  しかし豪華な馬車でやってきたのだろうという予想を裏切り、聖女サラは魔物の跋扈する領地を、ただ一人で歩いてきた様子。  「チッ。お前のようなヤツは、嫌いだ。見ていてイライラする」  追い出そうとするシリウスに、サラは必死になって頭を下げる「私をレングナー伯爵様のところで、兵士として雇っていただけないでしょうか!?」  ザカリアス領に戻れないと言うサラを仕方なく雇って一月ほどしたある日、シリウスは休暇のはずのサラが、たった一人で、肩で息をしながら魔獣の浄化をしている姿を見てしまう。

魔力を持たずに生まれてきた私が帝国一の魔法使いと婚約することになりました

ふうか
恋愛
レティシアは魔力を持つことが当たり前の世界でただ一人、魔力を持たずに生まれてきた公爵令嬢である。 そのために、家族からは冷遇されて育った彼女は10歳のデビュタントで一人の少年と出会った。その少年の名はイサイアス。皇弟の息子で、四大公爵の一つアルハイザー公爵家の嫡男である。そしてイサイアスは周囲に影響を与えてしまうほど多くの魔力を持つ少年だった。 イサイアスとの出会いが少しづつレティシアの運命を変え始める。 これは魔力がないせいで冷遇されて来た少女が幸せを掴むための物語である。 ※1章完結※ 追記 2020.09.30 2章結婚編を加筆修正しながら更新していきます。

処理中です...