【完結】生贄として育てられた少女は、魔術師団長に溺愛される

未知香

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「ミシェラ。ずっと一緒に、居てほしい」
「……もちろんです」

 ミシェラとハウリーは、そっと手を握った。
 しばらくその幸せをかみしめたあと、気になっていたことを聞いた。

「そういえば、村はどうなりましたか?」

 ミシェラの問いに、ハウリーはそっけなく答えた。

「どうもこうもない。ドラゴンは死んだ。信仰を失った村は混乱しているようだ。……その怒りは村長家族に向いていると報告を受けている」
「あ! そういえば、グルタは回収してもらえましたか……?」

 またすっかり忘れてしまっていた。
 あんなに長年彼に怯えて暮らしていたのに、不思議なものだ。

「彼の事は団員が回収して、反逆罪として捕まえている。正直村に帰すのと捕まえたままでいるのと、どちらが悪い状況かわからないな」

 ハウリーが言葉を濁すほど、村長と家族の状況は悪いようだ。ドラゴンが死んでしまった今、不満が全て生贄を逃がしてしまった彼らに向いているのだろう。

 生贄と魔術師団が生活を守ったともいえるが、信じているものが違う彼らには違うものが見えているはずだ。
 分かりあえないのは仕方がない。

 ミシェラには、もう役に立たなかった生贄としての糾弾も受け入れることができない。

 ハウリーはそっとミシェラの頭を撫でた。

「これからは、楽しい事ばかりだ」
「そうですね。ハウリー様の隣に立てるような人になることが、私の目標です」
「化け物同士で?」
「そうです。部下に慕われる化け物と、その仲間の化け物です」
 ミシェラがまじめな顔で応えると、ハウリーは大きな声で笑った。
「仲間だけじゃなくて、恋人の化け物としても、だな」
「……えっ」
「えっ。さっきのは、告白への答えじゃなかったのか?」
「そんな場面ありましたか!?」

 全く意識していなかったので、ミシェラは慌ててしまう。ハウリーは眉を寄せた。

「まさか。嘘だろう? すっかり気持ちが通じ合ったと、浮かれていたのに……」
「ごめんなさい」
「……それは、告白に対しての返事?」
「えっ。……ええと、いいえ」

 断りの台詞かと聞かれ、ミシェラは首を振った。
 告白されたかなんて全然わからなかったけれど、ハウリーの気持ちが嬉しくないわけがない。

 それでも、なんて言っていいのかわからなくて、ミシェラは上目づかいでハウリーの様子を窺った。

「ミシェラには、きちんと伝えないと駄目だよな。……私のやり方が良くなかった」

 そう笑って、ハウリーはミシェラと改めて向き合った。
 ミシェラも慌てて姿勢を正す。

 ハウリーの顔が真正面にある。綺麗に整った顔が、優しげに微笑む。
 青い髪が風に揺れ、その中の白い一房が、光って見える。

 ミシェラと同じ白い髪の毛。

 どきどきと心臓がうるさく、息の吸い方まで分からなくなってしまい苦しい。

「ミシェラ。君の事が好きなんだ。ずっと一緒に居てほしい」

 ずっと一緒に、と先ほどの言葉が繰り返され、あれが告白だったのだと思い当たる。
 ハウリーはミシェラの手をとり、自分の手と絡める。

 その指が思わぬくらいひんやりとしていて、ハウリーの緊張を感じる。
 それで、やっとミシェラは息の吸い方を思い出した。

「ハウリー様」

 ミシェラはハウリーの手を包み込むようにして握る。
 声が震えそうになるが、同じぐらいハウリーも緊張していると思うと、それが嬉しくなる。

「私も、ハウリー様が好きです。ずっと、ずっと一緒に居たいと思っていました。私の事を、こんな素晴らしい場所へ連れ出してくれてありがとうございます。……ハウリー様は、私のヒーローです」

 そのままそっとハウリーの頬に自分の頬を寄せた。
 冷たい頬の感触。

「……ミシェラ!」

 ハウリーに名前を呼ばれ、ぎゅっと身体を抱き寄せられた。

「ハウリー様……」

 ミシェラもハウリーの背中に手をまわし、その体温の心地よさにしあわせすぎて目を瞑る。
 夜風が心地よく、こんなに幸せでいいのかと、不安に思うほどだ。

 その気持ちを読んだかのように、ハウリーがささやいた。

「きっと、これから今以上にしあわせな事が待っている。私にも、ミシェラにも」
「私もきっと、ハウリー様をしあわせにします」
「もうこれ以上しあわせになるなんてことがあるのだろうか」
「さっき自分でいったばっかりなのに!」
「……本当に、驚くほど幸せなんだ」
「ふふふ。私もです。でも、私がもっとハウリー様をしあわせにすると、決めたので」
「相変わらず、急に格好いいんだよな……。ああもう、好きだ」

 ハウリーが両手で顔を隠す。その両手をミシェラが掴み、そっと開かせた。
 赤くなったハウリーの顔が見え、ミシェラは彼の唇に、唇を寄せた。

 驚きに目を見開いたハウリーを見て、ミシェラは満足する。

「……まったく、後悔させてやる」

 ぎらりとハウリーの瞳が輝き、ミシェラは強く手を握られた。何か不穏な空気に、離そうとしても、全く動かない。

「あれ……?」

 仕草だけは優雅に、ハウリーはミシェラの頬に手を添え、少し強引にキスをした。
 息が苦しい程に唇を重ね、ハウリーはにやりと笑った。

「夜は長い。これからたくさん愛を語り合おうじゃないか」

 ミシェラは、ゆっくりと頷いた。
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