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温かい何かに包まれ、ミシェラの意識は浮上した。
「あれ……」
「ミシェラちゃん! 目が覚めたのね!」
状況がわからず混乱する頭に、シュシュの声が響いた。ガタガタと身体を揺らされ、目がちかちかする。
「あわわ。……ここは」
「討伐は無事に終わったわ。魔力が尽きていたのね……気が付かずにごめんなさい。魔力回復薬を飲ませたから、ある程度は良くなっていると思うのだけど」
「あ、本当ですね。ちょっと回復してます有難うございます!」
「……ちょっと回復していたなら良かったわ」
シュシュの何故か疲れたような声に、ぶはっと後ろで噴き出した声がした。彼はそのままくすくすと笑っている。
「ダギーさん!」
「そうだよな。ミシェラにとってはちょっとの回復だよな」
笑いながら頷いているが、全く理由がわからなくてミシェラは首を傾げた。
ミシェラの肩に抱き着き、シュシュが恨めしそうな顔をする。
「わかってるわよーそうよー。回復薬だけじゃちょっとだって、自分との違いは判ってるわよー。まったく、ミシェラちゃんはそのまま可愛くいてね」
「スカイラ師団長で見慣れてるっていうのになあ」
「なかなか結び付かないのよミシェラちゃんとは……。でもまあ、今後一緒にいればなれるでしょう」
「そうだな。同じ師団になれば嫌でも」
「そうね。楽しみだわ」
二人の早口のかけあいに、ミシェラは全く入れないで目を白黒させる。
「あ、あの。私は、試験は不合格なので。……今日は確定の結果が出ていないので、入れていただいたのですが」
二人の会話が切れたところで、事実を告げると、きょとんとした顔でまじまじと見られてしまう。
思わず大きい声が出る。
「あの! それでも学園に入れていただけるかもという話があるので、勉強してまた魔術師団の入団試験は受けたいと思っています! なので、その時が来たら……」
段々と自信がなくなって、声が小さくなってしまう。こんな大見得を切っていいのだろうかという心配も、全然待ってなんていないという気持ちなのではないかという心配もごちゃ混ぜになって、最後はなぜか涙が出そうになってしまう。
そんなミシェラに、ふたりは大笑いした。
「馬鹿ね! もう絶対合格よ!」
「そうだ。ミシェラが魔術師団に入れないなら、試験なんてやめた方がいいぐらいだ」
「えっ。お二人とも冗談ばっかり」
ミシェラもつられて笑ってしまう。優しさが嬉しい。
「とりあえずテントに戻るわよ。……ミシェラが捕まえている動物もどうにかしないとね」
シュシュに言われて、しばらく考えてグルタの事だと思い出す。
すっかり忘れてしまっていた自分に、ミシェラはくすりと笑って、テントに向かった。
「ミシェラ……! 無事でよかった!」
テントに戻ると、血まみれのハウリーがほっとした顔で駆け寄ってくる。
「わー! ハウリー様、そ、その血は大丈夫な奴ですか? 回復、回復が要りますよね!」
服も髪も、顔にすら血がついていてどろどろだ。こんな大量出血は大変な事ではないかと慌ててしまう。
回復をかけていいのか迷ったミシェラは、ハウリーの周りをぐるぐると回る。
その行動を見てハウリーは口の端をあげ、顔を雑に手で拭いた。
「これはドラゴンの血だ。私は怪我をしていない。もししていたとしても、回復魔術があるから大丈夫だ」
「ああ、そうですよね……浅はかでした。でも凄く驚きました」
「こういう事には慣れていないものな。……ちょっと休憩しようじゃないか」
「えっ。お忙しいのでは?」
「大丈夫大丈夫。少しだけだから」
シュシュとダギーはそっとミシェラの肩を押すと、片付けがあるとどこかに向かっていった。
二人でその場に残され、何故か少し照れ臭い。
「テントの裏に椅子があったからそこで少し座ろう。ミシェラは体調悪くないか? 大きな魔術を使っただろう」
「全然問題ないレベルなのですが、ちょっとふらふらしたので、シュシュさんが回復薬を飲ませてくれたみたいです。……ハウリー様の活躍が見れず、残念でした」
「ドラゴンがほとんど動けない状態なのだから、活躍と言えるほどのものはなかった」
「動けなくてもあの鱗はとても大変そうです」
「まあ、かたいけどな……」
そこで、ハウリーは何かを思い出したように笑った。
「師団の皆は混乱していたぞ。あれはなかなかおもしろかった」
「混乱ですか?」
「そうだ。勝てるかわからない相手がいきなり動かなくなっていたのだ。驚きは相当だった。……私もだが」
「ハウリー様はあまり驚いていないような気がしたのですが」
「……あれは驚きすぎていたのだ」
すねたようなハウリーの口調に、ミシェラは笑ってしまった。
「笑ったな」
「だって、そんな風にいうなんて。あんなに堂々としていたのに」
「……ミシェラの目にはそう映っていたのなら、良かったよ。体調は悪くないか?」
「大丈夫です。さっき魔力不足で倒れてしまいましたが、今は薬をいただいたので、少し回復しました」
「どの薬だ?」
「シュシュさんがくれたグレーのラベルのものです」
「……あれか。君の魔力量は、私と同等以上かもしれないな。あれは普通の魔術師なら全回復する」
首をひねるハウリーに、ミシェラの方がびっくりしてしまう。
「えっ。そうだったんですね。……だとしたら高級品では?」
「君が気にするところはそこか」
ハウリーは大笑いして、ミシェラの頭をぐりぐりと撫でた。
「どういうことですか?」
「君はそのままでいい。……少ししか回復していないなら身体への負担は大きいだろう。無事な姿が見れてよかった。今日はこのまま寝なさい」
そうあたたかな手で目に触れられ、ミシェラの目はゆっくりと閉じた。
「あれ……」
「ミシェラちゃん! 目が覚めたのね!」
状況がわからず混乱する頭に、シュシュの声が響いた。ガタガタと身体を揺らされ、目がちかちかする。
「あわわ。……ここは」
「討伐は無事に終わったわ。魔力が尽きていたのね……気が付かずにごめんなさい。魔力回復薬を飲ませたから、ある程度は良くなっていると思うのだけど」
「あ、本当ですね。ちょっと回復してます有難うございます!」
「……ちょっと回復していたなら良かったわ」
シュシュの何故か疲れたような声に、ぶはっと後ろで噴き出した声がした。彼はそのままくすくすと笑っている。
「ダギーさん!」
「そうだよな。ミシェラにとってはちょっとの回復だよな」
笑いながら頷いているが、全く理由がわからなくてミシェラは首を傾げた。
ミシェラの肩に抱き着き、シュシュが恨めしそうな顔をする。
「わかってるわよーそうよー。回復薬だけじゃちょっとだって、自分との違いは判ってるわよー。まったく、ミシェラちゃんはそのまま可愛くいてね」
「スカイラ師団長で見慣れてるっていうのになあ」
「なかなか結び付かないのよミシェラちゃんとは……。でもまあ、今後一緒にいればなれるでしょう」
「そうだな。同じ師団になれば嫌でも」
「そうね。楽しみだわ」
二人の早口のかけあいに、ミシェラは全く入れないで目を白黒させる。
「あ、あの。私は、試験は不合格なので。……今日は確定の結果が出ていないので、入れていただいたのですが」
二人の会話が切れたところで、事実を告げると、きょとんとした顔でまじまじと見られてしまう。
思わず大きい声が出る。
「あの! それでも学園に入れていただけるかもという話があるので、勉強してまた魔術師団の入団試験は受けたいと思っています! なので、その時が来たら……」
段々と自信がなくなって、声が小さくなってしまう。こんな大見得を切っていいのだろうかという心配も、全然待ってなんていないという気持ちなのではないかという心配もごちゃ混ぜになって、最後はなぜか涙が出そうになってしまう。
そんなミシェラに、ふたりは大笑いした。
「馬鹿ね! もう絶対合格よ!」
「そうだ。ミシェラが魔術師団に入れないなら、試験なんてやめた方がいいぐらいだ」
「えっ。お二人とも冗談ばっかり」
ミシェラもつられて笑ってしまう。優しさが嬉しい。
「とりあえずテントに戻るわよ。……ミシェラが捕まえている動物もどうにかしないとね」
シュシュに言われて、しばらく考えてグルタの事だと思い出す。
すっかり忘れてしまっていた自分に、ミシェラはくすりと笑って、テントに向かった。
「ミシェラ……! 無事でよかった!」
テントに戻ると、血まみれのハウリーがほっとした顔で駆け寄ってくる。
「わー! ハウリー様、そ、その血は大丈夫な奴ですか? 回復、回復が要りますよね!」
服も髪も、顔にすら血がついていてどろどろだ。こんな大量出血は大変な事ではないかと慌ててしまう。
回復をかけていいのか迷ったミシェラは、ハウリーの周りをぐるぐると回る。
その行動を見てハウリーは口の端をあげ、顔を雑に手で拭いた。
「これはドラゴンの血だ。私は怪我をしていない。もししていたとしても、回復魔術があるから大丈夫だ」
「ああ、そうですよね……浅はかでした。でも凄く驚きました」
「こういう事には慣れていないものな。……ちょっと休憩しようじゃないか」
「えっ。お忙しいのでは?」
「大丈夫大丈夫。少しだけだから」
シュシュとダギーはそっとミシェラの肩を押すと、片付けがあるとどこかに向かっていった。
二人でその場に残され、何故か少し照れ臭い。
「テントの裏に椅子があったからそこで少し座ろう。ミシェラは体調悪くないか? 大きな魔術を使っただろう」
「全然問題ないレベルなのですが、ちょっとふらふらしたので、シュシュさんが回復薬を飲ませてくれたみたいです。……ハウリー様の活躍が見れず、残念でした」
「ドラゴンがほとんど動けない状態なのだから、活躍と言えるほどのものはなかった」
「動けなくてもあの鱗はとても大変そうです」
「まあ、かたいけどな……」
そこで、ハウリーは何かを思い出したように笑った。
「師団の皆は混乱していたぞ。あれはなかなかおもしろかった」
「混乱ですか?」
「そうだ。勝てるかわからない相手がいきなり動かなくなっていたのだ。驚きは相当だった。……私もだが」
「ハウリー様はあまり驚いていないような気がしたのですが」
「……あれは驚きすぎていたのだ」
すねたようなハウリーの口調に、ミシェラは笑ってしまった。
「笑ったな」
「だって、そんな風にいうなんて。あんなに堂々としていたのに」
「……ミシェラの目にはそう映っていたのなら、良かったよ。体調は悪くないか?」
「大丈夫です。さっき魔力不足で倒れてしまいましたが、今は薬をいただいたので、少し回復しました」
「どの薬だ?」
「シュシュさんがくれたグレーのラベルのものです」
「……あれか。君の魔力量は、私と同等以上かもしれないな。あれは普通の魔術師なら全回復する」
首をひねるハウリーに、ミシェラの方がびっくりしてしまう。
「えっ。そうだったんですね。……だとしたら高級品では?」
「君が気にするところはそこか」
ハウリーは大笑いして、ミシェラの頭をぐりぐりと撫でた。
「どういうことですか?」
「君はそのままでいい。……少ししか回復していないなら身体への負担は大きいだろう。無事な姿が見れてよかった。今日はこのまま寝なさい」
そうあたたかな手で目に触れられ、ミシェラの目はゆっくりと閉じた。
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