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森の奥から、爆発音が鳴り響いている。
木々の間からは、文字でしか知らなかった生き物が見えた。
遠くからでもその生き物は大きく、存在感を放っている。力強い体に覆われた堅い鱗が光にあたってきらめいて、魔物だというのに神々しさを感じるほどだ。
ドラゴンに惹かれた彼の事が少しわかる。魔物の中でも、圧倒的に美しい。
ドラゴンは大きく口を開けて、激しい炎を吐いた。
見惚れてしまっていたミシェラの肌がじりじりと熱くなり、途端に現実に戻される。こんな大きな魔物と、今、魔法師団が戦っている。
よく見るとドラゴンの周りには、団員たちが集まっていた。しかし、彼らはドラゴンと比べるとかなり小さく、弱弱しく見えてしまう。
ミシェラが見る限り、魔術の盾でドラゴンの炎は二つに割れ、団員たちは無事に炎から守られているようだった。
耐えてほしい願っていると、その盾の中から一人が飛び出し、ドラゴンに鋭い氷の魔術をいくつも放った。
彼の放った氷の矢は、その頑丈な鱗に阻まれつつも、身体の一部を凍らせた。目に見えてドラゴンの動きが鈍くなる。
ハウリーだ。
遠くから見ていても、彼の周りだけキラキラして浮き上がって見える。数倍は大きいドラゴンに対して、怯むことなく攻撃を繰り替えしている。
他の魔術使いも続いて魔術を放っているが、ドラゴンの鱗に弾かれてしまっている。
確かに、圧倒的だ。
「流石、スカイラ師団長よね」
戦いに見入ってしまったミシェラの事を怯えたと思ったのか、シュシュが気楽な口調でにこりと笑いかけてくる。
「今は盾で防いでいるように見えるが、炎は熱い。徐々に皮膚は焦げているし、ドラゴンの爪は強力だ。おびえるのは当然だ。だが、ミシェラの回復は力になる。前線の端で回復だけでもとても助かるんだ、頼む」
ダギーもミシェラを振り返り、肩をそっと叩いた。
「わかりました。でも、大丈夫です」
ミシェラは頷いて、団員が集まっているところに向かっていく。直接話したことはないが、見知った顔ばかりだ。
彼らは皆、真剣な顔でドラゴンを見据えている。
近付くと、ハウリーがドラゴンの頭の上に乗り、氷をまとった剣で攻撃を仕掛けているところだった。下にいる何人かの魔術師が補助の為に足元を攻撃している。あたりはひんやりとした空気に包まれていた。
ドラゴンがうるさそうに、頭をグイっと持ち上げ、炎を吐いた。
反動でハウリーは飛ばされ、あたりはあっという間に灼熱に包まれる。団員が展開した盾に炎は阻まれるが、皮膚がピリピリとする。
ミシェラの距離でこれなのだから、ダギーの言葉通り盾を展開している魔術師の肌は焼け焦げているだろう。
『風よ!』
ハウリーの声が聞こえ、あたりに風が舞った。どうやら飛ばされていたハウリーは、風の魔術をクッションに地面に戻ったらしい。
戦況を確認するようにあたりを見渡した彼は、ミシェラと目があいギョッとする。
「えっ。ミシェラ!? なぜここにいるんだ!」
おろおろと視線をさまよわせながら、ハウリーが近づいてくる。
そんなに動揺して大丈夫なのか心配になってしまう。
「シュシュさんとダギーさんが連れてきてくれたのです。ハウリー様戦いの最中に大丈夫でしょうか」
「全然大丈夫じゃない! 危ないだろう!」
「い、いえ。私じゃなくてハウリー様が大丈夫かという……」
こんなに油断していていいのかという質問のつもりだったけれど、逆に怒られてしまった。
どうしよう、と思っていると上からバキバキと木が折れる音がして、同時にハウリーに抱えられその場から飛び去っていた。
「わー!」
「……ちゃんと周りは見ているから大丈夫だ」
急に宙に浮かんで動揺しているミシェラをぎゅっと抱き寄せ、ハウリーは得意げに笑った。
「伝わっていたのですね。良かった」
「でも、本当に何故ここに居るんだ。救護テントの方にいてくれと言われていたはずだろう」
木の裏の死角に身を寄せながら、ハウリーが眉を寄せる。全身に視線を向けると、大怪我はしていないものの、擦り傷ややけどの跡が見えた。
これは見てもらった方が早いだろう。
魔法陣を展開し、ハウリーの腕にそっと手をのせた。
「魔法陣が見えますか?」
ハウリーは驚きに目を見開きながら、頷く。それを確認し、呪文を唱えた。
ミシェラの心のままに、ハウリーの傷はなくなった。
「……これは」
「いうのが遅くなって、ごめんなさい。私、魔術は使えるんです。ただ、授業で習ったものと違ったので、テストは全然駄目でした。それでも、今、ここで役に立つことは出来ると思うのです」
せっかくシュシュとダギーが連れてきてくれたのだ。ここで戻されたくはない。
両手を組み祈るように頼むと、ハウリーはため息をついた。
「ああもう! 頭が混乱してさっぱりわからない。……だが、今の力は間違いない。ここに残って協力してくれるか?」
「……はい! 嬉しいです! 仮の団員ですが、お役に立てるように、頑張ります!」
「まったく、後で話は聞かせてもらうからな」
じとりとした目で睨まれ、ミシェラは嬉しい気持ちを抑え、神妙な顔で頷いて見せた。
木々の間からは、文字でしか知らなかった生き物が見えた。
遠くからでもその生き物は大きく、存在感を放っている。力強い体に覆われた堅い鱗が光にあたってきらめいて、魔物だというのに神々しさを感じるほどだ。
ドラゴンに惹かれた彼の事が少しわかる。魔物の中でも、圧倒的に美しい。
ドラゴンは大きく口を開けて、激しい炎を吐いた。
見惚れてしまっていたミシェラの肌がじりじりと熱くなり、途端に現実に戻される。こんな大きな魔物と、今、魔法師団が戦っている。
よく見るとドラゴンの周りには、団員たちが集まっていた。しかし、彼らはドラゴンと比べるとかなり小さく、弱弱しく見えてしまう。
ミシェラが見る限り、魔術の盾でドラゴンの炎は二つに割れ、団員たちは無事に炎から守られているようだった。
耐えてほしい願っていると、その盾の中から一人が飛び出し、ドラゴンに鋭い氷の魔術をいくつも放った。
彼の放った氷の矢は、その頑丈な鱗に阻まれつつも、身体の一部を凍らせた。目に見えてドラゴンの動きが鈍くなる。
ハウリーだ。
遠くから見ていても、彼の周りだけキラキラして浮き上がって見える。数倍は大きいドラゴンに対して、怯むことなく攻撃を繰り替えしている。
他の魔術使いも続いて魔術を放っているが、ドラゴンの鱗に弾かれてしまっている。
確かに、圧倒的だ。
「流石、スカイラ師団長よね」
戦いに見入ってしまったミシェラの事を怯えたと思ったのか、シュシュが気楽な口調でにこりと笑いかけてくる。
「今は盾で防いでいるように見えるが、炎は熱い。徐々に皮膚は焦げているし、ドラゴンの爪は強力だ。おびえるのは当然だ。だが、ミシェラの回復は力になる。前線の端で回復だけでもとても助かるんだ、頼む」
ダギーもミシェラを振り返り、肩をそっと叩いた。
「わかりました。でも、大丈夫です」
ミシェラは頷いて、団員が集まっているところに向かっていく。直接話したことはないが、見知った顔ばかりだ。
彼らは皆、真剣な顔でドラゴンを見据えている。
近付くと、ハウリーがドラゴンの頭の上に乗り、氷をまとった剣で攻撃を仕掛けているところだった。下にいる何人かの魔術師が補助の為に足元を攻撃している。あたりはひんやりとした空気に包まれていた。
ドラゴンがうるさそうに、頭をグイっと持ち上げ、炎を吐いた。
反動でハウリーは飛ばされ、あたりはあっという間に灼熱に包まれる。団員が展開した盾に炎は阻まれるが、皮膚がピリピリとする。
ミシェラの距離でこれなのだから、ダギーの言葉通り盾を展開している魔術師の肌は焼け焦げているだろう。
『風よ!』
ハウリーの声が聞こえ、あたりに風が舞った。どうやら飛ばされていたハウリーは、風の魔術をクッションに地面に戻ったらしい。
戦況を確認するようにあたりを見渡した彼は、ミシェラと目があいギョッとする。
「えっ。ミシェラ!? なぜここにいるんだ!」
おろおろと視線をさまよわせながら、ハウリーが近づいてくる。
そんなに動揺して大丈夫なのか心配になってしまう。
「シュシュさんとダギーさんが連れてきてくれたのです。ハウリー様戦いの最中に大丈夫でしょうか」
「全然大丈夫じゃない! 危ないだろう!」
「い、いえ。私じゃなくてハウリー様が大丈夫かという……」
こんなに油断していていいのかという質問のつもりだったけれど、逆に怒られてしまった。
どうしよう、と思っていると上からバキバキと木が折れる音がして、同時にハウリーに抱えられその場から飛び去っていた。
「わー!」
「……ちゃんと周りは見ているから大丈夫だ」
急に宙に浮かんで動揺しているミシェラをぎゅっと抱き寄せ、ハウリーは得意げに笑った。
「伝わっていたのですね。良かった」
「でも、本当に何故ここに居るんだ。救護テントの方にいてくれと言われていたはずだろう」
木の裏の死角に身を寄せながら、ハウリーが眉を寄せる。全身に視線を向けると、大怪我はしていないものの、擦り傷ややけどの跡が見えた。
これは見てもらった方が早いだろう。
魔法陣を展開し、ハウリーの腕にそっと手をのせた。
「魔法陣が見えますか?」
ハウリーは驚きに目を見開きながら、頷く。それを確認し、呪文を唱えた。
ミシェラの心のままに、ハウリーの傷はなくなった。
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「ああもう! 頭が混乱してさっぱりわからない。……だが、今の力は間違いない。ここに残って協力してくれるか?」
「……はい! 嬉しいです! 仮の団員ですが、お役に立てるように、頑張ります!」
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