37 / 49
34
しおりを挟む
第五師団は通常の警護場所がなく、こういうトラブルに向けての団なので、ハウリーを含め団員全員の十五人が参加すると聞いた。
その他に、通常業務から離れても問題がなさそうな十人とミシェラ、二十五人がドラゴンの討伐に当たると説明された。
うち、現場での後方支援は二人だ。
現場で薬を配り応急処置を行い、重症な場合は城まで転移陣で送る役目だ。
ミシェラはシュシュに連れられ、一緒に転移陣で村の近くの森まで来ていた。
周りはばたばたと、厳しい顔でせわしなく動いている。
知っている顔もあるが、声をかけられる雰囲気ではない。ハウリーも忙しそうに部下に指示を出している。
ピリピリとした空気のなか、シュシュが真剣な顔でミシェラの肩を掴んだ。
その手は痛みを感じるほどに強い。
「ミシェラ、あなたは魔術が使えないのだからここから離れては駄目よ。この転移陣の周りには強力な結界が張ってあるから、いくらドラゴンでも入ってこれない。けれど、安全なのはここだけ。出てはいけないわ」
「わかりました」
結界を示す赤い紐が六ケ所、地面につきたてられた棒に結ばれている。ただの赤い紐に見えるが、この棒を媒体に魔法陣を展開しているらしい。
これも、ミシェラが知らない魔術だった。
結界の中には救護用の簡易テントも張ってあり、簡易的な拠点となっている。
結界に関しては専門の結界師というものがいて、魔術使いとは別のジャンルになるらしい。
「私は現場で後方支援をしているから、こちらに来ることもあると思う。頼むわね。ミシェラは怪我人はこわくないかしら」
「大丈夫です。見慣れていますので」
「そう……そうね」
シュシュはミシェラの以前の環境を思い出したのか、眉を下げてミシェラの肩をそっと撫でた。
「ここに回復薬がある。こっちが魔力用、こっちが体力用。自力で飲めなかった場合は体力用のものを振りかけて、出来るだけ傷を治して出血を抑えるようにして」
薬は今まで見たことがなかったので、間違いないように真剣に確認する。ラベルがついているので問題ないとは思うが、何かあったら大変だ。
シュシュが説明をしてくれている間にも、団員が続々と転移してきて、物資も次々と運び込まれていく。
「全員揃ったな!」
ハウリーの声が聞こえ、団員がその前に整列した。ミシェラとシュシュも端に慌てて並ぶ。
ぴしりと揃い手に胸を置いた団員を前に、ハウリーは朗々と通る声で彼らに訴えた。
「今、我らは、ドラゴンという厳しい戦いに立ち向かう事になった。このドラゴンは強敵だが、我らは栄誉ある魔術師団である。我らは、弱きものを守るために立ち上がり、恐れを知らない勇気を持って戦うだろう。一致団結し、最後まで戦い抜き、ドラゴンを倒し、勝利を手に入れるのだ。心を引き締め、自分自身に信じて、この戦いに挑戦しよう! 我らは勇敢な魔術師団であり、今、勝利をつかむために、戦いに出発する!」
ハウリーが手をあげると、団員からはわっと歓声が上がる。
そのままハウリーが率いて、村の方へ向かっていく。
その遠ざかっていく背中を見て、ああ戦いが始まるのだ。じわりと実感する。
今、ここからはドラゴンは見えない。まだ村の近くに降りてきて魔物や動物を狩り、食事をしているところらしい。
遠くからは何かざわめきが聞こえてくるが、それが何を示しているのかはまだわからない。
どうか無事でいてほしい。誰にも痛い思いをしてほしくない。
ミシェラは、不安で逃げ出したくなる自分を抑えるのに必死だった。
その他に、通常業務から離れても問題がなさそうな十人とミシェラ、二十五人がドラゴンの討伐に当たると説明された。
うち、現場での後方支援は二人だ。
現場で薬を配り応急処置を行い、重症な場合は城まで転移陣で送る役目だ。
ミシェラはシュシュに連れられ、一緒に転移陣で村の近くの森まで来ていた。
周りはばたばたと、厳しい顔でせわしなく動いている。
知っている顔もあるが、声をかけられる雰囲気ではない。ハウリーも忙しそうに部下に指示を出している。
ピリピリとした空気のなか、シュシュが真剣な顔でミシェラの肩を掴んだ。
その手は痛みを感じるほどに強い。
「ミシェラ、あなたは魔術が使えないのだからここから離れては駄目よ。この転移陣の周りには強力な結界が張ってあるから、いくらドラゴンでも入ってこれない。けれど、安全なのはここだけ。出てはいけないわ」
「わかりました」
結界を示す赤い紐が六ケ所、地面につきたてられた棒に結ばれている。ただの赤い紐に見えるが、この棒を媒体に魔法陣を展開しているらしい。
これも、ミシェラが知らない魔術だった。
結界の中には救護用の簡易テントも張ってあり、簡易的な拠点となっている。
結界に関しては専門の結界師というものがいて、魔術使いとは別のジャンルになるらしい。
「私は現場で後方支援をしているから、こちらに来ることもあると思う。頼むわね。ミシェラは怪我人はこわくないかしら」
「大丈夫です。見慣れていますので」
「そう……そうね」
シュシュはミシェラの以前の環境を思い出したのか、眉を下げてミシェラの肩をそっと撫でた。
「ここに回復薬がある。こっちが魔力用、こっちが体力用。自力で飲めなかった場合は体力用のものを振りかけて、出来るだけ傷を治して出血を抑えるようにして」
薬は今まで見たことがなかったので、間違いないように真剣に確認する。ラベルがついているので問題ないとは思うが、何かあったら大変だ。
シュシュが説明をしてくれている間にも、団員が続々と転移してきて、物資も次々と運び込まれていく。
「全員揃ったな!」
ハウリーの声が聞こえ、団員がその前に整列した。ミシェラとシュシュも端に慌てて並ぶ。
ぴしりと揃い手に胸を置いた団員を前に、ハウリーは朗々と通る声で彼らに訴えた。
「今、我らは、ドラゴンという厳しい戦いに立ち向かう事になった。このドラゴンは強敵だが、我らは栄誉ある魔術師団である。我らは、弱きものを守るために立ち上がり、恐れを知らない勇気を持って戦うだろう。一致団結し、最後まで戦い抜き、ドラゴンを倒し、勝利を手に入れるのだ。心を引き締め、自分自身に信じて、この戦いに挑戦しよう! 我らは勇敢な魔術師団であり、今、勝利をつかむために、戦いに出発する!」
ハウリーが手をあげると、団員からはわっと歓声が上がる。
そのままハウリーが率いて、村の方へ向かっていく。
その遠ざかっていく背中を見て、ああ戦いが始まるのだ。じわりと実感する。
今、ここからはドラゴンは見えない。まだ村の近くに降りてきて魔物や動物を狩り、食事をしているところらしい。
遠くからは何かざわめきが聞こえてくるが、それが何を示しているのかはまだわからない。
どうか無事でいてほしい。誰にも痛い思いをしてほしくない。
ミシェラは、不安で逃げ出したくなる自分を抑えるのに必死だった。
0
お気に入りに追加
1,191
あなたにおすすめの小説

【完結】人生で一番幸せになる日 ~『災い』だと虐げられた少女は、嫁ぎ先で冷血公爵様から溺愛されて強くなる~
八重
恋愛
【全32話+番外編】
「過去を、後ろを見るのはやめます。今を、そして私を大切に思ってくださっている皆さんのことを思いたい!」
伯爵家の長女シャルロッテ・ヴェーデルは、「生まれると災いをもたらす」と一族で信じられている『金色の目』を持つ少女。生まれたその日から、屋敷には入れてもらえず、父、母、妹にも虐げられて、一人ボロボロの「離れ」で暮らす。
ある日、シャルロッテに『冷血公爵』として知られるエルヴィン・アイヒベルク公爵から、なぜか婚約の申し込みがくる。家族は「災い」であるシャルロッテを追い出すのにちょうどいい口実ができたと、彼女を18歳の誕生日に嫁がせた。
しかし、『冷血公爵』とは裏腹なエルヴィンの優しく愛情深い素顔と婚約の理由を知り、シャルロッテは彼に恩返しするため努力していく。
そして、一族の中で信じられている『金色の目』の話には、実は続きがあって……。
マナーも愛も知らないシャルロッテが「夫のために役に立ちたい!」と努力を重ねて、幸せを掴むお話。
※引き下げにより、書籍版1、2巻の内容を一部改稿して投稿しております

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~
白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。
父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。
財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。
それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。
「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」
覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!


【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します
天宮有
恋愛
私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。
その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。
シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。
その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。
それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。
私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる