【完結】生贄として育てられた少女は、魔術師団長に溺愛される

未知香

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 次の日は城に向かうということで、朝から湯あみをして念入りに準備をした。
 フィアレーが何度も何度も、少しでも隙がないかを確認していた。

 否応なしに緊張が高まる。

 着替えて出てきたハウリーも、ミシェラには話しかけてはいけないレベルのオーラが出ていた。

「準備はできたか、ミシェラ」

 優し気に言うハウリーだが、高位者オーラがすごい。ミシェラは距離を取りたくなる。

 まったく近づいてこないミシェラに、ハウリーは眉を寄せる。

「どうしたんだ、ミシェラ」
「あわわ。話して大丈夫でしょうか。私なんかが近づいていいような気がしないので、少し遠くにいたいです」

 動揺しまくっているミシェラに、ハウリーは笑みを浮かべた。

「ミシェラも完ぺきなお嬢様に見えるよ。さあ、手を」

 そういってハウリーの腕につかまるように促されれば、それはそれで断れるはずもないので、ミシェラはさっと隣についた。

 部屋を出るまではにこやかだったハウリーだったが、廊下に出たとたん表情を消し、少し足早に歩いていく。
 ミシェラは置いて行かれないように、少し急ぎながら隣を歩いた。

「ここだ」

 護衛が二人いる重々しい雰囲気の扉の前で、ハウリーは止まった。そのさらに前に居るフィラッセ師団長が、表面上はにこやかに出迎える。

「お疲れ様です。スカイラ師団長」
「見送り、ありがとうございます。魔力を使っていただくのは申し訳ないので。鍵は自分で開けましょう」

 二人の空気は何故かずっとピリピリしているものの、特に問題なく中に通してくれた。鍵は魔力のようで、ハウリーが扉に手を開けるとゆっくりと開いた。
 中には誰もついてこないようで、荷物を受け取り、二人になる。

「中は流石に入っていい人は限られているんだ。荷物を自分で運ばないといけないのは不便だよな」
「私、なんでも持てますよ! お任せください」
「その細い腕で持ってもらわないといけない位、私は弱そうに見えるのか……?」

 意気込んで言ってみたけれど、一蹴されてしまった。
 二人だからか、ハウリーも少し砕けた雰囲気で、ちょっとうれしい。

「ハウリー様は強そうです。私より大きいです」
「まだまだミシェラには負けないかな」
「成長期は終わりましたが、三食も食べられたら可能性あります。すでに昨日だってかなり重くなった感じがありました」
「それは横に成長する的な話ではないか……?」

 ハウリーは微笑んでミシェラの頭を撫でると、そのまましゃがみこんで手を下に付けた。
 彼が手をつけたところから、白い光が走り、やがてそれは魔法陣の形をとった。

「わぁ……綺麗」

 思わず感嘆の声が出る。地下室で見ていた本では見た事がない形。でも、とても計算された形だとわかる。

 情報がぎゅうぎゅうと詰め込まれているのに、ごちゃごちゃしていない。

 どういう構造なのか知りたくて近づいてみるが、魔法陣自体が部屋に大きく描かれており全体像を見るのは難しかった。

「真ん中に乗って転移するんだ。酔って倒れたら危ない。私に捕まる様に」
「わかりました!」

 ミシェラはしっかりとハウリーの身体に掴まった。

 両腕をまわし、身体を密着させる。
 大きいものにくっつくと安定感がすごい、これで安心だろう。

 ハウリーも転移に緊張しているのか、身体を固くした。

「……いや、いい。気を付けてくれ」

 何故か疲れたような声が聞こえ、視界がぐにゃりとねじれた。

 ※※※※※

「……ミシェラ、大丈夫か?」

 優しげに肩を叩かれ、ミシェラははっとした。

「大丈夫です。でも、何か一瞬……」
「転移で酔ったのかもしれない。でも、意外と元気そうで安心したよ」

 ハウリーにほっとしたように言われ、ミシェラはより元気に見せるためにくっついていた手を離し、ジャンプして見せた。

「ぜんぜん、大丈夫そうです!」
「良かったよ。元気なのはわかったので、外に出るときには神妙な顔をしてくれ」
「……はい」

 失敗だったようだ。
 城ではよりきちんとしていなければいけない。

 ミシェラが失敗すれば、殴られる代わりにハウリーに迷惑をかけるのだ。そちらの方が、ミシェラにはずっと重い事だった。

 入ってきた時と同じような重々しい扉が開く。
 扉の前には、五人ほどの男の人が出迎えのために待っていた。ハウリーが出てくると、そろって礼を取る。

 その中の一人が嬉しそうにこちらに近寄ってきた。ハウリーと同じローブを着ているので魔術師なのだろう。
 ハウリーの前に来ると、ばっと頭を下げる。
 四十代位の、ハウリーよりも年上だろう彼の動きに、ミシェラはびっくりした。

「お戻り、お待ちしていましたスカイラ師団長!」
「出迎えご苦労。マウリゼ」

 マウリゼは声をかけられ嬉しそうに笑った後、後ろを振り返る。

 そこにはハウリーの帰りを待っていた人たちがいた。

 皆が思い思いに声をかけているのを、ハウリーはにこやかに答えている。
 その輪を見ながら、ハウリーが慕われているのをミシェラは感じた。

 ハウリーは敵が多そうな言い方をしていたが、同じぐらい慕われているに違いない。

 少し一緒に居ただけで自分と仲が良いと感じていたが、自分だけじゃなかったのだ、と実感する。
 その事を忘れないようにしなければいけない。

 ミシェラはその輪を遠目で見ながら、じっと自分に言い聞かせた。
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