【完結】生贄として育てられた少女は、魔術師団長に溺愛される

未知香

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 結論から言うと、ミシェラはとても汚れていた。

 お湯につかりながら、髪の毛を洗われたが最初は泡があまりたたなかった。
 ただ、泡がたてば、ミシェラはいいと思っていた。しかし、何度か石けんをつけて流すのを繰り返すと、びっくりするぐらいの泡がたち、ここまで洗うのが正解だと教わった。

「うわーもこもこの泡がすごい! ふわふわだー」

 こんな風に潤沢に石けんを使うことなど初めてで、茶色っぽい泡が普通じゃないことも驚いた。
 身体も同じように何度も繰り返し洗われ、それだけでなく何かいい匂いの油でぐいぐいとマッサージされる。

 細身の彼女のどこにそんな力があったかと思うほどに、痛い。
 傷を治していてよかった。

「はい! これで大丈夫ね。とってもかわいいしいい匂いだわ」

 満足げなフィアリーの声が聞こえた時、ミシェラはすっかりぐったりとしていた。
 それでもそんな風に見せてはいけないとわかっていたので、ぼんやりしながらもお礼を言う。

「ありがとうございました。一人じゃここまで綺麗にできなかったです」
「ふふふ。メイドに敬語は駄目ですよ。」
「ああ! ありがとうフィアレー」

 どこを触ってもつるつるしている。凄い。
 髪の毛からもふわりと花のような香りがする。

 髪の毛を持って匂いを嗅ごうとして、マナーが悪そうなので慌ててやめる。
 そんなミシェラをフィアレーは微笑ましそうに見ている。

「さあ、着替えましょう。短い通信で用意したので、似合うといいのですが」
「ハウリー様に迷惑をかけない格好にしてもらえると、嬉しい」
「もちろん大丈夫ですよ。とても細いのでいっぱい食べてくださいね」
「ありがとう!」

 部屋に戻ると、ハウリーも湯あみが終わって寛いでいるようだった。先程までよりも緩めの服に着替えている。

「ハウリー様、おまたせいたしました」

 驚かせないようにそっとミシェラが声をかければ、ハウリーは目を見開いてミシェラを見つめた。
 ミシェラの後ろではフィアレーが得意げに笑っている。

「これは、随分綺麗になったな……」
「そうですね。もともと可愛いお嬢様でしたが、とてもドレスが似合いますわ」
「これならどこに出しても、問題ないだろう」
「ありがとうございます!」

 ハウリーの合格がもらえたようで、ミシェラは嬉しくなった。

「じゃあ、食事の準備をしてくれ、フィアレー」
「かしこまりました」

 食事は部屋に持ってきて貰え、ハウリーは簡素だと言っていたがミシェラからしたら非常に豪華な温かな食事だった。

 まず温かいだけで凄い。
 それにお肉が入っているのだ。

 先程褒められたマナーだったが、実践不足の為食事に関しては全然駄目だった。
 歓待はさせられるものの、ミシェラを食事に同席させてくれることなどなかったから。

 徐々に覚えればいい、と先ほどとは全然違う事を言ってハウリーは微笑んでくれた。

 マナー本を貸してもらい読まなくては、とミシェラはやることリストを頭の中でつけた。
 幸い、王城では魔術師と認められれば誰でも本を閲覧できるらしい。

 本がたくさんある人間関係に緊張感のある王城とは、どんなところだろうか。

 ハウリーをちらりと見る。
 相変わらず綺麗な顔だ。そしてひと房の白い髪の毛。

 ミシェラの視線に気が付いて、小首をかしげている。

 彼の近くでは恐怖もない、むしろ守られているという安心感がある。すごい。

 急な展開についていけない気持ちもあるが、ミシェラは暖かい紅茶を飲みながらこの幸運に感謝した。
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