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【SIDEハウリー】同じ存在

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「……ミシェラは出来れば私の団に入ってもらいたいと思っている。協力してくれ」

 何気ない口調で告げられた言葉に、シュシュはカッとしてハウリーに詰め寄った。

「あの子は、魔術について全く学んだことがないんですよ! 今更、魔術師団の仕事についていけるはずがないです。それに、スカイラ師団長が自ら教えたいだなんて!」

 シュシュにとって、ハウリーはずっと雲の上の人だった。
 師団長の中でも、実力は飛びぬけていた。

 魔術を使うと圧倒的で、化け物だなんてささやかれることもあったが、それも当然な気がするほどだ。

 それなのに、驕る事もなく誰に対しても優しく気さくだった。ハウリーをあからさまに憎んでいる人にでさえ、笑顔をなくさなかった。

 ハウリーが特別に誰かを可愛がることもなく、そういう意味でもハウリーは平等だった。

 シュシュも、そんな人と話せるだけで嬉しかった。
 それなのに、急に現れた子供を自ら教えて部下にしたいなんて事、咄嗟に受け入れられない。

 初めてみる特別扱いに、シュシュは動揺した。

「あの子供は……きっと、俺と同じだ」

 ハウリーが呟いた言葉が、シュシュには信じられなかった。
 あんな子供が、ハウリーと同じだなんて事があるのだろうか。

 ずっと生贄として育てられ、虐げられ慣れた子供。賞賛され、絶対的な地位を築いている師団長。

 何も共通点を見いだせないまま、シュシュは口を開いた。

「それでも。……周りは、納得しないと思います」
「納得しなくてもいい。だが、魔力が豊富なのは間違いない。回復だって出来ていた。きっと術式を教えれば出来ることは多い。回復にしても彼女に負担がない方法で、皆の役に立つこともできるはずだし、納得も得られる」
「私だって、回復には自信を持っています!」

 シュシュは努力してきた。
 ハウリーに憧れ、彼みたいにはなれないとわかってからも、どれか一つでも認められたくて。
 後方支援は、シュシュが選んだ道だった。

 それを、あの子供にやらせようなどと言うのか。
 感情のまま強い語気になったシュシュを見て、ハウリーはふっと笑った。

「もちろん、そうだ。シュシュが居てくれて助かった場面は数えきれない。誰だってわかっている。今も、これからも頼りにしている」
「……はい」

 ずるい。
 どんな風に言われたとしても、シュシュは笑顔ひとつで許してしまう。それどころか、一転して嬉しくなってしまった。

 なのに、ハウリーがつづけた言葉は、シュシュをずたずたに引き裂いた。

「……彼女を、ほおっておけないんだ」

 下を向いてかすかにはにかんだ彼の顔には、誰に対しても一定の距離を保っていた彼とは違っていた。
 ずっと見てきたシュシュにはそれがわかってしまった。

 シュシュは俯いて、ハウリーを視界から外した。

「……師団長の意見なら、従います」
「ありがとう。シュシュ」

 *****

 集会場に戻ると、心配そうなミシェラが部屋のドアの前で立っていた。団員のダギーが、ミシェラの事を守るようにそっと腕を回している。

 何をくっついているんだ、とハウリーは思わずじっと見てしまう。
 戻ってきた二人に気づいたダギーが指さすと、ミシェラが走って近づいてきた。

「危ない事はなかったですか?」

 眉を下げて心配そうな顔をしたミシェラの頭を、ぐりぐりと撫でる。

 ダギーがミシェラにくっついていたのが一番の危険だった気がした。
 しかし、強い心でそれは黙っておいて、代わりに質問する。

「特に問題は何もなかった。ミシェラ、君の部屋を見てきたが……何か持ってきて欲しいものはあるか?」
「あの部屋に私のものはないので、大丈夫です」

 ミシェラは今何も持っていない。という事は、ミシェラのものは何一つないという事だ。

 ハウリーはミシェラをぎゅっと抱きしめた。

 ミシェラの身体は薄く、小さく簡単にハウリーの腕の中に納まってしまう。
 戸惑ったように少し暴れていたが、しばらくしたら大人しくなった。

「離してあげてください。ミシェラちゃん苦しそうですよ」

 手を離すと、ミシェラは涙目でダギーさんと呟いて、彼の腕に掴まった。

 ハウリーとシュシュが部屋の確認に行っている間に随分なついたようだ。
 腕の中からなくなってしまった存在に、恨めしい気持ちで自分の部下を見た。

「えーざんねん……」
「怯えさせないでください!」

 シュシュに強めに怒られて、ハウリーは仕方なしにミシェラを伴い部屋に入る。

「ミシェラ。明日はちょっと忙しくなるかもしれない。今日はゆっくり寝てくれ」

 ミシェラは戸惑った顔のまま、頷いた。

 今はまだ、彼女はただ保護されただけと思っているはずだ。しかし、状況を伝えて混乱させても仕方がない。
 真っ白な髪の子供。きちんと育てなければ、大変なことになる可能性がある。

 だからだ。
 だから、自分が直接育てるのだ。

 変な言い訳だとわかってはいたが、自分の執着心に関してはそれで納得することにした。
 ハウリーの視線を感じたのか、ダギーはミシェラを隠すように彼女の背中に手をまわした。

「ミシェラちゃん、あっちに行って私とお菓子でも食べようかー」
「おかし、ですか?」

 なんですかそれ、と首を傾げるミシェラを見ながら、ハウリーはそっとため息をついた。
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