【完結】生贄として育てられた少女は、魔術師団長に溺愛される

未知香

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 白い髪の話は……この村だけじゃなかったんだ。

 単純な事に気が付かなかった自分に嫌気がさす。
 もしかしたら、連れて帰って別の場所で回復役をさせられるのかもしれない。

 先程のうれしさが、しゅるしゅるとしぼんでいく。
 自分なんかを心配してくれる人が居たと喜んだ自分が馬鹿みたいな気がして悲しくて、下を向いてぎゅっと耐える。

 理由がないと、優しくされるはずなんてないって、知ってるのに。
 知ってたのに。

 何だか一瞬、自分も普通の人みたいに思えて。
 そんなはずなんて、ないのに。

「……怪我をしている人は、たくさんいるんですか?」

 ミシェラが絞り出すように言ったのに、ハウリーは首を傾げただけだった。

「私達は、怪我はしていない。……何故そんな事を聞くんだ、ミシェラ」

 不思議そうな声に、ミシェラは顔をあげる。そうすると、思いもよらないほどの優しげな顔があった。その意外な反応に、戸惑ってしまう。

「もしかして、さっきの回復で身体が痛いのか?」
「いえ、私は大丈夫です! ただ、魔力が必要なのかと……」
「何故そんな風に思うのだ。魔力なら、私だって持っているし、困っていない」
「えっ。ハウリー様も魔力を……?」

 驚いたミシェラをじっと見たハウリーは、被っていたフードを下げた。

「もしかして……知らないのだろうか」

 その髪色を見た瞬間、衝撃でミシェラの息は止まった。

「髪の毛が……!」
「そうだ。魔力が高くなると髪の毛に白が出る。君の白も、魔力が影響している」

 ハウリーの髪には、青色の中にひと房、白があった。
 心臓の音がどきどきと大きく響く。
 息苦しくて、目の前が暗くなって、何故だか叫びだしそうになった。

 生贄の白。
 どうして、私以外にも?

 手が震える。
 信じて生きてきたものが壊れそうになるような感覚に、どうしていいかわからなくなってしまう。

 諦めていたのに。仕方がないと。

「ミシェラ……!」

 ハウリーが慌てた口調で、ミシェラの事をつよく抱きしめた。
 ふわりと柔らかな肌が触れあたたかい体温に包まれて、少しずつ息が整う。

「他にも……居たんですね、白い髪の毛を持つ人……」

 やっとの事で、ミシェラはそれを口にした。

「そうだ。そのつもりはなかったが、君の事を見つけたんだ」
「……私、あの……わたし」

 パニックになってしまっているのか、まったく考えがまとまらず言葉も出てこない。
 ぐるぐると、白い髪の映像が渦巻いている。

「混乱させてしまった。順序だててきちんと説明すべきだった。大丈夫か」
「師団長。……今日は、美味しいご飯があるのよ。とりあえず食べて、落ち着きましょう。ミシェラちゃん。お話は、また後にしましょうね」

 優しく背中を撫でられ、ミシェラは良くわからないまま、頷いた。

「……そうだな。それがいい。とりあえず食べよう。君はお腹がすいていないか?」

 ミシェラと同じ白い髪を持つ男の声が、優しく響いた。

「やっぱり肉を食べるのがいいかもしれない」

 ミシェラがどうしていいのか迷っていると、いつの間にか隣に来ていたフォークに刺した肉をハウリーが差し出した。
 目の前のいい匂いのするお肉に、思わずミシェラはかぶりついた。
 こんなちゃんとしたお肉ははじめてだ。口の中に広がる脂に、ミシェラは夢中になった。

 ぱくぱくと食べるミシェラを、ハウリーは嬉しそうに見ていたが、夢中になっているミシェラは気が付かなかった。

「おいしい……」
「良かった。好きなだけ食べていいから」

 頭を撫でられ、フォークを渡される。

「難しい話は、また明日にしよう」
「そうね。こんなにお腹がすいていて……。これは一体どういうことなのかしら」
「たくさん食べたら、ゆっくり休んでくれ。また明日話そう、ミシェラ」
「これも美味しいと思う、私は好きだ」
「……はい」

 三人に代わる代わる声をかけられて、ミシェラはきょろきょろとしてしまう。こんなに話しかけられたのは初めてで、どこで答えていいのかわからないうちに話が進む。

 それでもミシェラが頷くと、三人ともに嬉しそうに笑ってくれた。

 こんな風に優しくされる意味が分からなくてハウリーを見たが、にこにこと笑顔を返されるだけだった。

 いったい、なんなんだろう……。
 理由は今はわからない。

 だけど。
 だけど。抱きしめてくれたハウリーの体温は心地いい。ご飯はおいしい。
 ハウリーの視線が、嬉しい。
 シュシュもダギーも気を使ってくれているのがわかる。

 時折頭を撫でられ、食事を勧められるのがくすぐったい。

 こんな気持ちになるのなら、全部が嘘で、生贄だって魔力が必要とされていたって悪くない。

 美味しい食事に温かい人たちに囲まれて、ミシェラは初めての優しさにうっとりとした。
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