【完結】生贄として育てられた少女は、魔術師団長に溺愛される

未知香

文字の大きさ
上 下
7 / 49

7

しおりを挟む
「遅かったじゃないか。何をやっているんだ!」

 急いで村長のもとに向かったが、彼は険しい顔でミシェラを怒鳴った。頬に衝撃があり、よろけてしまう。

 それでも転んだらもっと殴られることがわかっているので、とっさにぐっと力を入れ、なんとか転がる事は避けられた。
 洋服が無事だったことにほっとする。

「ちゃんと綺麗にしてきたな。……腕は細いが、これぐらいならば問題ないだろう」

 よろけるミシェラを冷たい目で見て、彼は乱暴にミシェラの腕を掴んだ。
 そのままひねりあげるように手を持ち上げ、じろじろとミシェラの身体を検分する。

 まるでものを見るような目と乱暴な扱いだ。

 それでも、じっと耐えていると唐突に手を離される。

「ミシェラ。これからお前を客人の前に連れて行く。客人はどこからかお前の事を聞きつけて来たらしい。……必ず余計な事は話さないように。わかったな」
「わかりました」
「何か余計なことを言ったら、わかっているな」
「……はい」

 どうやら今日が生贄になる日ではないようだ。

 客人。

 これはハウリーの事だろう。
 彼が村人じゃないのは間違いないし、調査で来ていると言っていた。

 ……村長に知り合いだとばれたら、大変な事になるだろう。
 今にも弾けそうな怒りをびりびりと感じる。

 ……でも、楽しかったからいいかな。

 手を振ってくれて、心配をしてくれた。
 あのまま生贄になったら知らなかったことだ。

 そういう事が知れたのなら、代償は仕方がない。

 自然と笑みが浮かびそうになり、慌てて真面目な表情を作った。

「行くぞ。ついて来い」

 まったくミシェラを人と思っていない村長の後ろを、ゆっくりと服に気をつけながらついていく。

 目的地は、村長の家の近くにある集会所だった。
 会議や誰かが来て歓待しなければいけないときに使う場所だ。

 ばたばたと忙しそうに出入りしている人が見える。食事を運んでいるようで、美味しそうな匂いがミシェラのもとにも流れてきた。

 お腹がすく匂いだ。今日はまだ食事をとっていなかったのを思い出してしまう。
 いい匂いに、ついついそちらに目が向いた。

 生贄になる前には、せめてお腹いっぱい食べさせてくれたりしないだろうか。

「お前、何をそんなもの欲しそうな顔で見ているんだ」
「い、いえ、そんな事は……」
「まあいい。……失礼がないように、気をつけろ」

 今までいつだって偉そうにしてきた村長が、相手を敬うように言うのが信じられなくて、ミシェラは咄嗟に彼を見た。しかし、その顔はピリピリとした雰囲気を出すばかりで詳細を教えてくれそうもなかった。

 もとより、彼がミシェラの問いに答えることなどないが。

 ハウリーは若そうだったので、彼以外にも偉い誰かが居るのかもしれない。
 そう思いながら、集会所の広間に通される。

 村には不釣り合いなほどの豪華な扉を開けると、広間の奥には三人の人が座って居た。商談にも使っているテーブルがあり、豪華な茶器が並んでいる。
 精一杯の歓待をしている事がうかがえた。

 その真ん中に、ハウリーが座っている。

 豪奢な衣装だけでなく、その雰囲気から、彼がこの場で一番の高位者であることがミシェラにもすぐに分かった。

 あまりに先ほど会った彼と違いすぎて、混乱してしまう。

「ミシェラ頭を下げろ」

 村長に強い口調でささやかれ、慌てて頭を下げる。

 あの明るい声ではなく、静かな、それでいて有無を言わせない声が響く。

「良く来たな。……こちらへ来てお前たちも座ってくれ」
「……わかりました」

 村長は頭をあげて、ミシェラの背に手を当てそっとテーブルの方へ促した。

「ミシェラ、こちらにおいで」

 その初めて受ける村長からの優しく親し気な仕草に、身体がびくりとはねてしまう。
 確かに優しいのに、意図がわからなくて逆に恐ろしい。

 そうして、三人の座るテーブルの向かいに、ミシェラも座った。

 座って近くで見ても確かにハウリーだったが、その冷たい視線は別人のようだ。
 整った顔と相まって、威圧感がある。

 ミシェラを見ても、その顔には何の感情も浮かんでこない。
 まるで初めて会ったかのように。

 ……少し会っただけで、仲良くなれたような気持ちになっていた。

 そんな自分が恥ずかしくなる。
 視線から逃れたくて、下を向いた。

「この子が、そうなのだな」
「はい、そうです。ミシェラと申します。……あの、この子は村に古くから伝わる儀式に参加させる為に、魔術学園には行かせていないのです」
「この白い髪……。下手をすれば、この子供は魔力の暴走で死んだかもしれない。その事は、この辺境の村にでさえ伝わっていると思っていたが」
「……申し訳、ありません。ただ、儀式が終われば、報告させて頂こうとは思っていました。……この村の奥には竜神様が住んでおり、村人たちも怯えて暮らしているのです。この辺境では信仰が驚くほど大事なのです。わかって頂ければ幸いです」

 卑屈な笑みを浮かべながら、村長が言い募る。

 さらっと嘘をつくんだな。
 儀式は生贄で、言葉通り命を捧げるものだと何度もミシェラに言い募ってきたのに。

 村長の言葉を受け、ハウリーは鷹揚に頷いた。

「……とりあえず、いいだろう。ドラゴンについては、今の段階で情報が少なすぎる。信仰についても、尊重したいという気持ちはこちらにもある」

 村長がほっとした顔をしたが、ハウリーはその姿に薄く笑った。

「この件に関して私がなぜ知ったのか、魔術師団とはどういうものなのか、よく考えるように。ミシェラ、君からは別に話を聞かせてもらいたいと思っている。こちらに来てくれ」
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】人生で一番幸せになる日 ~『災い』だと虐げられた少女は、嫁ぎ先で冷血公爵様から溺愛されて強くなる~

八重
恋愛
【全32話+番外編】 「過去を、後ろを見るのはやめます。今を、そして私を大切に思ってくださっている皆さんのことを思いたい!」  伯爵家の長女シャルロッテ・ヴェーデルは、「生まれると災いをもたらす」と一族で信じられている『金色の目』を持つ少女。生まれたその日から、屋敷には入れてもらえず、父、母、妹にも虐げられて、一人ボロボロの「離れ」で暮らす。  ある日、シャルロッテに『冷血公爵』として知られるエルヴィン・アイヒベルク公爵から、なぜか婚約の申し込みがくる。家族は「災い」であるシャルロッテを追い出すのにちょうどいい口実ができたと、彼女を18歳の誕生日に嫁がせた。  しかし、『冷血公爵』とは裏腹なエルヴィンの優しく愛情深い素顔と婚約の理由を知り、シャルロッテは彼に恩返しするため努力していく。  そして、一族の中で信じられている『金色の目』の話には、実は続きがあって……。  マナーも愛も知らないシャルロッテが「夫のために役に立ちたい!」と努力を重ねて、幸せを掴むお話。 ※引き下げにより、書籍版1、2巻の内容を一部改稿して投稿しております

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~

白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。 父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。 財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。 それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。 「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」 覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

処理中です...