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「遅かったじゃないか。何をやっているんだ!」
急いで村長のもとに向かったが、彼は険しい顔でミシェラを怒鳴った。頬に衝撃があり、よろけてしまう。
それでも転んだらもっと殴られることがわかっているので、とっさにぐっと力を入れ、なんとか転がる事は避けられた。
洋服が無事だったことにほっとする。
「ちゃんと綺麗にしてきたな。……腕は細いが、これぐらいならば問題ないだろう」
よろけるミシェラを冷たい目で見て、彼は乱暴にミシェラの腕を掴んだ。
そのままひねりあげるように手を持ち上げ、じろじろとミシェラの身体を検分する。
まるでものを見るような目と乱暴な扱いだ。
それでも、じっと耐えていると唐突に手を離される。
「ミシェラ。これからお前を客人の前に連れて行く。客人はどこからかお前の事を聞きつけて来たらしい。……必ず余計な事は話さないように。わかったな」
「わかりました」
「何か余計なことを言ったら、わかっているな」
「……はい」
どうやら今日が生贄になる日ではないようだ。
客人。
これはハウリーの事だろう。
彼が村人じゃないのは間違いないし、調査で来ていると言っていた。
……村長に知り合いだとばれたら、大変な事になるだろう。
今にも弾けそうな怒りをびりびりと感じる。
……でも、楽しかったからいいかな。
手を振ってくれて、心配をしてくれた。
あのまま生贄になったら知らなかったことだ。
そういう事が知れたのなら、代償は仕方がない。
自然と笑みが浮かびそうになり、慌てて真面目な表情を作った。
「行くぞ。ついて来い」
まったくミシェラを人と思っていない村長の後ろを、ゆっくりと服に気をつけながらついていく。
目的地は、村長の家の近くにある集会所だった。
会議や誰かが来て歓待しなければいけないときに使う場所だ。
ばたばたと忙しそうに出入りしている人が見える。食事を運んでいるようで、美味しそうな匂いがミシェラのもとにも流れてきた。
お腹がすく匂いだ。今日はまだ食事をとっていなかったのを思い出してしまう。
いい匂いに、ついついそちらに目が向いた。
生贄になる前には、せめてお腹いっぱい食べさせてくれたりしないだろうか。
「お前、何をそんなもの欲しそうな顔で見ているんだ」
「い、いえ、そんな事は……」
「まあいい。……失礼がないように、気をつけろ」
今までいつだって偉そうにしてきた村長が、相手を敬うように言うのが信じられなくて、ミシェラは咄嗟に彼を見た。しかし、その顔はピリピリとした雰囲気を出すばかりで詳細を教えてくれそうもなかった。
もとより、彼がミシェラの問いに答えることなどないが。
ハウリーは若そうだったので、彼以外にも偉い誰かが居るのかもしれない。
そう思いながら、集会所の広間に通される。
村には不釣り合いなほどの豪華な扉を開けると、広間の奥には三人の人が座って居た。商談にも使っているテーブルがあり、豪華な茶器が並んでいる。
精一杯の歓待をしている事がうかがえた。
その真ん中に、ハウリーが座っている。
豪奢な衣装だけでなく、その雰囲気から、彼がこの場で一番の高位者であることがミシェラにもすぐに分かった。
あまりに先ほど会った彼と違いすぎて、混乱してしまう。
「ミシェラ頭を下げろ」
村長に強い口調でささやかれ、慌てて頭を下げる。
あの明るい声ではなく、静かな、それでいて有無を言わせない声が響く。
「良く来たな。……こちらへ来てお前たちも座ってくれ」
「……わかりました」
村長は頭をあげて、ミシェラの背に手を当てそっとテーブルの方へ促した。
「ミシェラ、こちらにおいで」
その初めて受ける村長からの優しく親し気な仕草に、身体がびくりとはねてしまう。
確かに優しいのに、意図がわからなくて逆に恐ろしい。
そうして、三人の座るテーブルの向かいに、ミシェラも座った。
座って近くで見ても確かにハウリーだったが、その冷たい視線は別人のようだ。
整った顔と相まって、威圧感がある。
ミシェラを見ても、その顔には何の感情も浮かんでこない。
まるで初めて会ったかのように。
……少し会っただけで、仲良くなれたような気持ちになっていた。
そんな自分が恥ずかしくなる。
視線から逃れたくて、下を向いた。
「この子が、そうなのだな」
「はい、そうです。ミシェラと申します。……あの、この子は村に古くから伝わる儀式に参加させる為に、魔術学園には行かせていないのです」
「この白い髪……。下手をすれば、この子供は魔力の暴走で死んだかもしれない。その事は、この辺境の村にでさえ伝わっていると思っていたが」
「……申し訳、ありません。ただ、儀式が終われば、報告させて頂こうとは思っていました。……この村の奥には竜神様が住んでおり、村人たちも怯えて暮らしているのです。この辺境では信仰が驚くほど大事なのです。わかって頂ければ幸いです」
卑屈な笑みを浮かべながら、村長が言い募る。
さらっと嘘をつくんだな。
儀式は生贄で、言葉通り命を捧げるものだと何度もミシェラに言い募ってきたのに。
村長の言葉を受け、ハウリーは鷹揚に頷いた。
「……とりあえず、いいだろう。ドラゴンについては、今の段階で情報が少なすぎる。信仰についても、尊重したいという気持ちはこちらにもある」
村長がほっとした顔をしたが、ハウリーはその姿に薄く笑った。
「この件に関して私がなぜ知ったのか、魔術師団とはどういうものなのか、よく考えるように。ミシェラ、君からは別に話を聞かせてもらいたいと思っている。こちらに来てくれ」
急いで村長のもとに向かったが、彼は険しい顔でミシェラを怒鳴った。頬に衝撃があり、よろけてしまう。
それでも転んだらもっと殴られることがわかっているので、とっさにぐっと力を入れ、なんとか転がる事は避けられた。
洋服が無事だったことにほっとする。
「ちゃんと綺麗にしてきたな。……腕は細いが、これぐらいならば問題ないだろう」
よろけるミシェラを冷たい目で見て、彼は乱暴にミシェラの腕を掴んだ。
そのままひねりあげるように手を持ち上げ、じろじろとミシェラの身体を検分する。
まるでものを見るような目と乱暴な扱いだ。
それでも、じっと耐えていると唐突に手を離される。
「ミシェラ。これからお前を客人の前に連れて行く。客人はどこからかお前の事を聞きつけて来たらしい。……必ず余計な事は話さないように。わかったな」
「わかりました」
「何か余計なことを言ったら、わかっているな」
「……はい」
どうやら今日が生贄になる日ではないようだ。
客人。
これはハウリーの事だろう。
彼が村人じゃないのは間違いないし、調査で来ていると言っていた。
……村長に知り合いだとばれたら、大変な事になるだろう。
今にも弾けそうな怒りをびりびりと感じる。
……でも、楽しかったからいいかな。
手を振ってくれて、心配をしてくれた。
あのまま生贄になったら知らなかったことだ。
そういう事が知れたのなら、代償は仕方がない。
自然と笑みが浮かびそうになり、慌てて真面目な表情を作った。
「行くぞ。ついて来い」
まったくミシェラを人と思っていない村長の後ろを、ゆっくりと服に気をつけながらついていく。
目的地は、村長の家の近くにある集会所だった。
会議や誰かが来て歓待しなければいけないときに使う場所だ。
ばたばたと忙しそうに出入りしている人が見える。食事を運んでいるようで、美味しそうな匂いがミシェラのもとにも流れてきた。
お腹がすく匂いだ。今日はまだ食事をとっていなかったのを思い出してしまう。
いい匂いに、ついついそちらに目が向いた。
生贄になる前には、せめてお腹いっぱい食べさせてくれたりしないだろうか。
「お前、何をそんなもの欲しそうな顔で見ているんだ」
「い、いえ、そんな事は……」
「まあいい。……失礼がないように、気をつけろ」
今までいつだって偉そうにしてきた村長が、相手を敬うように言うのが信じられなくて、ミシェラは咄嗟に彼を見た。しかし、その顔はピリピリとした雰囲気を出すばかりで詳細を教えてくれそうもなかった。
もとより、彼がミシェラの問いに答えることなどないが。
ハウリーは若そうだったので、彼以外にも偉い誰かが居るのかもしれない。
そう思いながら、集会所の広間に通される。
村には不釣り合いなほどの豪華な扉を開けると、広間の奥には三人の人が座って居た。商談にも使っているテーブルがあり、豪華な茶器が並んでいる。
精一杯の歓待をしている事がうかがえた。
その真ん中に、ハウリーが座っている。
豪奢な衣装だけでなく、その雰囲気から、彼がこの場で一番の高位者であることがミシェラにもすぐに分かった。
あまりに先ほど会った彼と違いすぎて、混乱してしまう。
「ミシェラ頭を下げろ」
村長に強い口調でささやかれ、慌てて頭を下げる。
あの明るい声ではなく、静かな、それでいて有無を言わせない声が響く。
「良く来たな。……こちらへ来てお前たちも座ってくれ」
「……わかりました」
村長は頭をあげて、ミシェラの背に手を当てそっとテーブルの方へ促した。
「ミシェラ、こちらにおいで」
その初めて受ける村長からの優しく親し気な仕草に、身体がびくりとはねてしまう。
確かに優しいのに、意図がわからなくて逆に恐ろしい。
そうして、三人の座るテーブルの向かいに、ミシェラも座った。
座って近くで見ても確かにハウリーだったが、その冷たい視線は別人のようだ。
整った顔と相まって、威圧感がある。
ミシェラを見ても、その顔には何の感情も浮かんでこない。
まるで初めて会ったかのように。
……少し会っただけで、仲良くなれたような気持ちになっていた。
そんな自分が恥ずかしくなる。
視線から逃れたくて、下を向いた。
「この子が、そうなのだな」
「はい、そうです。ミシェラと申します。……あの、この子は村に古くから伝わる儀式に参加させる為に、魔術学園には行かせていないのです」
「この白い髪……。下手をすれば、この子供は魔力の暴走で死んだかもしれない。その事は、この辺境の村にでさえ伝わっていると思っていたが」
「……申し訳、ありません。ただ、儀式が終われば、報告させて頂こうとは思っていました。……この村の奥には竜神様が住んでおり、村人たちも怯えて暮らしているのです。この辺境では信仰が驚くほど大事なのです。わかって頂ければ幸いです」
卑屈な笑みを浮かべながら、村長が言い募る。
さらっと嘘をつくんだな。
儀式は生贄で、言葉通り命を捧げるものだと何度もミシェラに言い募ってきたのに。
村長の言葉を受け、ハウリーは鷹揚に頷いた。
「……とりあえず、いいだろう。ドラゴンについては、今の段階で情報が少なすぎる。信仰についても、尊重したいという気持ちはこちらにもある」
村長がほっとした顔をしたが、ハウリーはその姿に薄く笑った。
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