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ろうそくの明かりだけの薄暗い部屋で、ミシェラは這いつくばって痛みをこらえている。
胸がぎゅうぎゅうと締め付けられるような痛みは、いつもの事ながら慣れるものではない。
涙が出るが、それを拭う力も気力も、もう、ない。
ただ、歯を食いしばって耐えるだけだ。
ここは村のはずれの森の近くの小屋で、周りは民家もなく人通りもない。
ミシェラがいくら喚いたところで、誰かが助けてくれることなどない事は、もうとっくに知っていた。
たとえ声が聞こえたところで、それは同じだった。
それどころか、彼らはミシェラが弱ることに関しては歓迎している。
「大分髪も長くなってきた。生贄としてもそろそろ十分じゃないか?」
「そうだな。何度も死にかけたし、きっと魔力も十分育っただろう」
それを証明するように、床に転がっているミシェラを見ながら三人の男は頷いた。
声を潜めてぼそぼそと会話をしている。
今日はこの三人がミシェラの担当なのだろう。自分に目を向ける彼らを、ミシェラは地面に這いつくばったまま見上げた。
彼らのその視線は良く育った家畜を見るように、満足げだ。
死に近くなればなるほど、魔力は増えるものらしい。
「……この書類も、あまり出来が良かったとは言えない。もっと罰を与えた方がいい」
残りの一人がろくでもないことを言いだす。
書類の出来など、文字すら読めないこの男たちにわかるはずがないのに。
でも、今日の担当にこの男が混ざっていた事から、わかっていたことだ。
にやりとミシェラの事を見下ろす五十ぐらいの男は、何度もミシェラの事を痛めつけてきた。
誰にも会わない中での手仕事や書類仕事を確認し、大げさに悲しい顔をしてみせるのだ。
これではだめだ、と。
ため息をつきながら村の為だと言い訳をして、罰と称した暴力をふるう。
その目に愉悦が覗くのを、隠しきれもせずに。
男がにやけた顔を隠しながら、こちらに近づいてくる。男の手がぐいっとミシェラの顎を掴んだ。
これから起こる事を想像して、もう怖がりたくないと思っているのに、とっさに身体が動いてしまう。
後ろ手に縛られている縄が、動いたために余計に締め付けられ痛い。
自分を誤魔化すように彼は早口で呟いた。
「死にかかるのはつらいだろうが、いい生贄になる為に、頑張ってくれよ。今年は不作だし、魔物の数も多い。竜神様に祈りをささげる必要がある可能性が高い。お前だけで満足してもらえるよう、出来るだけ魔力は増やしてもらわないと。なあ、お前ら」
「……そう、だよな。今年は特にやばい。魔物が村まで下りてくる頻度が高くなってる。竜神様が、飢えているのかもしれない。お前で満足できなければ、俺たちだって……」
変態とは違って、痛めつける事には抵抗がある男もその言葉に頷いた。
……別に、死にかかっても魔力が増えた感覚はないけど。
そう心の中で呟いたところで、誰にも伝わらない。
もう、何も考えたくなくてミシェラはぎゅっと目を瞑った。
胸がぎゅうぎゅうと締め付けられるような痛みは、いつもの事ながら慣れるものではない。
涙が出るが、それを拭う力も気力も、もう、ない。
ただ、歯を食いしばって耐えるだけだ。
ここは村のはずれの森の近くの小屋で、周りは民家もなく人通りもない。
ミシェラがいくら喚いたところで、誰かが助けてくれることなどない事は、もうとっくに知っていた。
たとえ声が聞こえたところで、それは同じだった。
それどころか、彼らはミシェラが弱ることに関しては歓迎している。
「大分髪も長くなってきた。生贄としてもそろそろ十分じゃないか?」
「そうだな。何度も死にかけたし、きっと魔力も十分育っただろう」
それを証明するように、床に転がっているミシェラを見ながら三人の男は頷いた。
声を潜めてぼそぼそと会話をしている。
今日はこの三人がミシェラの担当なのだろう。自分に目を向ける彼らを、ミシェラは地面に這いつくばったまま見上げた。
彼らのその視線は良く育った家畜を見るように、満足げだ。
死に近くなればなるほど、魔力は増えるものらしい。
「……この書類も、あまり出来が良かったとは言えない。もっと罰を与えた方がいい」
残りの一人がろくでもないことを言いだす。
書類の出来など、文字すら読めないこの男たちにわかるはずがないのに。
でも、今日の担当にこの男が混ざっていた事から、わかっていたことだ。
にやりとミシェラの事を見下ろす五十ぐらいの男は、何度もミシェラの事を痛めつけてきた。
誰にも会わない中での手仕事や書類仕事を確認し、大げさに悲しい顔をしてみせるのだ。
これではだめだ、と。
ため息をつきながら村の為だと言い訳をして、罰と称した暴力をふるう。
その目に愉悦が覗くのを、隠しきれもせずに。
男がにやけた顔を隠しながら、こちらに近づいてくる。男の手がぐいっとミシェラの顎を掴んだ。
これから起こる事を想像して、もう怖がりたくないと思っているのに、とっさに身体が動いてしまう。
後ろ手に縛られている縄が、動いたために余計に締め付けられ痛い。
自分を誤魔化すように彼は早口で呟いた。
「死にかかるのはつらいだろうが、いい生贄になる為に、頑張ってくれよ。今年は不作だし、魔物の数も多い。竜神様に祈りをささげる必要がある可能性が高い。お前だけで満足してもらえるよう、出来るだけ魔力は増やしてもらわないと。なあ、お前ら」
「……そう、だよな。今年は特にやばい。魔物が村まで下りてくる頻度が高くなってる。竜神様が、飢えているのかもしれない。お前で満足できなければ、俺たちだって……」
変態とは違って、痛めつける事には抵抗がある男もその言葉に頷いた。
……別に、死にかかっても魔力が増えた感覚はないけど。
そう心の中で呟いたところで、誰にも伝わらない。
もう、何も考えたくなくてミシェラはぎゅっと目を瞑った。
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