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2巻
2-3
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「なぜ魔王の元にあるはずの剣を、貴方が所持しているのです?」
ここはバカ正直に話さず誤魔化しておくのが吉だろうな。
「いやさ、道歩いてたら魔王の部下っぽいやつに襲われたんだ。で、そいつが所持してたのがこの剣で」
「嘘ですね。魔王が一部下に聖剣を預けるとは思えません」
ですよねー。簡単に信じてくれるほど純真なわけないか。
「まさか貴方…………」
あ、まずいパターンだこれ。
俺が魔王倒したのがバレてしまう。
そしてなし崩し的に邪竜だということまで暴かれて……、みたいな。さすがに邪竜だとバレたら、この町で生きていくことは困難になる。
ここは巧みな嘘を考えろ。
簡単だ。昔はよくやっていた。町で偶然再会した中学時代の同級生に「おれ今度結婚するんだぁ」と幸せいっぱいの笑顔で告げられたあのとき、俺はなんて返した?
「やっと俺のステージに来たか。嫁といい関係を築くコツはよ。親しき仲にも礼儀あり、だからな?」
みたいなことを抜かしたんだ。
無論、俺の中での嫁とはゲームキャラのことを指す。
なんであれ、今は説得力のある嘘を考えよう。
……毒沼に落ちてた、魔王からプレゼントされた、泉にボロ剣落としたら女神が出てきてもらった、凄まじくダメダメじゃねえか。
俺が答えを出せないでいると、ラステラが眉間にシワ寄せて問うてくる。
「まさか貴方…………。魔王なのでは?」
そっちかい!
◇ ◆ ◇
俺が魔王?
まさかその疑いをかけられるとは思わなんだ。
でも魔王を見たことがなければ、そう考えても不思議はないのか。
でも、あんな偉ぶっただけのオッサンと勘違いされるのはゴメンだ。
「おいおい俺が魔王なわけないだろ。本当にこれは魔王の手下から奪ったんだって。かなり強いやつだったから、将来の魔王候補とかだったのかもな。聖剣も預けたくなるわ」
「むぅ、しかし」
「仮に俺が魔王だとしたらだよ、腕相撲で稼ぐみたいなあんなチンケな商売する? この聖剣使って金持ち襲ったほうがよっぽど儲かるよ」
「ご主人様が危険な魔王であるはずがないです!」
その通りだイレーヌ。ご主人様が魔王なはずないよな。でも、もっと危険な邪竜だという事実は頭から抜けちゃったかな?
「それもそうですね……。たとえ変装していたとしても邪悪な気は隠せないでしょう。ジャーからはそのような気は感じません」
「信じてくれたか」
「ええ。それにしてもその聖剣、触れた瞬間に解除魔法を発動させるのですね。さすが聖剣です」
「まぁ、な」
「魔法で剣と筋力を強化する私とは、相性が非常に悪いです」
さすが魔王のコレクションってことなのか。神器十選とか凄そうなネームつけられるだけはあるな。
ラステラの剣を受けた際、二撃目から攻撃力が落ちたと感じたのは、一撃目をガードしたときに剣魔法を解除してたためと。
「ですが、勝負はまだ終わったわけではありません」
ラステラの瞳からは闘志が消えるどころかより溢れ出している。魔法頼みで生きてきたわけじゃない証拠だ。
いいね、こういう威勢のいい女は嫌いじゃない。
「ちょっと卑怯くさい気もするが……、俺も遠慮せずいかせてもらうわ」
「今までのは様子見と?」
「どんな戦い方するのか興味あったからな」
「……自慢ではありませんが、私はこれまで一度として男性に負けたことがないのです。たとえ魔法なしでも」
「俺がおまえの初めての男になるってわけか」
「……イヤらしい言い方ですね」
悪いな! 実は下ネタも込めたセリフだってのは否定できないぜ。
ともあれ、遊びはお仕舞いのようだ。
あくまでラステラは攻勢に徹するらしい。大剣を高く掲げながら疾駆してくる。野生生物みたいな俊敏さだ。重い鎧を身につけてこれなのだから、元々の筋力も大したものなんだろう。
ブレなく真っ直ぐに振り下ろされる大刃を俺は側転でかわした。
一拍遅れて巻き起こった風が肌に当たるが、気にせず反撃に転じる。
深く踏み入り一閃。
「クッ」
ラステラは持ち前の反射神経によってこれを紙一重で回避するが、俺の攻撃はまだ終わったわけじゃない。
宙で前転しながら剣を振り下ろす。カキンと金属衝突音が鳴ったところで着地。すぐさまラステラの胸を踏み台にして再び宙に舞う。
上空より剣の雨を降らす。幅広の剣身を盾のようにしてラステラはこれをガード。俺が地面に帰ると、同時に突きを繰り出してきた。
おっと。
俺は突きに合わせてジャンプすると、伸びきった大剣を足場にした。
「なんと身軽な……!?」
大剣の上を移動し、驚愕するラステラの顔面に蹴りを入れる。ゴッと骨にぶつかる鈍い音。
このとき、俺は改めてラステラって女をすごいやつだと思った。なぜかって、のけぞりながらも大剣を滑らせてきたからだ。
しかも狙いは首筋を的確に捉えている。
といっても、踏ん張りが利かない状態からではいくら怪力剣といえど脅威じゃない。
下から打ち上げて軌道を上に逸らす。
身軽な……、とラステラはさっき口にしたが、俺の剣術のベースは、軽快な動きで相手を翻弄するクロエのものだ。
あいつは俺が一番手合わせした相手だし、何より優秀だった。
けど、やっぱり違う人間である以上動作の完全コピーは難しい。何より弱点まで真似しちまうから良くない。
そこで俺はクロエをベースに、他の優秀だった剣士なんかの技術を取り込んでいる。
ま、見よう見まねってやつだな。でも肉体スペックが高いからか、思いの外上手くいっているようだ。
俺は肩を固定し、肘から先を忙しく動かして高速の剣突きを繰り出す。
奔流のごとき無数の剣閃がラステラを追い立てる。
怒濤の勢いで鎧と剣がぶつかり合い、火花が散る。ラステラが一歩二歩と後退。目で捉えきれぬほどの速度で押し寄せる剣量に、表情からは余裕が消え失せ、防戦一方と化す。
音速剣。
これの使い手はそう呼んでいた。
……そろそろいいだろう。
俺は腕を止め、回し蹴りでラステラの手を弾く。柄が手の内から逃げ、大剣が庭に寝そべる。
あとは切っ先をラステラに突きつけて試合終了だ。
「参りました……」
往生際がよくて助かった。ここで負けを認めてくれないと気絶コースになるからさ。
俺はさっさと剣を収めるとガルバスに視線を送った。
口をぽかんと開けてないで、勝利宣言よろしく頼むよ?
「あ、ああと、うむ、ジャーの勝利だ」
そして場に満ちる沈黙。なんでだ。盛り上がるところだと思うんだけど。
「お見事でした、ご主人様っ!」
おお、イレーヌだけは平常運転で助かる。他のやつらの目つきときたら魔物を見るソレだから尚更。ガルバス、ルシル、ラステラがそれぞれ感想を述べる。
「これほどの剣士、見たことがないな……」
「ちょ、えぇぇ、どうなってる……わ……け。ジャーってあんな強いの……」
「完敗です。……完敗です」
ラステラなんて片膝ついて鼻血出してるからな。ちとやりすぎちまったかも。けど相当な使い手だし、中途半端にやってこちらが怪我するのも困るしな。
「とりあえず合格ってことでいいか?」
「無論だ。むしろ頭を下げてでも同行願いたいくらいだ」
そこへ、タイミングが良いのか悪いのか、ゲイルが屋敷から戻ってくる。
「ラステラ、もう勝負はついたんだろ!?」
「……完敗、でした」
「完敗!? ケハハハハ、あいつやっぱり手も足も出なかったのかよ! ウケる、ウケるぜぇええ!!」
「ゲイル、何を勘違いしているのですか。完敗したのは私のほうです」
「ハァ? ラステラ、おまえ冗談言うキャラだったか?」
「冗談ではないぞゲイル。俺もこの目でしかと見届けた」
「…………団長、ありえねえよ、そんなの。ラステラだぜ?」
「俺、おまえ、ラステラの三人がかりでどうにか相手になるかといったところだ」
「う、う、嘘だ、んなわけねええ!! さ、細工だ、なにか細工しやがったんだろうテメエ!」
今日試験やると知らされたのに、なにをどう細工できるのか、小一時間問いつめたいもんだ。
ゲイルはそのあともギャーギャーと五月蠅かったが、ガルバスにゲンコツをもらってようやく大人しくなった。
俺もイレーヌも無事合格したので、あとは思う存分ダラけよう。
◇ ◆ ◇
「今日は集まってくれて感謝するよ。君たちの勇気を称して、乾杯」
「「「「乾杯!」」」」
屋敷内の一室。
フォード・リモワール・ストライト公爵が乾杯の声を上げると、他の人間たちが唱和した。
俺たち試験の合格者とガルバスたちは、昼食をご馳走になるところだった。
やたら長いテーブルの上座に居るのが、優男風のフォード公爵。四十半ばらしいが、二十代後半の美青年にしか見えない。
ルシルの親だから納得だが、若すぎる。エルフかと思っちまうよ。
イレーヌが嬉しそうに俺に話しかけてくる。
「ご主人様、おいしいですね」
「だよなー。ザ。金持ちって感じだわ」
パン、肉、スープ、葉物野菜とコーンのサラダ、魚、煮物らしきもの、ワイン、そしてデザートのゼリーと、種類も豊富な料理の数々が目の前に並んでいる。
部屋も豪奢で広く、調度品もいちいち高そうなものばかり。さすが領主なだけはある。
「ねえお父様、ジャーったらすごいのよ。ラステラに勝ってしまったんだから」
「信じられないね……。ラステラは王宮騎士と比べても、何らひけを取らないというのに」
「うちの兵団にスカウトしたらどうかしら?」
「そうだね。ジャー君といったね、うちで働いてみる気はないかい? もちろん待遇についてはできる限りのことはするが」
せっかくのお誘いだが、俺の答えは決まってる。
「悪いな。兵士になるつもりはないんだ」
「こらテメエ!! フォード様に向かってなんて口の聞き方だ!」
ここぞとばかりにゲイルが怒鳴る。今にも手にしたフォークを投げつけてきそうだ。
「いいんだよゲイル。僕も堅苦しいのは好きじゃないし。ジャー君には自然体でいてもらいたい」
「そう言ってもらえると助かる」
「スカウトの件は、気が変わったらいつでも言ってほしい。君なら大歓迎だよ」
「わかった」
俺と公爵がさわやかにトークを繰り広げていると、なにやらルシルがもじもじとし出す。どうやらお願い事があるらしい。
「ねえお父様、あたしも魔法部隊に参加していいでしょう?」
「何回もダメだと言ったはずだよ」
「どうして? あたしはもう十七よ。魔法だって学校でもトップクラスだし、その辺の魔術師にも劣らないわ」
よほど自信があるのか、ルシルは胸を張って主張する。一方、フォード公爵は額を押さえて嘆息している。
そりゃいくら優秀でも、自分の娘を討伐には行かせたくないだろう。
普通の親の感覚だ。
しかしルシルはとにかく粘る。あの年頃はいろんなことに興味がある。父親も楽じゃないよな。
「ルシル、君が邪竜に夢中なのは知っているよ。邪竜に助けてもらったという話も信じている。でもね、だからといって竜族に味方意識を持つのはよくない」
ちょい待った。邪竜って俺?
ルシルを助けたことなんてあったっけか…………。あっ!? もしかしてあのときの!
以前、峡谷で迷子になっていたスライムたちを保護してくれていた少女!
強い既視感の原因はそれだったらしい。そういや、あのウェーブがかかった髪には見覚えがある。
しかしまあ、二年でそこそこ成長したもんだなー。妙な懐かしさを感じてしまう。そしてこのあと判明したのだが、俺はラステラたちとも面識があったらしい。
以前、森に大所帯の討伐隊がやってきたことがあったのだが、それがこの兵団だったと。団名は「月夜の一剣」だそうで。
一剣どころか軽く百剣はいた気がしたけどよ。
縁ってやつを感じずにはいられない。
もっとも、兵団のほうはボコボコにして追い返しちゃったんだけど。
「お父様、あたしだって竜はみんな友達なんて思ってないのよ。むしろ真銀光竜様以外の竜は超危険だって思ってるの。人を襲うなら討伐するのだって抵抗はないわ。あたしは純粋に、この力をみんなのために使いたいの!」
「そうは言っても」
「あたしはもっと見識を広めたいの。貴族だからってずっとお屋敷の中で、お茶やお喋りばっかりの人生なんて御免だわ! 世界にはもっと面白いことがたくさんある。生まれたからにはそういうのに触れていきたいのよ、お父様!」
「……面白いこと以上に、危険なことは多いんだよ」
「承知の上よ。それで死ぬなら本望。それに今回はジャーだっているから、ずっと楽に戦えるはず」
「ジャー君か……、そうだね。それならラステラをルシルの護衛に回せるか。火力が落ちる分はジャー君に補ってもらう。問題はあるかい、ガルバス?」
「ないと思われます」
「ハァ……、ルシル、絶対に無理はしないと約束しておくれ」
「ありがとう、だからお父様って大好き!」
ルシルが満面の笑みでフォード公爵に抱きつく。あそこまで熱心に言われたら、父も折れるしかないだろう。
どうも俺の役割と負担がどんどん肥大化していってる気がするがね。
「みんな、力を合わせて頑張りましょうね!」
まるで修学旅行前の中学生だ。
日常から離れることに多分な幻想を抱いているのかもな。
好きなあの子とのイベントが起きるかも、すばらしい出会いがあるかも、なにか問題が起こっても自分が華麗に解決しちゃうかも。そう夢見てみんな旅行に出るもんだ。
そして知る。
現実ってつまらんなと。確かに旅に出るとイベントは起きやすいんだけどさ。
好きなあの子が他の男とくっついたり、地元の不良にカツアゲされたり、財布盗難事件が起きて自分のせいにされたりとかよ。
全部いっぺんにやってきて涙したあの日が懐かしいぜ、ちくしょう。
いいかい、ルシル。人生ってのは予想外のことが多く起きるもんだ。特に悪いことがな。
気をつけてくれ。
5 竜式魔法と友達
試験の翌々日、下位竜討伐隊はグリザードを出発した。
特攻隊、補助隊、防衛隊、弓隊、魔法隊からなる総勢約五十名が参加している。山村は歩いて三日ほどの場所にあるとのこと。
本来なら物資、魔物移送用の荷馬車なども必要なのだが、今回は用意していない。なぜかっていうと、出発の前に俺が――。
「食い物とか矢、あと解体した竜って俺の黒袋で足りる気がするんだけど?」
と発言しちゃったからだ。
黒袋は魔王を倒したときに手に入れたもので、大量の物質を収納できるという便利な袋だ。しかも前に試したことがあんだけど、入れた物が劣化しないのだ。温かいまま食事を保存しておけば、ホクホクのまま味わえる。
聖剣並みにレアで、これは魔道具というやつらしい。
ともあれ、そういった経緯で、今回は物資係の出番がなくなった。
経費削減できるとフォード公爵は喜んでいた。俺には追加で報酬が出るらしいので、ウィンウィンの関係というやつか。
道中は思ったより退屈しなかった。
というのも、移動初日からルシルに魔法の基礎知識を習うことになったのだ。休憩所では魔法を出すところを直接見せてもらった。俺の目の前で渦を巻くような火柱が上がる。
「すげえー」
「火属性の魔法ね。大魔法だから結構難しいけど」
「俺もできるようになる?」
「魔力はあるのよね。適性属性は調べた?」
「調べ方すらわからんっていう」
「でしょうね。そう思ってこれを用意しておいたわ」
ルシルは得意げにザラ半紙のようなものを出す。
「マジックペーパー改っていって魔力を流すだけで適性がわかるの。これは精度の高い高級なやつよ」
マジックペーパーには二種類あるらしい。普通のと改と。
普通のは安価で一般的だけど精度があんまり良くないみてえ。水属性持ちなのに氷属性持ち、と出てしまったりするようだ。
大ざっぱにしかわからないのだろう。その点、この改は高価だけど診断はきっちりしてくれる。
「お小遣いから買ってあげたんだから感謝しなさいよ」
「ありがたやーありがたやー」
「ふふん。そうそう、素直ねジャーは」
「神様仏様、早く試してみたいんだが?」
「じゃあ紙に魔力を流してみて」
「まず流すコツから教えてくれ」
「さっき教えた読魔よ。魔力を感じたらそれらを指先に集めるイメージ」
ちなみに魔法ってのは、読魔、色選、創像、射放の段階を経て発動するとのこと。
さっそく目を閉じて神経を集中させると、体の奥深くに温かい力が巡っている感じが確かにしてきた。これが魔力ってやつなのかな。
血液が循環するように、温かさが指へと流れていくところを想像する。
「出たわよ」
目を開ける。半紙に文字が浮かび上がっていた。
ルシルがそれを読み上げていく。
「火、風、土、雷、氷、暴爆、無、光……、計八属性。…………八属性っ!?」
くわっと目を開くルシル。乙女の顔じゃねえよそれ。
「八属性ってはあああ!?」
「多いの?」
「お、お、す、ぎぃ! 信じられないレベルよ。多くたって四、五属性がせいぜいなのに」
「ルシルはいくつある?」
「火、水、土、闇よ」
「四か、けっこう多いじゃん」
「ほら、あたしって天才系? だから」
「ほーん」
「なによその目ぇ! 自分がもっと天才だって言いたそうねっ」
別に思ってないのにルシルが勘違いしてムクれる。感情の動きが激しいあたり、思春期真っ盛りって感じだな。
「でも、あたしたち似てると思うの。武器魔法使えないあたりとか」
「あぁ、剣魔法はねえのか俺」
「あんなに凄いのにね。武器魔法は後天的なもので、幼い頃から慣れ親しんでいると覚えやすいの。ラステラの大剣、ガルバスの盾、イレーヌの弓みたいにね」
幼い頃からか。だとすると、日本人で剣魔法の才能あるやつなんていなさそうだな。せいぜい小さい頃から刃物触りまくってるヤーサンの子ぐらいか。
ポン刀魔法とか存在したら笑っちゃうわ。
「思ったんだけどよ、属性が多くても色選? が必要になるから、一属性のやつのほうが発動早くないか?」
「そう。しかも一芸特化でレベルの高い魔法を使える可能性が高いのよ。必ずしも器用なのがいいとは限らないわね」
器用貧乏はアウトと。
「試しに火炎球を撃ってみたら? お手本見せてあげるから」
ルシルは杖先に炎の球体を出現させ、それを上空へ飛ばす。基礎中の基礎の魔法とはいえ、魔法発動までがかなり早い。ルシルはやっぱり相当な使い手らしい。
いい師匠に当たった俺は運がいいな。
「これでイメージは完璧でしょ? やってみて」
ええとまず読魔だっけ。温かくも力強い魔力を認識する。
次が……、魔法イメージの創像だよな? 今実際に見たばっかだから、これは比較的簡単だ。
あと、俺は小説なんかも好きだったので、想像妄想の類は得意である。
ここまで終えると、ついに最終段階に入る。
魔力を人差し指の先っぽに集めていく。どんどん魔力が貯蓄されていくのは感じる。……けど、どのタイミングで放てばいい?
魔法によって適切な魔力量が存在し、それを外すと上手く発動してくれない。ここは経験と練習でどうにかするしかないが、俺の場合経験がない。
まあいいや。
とりあえず適当に撃ってみるわ。
溜めた魔力を一気に解放する意思を示すと……、おおおっ、火炎球が成功した!
しかもルシルのよりも大きくて力強い。俺のほうが制御が上手いってことだろうか。
「すごっ!? ええぇ、一発目で成功しちゃうわけ!? あたしなんて初めてのときは四回かかったのにぃ……」
「自分の才能が怖いぜ、ふっ」
「すっごい嬉しそう……。でも、あたしの教え方が上手ってことよね」
「それもあるかもな。とりあえず、読魔、創像、射放、全部ちゃんとできたってことだよな」
「色選は?」
あ。
そういや、俺やってなくねえか? でもちゃんと魔法は発動した。まさか無意識にやっていたということだろうか、きっとそうだ。
「色選は無意識レベルでこなしたっぽい」
「なにそれ。複数属性持ちなんだから、ちゃんと意識しないと魔法は発動しないのよ」
「でもちゃんと発動したじゃねえか」
「……うむぅ」
腕組んで考え込むくらいに不思議な現象のようだ。
「その手順って絶対的なものなのかよ。例えば魔力が多めだから、色選をしなくてもカバーされて魔法が発動したとか」
「あり得ないわ。あたしやジャーは属性が多いから、魔力量関係なく順序通りやらないとダメなのよ」
「手順省力できる魔法もある?」
「竜式魔法になるわ。でもこれは竜人しか使えないから」
……ン? リュウシキマホウ? ボク、ツカエルンジャナイノ?
ここはバカ正直に話さず誤魔化しておくのが吉だろうな。
「いやさ、道歩いてたら魔王の部下っぽいやつに襲われたんだ。で、そいつが所持してたのがこの剣で」
「嘘ですね。魔王が一部下に聖剣を預けるとは思えません」
ですよねー。簡単に信じてくれるほど純真なわけないか。
「まさか貴方…………」
あ、まずいパターンだこれ。
俺が魔王倒したのがバレてしまう。
そしてなし崩し的に邪竜だということまで暴かれて……、みたいな。さすがに邪竜だとバレたら、この町で生きていくことは困難になる。
ここは巧みな嘘を考えろ。
簡単だ。昔はよくやっていた。町で偶然再会した中学時代の同級生に「おれ今度結婚するんだぁ」と幸せいっぱいの笑顔で告げられたあのとき、俺はなんて返した?
「やっと俺のステージに来たか。嫁といい関係を築くコツはよ。親しき仲にも礼儀あり、だからな?」
みたいなことを抜かしたんだ。
無論、俺の中での嫁とはゲームキャラのことを指す。
なんであれ、今は説得力のある嘘を考えよう。
……毒沼に落ちてた、魔王からプレゼントされた、泉にボロ剣落としたら女神が出てきてもらった、凄まじくダメダメじゃねえか。
俺が答えを出せないでいると、ラステラが眉間にシワ寄せて問うてくる。
「まさか貴方…………。魔王なのでは?」
そっちかい!
◇ ◆ ◇
俺が魔王?
まさかその疑いをかけられるとは思わなんだ。
でも魔王を見たことがなければ、そう考えても不思議はないのか。
でも、あんな偉ぶっただけのオッサンと勘違いされるのはゴメンだ。
「おいおい俺が魔王なわけないだろ。本当にこれは魔王の手下から奪ったんだって。かなり強いやつだったから、将来の魔王候補とかだったのかもな。聖剣も預けたくなるわ」
「むぅ、しかし」
「仮に俺が魔王だとしたらだよ、腕相撲で稼ぐみたいなあんなチンケな商売する? この聖剣使って金持ち襲ったほうがよっぽど儲かるよ」
「ご主人様が危険な魔王であるはずがないです!」
その通りだイレーヌ。ご主人様が魔王なはずないよな。でも、もっと危険な邪竜だという事実は頭から抜けちゃったかな?
「それもそうですね……。たとえ変装していたとしても邪悪な気は隠せないでしょう。ジャーからはそのような気は感じません」
「信じてくれたか」
「ええ。それにしてもその聖剣、触れた瞬間に解除魔法を発動させるのですね。さすが聖剣です」
「まぁ、な」
「魔法で剣と筋力を強化する私とは、相性が非常に悪いです」
さすが魔王のコレクションってことなのか。神器十選とか凄そうなネームつけられるだけはあるな。
ラステラの剣を受けた際、二撃目から攻撃力が落ちたと感じたのは、一撃目をガードしたときに剣魔法を解除してたためと。
「ですが、勝負はまだ終わったわけではありません」
ラステラの瞳からは闘志が消えるどころかより溢れ出している。魔法頼みで生きてきたわけじゃない証拠だ。
いいね、こういう威勢のいい女は嫌いじゃない。
「ちょっと卑怯くさい気もするが……、俺も遠慮せずいかせてもらうわ」
「今までのは様子見と?」
「どんな戦い方するのか興味あったからな」
「……自慢ではありませんが、私はこれまで一度として男性に負けたことがないのです。たとえ魔法なしでも」
「俺がおまえの初めての男になるってわけか」
「……イヤらしい言い方ですね」
悪いな! 実は下ネタも込めたセリフだってのは否定できないぜ。
ともあれ、遊びはお仕舞いのようだ。
あくまでラステラは攻勢に徹するらしい。大剣を高く掲げながら疾駆してくる。野生生物みたいな俊敏さだ。重い鎧を身につけてこれなのだから、元々の筋力も大したものなんだろう。
ブレなく真っ直ぐに振り下ろされる大刃を俺は側転でかわした。
一拍遅れて巻き起こった風が肌に当たるが、気にせず反撃に転じる。
深く踏み入り一閃。
「クッ」
ラステラは持ち前の反射神経によってこれを紙一重で回避するが、俺の攻撃はまだ終わったわけじゃない。
宙で前転しながら剣を振り下ろす。カキンと金属衝突音が鳴ったところで着地。すぐさまラステラの胸を踏み台にして再び宙に舞う。
上空より剣の雨を降らす。幅広の剣身を盾のようにしてラステラはこれをガード。俺が地面に帰ると、同時に突きを繰り出してきた。
おっと。
俺は突きに合わせてジャンプすると、伸びきった大剣を足場にした。
「なんと身軽な……!?」
大剣の上を移動し、驚愕するラステラの顔面に蹴りを入れる。ゴッと骨にぶつかる鈍い音。
このとき、俺は改めてラステラって女をすごいやつだと思った。なぜかって、のけぞりながらも大剣を滑らせてきたからだ。
しかも狙いは首筋を的確に捉えている。
といっても、踏ん張りが利かない状態からではいくら怪力剣といえど脅威じゃない。
下から打ち上げて軌道を上に逸らす。
身軽な……、とラステラはさっき口にしたが、俺の剣術のベースは、軽快な動きで相手を翻弄するクロエのものだ。
あいつは俺が一番手合わせした相手だし、何より優秀だった。
けど、やっぱり違う人間である以上動作の完全コピーは難しい。何より弱点まで真似しちまうから良くない。
そこで俺はクロエをベースに、他の優秀だった剣士なんかの技術を取り込んでいる。
ま、見よう見まねってやつだな。でも肉体スペックが高いからか、思いの外上手くいっているようだ。
俺は肩を固定し、肘から先を忙しく動かして高速の剣突きを繰り出す。
奔流のごとき無数の剣閃がラステラを追い立てる。
怒濤の勢いで鎧と剣がぶつかり合い、火花が散る。ラステラが一歩二歩と後退。目で捉えきれぬほどの速度で押し寄せる剣量に、表情からは余裕が消え失せ、防戦一方と化す。
音速剣。
これの使い手はそう呼んでいた。
……そろそろいいだろう。
俺は腕を止め、回し蹴りでラステラの手を弾く。柄が手の内から逃げ、大剣が庭に寝そべる。
あとは切っ先をラステラに突きつけて試合終了だ。
「参りました……」
往生際がよくて助かった。ここで負けを認めてくれないと気絶コースになるからさ。
俺はさっさと剣を収めるとガルバスに視線を送った。
口をぽかんと開けてないで、勝利宣言よろしく頼むよ?
「あ、ああと、うむ、ジャーの勝利だ」
そして場に満ちる沈黙。なんでだ。盛り上がるところだと思うんだけど。
「お見事でした、ご主人様っ!」
おお、イレーヌだけは平常運転で助かる。他のやつらの目つきときたら魔物を見るソレだから尚更。ガルバス、ルシル、ラステラがそれぞれ感想を述べる。
「これほどの剣士、見たことがないな……」
「ちょ、えぇぇ、どうなってる……わ……け。ジャーってあんな強いの……」
「完敗です。……完敗です」
ラステラなんて片膝ついて鼻血出してるからな。ちとやりすぎちまったかも。けど相当な使い手だし、中途半端にやってこちらが怪我するのも困るしな。
「とりあえず合格ってことでいいか?」
「無論だ。むしろ頭を下げてでも同行願いたいくらいだ」
そこへ、タイミングが良いのか悪いのか、ゲイルが屋敷から戻ってくる。
「ラステラ、もう勝負はついたんだろ!?」
「……完敗、でした」
「完敗!? ケハハハハ、あいつやっぱり手も足も出なかったのかよ! ウケる、ウケるぜぇええ!!」
「ゲイル、何を勘違いしているのですか。完敗したのは私のほうです」
「ハァ? ラステラ、おまえ冗談言うキャラだったか?」
「冗談ではないぞゲイル。俺もこの目でしかと見届けた」
「…………団長、ありえねえよ、そんなの。ラステラだぜ?」
「俺、おまえ、ラステラの三人がかりでどうにか相手になるかといったところだ」
「う、う、嘘だ、んなわけねええ!! さ、細工だ、なにか細工しやがったんだろうテメエ!」
今日試験やると知らされたのに、なにをどう細工できるのか、小一時間問いつめたいもんだ。
ゲイルはそのあともギャーギャーと五月蠅かったが、ガルバスにゲンコツをもらってようやく大人しくなった。
俺もイレーヌも無事合格したので、あとは思う存分ダラけよう。
◇ ◆ ◇
「今日は集まってくれて感謝するよ。君たちの勇気を称して、乾杯」
「「「「乾杯!」」」」
屋敷内の一室。
フォード・リモワール・ストライト公爵が乾杯の声を上げると、他の人間たちが唱和した。
俺たち試験の合格者とガルバスたちは、昼食をご馳走になるところだった。
やたら長いテーブルの上座に居るのが、優男風のフォード公爵。四十半ばらしいが、二十代後半の美青年にしか見えない。
ルシルの親だから納得だが、若すぎる。エルフかと思っちまうよ。
イレーヌが嬉しそうに俺に話しかけてくる。
「ご主人様、おいしいですね」
「だよなー。ザ。金持ちって感じだわ」
パン、肉、スープ、葉物野菜とコーンのサラダ、魚、煮物らしきもの、ワイン、そしてデザートのゼリーと、種類も豊富な料理の数々が目の前に並んでいる。
部屋も豪奢で広く、調度品もいちいち高そうなものばかり。さすが領主なだけはある。
「ねえお父様、ジャーったらすごいのよ。ラステラに勝ってしまったんだから」
「信じられないね……。ラステラは王宮騎士と比べても、何らひけを取らないというのに」
「うちの兵団にスカウトしたらどうかしら?」
「そうだね。ジャー君といったね、うちで働いてみる気はないかい? もちろん待遇についてはできる限りのことはするが」
せっかくのお誘いだが、俺の答えは決まってる。
「悪いな。兵士になるつもりはないんだ」
「こらテメエ!! フォード様に向かってなんて口の聞き方だ!」
ここぞとばかりにゲイルが怒鳴る。今にも手にしたフォークを投げつけてきそうだ。
「いいんだよゲイル。僕も堅苦しいのは好きじゃないし。ジャー君には自然体でいてもらいたい」
「そう言ってもらえると助かる」
「スカウトの件は、気が変わったらいつでも言ってほしい。君なら大歓迎だよ」
「わかった」
俺と公爵がさわやかにトークを繰り広げていると、なにやらルシルがもじもじとし出す。どうやらお願い事があるらしい。
「ねえお父様、あたしも魔法部隊に参加していいでしょう?」
「何回もダメだと言ったはずだよ」
「どうして? あたしはもう十七よ。魔法だって学校でもトップクラスだし、その辺の魔術師にも劣らないわ」
よほど自信があるのか、ルシルは胸を張って主張する。一方、フォード公爵は額を押さえて嘆息している。
そりゃいくら優秀でも、自分の娘を討伐には行かせたくないだろう。
普通の親の感覚だ。
しかしルシルはとにかく粘る。あの年頃はいろんなことに興味がある。父親も楽じゃないよな。
「ルシル、君が邪竜に夢中なのは知っているよ。邪竜に助けてもらったという話も信じている。でもね、だからといって竜族に味方意識を持つのはよくない」
ちょい待った。邪竜って俺?
ルシルを助けたことなんてあったっけか…………。あっ!? もしかしてあのときの!
以前、峡谷で迷子になっていたスライムたちを保護してくれていた少女!
強い既視感の原因はそれだったらしい。そういや、あのウェーブがかかった髪には見覚えがある。
しかしまあ、二年でそこそこ成長したもんだなー。妙な懐かしさを感じてしまう。そしてこのあと判明したのだが、俺はラステラたちとも面識があったらしい。
以前、森に大所帯の討伐隊がやってきたことがあったのだが、それがこの兵団だったと。団名は「月夜の一剣」だそうで。
一剣どころか軽く百剣はいた気がしたけどよ。
縁ってやつを感じずにはいられない。
もっとも、兵団のほうはボコボコにして追い返しちゃったんだけど。
「お父様、あたしだって竜はみんな友達なんて思ってないのよ。むしろ真銀光竜様以外の竜は超危険だって思ってるの。人を襲うなら討伐するのだって抵抗はないわ。あたしは純粋に、この力をみんなのために使いたいの!」
「そうは言っても」
「あたしはもっと見識を広めたいの。貴族だからってずっとお屋敷の中で、お茶やお喋りばっかりの人生なんて御免だわ! 世界にはもっと面白いことがたくさんある。生まれたからにはそういうのに触れていきたいのよ、お父様!」
「……面白いこと以上に、危険なことは多いんだよ」
「承知の上よ。それで死ぬなら本望。それに今回はジャーだっているから、ずっと楽に戦えるはず」
「ジャー君か……、そうだね。それならラステラをルシルの護衛に回せるか。火力が落ちる分はジャー君に補ってもらう。問題はあるかい、ガルバス?」
「ないと思われます」
「ハァ……、ルシル、絶対に無理はしないと約束しておくれ」
「ありがとう、だからお父様って大好き!」
ルシルが満面の笑みでフォード公爵に抱きつく。あそこまで熱心に言われたら、父も折れるしかないだろう。
どうも俺の役割と負担がどんどん肥大化していってる気がするがね。
「みんな、力を合わせて頑張りましょうね!」
まるで修学旅行前の中学生だ。
日常から離れることに多分な幻想を抱いているのかもな。
好きなあの子とのイベントが起きるかも、すばらしい出会いがあるかも、なにか問題が起こっても自分が華麗に解決しちゃうかも。そう夢見てみんな旅行に出るもんだ。
そして知る。
現実ってつまらんなと。確かに旅に出るとイベントは起きやすいんだけどさ。
好きなあの子が他の男とくっついたり、地元の不良にカツアゲされたり、財布盗難事件が起きて自分のせいにされたりとかよ。
全部いっぺんにやってきて涙したあの日が懐かしいぜ、ちくしょう。
いいかい、ルシル。人生ってのは予想外のことが多く起きるもんだ。特に悪いことがな。
気をつけてくれ。
5 竜式魔法と友達
試験の翌々日、下位竜討伐隊はグリザードを出発した。
特攻隊、補助隊、防衛隊、弓隊、魔法隊からなる総勢約五十名が参加している。山村は歩いて三日ほどの場所にあるとのこと。
本来なら物資、魔物移送用の荷馬車なども必要なのだが、今回は用意していない。なぜかっていうと、出発の前に俺が――。
「食い物とか矢、あと解体した竜って俺の黒袋で足りる気がするんだけど?」
と発言しちゃったからだ。
黒袋は魔王を倒したときに手に入れたもので、大量の物質を収納できるという便利な袋だ。しかも前に試したことがあんだけど、入れた物が劣化しないのだ。温かいまま食事を保存しておけば、ホクホクのまま味わえる。
聖剣並みにレアで、これは魔道具というやつらしい。
ともあれ、そういった経緯で、今回は物資係の出番がなくなった。
経費削減できるとフォード公爵は喜んでいた。俺には追加で報酬が出るらしいので、ウィンウィンの関係というやつか。
道中は思ったより退屈しなかった。
というのも、移動初日からルシルに魔法の基礎知識を習うことになったのだ。休憩所では魔法を出すところを直接見せてもらった。俺の目の前で渦を巻くような火柱が上がる。
「すげえー」
「火属性の魔法ね。大魔法だから結構難しいけど」
「俺もできるようになる?」
「魔力はあるのよね。適性属性は調べた?」
「調べ方すらわからんっていう」
「でしょうね。そう思ってこれを用意しておいたわ」
ルシルは得意げにザラ半紙のようなものを出す。
「マジックペーパー改っていって魔力を流すだけで適性がわかるの。これは精度の高い高級なやつよ」
マジックペーパーには二種類あるらしい。普通のと改と。
普通のは安価で一般的だけど精度があんまり良くないみてえ。水属性持ちなのに氷属性持ち、と出てしまったりするようだ。
大ざっぱにしかわからないのだろう。その点、この改は高価だけど診断はきっちりしてくれる。
「お小遣いから買ってあげたんだから感謝しなさいよ」
「ありがたやーありがたやー」
「ふふん。そうそう、素直ねジャーは」
「神様仏様、早く試してみたいんだが?」
「じゃあ紙に魔力を流してみて」
「まず流すコツから教えてくれ」
「さっき教えた読魔よ。魔力を感じたらそれらを指先に集めるイメージ」
ちなみに魔法ってのは、読魔、色選、創像、射放の段階を経て発動するとのこと。
さっそく目を閉じて神経を集中させると、体の奥深くに温かい力が巡っている感じが確かにしてきた。これが魔力ってやつなのかな。
血液が循環するように、温かさが指へと流れていくところを想像する。
「出たわよ」
目を開ける。半紙に文字が浮かび上がっていた。
ルシルがそれを読み上げていく。
「火、風、土、雷、氷、暴爆、無、光……、計八属性。…………八属性っ!?」
くわっと目を開くルシル。乙女の顔じゃねえよそれ。
「八属性ってはあああ!?」
「多いの?」
「お、お、す、ぎぃ! 信じられないレベルよ。多くたって四、五属性がせいぜいなのに」
「ルシルはいくつある?」
「火、水、土、闇よ」
「四か、けっこう多いじゃん」
「ほら、あたしって天才系? だから」
「ほーん」
「なによその目ぇ! 自分がもっと天才だって言いたそうねっ」
別に思ってないのにルシルが勘違いしてムクれる。感情の動きが激しいあたり、思春期真っ盛りって感じだな。
「でも、あたしたち似てると思うの。武器魔法使えないあたりとか」
「あぁ、剣魔法はねえのか俺」
「あんなに凄いのにね。武器魔法は後天的なもので、幼い頃から慣れ親しんでいると覚えやすいの。ラステラの大剣、ガルバスの盾、イレーヌの弓みたいにね」
幼い頃からか。だとすると、日本人で剣魔法の才能あるやつなんていなさそうだな。せいぜい小さい頃から刃物触りまくってるヤーサンの子ぐらいか。
ポン刀魔法とか存在したら笑っちゃうわ。
「思ったんだけどよ、属性が多くても色選? が必要になるから、一属性のやつのほうが発動早くないか?」
「そう。しかも一芸特化でレベルの高い魔法を使える可能性が高いのよ。必ずしも器用なのがいいとは限らないわね」
器用貧乏はアウトと。
「試しに火炎球を撃ってみたら? お手本見せてあげるから」
ルシルは杖先に炎の球体を出現させ、それを上空へ飛ばす。基礎中の基礎の魔法とはいえ、魔法発動までがかなり早い。ルシルはやっぱり相当な使い手らしい。
いい師匠に当たった俺は運がいいな。
「これでイメージは完璧でしょ? やってみて」
ええとまず読魔だっけ。温かくも力強い魔力を認識する。
次が……、魔法イメージの創像だよな? 今実際に見たばっかだから、これは比較的簡単だ。
あと、俺は小説なんかも好きだったので、想像妄想の類は得意である。
ここまで終えると、ついに最終段階に入る。
魔力を人差し指の先っぽに集めていく。どんどん魔力が貯蓄されていくのは感じる。……けど、どのタイミングで放てばいい?
魔法によって適切な魔力量が存在し、それを外すと上手く発動してくれない。ここは経験と練習でどうにかするしかないが、俺の場合経験がない。
まあいいや。
とりあえず適当に撃ってみるわ。
溜めた魔力を一気に解放する意思を示すと……、おおおっ、火炎球が成功した!
しかもルシルのよりも大きくて力強い。俺のほうが制御が上手いってことだろうか。
「すごっ!? ええぇ、一発目で成功しちゃうわけ!? あたしなんて初めてのときは四回かかったのにぃ……」
「自分の才能が怖いぜ、ふっ」
「すっごい嬉しそう……。でも、あたしの教え方が上手ってことよね」
「それもあるかもな。とりあえず、読魔、創像、射放、全部ちゃんとできたってことだよな」
「色選は?」
あ。
そういや、俺やってなくねえか? でもちゃんと魔法は発動した。まさか無意識にやっていたということだろうか、きっとそうだ。
「色選は無意識レベルでこなしたっぽい」
「なにそれ。複数属性持ちなんだから、ちゃんと意識しないと魔法は発動しないのよ」
「でもちゃんと発動したじゃねえか」
「……うむぅ」
腕組んで考え込むくらいに不思議な現象のようだ。
「その手順って絶対的なものなのかよ。例えば魔力が多めだから、色選をしなくてもカバーされて魔法が発動したとか」
「あり得ないわ。あたしやジャーは属性が多いから、魔力量関係なく順序通りやらないとダメなのよ」
「手順省力できる魔法もある?」
「竜式魔法になるわ。でもこれは竜人しか使えないから」
……ン? リュウシキマホウ? ボク、ツカエルンジャナイノ?
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