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1巻

1-2

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 広い大陸を西に横断しながら屋敷を探していく。
 普段はあんまり西のほうへは行かねえんだけど、あっちは魔物とか少ないのかね。腕に自信がなきゃ、家を孤立させるって結構危険な気がするが。
 しかし……黄金のリンゴねえ。リンゴそれ自体は優れた果物だ。それは認める。けど黄金っていうかんむりが付くと今イチ美味うまそうに感じないのはなぜだろう。なんか鑑賞用として飾ったほうが楽しめそうな気すらする。
 ま、あいつらが食いたいなら、よほどのことがない限り手に入れようとは思う。
 で、キツイ日差しにさらされること三時間。
 背の低い草が生い茂る草原の近くにご立派なお屋敷を発見した。しげしげと上から観察してみる。レンガで作られた高そうな洋館で、ガラスのはめられた窓が多くある。
 魔物の侵入を防ぐためか、館をぐるりと囲むように外壁が作られており、正面の門では二人の若い門番が見張りの任に就いている。
 館の前には広い庭があって花や木が植えられていたりするのだが、そこに黄金のリンゴがる木があるのだろうか。つーか本当にここなのかよ。
 不法侵入することもできたけど、まずは話を聞きたいので門番の近くに着地する。門番たちは俺を見つけると、目と口をデカく開けたまま固まってしまった。
 怖がられている、または敵対心を抱かれているのは明らかなので、遠くから声をかける。

「ちょっと聞きたいことがあるんだけどー」
「しゃ、しゃべっ……た」
「そ、それより、りゅ、竜だぞ……なんだってここに竜が……」

 予想通り、パニックに陥ってしまったようだ。俺の経験上、こういうときに人間が取る行動パターンは大体決まっている。
 動揺しながらも戦いを挑んでくるタイプ。られる前にってやるうううう精神だな。これが大体十パーセントくらい。
 次に恐怖で動けなくなるタイプ。これは四十パーくらいが取る行動パターンで、大抵腰が抜けて座り込む。ひどいやつになると下半身から大量に体液を漏らしてしまう。
 そして残りの五十パーは、何をおいても逃げまくるタイプ。こういうやつは便所で遭遇したゴキブリを彷彿ほうふつさせる勢いで逃走するな。
 さて、この門番たちは――。

「たすけてえええ!」
「馬鹿っ、どこ行くんだ!? ミカロ様に報告しなきゃだろうが!」

 俺から遠ざかるように走り出した門番を仲間が引き止める。

「離せえっ! 逃げなきゃヤバいんだよ!」
「竜族だからって、そこまで逃げ腰になるな!」
「おまえは竜の恐ろしさを知らないからそんなこと言えるんだ……俺の村はたった一匹の下位竜に滅ぼされたんだ。トラウマなんだよおお」
「わ、わかったから落ち着け。ミカロ様は竜殺しのアイテムを所持している。なんとかなるはずだ」
「脳みそお花畑かこの野郎っ。あれ邪竜だろ絶対! 通じるわけがねえ」
「嘘……あれ邪竜なん?」
「竜にしては小柄、銀色の皮膚、なによりあの目を見ろ! 圧倒的だ。どんな生物もあれには勝てない。……俺にはわかる。あいつの心の中は『殺す殺す殺す』という殺気で埋め尽くされている」

 殺さない殺さない殺さない、浣腸かんちょうされても怒らないし殺さない。

「な、なんで邪竜が。やだ、いやだ、死にたくない」

 弱気男の恐怖心が伝染したのか、もう一人も後ずさりを始めた。
 以心伝心いしんでんしんとは親しい間柄限定。門番同士は仲良しかもしれないが、俺とは初対面なんだから思っていることは口に出さなきゃ伝わらないだろう。そう考えて俺は言ってみた。

「俺がおめーらを殺すことはないぞー☆」

 なるべくほがらかな印象を与えるようトーン高めに声を出し、ウインクもしておく。キラッと星が出る感じで。

「もうやだぁ! 今俺がお星様になるとこ見えちまったぁ」
「……俺も。逃げよう、今すぐ」

 こうして二人とも俺の視界からサヨナラするのであった。心が萎縮いしゅくしちゃったやつには、愛の言葉も脅しに聞こえたりするもんだ。
 ここは放っておいて、あいつらの言っていたミカロとかいうやつに直接会いに行こう。外壁を越えて庭園にお邪魔する。
 おっと、お宅訪問する前に、まず目当てのものがあるのかを確認しなきゃならない。リンゴがなかったら会う必要ないもんな。
 えーと、黄金のリンゴの木は…………マジであるのかい!! 黄金色こがねいろのリンゴが生る木は、庭の隅っこで確かな存在感を放っていた。
 俺はハイテンションでリンゴの木へ駆け寄り――超絶ガッカリさせられた。
 あぁ、そういうことだったのな……。
 黄金のリンゴの真実を知ってしまった俺はそのまま帰ろうときびすを返したが、思い留まる。
 あいつらの期待に満ちた瞳を思い出してしまったのだ。
 でもこれを持っていけば騙すことになる。が、騙し通すってのもありかもしれねえ。真実を知らなければ幸せってこともある。
 そうと決まれば、何個か譲ってもらわなきゃならない。問題は、どうやってコミュニケーションを取るかだ。
 あんまやりたくねえけど、ここは前世の営業スキルを活用するしかない。
 俺は入り口のドアを壊さないようノックする。すぐに召使いの若い女が出てきた。こちらを見上げるなり硬直したので、腰から三十度上体を折りお辞儀じぎする。

「お忙しいところ失礼いたします。わたくし、ここより遠く離れたところにある森で邪竜をやっている者です。本日はミカロ様にご用がありまして」
「あ、あ、あ」
「一般的に、竜族は人間に危害を加える生物だと言われておりますが、私に限って申せばそのようなことは決してありません。むしろ人族の方々を心より尊敬しており――」

 ペラペラ適当に舌を回してたら、女は「よ、よ、呼んできます、少々お待ちくださいーっ」と二階へと駆け上がっていった。
 少しして、ヒゲの似合うダンディーな男が下りてきた。ぶっそうな剣を構えながら。
 俺はさっきと同じように頭を下げる。

「ミカロ様、お気持ちはわかりますが、どうかその剣で私を斬らないでいただきたいのです」
「き、君は、なんなんだ……? 邪竜と名乗ったと聞いたが……」
「はい、邪竜でございます。ですが、私があなた方を傷つけることは絶対にありません。本日お訪ねしましたのは、あちらにある――」

 こっちの目的を告げてから、さっさと交渉に移る。
 内容は、何でも一つ言うこと聞くから、木に生っている果物を何個かくれ。実にシンプル。
 交渉はものの数秒で成立した。
 ミカロが果物の代わりとして要求してきたものは――。

「さ、触らせてほしいんだ。その腕、翼、尻尾などを。い、いいだろうか?」
「もちろんでございます」

 ダンディとはいえ、おっさんにベタベタ触られるのはぶっちゃけ嫌だった。でもそういう約束だから文句言わずに我慢する。
 ミカロは満足すると、果物を小綺麗な袋に入れて俺に手渡してきた。礼を述べ、ようやく帰れると喜んだ矢先、近くから大声が。

「なんで、こんなところに竜がいるのよ!」

 十六、七歳くらいの少女が驚愕きょうがくしている。体つきは小柄で、赤茶けた髪とそばかすが特徴的な子供だ。
 どうやらミカロは面識があるらしい。すげー面倒くさそうにため息をついている。

「また来たのか、ロリー。何度来ても金は貸さないぞ」

 冷たく言い捨てるミカロ。ついさっきまではガキみたいにハシャいでたのに、今はずいぶんと厳しい顔つきだ。

「そんなことよりミカロさん、早く逃げなきゃ!」
「大丈夫だ。彼は私の友人だ。いや友竜ゆうりゅうかな」

 別に友竜になった覚えはないけどよ。

「どうぞ、私のことは気にせずお話を続けてください」

 そう俺が告げる。ロリーという少女は柔軟な思考の持ち主らしく、すぐに状況を受け入れ、俺を無視してミカロに金の無心をし出した。
 が、ミカロはそれを一蹴する。

「何度言ったらわかる。金は貸さん! 父親のことは気の毒だとは思うが、そういった境遇の者は多い。それら全てを私が救わなくてはいけないのか? 違うだろう」

 その後続いた二人の会話から事情を察すると、ロリーの父親は病気持ちらしく、薬草を買う金がどうしても欲しいのだそうだ。

「だったら剣だけでも貸してよ。あたし、自分で採りにいくから」
「馬鹿も休み休み言え。あの山には凶悪な魔物が多くいる。おまえなんてすぐに死んでしまう」
「山に行くだけじゃない。最近、村の近くで盗賊っぽいやつらを見かけたの。家族を守るためにも」
「そういう話は、この地方を治めている領主様に言うんだな」
「……わかった。それなら、タダでとは言わないわよ」
「ほう、物々交換でもするか?」
「うん。一晩でどう?」

 俺もそうだけど、ミカロもロリーの言ってる意味が最初わからなかったようだ。彼女が胸のボタンを一つ外し、セクシーアピール的なことをし始めたところで、ようやく理解する。

「馬鹿者、私を見くびるな! 私がそのような男に見えるのか!」

 俺はこのミカロというヒゲおっさんを見直した。
 ロリコンの多い俺の国だったら誘いに乗る男はめちゃくちゃ多そうなのに、ミカロは見事跳ね返した。単純にロリコンじゃなかったって話かもしれないが。
 女のプライドをズタズタにされたロリーは、顔を真っ赤にして悪態あくたいをつく。

「だったらもういいわよこのカタブツ! そのヒゲぜんぜん似合ってないんだから! あんたぜったい地獄にちるわよ!」

 昔流行はやった占い師みたいな呪いの言葉を吐くと、ロリーはぷんすかと怒って庭を出ていった。
 ミカロはため息をついて、俺に向き直る。

「いやはや、お見苦しいところをお見せした」
「いえいえ、あの年頃の子はいろいろと不安定ですから。ご心労お察しします。では、私もこれで」
「邪竜さん、またいつでも訪ねてくれ。ぜひ、絶品の紅茶をごちそうさせてほしい」
「楽しみにしています」

 こうやって社交辞令を口にしてると、あの頃の自分に戻ったみたいで死ぬほどうつになってくるわ。せっかく竜に生まれ変わったのに、なにやってんの俺。
 暗い気持ちでミカロ家の外壁を飛び越え、そのまま大空へ高く上がっていく。マイハートイズフリー、ライクザウインド。

「まってーー、まちなさいよーーー」

 ワッツ?
 下方より声がすると思ったら、さっきのガキが大地を走って追いかけてくるじゃねえか。
 あいつ名前なんていうんだっけ。ロリコン……じゃなくてロリーだった。別に無視して帰ることもできたけど、ちょっと興味もあったのでロリーのところへ。

「俺になんか用?」

 大体予想はできるのだが一応訊いておく。ロリーは呼吸が整うのも待たずにストレートに頼み事をしてきた。

「あんた、すごく話のわかる竜みたいだし、あたしのこと助けてよ」
「悪りぃ」
「ええっ!? 断るの早っ! それに言葉づかいすっごい悪くなってない!?」
「まあ、さっきのはキャラ作ってたからな。この果物をもらうために頑張ったのよ」

 そう言って俺が果物の入った袋を見せてやると、ロリーは心底不思議だとばかりに眉を寄せた。

「なんで? 奪えばいいじゃん。強いんでしょあんた」
「ガキの頃、人の家の柿を勝手に食って腹こわしたことがあるんだよ」

 罰が当たったんだと母親は俺を叱ったもんだ。だから俺は盗んだりとか奪ったりとかしないわけ。
 懐かしい。あの柿マズかったな……。
 遠い過去を振り返っていると、突然ロリーが俺の脚に触れ、懇願こんがんしてくる。

「ねえお願いよ。あたしのこと助けて」
「病気治す薬草だっけ」
「山で守ってくれるだけでいいから。お礼は……あんまり大したことはできないけど、何でも言うこと聞くから」

 尻すぼみに声が小さくなっていくあたり、理解しているようだ。竜の俺には色仕掛けが通じないことを。
 俺がまだ人間で、ロリーがもっと大人だったらバリバリ有効だっただろう。
 とはいえ、ここで見捨てるのも可哀想ではあるか。

一期一会いちごいちえって言葉もあるしな。俺の背中に乗れ、その山まで行ってやる」
「ありがとう~! あんたのこと、大好きになりそう!」

 嬉しさいっぱいに抱きついてきて、俺の脚にチュッとキスをするロリー。
 それから俺は運び屋になったわけだけど、ロリーはずっと背中でハシャいでてうるさかった。女子のテンションにはなかなかついていけねえわ。
 山はそう遠くないところにあった。頂上付近に薬草が生えているというので、そのあたりに着地して探し回った。魔物が多いという話だったが、最初に遭遇したのはゴリラ。目が合うなり、手のひらで自分の胸を叩き威嚇いかくしてきた。ドラミングというやつだ。
 凶暴なイメージがあるゴリラだけど、実は温厚で争いを好まない性質なのだと聞いたことがある。このドラミングも相手が逃げ出すことを期待しての行動だとか。

「ウホ……」

 俺が微動だにせず立っていると、ゴリラはあせり出したのかウロウロと右に行ったり左に行ったり。

「ガァァアアアアア!」

 試しに咆哮ほうこうしてみたら、ゴリラはもの凄いスピードで走り去っていった。無用な争いは避けるに限るもんな。

「すっごい迫力。ゴリラも逃げ出す咆哮竜、って二つ名付けてあげる」
「ガァァアアアアアア!」
「なんでっ!?」

 腰を抜かすロリー。そんな二つ名は不要だと理解してくれれば何よりだ。
 それから十分ほどで目的の薬草を発見することができた。傾斜のキツい斜面にそれはたくさん生えていた。魔物が多いので手付かずな状態だったのだろう。嬉々ききとして収穫するロリーを俺は下から見守る。

「やった、これだけあればお父さんも元気になるわ!」

 父親の病気は、薬草さえあれば完治するたぐいのものらしい。薬草は町で買うこともできるようだが、値が張るので金持ちのミカロに協力を求めていたと。

「ねえ、咆哮竜、薬草も採ったし早く村に――ってなにその死体の数はーっ!?」

 ロリーが驚くのも無理はない。待機していた俺の周囲には魔物の死骸しがいが散らばっていたからだ。サイレントに瞬殺していたので気づかなかったのだろう。
 ロリーはズザザザザと山の斜面を下り、巨大ないのししのところへ近寄る。

「これキングボアなんですけど!? この山のヌシって言われてるんですけど!」
「あ、そう。別にデカいだけって感じだったけど」
「あんびりーばぼー……もしかして、あんたってめちゃくちゃヤバい竜?」

 そういや、ミカロは俺が邪竜だと伝えていなかったな。でも、今さら教えて怖がらせることもないか。

「ただのお人好ひとよしの竜さ」
「人じゃないのにお人好しね……」
「竜も奥が深いのよ。ほら、とっとと村行くぞ」
「りょうかいよ~」

 上機嫌になったロリーを乗せて村へ向かう。
 うーん、このパシリ感。俺の二つ名は、「パシリ竜」で決定しそうなんだけど。


  ◇ ◆ ◇


「お父さん、今行くわよ!」

 無事ロリーの村へたどり着いたわけだが、ロリーのやつ俺を置いて一人で中へ入っていきやがった。
 しょうがないので後を追う。見た感じ、ここはあまり特色のないありふれた農村だ。人口は二百人いるかどうかってところだろう。
 あーいたいた……ってなにか事件でも起きたのか? 多くの村人が一か所に集まっているので、遠くから聞き耳を立てる。

「お父さん、みんな、やったわよ! 薬草をいっぱい持ってきたんだから!」

 そう言うとロリーは、青白い顔をした男に薬草がたっぷり入った袋を手渡した。顔立ちが微妙に似てるし、あれが父親なんだろう。

「すごいぞゴホゴホッ、でもどうやっゲホゲホゲホ」

 せきが辛そうだ。そしてつばの飛散はもっとヤバい。ロリーの顔にベチャベチャかかっている。

「っていうか何があったのよ? みんなして集まって」
「ゲホッ。そうだ、そんな場合じゃないんだ。ついさっき、村が盗賊に襲われたんだ。宿に泊まっていた冒険者パーティの方々が追い返してくれたんだが、何人かの村人が連れ去られてしまって、母さんもゴホゴホッ」
「そんなぁ……」

 せっかく父親を救えると喜んでたら今度は母親。そりゃ絶望的な表情にもなるよな。でもそこまで状況は悪いわけでもないようだ。その村を救った冒険者パーティが、さらわれた村人を救出するべく追跡しているらしい。
 ふっ、俺の出番はなさそうだぜ、と余裕ぶってたら、ロリーが全力ダッシュでこっちに来ましたとさ。おかげで村のやつらも俺に気づいて恐慌きょうこうするというね。

「ゲハァッ、何をしてるんだロリーゲハァ! い、今すぐ、もどってくるんゴハァッ!」

 今にも天国へ旅立ちそうな父親を落ち着かせようとロリーが大胆な行動に出る。俺のすね辺りを靴のつま先でガンガン蹴ったのだ。

「安心してよみんな! この竜は、実は、あたしの子分なんだからっ。証拠に蹴っても怒らないでしょ?」
「あのさ、俺にもプライドっていう……」

 小声で抗議する俺。

「シッ。お願いっ。みんなを落ち着かせるためにも協力してよ」

 必死さが伝わってきたので、ここは演技につき合ってやることにしよう。

「オレ、ロリーサマニ、ツカエル、ドラゴン」
「おおおおおおおおおっ!?」

 ずいぶん盛り上がってるな、村人たちよ。
 ロリーは、ここぞとばかりにドヤ顔を決める。

「そういうわけだから、お母さんを助けてくるわ。みんなは待ってて。さ、行くわよ」
「イッテクル、ミンナ、オウエン、ヨロシク、ネ」

 どこぞのアイドルよろしく言ってみたら、至極真面目しごくまじめに応援されちゃって反応に困った。声援に後押しされてロリーと村を出るのだった。
 というか、いつの間に俺も協力することに決定したんだよ。この流されて生きてる感じ、久しぶりかも。
 翼で強く風を切り、盗賊たちが逃げていったという方角へ飛んでいく。しばらくすると平地に倒れている二頭の馬と四人の男女を発見したので着陸する。
 馬は二頭とも脚に矢が深く刺さっていた。格好は盗賊って感じではないので、盗賊を追いかけていた冒険者のほうだろう。
 お約束のように驚かれつつも、ロリーが上手く説明して話を進める。

「馬をやられてしまって、追跡できなくなった。だが、まだそう遠くにはいっていないはずだ」

 渋い顔立ちのリーダーが悔しそうに話す。こいつらって無償で動いているんだろうか。それとも後で村人から金取ったりするのかね。まあ、今はどうでもいいか。

「ありがとう、あとはあたしたちに任せて」
「ガンバル、オレ、メチャンコ」
「が、がが、頑張って、ください……」

 あい、頑張ります。だからそんなに引かないで。
 冗談はさておき、冒険者と別れ、さらに空を突っ走ること十分、隊列を縦に展開させながら道を行く集団を見つけた。敵の頭数は十ちょっとってところだ。
 武器を持たない村人っぽい女も何人か馬に乗せられている。

「お母さんだわ! あれが盗賊で間違いないわよ。遠慮せず、ガンガンやっちゃって」
「ガンガンはまずいだろ。派手にやったら捕まってる村人まで死んじまうし」
「あ~じゃあどうしたらいいの!? あたし頭悪いからわかんないのーっ」
「俺も人に誇れる頭脳じゃねえけど、まあ任せろ」

 低空飛行に切り替え、後ろから村人と盗賊の乗る馬に近づくと、馬を思い切りにらんで威圧する。

「オウ、トマレ」

 一瞬で恐怖に包まれた馬はヒヒーーーンといななき、前足を高く上げて急停止した。

「うわっ」
「きゃぁあ!?」

 背中に乗っていた二人はバランスを崩して下へ落ちたので、女のほうだけ体に尻尾を巻き付けて回収、俺の背中へ移動させる。

「お母さん、もう大丈夫よ!」
「ロリーッ」

 竜の背中の上で感動の再会を果たしたやつなんて、後にも先にもこの二人だけなんじゃねえの。ともあれ、同じ要領で残り二名の村人を救出することに成功した。俺の背中では定員ギリギリだったので、とりあえず下に降ろす。

「おかしら!」

 転倒させたやつの中に盗賊の頭がいたようだ。見捨てるわけにはいかないのか無事だったやつらも全員馬から降りた。頭が戸惑いつつも武器を構えると、手下たちも同じようにする。

「クソがっ。何がどうなってやがる」

 なぜこいつらが逃げないのかといえば、馬がビビりあがってしまい使い物にならないからだろう。盗賊たちは武装はしているものの人数が十人くらいしかいない。戦っても問題ないけど、一応警告しておく。

「ムダナテイコウハ、ヤメロ。オトナシク、オナワニ、ツケ」

 一度言ってみたかったんだよ、これ。縄とかないけど。

「くっ、どうしますお頭」
「……そんなの、決まってるだろ。ここで捕まったら全員死罪だ。相手が竜だろうと、やるしかねえんだよ!」

 どうやら覚悟は決まっているっぽいな。ロリーたちを後ろに下がらせ、俺は盗賊たちの正面に仁王立ちする。

「イツデモ、カカッテ、コイヤ」

 盗賊たちは目配めくばせをして攻める機をうかがっている。
 怒号をあげながらボスが走り出すと、手下たちもならってそれに続く。そして、わらわらと俺に群がり、各々渾身こんしんの力でもって剣で斬りつけたり槍で突いたりつちで叩いてきたり。
 カキンカキンカキン――ミシミシミシポキッ。

「なっ――!? ぶ、武器がぁ……」

 盗賊のみなさんが予想外の事態に目を白黒させる。
 俺は抵抗せず攻撃を全部受けてあげたんだけど、刃が通らないどころか武器が壊れたのだ。なまくら刀では、竜の鱗一枚傷つけることができない。


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