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クリスマス会
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隼人に恋をした。
その事を友人達に打ち明けた。
それは了にとっては一歩前進だと思っていた。
物語が進んだ大きな出来事。転換期。
と思っていたのは了だけのようだった。
「え、だって片想いでしょ? 片想いって告白もしてないし、何も前進してないんじゃないかな?」
いつものように友人達が教室に集まった昼休み。
向かいに座っていた奏にサラリと言われた。その横で頷きながらミズキが言う。
「映画とか小説とか物語に例えたら、主人公が片想いの段階からスタートするお話っていっぱいあるよね? そう思うと今、物語が始まったとも言えるんじゃないかな?」
「俺の今までの葛藤は、まだ始まってもないモノだったんですね!?」
突っ込む了の肩に響が手を置いた。
「良いじゃないか。人がどう思うかは自由だ。俺はリョウが恋をして一歩前進したなーって思ってるよ」
「ヒビキ……」
「まぁ、相手があの生徒会長サマっていうのが、無謀というか命知らずというか、登るなら一番高い富士山みたいな感じですげーと思うけどな。あ、俺の親戚が富士山で転んで骨折したから気をつけろよな!」
「ヒビキは俺を応援してるのかな!? 面白がってるのかな!?」
響は頭をかきつつ言う。
「ほら、俺の友人達全員片想いって事じゃん。誰か一人に肩入れは出来ないからさ、全員ちゃんと応援してるよ」
響は笑顔を見せた。
了は弁当を見つめた後で全員を見渡した。
「一応、言っておくけど、俺がハヤトさんの事、す……好きって事は父さんには内緒にして欲しいな」
「ああ、おじさんか、うん、そうだね」
頷くミズキの横で奏が呟いた。
「でも俺達が気づく位だから、お父さん気づいてるんじゃない?」
「……」
確かにそうかもしれないとは思ったが、自分から打ち明けたくはなかった。
「ま、一応バレてない設定でいくか」
響が明るく言った。
「あ、そうだ。おじさんからクリスマス会のお誘い頂いてるよ。もちろん俺らは全員参加するから」
「クリスマス会?」
初耳だった。けれどすぐに納得する。宗親はイベントごとが大好きだ。
「全員って事はここにいるメンバーだよな?」
了は確認する。
響、奏、ミズキ、それに了の四人。
「まぁ、聞いてはないけど当然ハヤトさんも呼んでるでしょ」
奏の発言にドキリとした。
そうだ。あの宗親が隼人を呼ばないはずはない。
期待に胸が躍った。
「あ、なんか嬉しそうな顔してるね。ちょっと妬ける」
奏が言うと響が楽しそうに叫んだ。
「これは血の雨が降りそうだな! 戦場のメリークリスマスだ!」
「なんか本当に事件が起きそうだからヤメテ!」
了は祈るような気持ちで言った。
クリスマス会当日。尾崎家の中で悲鳴がこだました。
「ええー! マジですか!?」
叫んだのは皆川蓮太郎だった。
了より一つ年下、中学三年生。
蓮二郎の双子の兄である美貌の少年は、頬を両手で押さえていた。
「レンは何をそんなに驚いてるんだ?」
了が聞くと、蓮太郎は了の背中に隠れるようにしながら、到着したばかりの紫苑を見た。
「あの人、高等部の藤森紫苑さんでしょ? なんであの人がここにいるの? てかリョウとあの人、友達なの?」
「もしかしてレンてシオンさんと同じ学校なの? 知り合いだった?」
紫苑が着ていた、紫色のポイント使いが印象的な制服を思いだした。
どう見ても私立の良いとこの学校という感じだった。
「高等部とは敷地が違うから、話した事はないけど、でもイベント交流とかで見かけた事あるから知ってるんだよ。てか、あんだけの美形だからね、中等部でも有名人だよ!」
了は納得した。
確かにあんな整った顔の人間が先輩にいたら噂にもなるだろう。
「リョウはあの人と友達なの? 仲が良いの?」
服の裾を掴んで聞かれた。
「えーと、友達と言うか、家族候補と言うか……」
説明に困っていると蓮太郎は了に顔を寄せた。
「なに、それ? すごい気になる! 家族って何?」
了はキッチンにいる宗親に視線を向けた。
「詳しくは父さんに……って、もっとややこしい説明されるか?」
ちょっと心配になった。
すると了に向かって紫苑が歩いてきた。
「今日はお招きありがとう」
「あ、はい。正確には父さんの主催ですが」
「うん、でも、大勢で集まる機会ってないから楽しみにしてたんだ」
「あの!」
隣にいた蓮太郎が声を出した。
「初めまして、皆川蓮太郎です。同じ学校の中等部にいます」
緊張した面持ちの蓮太郎に、紫苑は首を傾げる。
「どこかで見たような気がしたけど、学校でだったかな? なんか似たような人形を見たような気が……」
「説明します!」
蓮太郎は双子である蓮二郎の事や、了との出会いを説明した。
紫苑も了との関係を話す。
会話が終わると紫苑は空いていた隼人の隣の椅子に座った。
ダイニングテーブルにいる紫苑達を見ながら、蓮太郎は呟く。
「本当に信じられない。シオンさんがいるだけでもビックリなのに、この美形の多さはなんなの?」
慣れてはいたが、了も同感だった。自分の周りには美形が多い。
「噂には聞いてたけど本当に芸能人とかいるし! しかもあの咲田奏だし!」
テーブル席にいる奏の事を見ながら、蓮太郎は叫んだ。
「カナデの事知ってるんだ?」
「知ってるよ! この前やってたドラマで、ヒロインの弟役してて話題になってたじゃん!?」
「そうだったの?」
了もドラマは見ていたが、話題になっていたのは知らなかった。
ドラマでは髪を黒く染めていたせいか、普段一緒にいて芸能人だと気付かれる事はあまりなかった。
「あとそこにいるミズキさん! 彼も一見地味だけど顔は整ってるよね? あーゆータイプはヤバいんだよ。サラっと好きな子持ってっちゃう系だよ!」
了は奏と話しているミズキを見た。
蓮太郎から見てもやっぱりミズキは整った顔なんだなと思った。
「なんだよ、さっきから美形がどうのって話してるけど、俺の話題?」
響は蓮太郎の肩に腕を置いて笑みを浮かべる。
「あ、ヒビキは美形には入らないから安心して良いよ」
「ちょっとレン、酷くない!?」
突っ込む響に、蓮太郎は冷淡に言う。
「ヒビキは純粋な美形には入らならないでしょ? ま、でもモテるとは思うよ。雰囲気イケメンで、明るくて面白くて会話が途切れないって、モテる要素だと思うし」
「え、褒められた?」
響は純粋に嬉しそうな顔をする。
「半分ね。顔は褒めてないから」
「レンは口が悪いなー!」
響は蓮太郎の頬を引っ張っていた。
蓮太郎と了の友人達は今日が初対面だったが、響とはすっかり仲良くなっているようだった。
どちらも社交的で人見知りもしないので、言いたい事を言い合っている。
響の方が年上だがすでに呼び捨てだ。
「ヒビキ、年下の子をイジメるのは良くないよ」
ミズキが真面目に声をかけると、横にいた奏が突っ込んだ。
「いや、今のはレンの方がヒビキに意地悪だったよ。ま、仲良さそうな感じだったけど」
蓮二郎と面識があるせいか、了から話を聞いていたせいか、ミズキも奏もすんなり蓮太郎と馴染んでいた。
蓮太郎は三人から離れ、再び了の隣に来る。
「ハヤトさん見た時もビックリしたけど、リョウのまわりに美形いすぎるんだけど……」
「美形の友達はいたらダメなの?」
不満そうな蓮太郎に聞いてみた。
「ダメに決まってるでしょ? 僕の価値とかありがたみがなくなるよ!」
蓮太郎はやけ酒のようにオレンジジュースを一気飲みした。
そう言えば、前もそんな事を言っていたなと思いだす。
顔が良いのは武器になると。
「レンは自信があってすごいよね。自分が美形だと言い切れちゃうし」
感心しながら呟くと、蓮太郎は頷く。
「当然でしょ。周りの反応見たら嫌でも気づくし、それにレンレンを客観的に見てるんだよ? これで自分が美形じゃないって思わない方がおかしいでしょ?」
確かにと思った。
普段、鏡を見た時や写真でしか自分の顔を見る事はない。
でも双子なら他人のように客観的に自分の顔を見る事が出来る。
それもいろんな角度から立体的にだ。
しかも蓮太郎と蓮二郎の兄弟は区別がつかない程に似ている。
「まぁ、性格によって外見の見え方って変わるとは思うけどね。僕は明るく社交的だけど、レンレンは良く言って神秘的、普通に正直に言えば根暗って感じだし」
「根暗って……」
了が突っ込もうとすると蓮太郎は舌を出した。
「ああ、ごめん、言い直す。真面目って感じだよね」
真面目はその通りだ。
了は改めて集まったメンバーを見渡していた。
今、尾崎家にいる友人は響、奏、ミズキ、隼人、紫苑、蓮太郎の6人だった。
初対面の人間もいるし、年も一番下なので、了は蓮太郎を気遣って側にいたのだが、もうつきっきりで側にいなくても大丈夫そうだなと思った。
ソファから立ち上がろうとした時、蓮太郎に腕をつかまれた。
「ね、この集まりってリョウ争奪合戦なんだよね?」
「え?」
予想外の言葉に首を傾げる。
「何の話? これはクリスマス会だよ。イベント、お祭り大好きの父さん主催の……」
不安がよぎった。本当にそうか? 宗親の主催のクリスマス会。それは普通のクリスマス会じゃないのか?
蓮太郎はロシア人ハーフのような涼やかな顔でニコリと笑った。
「僕がもらった招待状にはスペシャル企画ありって書いてあったんだよね。当然、リョウのキス位もらえると思って参加したんだけど?」
「何言っちゃってんの!?」
動揺する了を見て、蓮太郎は楽しそうに目を細める。
「見て分かると思うけど、僕は勉強もできるし、ゲームも得意だよ。景品がリョウなら本気出しちゃうし、キスとか一晩リョウを独占できるとかなら絶対に勝つからね」
「そんな景品制度はありません!」
了は否定したが、蓮太郎は鼻歌を歌うように呟きながら立ち上がる。
「じゃあ、おじさんに確認してこようっと」
キッチンにいる宗親に向かって蓮太郎は歩き出した。
了は不安になり、響に声をかける。
「あのさ、ヒビキ。今日のクリスマス会って普通のクリスマス会だよな? 父さんに何か変な事言われてないよな?」
「変な事?」
響は首を傾げて考えるような顔をした後で呟く。
「いや、別にないと思うけどな。あ、でも、後でゴウが来るとは聞いたよ」
「うん。夕方来るみたい。昼間は部活のメンバーで集まるらしい」
他校のバスケ部に所属している剛輝は、基本的には部活やその仲間たちとの集まりが優先だった。
「よーし、料理が全部出来たぞ!」
宗親が両手に皿を持って現れた。蓮太郎は運ぶのを手伝いながら了の横に戻る。
「お代わりもたくさんあるからな! たくさん食べてくれよ!」
乾杯用のシャンメリーが全員にいきわたると、宗親は部屋の真ん中で全員を見渡しながらグラスを掲げた。
「今日は、リョウ争奪クリスマスパーティーに集まってくれてありがとう! じゃあ、乾杯!」
「いや、乾杯なんか出来ないよ!? 争奪とか何言ってんの!?」
了は叫んだが、周りの人間は何も気にせずにドリングを飲み干した。
「頂きます」
「美味しそう」
「うん、美味しいな」
宗親の言葉に誰も突っ込まず、全員が食事を始めた。
取り残され呆然としている了に蓮太郎が言う。
「だから景品はリョウだって言ったでしょ」
「ヒビキは何も聞いてないって言ったよね!?」
了は響を振り返る。
「ん、俺には関係ない事だからな。リョウに惚れてる、俺以外のみんな、頑張ってくれって感じだ。もし俺が勝ったら、リョウを独占できる権利は他のヤツに売り払おうと思う」
「あ、その時は僕に売って下さい」
蓮太郎の言葉に響は瞳を輝かせる。
「おお、君もリョウが好きか! よし、頑張れ!」
響は蓮太郎の肩を叩く。
「なんかライバル多いみたいで嫌なんですけど……」
呟く蓮太郎に響は笑顔を見せる。
「大丈夫、今のトコみんな片想いだから平等だ!」
「平等? まぁ、良いけど。誰が誰を好きでも僕の心は変わらないし」
顔を見ながら言われてドキリとしてしまった。
「みんな争奪戦は頑張ってくれ。俺は全力で応援する。そして俺も全力で戦う。もし俺が勝ったら、ここにいる全員とリョウの絡みの写真や動画を好きなだけ撮らせてもらうからな!」
食事しながらテンション高く、隼人が宣言した。
「ハヤトさん、相変わらずだね」
蓮太郎が呟いた。
了は複雑な心境だった。
隼人が勝った所で、彼と親密になれるワケでもない。了にとっては何の得にもならないイベントだ。
「えっと、父さん、争奪戦って何するわけ? あと俺が勝ったら景品もらえるの?」
了が質問すると、向かいのソファにいた宗親が答える。
「お前は自分で勝って、自分の身を守るのが景品だな。あ、ケーキ一切れ多くあげても良いぞ?」
「いらないよ!」
即答した。
「あと争奪戦は何するかって? まぁ、このあとトランプとか普通にゲームとかするだろ? それで勝った回数が多い人間が優勝だな」
普通のゲームなんだなと、少し安心した。
宗親の考える勝負だから、とんでもない物が入るのではないかと心配していた。
「お父さん、質問です」
奏が手を上げて宗親に訊ねる。
「その都度ゲームの内容は指定できますか? 俺の得意分野で勝負したいんですが」
宗親は笑顔で頷く。
「もちろんOKだ。それぞれが得意分野で勝負してくれて構わないよ。うちには遊戯室があるからね、ビリヤードも出来るしダーツも出来る。武器が欲しいなら各種和洋問わずそろえてある」
「さすがミステリー作家ですね!」
隼人は感動していたが、了は突っ込んだ。
「武器、使っちゃ駄目なヤツだから!」
小説の資料のために多数の武器がある事は知っていた。
「いや、あれはもしやコスプレ用だったのか?」
宗親の過去を知った今、違う可能性もあると気付いた。
「ゲームね、基本的に頭も運動神経も自信あるんだけど、このメンバーだと厳しいかなー?」
蓮太郎が部屋を見渡しながら呟いた。
確かに頭脳という点では紫苑と隼人が、運動はミズキと奏が得意そうに見えた。
「あ、ヒビキはどっちも不得意そうだよね?」
蓮太郎が響に向かって言った。
「レンは俺の事が嫌いなのか!? 確かに勉強は出来ないよ! でも運動は普通レベルだからな!」
「普通を自慢しないでよ」
「普通が一番なんだよ! 顔も含めてな!」
響と蓮太郎は相変わらず仲が良さそうだった。
食事が終わると了争奪戦という名のゲームが始まった。
最初のゲームはトランプのババヌキだった。
特に誰かが才能を発揮するワケでもなく、普通に行い隼人が勝った。
「ハヤトさんの勝ちか。まぁ、他の人にリードされるよりは良かったかな?」
蓮太郎が呟くと、隼人はカードをしまいながら言う。
「俺が勝つのが一番お得じゃないかな? それなら君も間違いなくリョウと絡む事が出来るぞ?」
「でも僕以外の人もリョウと絡むんでしょ? それじゃぜんぜんダメだよ」
二人の会話を聞いていた奏が呟いた。
「またライバルが増えたのか……でも、まぁ仕方ないよな。俺やミズキが好きになる位だものな」
ミズキが頷くのを見て蓮太郎が項垂れた。
「マジかよ、ミズキさんもカナデさんもリョウが好きなワケ? こんな倍率アリですか?」
「ライバルに臆したならリョウを諦めるのもアリだと思うけど?」
響が言うと、蓮太郎は強気な瞳を向けた。
「諦めるワケないでしょ? むしろ燃えるね! こんだけの美形の中から、僕が選ばれたんだって思ったら最高じゃん!」
ヤル気を出した蓮太郎を見て、宗親と隼人は嬉しそうに頷いていた。
次のゲームは花札のこいこいだった。意外な事にこれに勝ったのは蓮太郎だった。
「昔、家族でよくやってたんだよね! 父さん、和風のモノ大好きだからさ!」
双子の父である、人形師の篠崎ともかの姿を思いだした。初対面の時に着物を着ていた。
「ちなみにレンとレンジ君はどっちが花札強いの?」
了の問いに蓮太郎は首を傾げる。
「多分、互角。あーでも最近、僕は家でやってないし、今はレンレンのが強いかもね。今でも父さんとやってそうじゃない?」
以前、蓮二郎は父親のともかと距離を取っていた。
そんな二人が一緒に花札をするような関係になっていたら良いなと思った。
「次は俺の得意分野でやらせてもらう!」
奏が立ち上がって宗親を見た。
「お父さん、ゲーム機もありますよね!?」
奏に言われて宗親が用意したのは家庭用ダンスゲームだった。
自分の体が画面と連動するタイプだ。
「うちにこんなゲームあったんだ?」
了が呟くと宗親が頷く。
「お前が学校に行っている時に、俺がたまにこれで身体を鍛えているからな」
「ゲームで鍛えられるの?」
「小説家は座りっぱなしだからな。たまには運動しないと」
確かにと思った。
ダンスを習っている奏は、それは見事に踊り切った。ハイスコアだ。
誰もこれには対抗できなかった。
「レンは愛するリョウのために、カナデに挑まないのか?」
響に言われた蓮太郎は眉を顰める。
「いや、だってあの人プロじゃん。適うワケないじゃん」
「お前のリョウへの愛はそんなモンなのか!? 勝負はやってみなきゃわかんないぞ!」
「僕は合理的なの。てかそういうならヒビキが挑めば?」
「こんなの勝てるワケないだろ!」
「じゃあ、次は俺の得意なので良いかな?」
ミズキが言うと宗親は書道道具を取りだした。
「何で準備してあるの!?」
突っ込むリョウの横で、サラサラとミズキは文字を書いていく。
出来上がったのは漢詩だった。
何が書いてあるのか意味は分からなかったが、とにかく綺麗な漢字が並んでいる。
「何これ!? 意味わかんないケド綺麗すぎなんだけど!?」
叫ぶ蓮太郎の横で宗親が頷く。
「これは欧陽詢の書だね。それにしても見事だ」
「オウヨウジュンって何? てかこんな字に敵うワケないでしょ!」
全員が負けを認めた。
「シオンさんは何か得意なモノはないんですか? あなたもリョウの事を特別に思っていますよね?」
隼人が訊ねると紫苑は頷く。
「確かにリョウは特別だよ。でもほら、俺はもう兄弟という特別な絆があるしね」
「なんかちょっとイラっとするセリフだな」
聞えない位の小声で蓮太郎が呟いた。
「でもそうだね、みんなが何かで勝負をしたいって言うならこういうのはどうかな?」
紫苑はカバンから本を取りだした。
「T大の過去問だよ? これなんかどう?」
「あーもう不戦敗で良いです!」
蓮太郎が叫んでいた。当然T大にチャレンジする人間はいなかった。
「でも勉強なら、小清水さん結構イイ勝負できるんじゃないかな?」
了は隼人を見ながらボソリと呟いた。今日はあまり話せていないのが淋しいと思えた。
それが聞こえたのか蓮太郎がこちらを見た。
「なんか今の言い方ちょっと引っかかったなぁ。もしかしてリョウってハヤトさんの事好き?」
「え、な、何を?」
動揺してしまった。蓮太郎の顔が変わる。
「え、マジでそうなの? 噓でしょ? テンション下がるんだけど……」
「抜けるならどうぞ」
ミズキがサラリと言った。
「抜けません! リョウの気持ちとか関係ないですから!」
「俺の気持ち関係ないの!?」
蓮太郎はニヤリと笑って顔を寄せる。
「誰を好きだろうと、口説き落せば良いだけだからね!」
真っ直ぐに言われてドキリとしてしまった。
「ん、そこ何か話してる? なにかBLっぽい美味しい気配がするような」
宗親が反応した。
「な、なんでもないよ!」
了は誤魔化した。
宗親と隼人との席が離れていて良かったと思った。
「じゃあ、最後はオオトリの俺の出番だな」
両手の指を鳴らしながら響が立ち上がった。
「え、ヒビキって何か得意なのあるの?」
「レン、俺を見くびるなよ。ケンカなら多分俺が一番だろう?」
「ミズキの方が強そうだと思うな」
奏が言った。
「ま、確かに。てか、俺はケンカしないけどね」
「じゃあ、何で勝負するの?」
了が問いかけた時、宗親が立ち上がった。
「もう夕方だし、次をラストゲームにしよう」
言われて時計を見た。もう5時半だった。
「次は特別に勝ち点2倍だ。つまり次に勝った人間がリョウにあんな事やこんな事が出来る!」
「勝手な事言わないでくれる!?」
了は突っ込んだ。
蓮太郎や奏が張り切っているのが見えた。
隼人はどうだろうかと窺い見たが、隼人は他のメンバーの盛り上がりを楽しんでいるように見えた。
「ここは自分の身は自分で守るしかないか……」
了は呟いて宗親を見た。
一体宗親が用意した勝負とは何だろうかと身構えた。
「今日はクリスマスだからな。俺から素敵なプレゼントを用意してあるんだ。この家の敷地のどこかに隠してあるから、探し当てた人間にそれをあげるよ。そしてそれを見つけた人間が勝者だ!」
聞いた瞬間、ミズキ、奏、蓮太郎が立ち上がった。
それぞれが動き出そうとした時、チャイムが鳴った。
「こんばんは! 遅れてスイマセン。お邪魔します!」
剛輝の声だった。
「そう言えば後で合流するって言ってたな」
響が呟くと宗親は頷く。
「ちゃんとゴウ君の分の料理は取っておいてあるからね。絶対来てくれると信じてたよ」
剛輝は食べ物に目がない。
リビングの扉を開けて剛輝が現れた。
「おう! みんな久しぶり!」
相変わらずの眩しい笑顔だった。
「おお! 心の友よ!」
響とハグした後で、剛輝は手に持っていた箱を掲げた。
「これ、玄関の扉にくっついてたんですけど、何ですか?」
「え?」
呟いた後で理解した。
「それって……」
「おめでとう! ゴウ君! 君の優勝だ!」
宗親が剛輝にハグをした。
「え、な、なんすか?」
何も理解していない剛輝に宗親は言う。
「優勝者の君には今晩リョウを好きにする権利がある! あとその箱はおじさんからのクリスマスプレゼントだよ!」
「え、プレゼントですか? ありがとうございます。開けて良いですか?」
「もちろん」
剛輝は箱を開けた。
出てきたのはアルバムのようだった。
「俺が隠し撮りした、リョウのお風呂や寝相のセクシーショットだ! 好きに使ってくれ!」
「え、いや、別にいらないけど、まぁ、くれるなら貰っても良いですけど……ん? 使うって何に?」
「それはもちろん……」
「没収に決まってんだよ!」
宗親の言葉を遮り、了は剛輝の手からアルバムを奪い取った。
「なんか、結局美味しいトコロはゴウが持ってくんだな」
奏が呟きミズキが頷いた。
「なんで最後にまたイケメンが現れるかな……」
蓮太郎がまたショックを受けていた。
結局、グダグダのままクリスマス会はお開きとなった。
みんなが帰った後も、最後に来た剛輝だけは部屋に残り、宗親の作った料理を食べていた。
それをニコニコしながら宗親は見つめていた。
「いや、やっぱ、おじさんの作るご飯美味しいです!」
「ありがとう。所でゴウ君、君にはリョウを好きにする権利があるんだけど、何をする?」
「え?」
剛輝は食べる手を休めて了を見た。
ドキリとした。
一体何を言われるのだろうか……。
暫く見つめあった後で、剛輝はニコリと笑った。
「じゃ、食後の運動って事で、あとで1on1付き合ってくれよ。バスケでオフェンスとディフェンスが1対1で攻防戦するヤツな!」
「ゴウの相手なんかできるワケないだろ!?」
結局、了は付き合わされた。
運動量が半端なく、地獄のクリスマスとなった。
その事を友人達に打ち明けた。
それは了にとっては一歩前進だと思っていた。
物語が進んだ大きな出来事。転換期。
と思っていたのは了だけのようだった。
「え、だって片想いでしょ? 片想いって告白もしてないし、何も前進してないんじゃないかな?」
いつものように友人達が教室に集まった昼休み。
向かいに座っていた奏にサラリと言われた。その横で頷きながらミズキが言う。
「映画とか小説とか物語に例えたら、主人公が片想いの段階からスタートするお話っていっぱいあるよね? そう思うと今、物語が始まったとも言えるんじゃないかな?」
「俺の今までの葛藤は、まだ始まってもないモノだったんですね!?」
突っ込む了の肩に響が手を置いた。
「良いじゃないか。人がどう思うかは自由だ。俺はリョウが恋をして一歩前進したなーって思ってるよ」
「ヒビキ……」
「まぁ、相手があの生徒会長サマっていうのが、無謀というか命知らずというか、登るなら一番高い富士山みたいな感じですげーと思うけどな。あ、俺の親戚が富士山で転んで骨折したから気をつけろよな!」
「ヒビキは俺を応援してるのかな!? 面白がってるのかな!?」
響は頭をかきつつ言う。
「ほら、俺の友人達全員片想いって事じゃん。誰か一人に肩入れは出来ないからさ、全員ちゃんと応援してるよ」
響は笑顔を見せた。
了は弁当を見つめた後で全員を見渡した。
「一応、言っておくけど、俺がハヤトさんの事、す……好きって事は父さんには内緒にして欲しいな」
「ああ、おじさんか、うん、そうだね」
頷くミズキの横で奏が呟いた。
「でも俺達が気づく位だから、お父さん気づいてるんじゃない?」
「……」
確かにそうかもしれないとは思ったが、自分から打ち明けたくはなかった。
「ま、一応バレてない設定でいくか」
響が明るく言った。
「あ、そうだ。おじさんからクリスマス会のお誘い頂いてるよ。もちろん俺らは全員参加するから」
「クリスマス会?」
初耳だった。けれどすぐに納得する。宗親はイベントごとが大好きだ。
「全員って事はここにいるメンバーだよな?」
了は確認する。
響、奏、ミズキ、それに了の四人。
「まぁ、聞いてはないけど当然ハヤトさんも呼んでるでしょ」
奏の発言にドキリとした。
そうだ。あの宗親が隼人を呼ばないはずはない。
期待に胸が躍った。
「あ、なんか嬉しそうな顔してるね。ちょっと妬ける」
奏が言うと響が楽しそうに叫んだ。
「これは血の雨が降りそうだな! 戦場のメリークリスマスだ!」
「なんか本当に事件が起きそうだからヤメテ!」
了は祈るような気持ちで言った。
クリスマス会当日。尾崎家の中で悲鳴がこだました。
「ええー! マジですか!?」
叫んだのは皆川蓮太郎だった。
了より一つ年下、中学三年生。
蓮二郎の双子の兄である美貌の少年は、頬を両手で押さえていた。
「レンは何をそんなに驚いてるんだ?」
了が聞くと、蓮太郎は了の背中に隠れるようにしながら、到着したばかりの紫苑を見た。
「あの人、高等部の藤森紫苑さんでしょ? なんであの人がここにいるの? てかリョウとあの人、友達なの?」
「もしかしてレンてシオンさんと同じ学校なの? 知り合いだった?」
紫苑が着ていた、紫色のポイント使いが印象的な制服を思いだした。
どう見ても私立の良いとこの学校という感じだった。
「高等部とは敷地が違うから、話した事はないけど、でもイベント交流とかで見かけた事あるから知ってるんだよ。てか、あんだけの美形だからね、中等部でも有名人だよ!」
了は納得した。
確かにあんな整った顔の人間が先輩にいたら噂にもなるだろう。
「リョウはあの人と友達なの? 仲が良いの?」
服の裾を掴んで聞かれた。
「えーと、友達と言うか、家族候補と言うか……」
説明に困っていると蓮太郎は了に顔を寄せた。
「なに、それ? すごい気になる! 家族って何?」
了はキッチンにいる宗親に視線を向けた。
「詳しくは父さんに……って、もっとややこしい説明されるか?」
ちょっと心配になった。
すると了に向かって紫苑が歩いてきた。
「今日はお招きありがとう」
「あ、はい。正確には父さんの主催ですが」
「うん、でも、大勢で集まる機会ってないから楽しみにしてたんだ」
「あの!」
隣にいた蓮太郎が声を出した。
「初めまして、皆川蓮太郎です。同じ学校の中等部にいます」
緊張した面持ちの蓮太郎に、紫苑は首を傾げる。
「どこかで見たような気がしたけど、学校でだったかな? なんか似たような人形を見たような気が……」
「説明します!」
蓮太郎は双子である蓮二郎の事や、了との出会いを説明した。
紫苑も了との関係を話す。
会話が終わると紫苑は空いていた隼人の隣の椅子に座った。
ダイニングテーブルにいる紫苑達を見ながら、蓮太郎は呟く。
「本当に信じられない。シオンさんがいるだけでもビックリなのに、この美形の多さはなんなの?」
慣れてはいたが、了も同感だった。自分の周りには美形が多い。
「噂には聞いてたけど本当に芸能人とかいるし! しかもあの咲田奏だし!」
テーブル席にいる奏の事を見ながら、蓮太郎は叫んだ。
「カナデの事知ってるんだ?」
「知ってるよ! この前やってたドラマで、ヒロインの弟役してて話題になってたじゃん!?」
「そうだったの?」
了もドラマは見ていたが、話題になっていたのは知らなかった。
ドラマでは髪を黒く染めていたせいか、普段一緒にいて芸能人だと気付かれる事はあまりなかった。
「あとそこにいるミズキさん! 彼も一見地味だけど顔は整ってるよね? あーゆータイプはヤバいんだよ。サラっと好きな子持ってっちゃう系だよ!」
了は奏と話しているミズキを見た。
蓮太郎から見てもやっぱりミズキは整った顔なんだなと思った。
「なんだよ、さっきから美形がどうのって話してるけど、俺の話題?」
響は蓮太郎の肩に腕を置いて笑みを浮かべる。
「あ、ヒビキは美形には入らないから安心して良いよ」
「ちょっとレン、酷くない!?」
突っ込む響に、蓮太郎は冷淡に言う。
「ヒビキは純粋な美形には入らならないでしょ? ま、でもモテるとは思うよ。雰囲気イケメンで、明るくて面白くて会話が途切れないって、モテる要素だと思うし」
「え、褒められた?」
響は純粋に嬉しそうな顔をする。
「半分ね。顔は褒めてないから」
「レンは口が悪いなー!」
響は蓮太郎の頬を引っ張っていた。
蓮太郎と了の友人達は今日が初対面だったが、響とはすっかり仲良くなっているようだった。
どちらも社交的で人見知りもしないので、言いたい事を言い合っている。
響の方が年上だがすでに呼び捨てだ。
「ヒビキ、年下の子をイジメるのは良くないよ」
ミズキが真面目に声をかけると、横にいた奏が突っ込んだ。
「いや、今のはレンの方がヒビキに意地悪だったよ。ま、仲良さそうな感じだったけど」
蓮二郎と面識があるせいか、了から話を聞いていたせいか、ミズキも奏もすんなり蓮太郎と馴染んでいた。
蓮太郎は三人から離れ、再び了の隣に来る。
「ハヤトさん見た時もビックリしたけど、リョウのまわりに美形いすぎるんだけど……」
「美形の友達はいたらダメなの?」
不満そうな蓮太郎に聞いてみた。
「ダメに決まってるでしょ? 僕の価値とかありがたみがなくなるよ!」
蓮太郎はやけ酒のようにオレンジジュースを一気飲みした。
そう言えば、前もそんな事を言っていたなと思いだす。
顔が良いのは武器になると。
「レンは自信があってすごいよね。自分が美形だと言い切れちゃうし」
感心しながら呟くと、蓮太郎は頷く。
「当然でしょ。周りの反応見たら嫌でも気づくし、それにレンレンを客観的に見てるんだよ? これで自分が美形じゃないって思わない方がおかしいでしょ?」
確かにと思った。
普段、鏡を見た時や写真でしか自分の顔を見る事はない。
でも双子なら他人のように客観的に自分の顔を見る事が出来る。
それもいろんな角度から立体的にだ。
しかも蓮太郎と蓮二郎の兄弟は区別がつかない程に似ている。
「まぁ、性格によって外見の見え方って変わるとは思うけどね。僕は明るく社交的だけど、レンレンは良く言って神秘的、普通に正直に言えば根暗って感じだし」
「根暗って……」
了が突っ込もうとすると蓮太郎は舌を出した。
「ああ、ごめん、言い直す。真面目って感じだよね」
真面目はその通りだ。
了は改めて集まったメンバーを見渡していた。
今、尾崎家にいる友人は響、奏、ミズキ、隼人、紫苑、蓮太郎の6人だった。
初対面の人間もいるし、年も一番下なので、了は蓮太郎を気遣って側にいたのだが、もうつきっきりで側にいなくても大丈夫そうだなと思った。
ソファから立ち上がろうとした時、蓮太郎に腕をつかまれた。
「ね、この集まりってリョウ争奪合戦なんだよね?」
「え?」
予想外の言葉に首を傾げる。
「何の話? これはクリスマス会だよ。イベント、お祭り大好きの父さん主催の……」
不安がよぎった。本当にそうか? 宗親の主催のクリスマス会。それは普通のクリスマス会じゃないのか?
蓮太郎はロシア人ハーフのような涼やかな顔でニコリと笑った。
「僕がもらった招待状にはスペシャル企画ありって書いてあったんだよね。当然、リョウのキス位もらえると思って参加したんだけど?」
「何言っちゃってんの!?」
動揺する了を見て、蓮太郎は楽しそうに目を細める。
「見て分かると思うけど、僕は勉強もできるし、ゲームも得意だよ。景品がリョウなら本気出しちゃうし、キスとか一晩リョウを独占できるとかなら絶対に勝つからね」
「そんな景品制度はありません!」
了は否定したが、蓮太郎は鼻歌を歌うように呟きながら立ち上がる。
「じゃあ、おじさんに確認してこようっと」
キッチンにいる宗親に向かって蓮太郎は歩き出した。
了は不安になり、響に声をかける。
「あのさ、ヒビキ。今日のクリスマス会って普通のクリスマス会だよな? 父さんに何か変な事言われてないよな?」
「変な事?」
響は首を傾げて考えるような顔をした後で呟く。
「いや、別にないと思うけどな。あ、でも、後でゴウが来るとは聞いたよ」
「うん。夕方来るみたい。昼間は部活のメンバーで集まるらしい」
他校のバスケ部に所属している剛輝は、基本的には部活やその仲間たちとの集まりが優先だった。
「よーし、料理が全部出来たぞ!」
宗親が両手に皿を持って現れた。蓮太郎は運ぶのを手伝いながら了の横に戻る。
「お代わりもたくさんあるからな! たくさん食べてくれよ!」
乾杯用のシャンメリーが全員にいきわたると、宗親は部屋の真ん中で全員を見渡しながらグラスを掲げた。
「今日は、リョウ争奪クリスマスパーティーに集まってくれてありがとう! じゃあ、乾杯!」
「いや、乾杯なんか出来ないよ!? 争奪とか何言ってんの!?」
了は叫んだが、周りの人間は何も気にせずにドリングを飲み干した。
「頂きます」
「美味しそう」
「うん、美味しいな」
宗親の言葉に誰も突っ込まず、全員が食事を始めた。
取り残され呆然としている了に蓮太郎が言う。
「だから景品はリョウだって言ったでしょ」
「ヒビキは何も聞いてないって言ったよね!?」
了は響を振り返る。
「ん、俺には関係ない事だからな。リョウに惚れてる、俺以外のみんな、頑張ってくれって感じだ。もし俺が勝ったら、リョウを独占できる権利は他のヤツに売り払おうと思う」
「あ、その時は僕に売って下さい」
蓮太郎の言葉に響は瞳を輝かせる。
「おお、君もリョウが好きか! よし、頑張れ!」
響は蓮太郎の肩を叩く。
「なんかライバル多いみたいで嫌なんですけど……」
呟く蓮太郎に響は笑顔を見せる。
「大丈夫、今のトコみんな片想いだから平等だ!」
「平等? まぁ、良いけど。誰が誰を好きでも僕の心は変わらないし」
顔を見ながら言われてドキリとしてしまった。
「みんな争奪戦は頑張ってくれ。俺は全力で応援する。そして俺も全力で戦う。もし俺が勝ったら、ここにいる全員とリョウの絡みの写真や動画を好きなだけ撮らせてもらうからな!」
食事しながらテンション高く、隼人が宣言した。
「ハヤトさん、相変わらずだね」
蓮太郎が呟いた。
了は複雑な心境だった。
隼人が勝った所で、彼と親密になれるワケでもない。了にとっては何の得にもならないイベントだ。
「えっと、父さん、争奪戦って何するわけ? あと俺が勝ったら景品もらえるの?」
了が質問すると、向かいのソファにいた宗親が答える。
「お前は自分で勝って、自分の身を守るのが景品だな。あ、ケーキ一切れ多くあげても良いぞ?」
「いらないよ!」
即答した。
「あと争奪戦は何するかって? まぁ、このあとトランプとか普通にゲームとかするだろ? それで勝った回数が多い人間が優勝だな」
普通のゲームなんだなと、少し安心した。
宗親の考える勝負だから、とんでもない物が入るのではないかと心配していた。
「お父さん、質問です」
奏が手を上げて宗親に訊ねる。
「その都度ゲームの内容は指定できますか? 俺の得意分野で勝負したいんですが」
宗親は笑顔で頷く。
「もちろんOKだ。それぞれが得意分野で勝負してくれて構わないよ。うちには遊戯室があるからね、ビリヤードも出来るしダーツも出来る。武器が欲しいなら各種和洋問わずそろえてある」
「さすがミステリー作家ですね!」
隼人は感動していたが、了は突っ込んだ。
「武器、使っちゃ駄目なヤツだから!」
小説の資料のために多数の武器がある事は知っていた。
「いや、あれはもしやコスプレ用だったのか?」
宗親の過去を知った今、違う可能性もあると気付いた。
「ゲームね、基本的に頭も運動神経も自信あるんだけど、このメンバーだと厳しいかなー?」
蓮太郎が部屋を見渡しながら呟いた。
確かに頭脳という点では紫苑と隼人が、運動はミズキと奏が得意そうに見えた。
「あ、ヒビキはどっちも不得意そうだよね?」
蓮太郎が響に向かって言った。
「レンは俺の事が嫌いなのか!? 確かに勉強は出来ないよ! でも運動は普通レベルだからな!」
「普通を自慢しないでよ」
「普通が一番なんだよ! 顔も含めてな!」
響と蓮太郎は相変わらず仲が良さそうだった。
食事が終わると了争奪戦という名のゲームが始まった。
最初のゲームはトランプのババヌキだった。
特に誰かが才能を発揮するワケでもなく、普通に行い隼人が勝った。
「ハヤトさんの勝ちか。まぁ、他の人にリードされるよりは良かったかな?」
蓮太郎が呟くと、隼人はカードをしまいながら言う。
「俺が勝つのが一番お得じゃないかな? それなら君も間違いなくリョウと絡む事が出来るぞ?」
「でも僕以外の人もリョウと絡むんでしょ? それじゃぜんぜんダメだよ」
二人の会話を聞いていた奏が呟いた。
「またライバルが増えたのか……でも、まぁ仕方ないよな。俺やミズキが好きになる位だものな」
ミズキが頷くのを見て蓮太郎が項垂れた。
「マジかよ、ミズキさんもカナデさんもリョウが好きなワケ? こんな倍率アリですか?」
「ライバルに臆したならリョウを諦めるのもアリだと思うけど?」
響が言うと、蓮太郎は強気な瞳を向けた。
「諦めるワケないでしょ? むしろ燃えるね! こんだけの美形の中から、僕が選ばれたんだって思ったら最高じゃん!」
ヤル気を出した蓮太郎を見て、宗親と隼人は嬉しそうに頷いていた。
次のゲームは花札のこいこいだった。意外な事にこれに勝ったのは蓮太郎だった。
「昔、家族でよくやってたんだよね! 父さん、和風のモノ大好きだからさ!」
双子の父である、人形師の篠崎ともかの姿を思いだした。初対面の時に着物を着ていた。
「ちなみにレンとレンジ君はどっちが花札強いの?」
了の問いに蓮太郎は首を傾げる。
「多分、互角。あーでも最近、僕は家でやってないし、今はレンレンのが強いかもね。今でも父さんとやってそうじゃない?」
以前、蓮二郎は父親のともかと距離を取っていた。
そんな二人が一緒に花札をするような関係になっていたら良いなと思った。
「次は俺の得意分野でやらせてもらう!」
奏が立ち上がって宗親を見た。
「お父さん、ゲーム機もありますよね!?」
奏に言われて宗親が用意したのは家庭用ダンスゲームだった。
自分の体が画面と連動するタイプだ。
「うちにこんなゲームあったんだ?」
了が呟くと宗親が頷く。
「お前が学校に行っている時に、俺がたまにこれで身体を鍛えているからな」
「ゲームで鍛えられるの?」
「小説家は座りっぱなしだからな。たまには運動しないと」
確かにと思った。
ダンスを習っている奏は、それは見事に踊り切った。ハイスコアだ。
誰もこれには対抗できなかった。
「レンは愛するリョウのために、カナデに挑まないのか?」
響に言われた蓮太郎は眉を顰める。
「いや、だってあの人プロじゃん。適うワケないじゃん」
「お前のリョウへの愛はそんなモンなのか!? 勝負はやってみなきゃわかんないぞ!」
「僕は合理的なの。てかそういうならヒビキが挑めば?」
「こんなの勝てるワケないだろ!」
「じゃあ、次は俺の得意なので良いかな?」
ミズキが言うと宗親は書道道具を取りだした。
「何で準備してあるの!?」
突っ込むリョウの横で、サラサラとミズキは文字を書いていく。
出来上がったのは漢詩だった。
何が書いてあるのか意味は分からなかったが、とにかく綺麗な漢字が並んでいる。
「何これ!? 意味わかんないケド綺麗すぎなんだけど!?」
叫ぶ蓮太郎の横で宗親が頷く。
「これは欧陽詢の書だね。それにしても見事だ」
「オウヨウジュンって何? てかこんな字に敵うワケないでしょ!」
全員が負けを認めた。
「シオンさんは何か得意なモノはないんですか? あなたもリョウの事を特別に思っていますよね?」
隼人が訊ねると紫苑は頷く。
「確かにリョウは特別だよ。でもほら、俺はもう兄弟という特別な絆があるしね」
「なんかちょっとイラっとするセリフだな」
聞えない位の小声で蓮太郎が呟いた。
「でもそうだね、みんなが何かで勝負をしたいって言うならこういうのはどうかな?」
紫苑はカバンから本を取りだした。
「T大の過去問だよ? これなんかどう?」
「あーもう不戦敗で良いです!」
蓮太郎が叫んでいた。当然T大にチャレンジする人間はいなかった。
「でも勉強なら、小清水さん結構イイ勝負できるんじゃないかな?」
了は隼人を見ながらボソリと呟いた。今日はあまり話せていないのが淋しいと思えた。
それが聞こえたのか蓮太郎がこちらを見た。
「なんか今の言い方ちょっと引っかかったなぁ。もしかしてリョウってハヤトさんの事好き?」
「え、な、何を?」
動揺してしまった。蓮太郎の顔が変わる。
「え、マジでそうなの? 噓でしょ? テンション下がるんだけど……」
「抜けるならどうぞ」
ミズキがサラリと言った。
「抜けません! リョウの気持ちとか関係ないですから!」
「俺の気持ち関係ないの!?」
蓮太郎はニヤリと笑って顔を寄せる。
「誰を好きだろうと、口説き落せば良いだけだからね!」
真っ直ぐに言われてドキリとしてしまった。
「ん、そこ何か話してる? なにかBLっぽい美味しい気配がするような」
宗親が反応した。
「な、なんでもないよ!」
了は誤魔化した。
宗親と隼人との席が離れていて良かったと思った。
「じゃあ、最後はオオトリの俺の出番だな」
両手の指を鳴らしながら響が立ち上がった。
「え、ヒビキって何か得意なのあるの?」
「レン、俺を見くびるなよ。ケンカなら多分俺が一番だろう?」
「ミズキの方が強そうだと思うな」
奏が言った。
「ま、確かに。てか、俺はケンカしないけどね」
「じゃあ、何で勝負するの?」
了が問いかけた時、宗親が立ち上がった。
「もう夕方だし、次をラストゲームにしよう」
言われて時計を見た。もう5時半だった。
「次は特別に勝ち点2倍だ。つまり次に勝った人間がリョウにあんな事やこんな事が出来る!」
「勝手な事言わないでくれる!?」
了は突っ込んだ。
蓮太郎や奏が張り切っているのが見えた。
隼人はどうだろうかと窺い見たが、隼人は他のメンバーの盛り上がりを楽しんでいるように見えた。
「ここは自分の身は自分で守るしかないか……」
了は呟いて宗親を見た。
一体宗親が用意した勝負とは何だろうかと身構えた。
「今日はクリスマスだからな。俺から素敵なプレゼントを用意してあるんだ。この家の敷地のどこかに隠してあるから、探し当てた人間にそれをあげるよ。そしてそれを見つけた人間が勝者だ!」
聞いた瞬間、ミズキ、奏、蓮太郎が立ち上がった。
それぞれが動き出そうとした時、チャイムが鳴った。
「こんばんは! 遅れてスイマセン。お邪魔します!」
剛輝の声だった。
「そう言えば後で合流するって言ってたな」
響が呟くと宗親は頷く。
「ちゃんとゴウ君の分の料理は取っておいてあるからね。絶対来てくれると信じてたよ」
剛輝は食べ物に目がない。
リビングの扉を開けて剛輝が現れた。
「おう! みんな久しぶり!」
相変わらずの眩しい笑顔だった。
「おお! 心の友よ!」
響とハグした後で、剛輝は手に持っていた箱を掲げた。
「これ、玄関の扉にくっついてたんですけど、何ですか?」
「え?」
呟いた後で理解した。
「それって……」
「おめでとう! ゴウ君! 君の優勝だ!」
宗親が剛輝にハグをした。
「え、な、なんすか?」
何も理解していない剛輝に宗親は言う。
「優勝者の君には今晩リョウを好きにする権利がある! あとその箱はおじさんからのクリスマスプレゼントだよ!」
「え、プレゼントですか? ありがとうございます。開けて良いですか?」
「もちろん」
剛輝は箱を開けた。
出てきたのはアルバムのようだった。
「俺が隠し撮りした、リョウのお風呂や寝相のセクシーショットだ! 好きに使ってくれ!」
「え、いや、別にいらないけど、まぁ、くれるなら貰っても良いですけど……ん? 使うって何に?」
「それはもちろん……」
「没収に決まってんだよ!」
宗親の言葉を遮り、了は剛輝の手からアルバムを奪い取った。
「なんか、結局美味しいトコロはゴウが持ってくんだな」
奏が呟きミズキが頷いた。
「なんで最後にまたイケメンが現れるかな……」
蓮太郎がまたショックを受けていた。
結局、グダグダのままクリスマス会はお開きとなった。
みんなが帰った後も、最後に来た剛輝だけは部屋に残り、宗親の作った料理を食べていた。
それをニコニコしながら宗親は見つめていた。
「いや、やっぱ、おじさんの作るご飯美味しいです!」
「ありがとう。所でゴウ君、君にはリョウを好きにする権利があるんだけど、何をする?」
「え?」
剛輝は食べる手を休めて了を見た。
ドキリとした。
一体何を言われるのだろうか……。
暫く見つめあった後で、剛輝はニコリと笑った。
「じゃ、食後の運動って事で、あとで1on1付き合ってくれよ。バスケでオフェンスとディフェンスが1対1で攻防戦するヤツな!」
「ゴウの相手なんかできるワケないだろ!?」
結局、了は付き合わされた。
運動量が半端なく、地獄のクリスマスとなった。
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