とある虫の転生顛末

雅楽と化す

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虫に転生してしまった

まいぼでーいずにゅーぼでー……なんだけどな

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**********
気がつくと、一面が黒だった。自分は今どこに居るのか、立っているのか、座っているのか、どこを向いているのかも全くわからない。
だがうっすらと脳に記憶がまるで後付けされたように焼き付き、情景が浮かぶ。
最初に先輩が移った、家が近かったし帰宅するときに見つけたんだろう。目を見開いて混乱しているのかずっと俺に何か言っている、よく見れば泣いている。
そりゃそうか、ちょっと前まで一緒に仕事してたやつが死んでたらショックになるよな。
そして、少し後に救急車が俺を車に乗せたが、もう俺は死んでるだろうし顔がかなり潰れている。
ふと思い出した、俺にはもう家族と呼べる人がもういない。父母は俺が高校の時交通事故で二人とも亡くなって、高校卒業まではなんとか姉さんが育ててくれた。
その姉さんも、少し前に連続奇怪死体事件に巻き込まれて死んでしまった。俺と同じように。
こうして俺は天涯孤独の身になってしまった、代わりと言ってはなんだが、同僚や先輩が家族のようなものだった。その頃から先輩も少し優しくなったんだっけ?
少し、前世?現実?のことを思い出していたら、段々と周りが明るくなり意識が別次元に飛ばされるような………。
**********

目を覚ますと、木の洞の壁にくっついていた。何言ってるか分かんないだろう?俺も!
覚えているのは進化を開始しますとか言ってた謎の声と、前世の記憶だけだ、ということは進化は無事終わったのか。
とりあえず自分の身体をみたい、目をかっぽじって新しい体を見ようとした。
体は相変わらず動かないが、それは自分が糸に包まれているからだと分かった。俺が進化したのはハードクリサレス、つまり繭なので動けないってことだ。
おい!どうすればいいんだ!動けないのにどうやってご飯捕るんだよ!誰だ、こんなのに進化したやつ!
俺じゃん!!!
はあ、もしかして選択間違えた?とりあえずステータスの確認……。

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種族名:ハードクリサレス
ランク:F-
名前:無し雨泣 叶
状態:通常

レベル 1/8
HP 12/12
MP   8/8
SP 1/25

○各種能力値       
攻撃:6
速度:0(6)
防御:11
魔力:6
抵抗:8
構築:5
器用:20


・通常スキル
[溶解液Lv4/5][歯軋りLv3/5][鑑定Lv1/10][糸吐きLv5/10][食い溜めLv1/5][分離獣Lv1/20]

・耐性スキル
[毒耐性Lv3/10]

・特性スキル
[日本語Lv10/10]
[繭の鎧Lv10/10]

・称号
《蟲王の第十三王子》
《異界の因子》
大物喰らいジャイアントキリング
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あぁ………、ステータスはレベルマックスの時よりは結構へってるな…。
でもLv1のベイビーよりはめっちゃ高いな、やったぜ。
だが器用、なぜお前はそんなに高いんだ?進化前の最高値よりも高いぞ?
しかもスキルも新しく沢山手に入ってる。
試しに使ってみようかな、鑑定はド定番だしあとで良いよな。じゃあ[糸吐き]!
繭から糸が飛び出す、ドバって感じで。それになんか粘着する糸とそうじゃない糸が出せるっぽい。
蜘蛛みたいだな、巣とか作れるのか?作れるとしても動けないから獲物も食えないわ、ハハハハハ!はぁ……。
なんか余計腹減った………、SPは空っぽだしどうしよう………。
いや、でもこんな種族に進化して確定で死ぬってことはない。そんな生き物が存在できるわけないから他に獲得したスキルに生存に必須な物があるはず。
さっさと検証だな、[食い溜め]!
………。しかし 何も 起きなかった!
くっ!あと一つしか希望は無いぞ……、一番不安な響きのこれ。分離獣って字面でどんな効果かよく分からないが分離………、だが背に腹は代えられない。何とかしてくれたら何でもいい、願望と不安を込めながら心で念じた。[分離獣]!

悪寒が背筋を走った。
直後突然身体が軋み、捻れ、引き裂かれるような前世含めても体験した事の無い激痛に襲われた。
「………ッ!!……………ッ!!!」
…がっ…!ぁ"、ぐぁ…、はっ…?!な、んだ…ぁ、ぃたっ……。く、ぞっ…!ふざ、ぐぅ……、この……。
泣き叫びたい、なんでこんな目に、俺は気も狂わんばかりの痛みを受け続け、遂には身体の半分程度がボトリと地面に落ちた。
そしてそれは赤い肉の塊へと姿を変え、膨張していった。姿形は俺の一部だったとは思えないほど大きく強靭に変貌し、やがて輪郭ハッキリとさせていった。
体色は鮮やかな血の色、体表は筋肉が剥き出しになったグロテスクな様相だ。全身は丸々とした芋虫のようなもので、手足は前の俺のように五対十本だが、触手のような形になっている。
こんな奇怪な肉塊が蠢きだし、俺の前に留まった。
は、ぁ…?何が、したい…、んだ…?
並の人生では到底味わえない耐え難い苦しみの最中、自分の体とも言える肉の塊がこちらをジーッと見つめられてかなり俺は困惑した。痛みと困惑の渦に呑まれた時、突然頭に声が響いた。
『アルジサマ、ゴメイレイヲ』
…え?ちょっ、え…?誰?
『メノマエノワタシデゴザイマス、アルジサマ』
………OKOK、この肉塊がお前ね。で命令って、どういう意味?
『ワタシハアルジサマノテデアリ、アシデアリ、カラダデス。ナノデアルジサマノノゾミヲナンナリトオモウシツケクダサイ』
…答えに、なってないけど。…でも何でもやるならどんなのでもいいから食べれそうな物を持ってきてくれ……。空腹と出血で死にそうだ。
『カシコマリマシタ、コノイノチツキルマデオヤクニタチマス』
…重いなぁ……。けどありがたい、できるだけ早くお願いしてもいいかな。
『リョウカイシマシタ、ジンソクニ』
そう伝えると、肉塊は木の洞を出ていってしまった。これが分離獣の効果なんだろう、レベルを上げればもっと凄いんだろうな。
だけどそのせいで死にかけてるんだが?こんな痛いんじゃ使うのが億劫になるわ。あと分離獣の忠誠心が重すぎる、ちょっとだけ恐怖というか引いたね。
あの子には俺が出血と飢えで死なないうちに帰ってきてほしい。
『熟練度が一定に達しました。スキル[苦痛耐性]を獲得しました』
お、新しいスキルだ。やった。
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みんなの感想(2件)

ベンジャミン

とうとう死んでしまいましたかw
頭上だけじゃなくて体にも穴が開きましたね

解除
ベンジャミン

お邪魔します。プロローグからこの作品の面白さがわかるような表現力にあこがれます。
今後の展開が楽しみですね。

雅楽と化す
2021.07.05 雅楽と化す

ご感想ありがとうございます。私もあなたの作品を読ませていただいています、非常に話に引き込まれていって、展開が楽しみです

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