きっと、叶うから

横田碧翔

文字の大きさ
上 下
11 / 14
低学年編

市大会決勝トーナメント

しおりを挟む
 予選から一週間後、決勝トーナメント一回戦の日になった。予選を二位で通過した僕たちは、他のグループを一位で通過したチームとの対戦だ。それでも、勝てる気がしていた。僕と勇気を中心に攻撃をして、勇武を中心に守備をする。この作戦なら、格上のチームとも互角に戦える。それだけの力がついている。全員がそう信じていた。
「いいか。今日からは決勝トーナメントだ。負けたら終わりだ。何がなんでも勝たなくちゃ意味がない。相手が強いとかそんなことは関係ない。さぁいこう!」
試合前のミーティングで、監督が熱い言葉をかけてくれ、僕たちのやる気は最高潮に達する。ドクドクと心臓から血液が前身に流れていくのがよく分かる。身体が軽い。コンディションは最高だ。
「両チーム整列お願いします」
審判から整列の合図があり、相手チームと正面に向かい合う。だが、並んですぐに、思わず後退りしてしまった。僕の正面に立った相手選手は、今まで会ってきた同い年の誰よりも、ダントツで背が高い。他の選手も大きい選手が多いが、その選手は特別だった。びびりそうになっている自分に気づき、みなぎっていた熱を失ってはいけないと、さっきよりも近くに寄って整列し直す。最初は、思わずその大きさにびびってしまったけれど、よく見れば体も細いし、顔はなんだか覇気のない顔をしている。デカいだけという感じだ。
「これより試合を始めます。フェアプレーでお願いします。礼!」
審判の掛け声と同時に礼をしてから、握手をするために一歩踏み込む。
「お願いします!」
もう怖くないぞという意味を込めて、力強く相手選手の手を握る。だが、向こうは特に表情も変えず、ほとんど握り返してもこなかった。

「マジで勝とうぜ。いくぞ!」
「おー!」
勇武の掛け声に全員が声を合わせて反応し、円陣から自分のポジションに散る。気合は十分。ジャイアントキリングだ。
 ピッー!審判の笛が鳴り、僕たちボールで試合が始まる。僕と勇気がパス交換をしながらドリブルで切り込んでいく。僕が一人目を左にかわして、二人目が来たところで勇気にパスを出す。パスを受けた勇気がそのまま右にかわして、また僕にパスを戻す。いいリズムだ。ドリブルだけでなく、パスの選択肢があることで相手が混乱しているのが分かる。これなら、相手が強くても通用する。このままゴールまで、そう思った瞬間、僕の体は宙に舞った。スライディングでボールごと吹っ飛ばされたのだ。僕にスライディングした相手選手はすぐに立ち上がると、僕らのゴールめがけて、思いっきりボールを蹴り上げる。高く上がったボールが僕らのゴールに向かって飛んでいく。だが大丈夫だ。後ろには勇武がいる。ゴール手前で勢いを失ったボールの落下地点に勇武が入り、ヘディングで跳ね返そうとする。その寸前、ボールと勇武の間にあのデカブツが現れた。デカブツは飛んできたボールを胸でトラップすると、そのまま体を半回転させてボレーシュートを放った。一瞬の出来事だった。会場にいる全員が、その美しい動きに見惚れていた。開始二分、僕らは失点した。

 その後も、僕らは得点できずに失点をし続け、前半終了時には0―5。もう負けが決まったようなものだった。
「一回、失点のことは忘れよう。相手は強いしこれはしょうがない。とにかく一点取ろう!」
そう言って、監督は僕らを鼓舞するが、もう誰も聞いていない。みんな戦意喪失してしまっている。これでは戦えない。
「切り替えようよ!一点でも取ろうよ!諦めるなよ!」
僕も声をかけるが誰も反応しない。悔しい。なんで諦めるのか。まだ六点取れば勝てるじゃないか。だが、そう思っているのは僕だけだった。

 後半開始と同時に、いきなりデカブツがドリブルで仕掛けてくる。ここでボールを奪えれば、少しは士気が高まるはずだ。僕はがむしゃらにボールを奪いにいく。右に、左に体を振ってフェイントかけてくるが、なんとか食らいつく。ここが勝負の分かれ目だと僕はなんとなく勘づいている。なんとしても抜かれるわけにはいかない。フェイントについてこられたことに驚いたのか、相手の足が一瞬止まる。ここしかない。僕は素早く右足を伸ばす。そのまま、僕の右足がボールに届く・・・その寸前、相手がボールを軽く蹴る。ボールは僕の股の下をゆっくり通り抜けて行く。狙われていた。わざと止まって、僕に足を出させたのだ。僕はまんまとその罠に引っかかったのだ。完敗だ。チームとしても、個人としても。それでも僕は諦めなかった。いや、認めたくなかったのだ。自分の実力はこんなものだと。所詮は井の中の蛙でしかなかったのだと。僕以外の味方は完全に足が止まっていたが、そんなことはもう関係ない。とにかく一点でも取りたかった。そのためにガムシャラにボールを追いかける。奪ったボールはパスもせず、ドリブルで一人、突っ込んでいく。取られたら死に物狂いでボールを取り返しに走る。それをひたすら繰り返した。途中で、悔しくて、苦しくて涙が止まらなくなった。それでも、僕は走り続けた。一度でも止まってしまったら、もう動けないと思ったから。

 結果は0―17のボロ負けだった。


低学年編 完
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

処理中です...