気付くのはいつも遅すぎて

横田碧翔

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 美紀は、家に帰ると着替えもせずにベットに体を投げ出す。そして、枕に顔を埋めてひたすら泣いた。裕也に彼女ができていたこと、自分がまだ裕也のことが好きだと気づいてしまったこと、そして、裕也と別れることを選んだことへの後悔。泣く理由なんていくらでもあって、涙はどれだけ流しても足りなかった。泣いて泣いて泣いて、最後は泣き疲れていつの間にか眠りに落ちた。

「美紀。美紀。起きなさい美紀。」
母の優しい声が聞こえて来て、ぼんやりと意識が戻ってくる。美紀は、泣いているうちに自分が寝てしまったことに気づく。
「お母さんごめんなさい。着替えないでそのまま寝ちゃったみたい。夜ご飯の時間だよね。」
そう言って、ベットから起き上がろうとするが、窓から入る光の強さに違和感を覚える。よく見ると、美紀の体には毛布がかけられている。
「夜ご飯じゃなくて朝ごはんよ。学校はどつする?休む?」
美紀は、自分が泣き疲れて眠っていることに気付きながら、何も聞かず、そっと寝かしておいてくれたのだ。そして、今も理由を聞かないのに学校を休むことを提案してくれている。その提案に甘えたいところだが、やらなきゃいけないことを思い出す。泣きながらも決心したことを思い出す。
「お母さんありがとう。でも、私、学校行くよ。」
「そう。無理しないでね。」
お母さんはにっこり笑り、やっぱり何も聞いてこない。
「朝ごはんもお弁当もできるわよ。でもその前にシャワー浴びて来なさい。その間に、制服にアイロンかけておくからね。」
そう言われて、自分が制服を着ていることを思い出す。一晩寝巻きとして使われた制服はクシャクシャになっていた。申し訳ないと思いながら、お母さんに制服を任せてシャワーを浴びに行く。
 お風呂から出ると、さっきまでのクシャクシャだったことが嘘のような仕上がりになっていた。
「美紀は何かを頑張るんでしょ?そういう目をしてる。だからお母さんも頑張っちゃった。」
私のお母さんがお母さんでよかったと心底思う。私のお母さんは世界一のお母さんですと自信を持って叫んだって恥ずかしくない。嬉しいとか、ありがとうとか、なんで分かるのとか言いたいことはたくさんあったけど、口より先に体が動く。気づいた時にはお母さんに抱きついていた。あったかくて、柔らかくて、いい匂いがする。お母さんとハグをしたのなんていつぶりだろうか。いろんな言葉の代わりにお母さんを思いっきり抱きしめる。
「美紀、痛い」
急に抱きしめられたお母さんが、苦しそうな声をあげながら、嬉しそうに笑う。
「私、頑張るね!」
お母さんは黙って頷き、制服を渡してくれる。着替えをして、朝ごはんを急いで食べてから歯磨きをする。なんとかいつも通りの時間に家を出られそうだ。お弁当をバックに入れて靴を履く。玄関までお母さんが見送りに来てくれる。
「じゃあ、行ってきます!」
「いってらっしゃい」
お母さんの笑顔に背中を押されて家を出る。今ならなんでもできる気がする。どんな問題にだって立ち向かえそうだ。美紀は軽快な足取りで学校へ向かった。
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