カモがネギを背負ってきた

横田碧翔

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出会い

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 ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、ピピとん。朝8時45分、瑛太はスマホの目覚ましを止め、起き上がる。あんまりスッキリはしていないが、半分目を閉じながら洗面所へ向かう。水道を捻り、冷たい水を出す。お湯になるまで待ってもいいが、水道代が勿体無いからそのまま冷水を顔にかけて目を覚ます。少し目が覚めたところで冷蔵庫を開け、水を取り出すとコップ一杯だけ飲んで、残りを半分くらいポットに注いでスイッチを押す。お湯が沸くまでにパソコンを立ち上げ、学校のページにログインする。先生から送られてきているIDをクリックして、zoomに入るとすぐにカメラと音声をオフにして台所に戻る。カチっと音が鳴り、ちょうどお湯が沸いた。コップにインスタントコーヒーの粉を入れ、そこに沸いたばかりのお湯を注ぐ。コーヒーのいい香りがする湯気が立ち上り、そこに顔を突っ込んで香りを堪能する。湯気がおさまったところでコーヒーを持ってパソコンの前に座る。そして、時計の針が9時を指し、一限の授業が始まる。
「えーみなさんおはようございます。えーカメラをオンにして下さいね。では、はじめます」
せっかく目覚めたのに、もう一度眠らせようとしているかのような授業が続いたが、なんとか起きて1時間半の授業が終わった。
「えー今日はここまでにしたいと思います。えー課題の方をですね、えー出しておきましたので、よく読んで、期日内に提出するようにして下さい。それでは、質問のない方は退出してくださって結構です」
瑛太は、一応お辞儀だけしてzoomから退出する。課題を見ると、今日の授業内容に関する1500字のレポートが出ていた。すぐにやってしまいたいところだが、15分には二限が始まる。軽く伸びをしてから二限のzoomにログインする。二限でも、同じように課題が出た。三限はなかったので、お昼ご飯にカップ麺を食べてから一限の課題を終わらせたが、二限の課題をやる前に四限の授業が始まる。授業と課題をひたすらやり、パソコンと向かい合っている間に一日が終わる。時計を見ると、もう二十時を過ぎていた。今日も何もないまま一日が終わるのかと思うが、二ヶ月も経つと何も思わなくなってくる。四月は理想とのギャップに打ちのめされ、慣れないパソコンでの作業が辛く、毎日のように泣いていた。だが、今は機械のように何も考えずに、同じ一週間をただただこなしている。人間の心は、どんなに辛い環境でも、時間が解決してくれるもんだと感心しながら、スーパーで買っておいたもやしと豚肉を炒めて夜ご飯を作る。塩胡椒で味付けをして、お皿に盛り付けたところでインターホンが鳴った。久しぶりに聞いたその音が、何の音か理解するのに時間がかかった。何かを頼んだ記憶はないが、実家からの仕送りかなんかだろうかと思い、ハンコを持って扉を開ける。すると、そこにはネギを背負ったカモがいた。
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