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181話.魔王誕生(閑話)

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 山田ハジメ  (30)は、ごく平凡なサラリーマンだった。

 俺は――金なし、嫁なし、仕事なしの身となってしまった。

 今日も職場からクビを宣告され誰もいない家へと帰る。
 男の一人暮らしだ。当然……誰もいないので寂しさを感じていた。
 せめて、女でもいればこの辛さを紛らわせる事もできるのだろうが……
 女を知ることもなく30歳という節目を迎えてしまった。

 彼女が欲しい!! いや、女が欲しい。
 こんな不名誉な30歳でいる位なら、お店で[魔法使い]の汚名を捨ててしまおうと考えた。
 新しい仕事の事は、それから考えることにする。

 脱!! 魔法使いを心に決めた俺は家を出た。

 そして、お店へと向かう途中。
 横断歩道を青信号で渡る俺に吸い寄せられるように車が突っ込んできた。
 い、意識がなくな……る。

 こうして――
 俺、山田ハジメの人生は終わったのである。

 アレっ?  俺は横断歩道を歩いてたはずなのに……車は?
 何処だココ?  ヤケに明るすぎじゃないか?
 俺は状況を理解できず困惑していた。

 あ、綺麗なお姉さんがコチラを見ている。
 そして、俺の目の前にまでお姉さんが寄ってきた。

「山田ハジメさん、始めまして」

 俺とは初対面のハズなのに? お姉さんに名前を言われてしまった。

 つまり……コレは夢なんだな?
 俺の知り合いに、こんな美人の女性はいない。

「キミは誰? 俺は君の事を知らないのだが?」

 独身だしな……

「私はノルンと言います。所謂、女神です。
 貴方に単刀直入に申し上げます。 
 山田ハジメさん。貴方は交通事故に巻き込まれて、お亡くなりになりました」

「えっ!?」

 いや、まてまて!! 30歳を過ぎてというのに童貞さえ捨てさせてくれなかったのか? 
 あの世界は理不尽すぎるだろ!!
 30歳過ぎたら魔法使いってのに本当になれたら救いはあったのに……その前に死にましたって冗談だろ。
 俺の考えを女神とやらに読まれたのか? 女神は俺に提案をしてきた。

「貴方は魔法使いにはなれませんでしたが、それに近い事は提案できますよ。
 私は運命を司る女神です。貴方に二つの選択を与えましょう」

「1つめは新しい肉体を与えて1からやり直す俗にいう輪廻転生です。
 2つめは貴方の知識を残したまま異世界で生き返る。
 この二つの運命の選択を貴方に与えましょう……
 そうですね。異世界だと知識はあってもその扱いに困るでしょうし異世界での成人年齢の16歳からのスタートってのはどうでしょう」

「新しい肉体って、俺の記憶はどうなるんだ?」と、俺は女神に聞き返した。

「輪廻転生の流れに乗るのです。当然、無くなります。
 新たな個としての人生を送っていただきます」

 こんな腐った現実より異世界の方がまだマシかもしれないな。

「俺は、異世界とやらに行って何をすればいいんだ?」

「別に決まりなどはありません。
 貴方の好きに生きてくれればいいのです。
 それに異世界へ行くというのなら貴方の望みをなんでも一つ叶えてあげましょう」

「この場で貴方を抱きたいというのは?」

「できますよ。
 ただし!! 異世界に行った時に何一つ特典もなく異世界での生活が始まりますよ。
 転生した直後に死にたいのなら……それもいいでしょう」

 せっかくの美人に相手してもらえるチャンスだが、即死は流石に嫌すぎる。
 それに、再び死ぬような思いをするのはもう嫌だ。

「それなら、異世界で俺が思いのままにできる女をくれ!!
 俺は、その世界で退廃的に過ごしたい」

「年齢はいくつくらいの女性が好みですか?
 女性の成長と加齢は気になりますか?」

「ん? 好みの年齢のまま見た目を維持できるのか?」

「それがお望みならば可能ですよ。
 ただし、種族が人間ではなくなりますが」

「人間じゃない?  見た目がヒドイのか?」

「人間より美しささえ感じると思います。
 それに、そちらの腕は種族的な理由でバツグンに良いですし貴方にはお勧めだと思いますよ。
 それでは何名かサキュバスの女性の候補を出しますので、そこから選んでください」

 A.16歳
 B.18歳
 C.20歳
 D.22歳
 E.10歳

 5名の年齢の札を持った美しい女性達が現れた。
 イヤイヤ、流石にAとEはないだろう変態じゃあるまいし。
 体つきと顔つきを見るとCとDと行ったところか?

「CとDの二人が気になってるんだが……
 どちらか一人に選ぶ必要あるんだよな?」

「いえ、修羅の道を選びたい貴方なら二人を選んで頂いて貰って結構ですよ?」

「え? 修羅の道?  何か困難でもあるのか?」

「貴方の願いが女を抱きたいですが……
 異世界に転生すると、ある一定の条件を揃えずに女性を抱くと魔王になってしまうのです。
 転生の大前提が女性を抱く事の貴方の場合は、初日で魔王化するでしょう。
 それと魔王化するとレベルアップの上昇条件が変わるのです。
 女性から経験値を奪うに変わるのです」

「つまり、彼女達を抱けば俺は強くなれると?」

「そうです。
 私が今から一年間の間、安全な物件を提供しましょう。
 ただし!! 一年が過ぎ勇者を名乗る人間が現れたら危険な状態と理解してくださいね。
 しかし、魔王の職業ならば貴方の期待に答えれると思いますよ」

「魔王でも、なんでもいい。
 ソコの二人と楽しめるのならそれでいい」

「山田さん、何か勘違いしてますね。
 異世界にはたくさんの女性がいるのです。
 その二人と言わず手広くやればいいんじゃないですか?」

「その時が来たら考えるよ……」

「どうされますか?
 最初から魔王スタートなら……
 反転衝動で苦しむ事なく、魔王から始めれますけど?」

「ふっ!! どうせやる事はやるつもりなんだ。
 魔王でもなんでもなってやるよ!! 一年間は安全なんだよな?」

「はい。とても立派なお屋敷で、食料なんかも既に準備されてる環境ですよ」

「至れりつくせりじゃないか!!
 この二人は料理を作ったりできるのか?」

「それはもう、お手の物かと思います」

「そうか、それなら心配する事はないな。
 異世界とやらに飛ばしてくれ……」

「それでは、貴方の活躍を期待していますよ」と言って、女神は俺と二人のサキュバスを異世界へと転送した。

 それは、作られたばかりのような立派な城で、部屋の数も多く家具も揃えられていた。
 何より魔道具をというモノを利用している、お風呂らしきモノもあり色々な用途に使えた。

 このお城でひたすら、この二人の相手をする一年間が続いたが……
 俺はこの二人に飽きが来ていた。

 この一年間で、レベルも当初の1レベルからレベル25まで上昇していた。
 レベルも上がってきたので、新しい住処を探そうと思ったが住み心地の良いこの場所を離れる事ができずにいた。

 そんなある日――
 俺が引っ越しを開始する前に、勇者を名乗る女が魔王である俺を討伐しにきたのである。

「肉欲に溺れる悪しき魔王よ!!
 この私が勇者として貴方を討伐します!!」

「ん? 勇者って女だったのか?」

 それとなんだ、この女の近くにいると力が湧いてくるような感じがする。
 魔王のスキル[魔眼]にて相手の力を読み取る。

 レベルはこの勇者とやらが俺より10レベル以上高い。
 だが、レベル25である俺の方がステータスでは圧倒していた。
 ステータスが3倍に上がっているのは女勇者の神の贈り物ギフトが原因か?
 コイツがいれば通常以上に私は強くなれるしこの女は見た目も悪くない。
 次の獲物はこの女勇者だな……。美味しくいただくとしよう。

 女勇者との戦いはそれほど苦戦せず、魔法を使い遠距離と中距離で戦いを進めるとアッサリと女勇者を確保する事ができた。
 その戦闘の際に、勇者は気を失ってしまっていたのでベッドルームへと案内してあげた。
 魔王に負けた女勇者の成れの果てなど想像するのは容易だろう……

 指輪に向けて、女が話しかけていたのに気づきはしたが……こんな海に囲まれた島に1日~2日で来る奴がいるわけがない。
 新しい女という事もあってレベルの上がりも良かった。
 この調子なら明日にはレベル30も到達は容易だろう。
 この女さえいれば、コイツみたいなバカな勇者どもが俺を討伐にきても返り討ちにできるだろう。

 寝室に三人の女を侍らせて、翌日の朝が来た。
 やはり、私の予想通りだ。
 朝方まで、この女で遊んでやると俺のレベルの35まで到達していた。

 ふはははは……!!
 この世界の勇者が35レベル程度なのだこの女がさえいれば、私はレベル105の魔王と変わらない。
 これなら、この場所に居座って、この異世界を牛耳ることも可能だ。
 レベルが上がった記念の手始めに魔物でも作り出してみるか?
 スキル[モンスタークリエイト]を使い、作り出したモンスター部隊に城の入り口を守らせる事にした。
 次から次へと、モンスターを作り出し島をモンスターだらけにした。

 ふははははは!! この世界を牛耳るのもたやすい事なのかもしれないな?
 新しい女を魔王様の生贄として捧げさせようか!!

「フゥーハッハハハハハハハ!!」と、勝利の笑いを上げた時。

 となりに侍らせていた、二人のサキュバスが浄化されて消えていった。

「な、なんだ!! 何が起こった!!」

 漲る力が一転、急激に力の減衰を感じるようになってしまった。
 女勇者のギフト効果でステータス三倍の上昇は効いているが、ステータスの全体半減のペナルティを受けていた。

 な、何故だ?

 この島で何かが、起きていると……気づいた次の瞬間。
 戦いの狼煙を打ち上げるかのように……大きな爆音がに響きわたった。
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