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109話.死の森

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 薄暗い森の中をひたすら進んで行く……

[死の森]に出現するモンスターはゴブリンが出る程度で、[死の森]と大層な名前がついている分拍子抜けな気がした。
 森の探索の際に、[ライト]の魔法を使っているので明るさは十分に足りている。
 空が暗くなる前には、従業員のドワルドを迎えに行く必要がある。
 武器の属性付与が1回あたり大体1時間持つ――なので、付与が5回切れたら探索を中断する予定だ。

 【マップ】を確認しながら、ひたすら西へと進んで行く……
 森の探索を続けていたら5回目の付与が切れたので、本日の探索はコレで切り上げた。

 ドワルドを迎えに行くとしよう。
【転送魔法】を使い[サドタの街]に寄ってから、ドワルドを連れて[セカンタの町]へ連れて帰った。

 先日と同じように午前中に通常業務を行い、午後から探索と送迎を繰り返した三日目の事だった。
 森が急に開けたのである――しかし、【マップ】では、ココはまだ森扱いされている。

 ど、どういう事なんだ?

 森が開けた場所を進むと死臭がし始めた。
 生き物が腐敗した、鼻に付くような匂いを感じる。
 だが、あたりに見回しても何かがある訳ではない――匂いの正体はわからないまま先へ進むしかなかった。

 しばらく、開けた森を進むと視界の端に人影が見えた。
 その人影に近寄ってみると、人影は緑色で女性の姿をしていた。

 私は何かがおかしい……と、気づき[鑑定]のスキルを緑色の女性にかけてみると、彼女はモンスターという事が判明した。
 モンスターの名前はアウルラネ――人型をした植物のモンスターで、害意は無く人の死骸を養分に利用するモンスターだそうだ。
 アウルラネの足元に、冒険者であっただろう男の装備と片腕がない男の死体が転がっていた。
 
 そのとき、レクターの言った事を思い出した……
 ギルドの闇の部分の案件――ここは、冒険者を続けれない人間達の自殺スポットなのか?

 アウルラネは、こちらを見てニコリと微笑んできた。
 私に対する敵意は感じないが、警戒して剣を構えると緑色の女性は表情を曇らせたように見えた。
 流石に、目的もなく人の姿をしたコレは討伐できないと感じたので、この場を立ち去ることにした。
 元の進路に戻ろうと思い、あたりを見回すと所々にアウルラネの女性が地面から生えていた。
 冒険をできなくなった冒険者が、死に場所を求めてココにやって来る。
 だから、[死の森】と名前がついているのか?

 冒険者しかやれない人間は冒険者を続けられなくなると、ここでアウルラネと一緒に死んでゆく。
 コレがギルドの闇の部分か……
 森が開けた場所に入った直後に死臭がするくらいだし、1人~2人の死者の数ではないのだろう。

 私は冒険者でもないし私には大切な人がいる。
 従業員の皆もいるし自殺なんてありえないな。
 だが、この冒険者達の終活は、私には件である事も理解出来た。

 色々な思惑はあったが再び探索に戻った。
 しばらく歩いていると、再び木が生い茂る森になっていた。
 森に入りしばらく移動していたら――
 5回目の属性付与が切れたのでドワルドを連れて、[セカンタの町]へ帰る事になった。

 それから、四日程探索を続けていたら森を抜けた。
 森を抜けてから西へ1日程移動したら[フォースの城下街]が視界に入った。
 1日5時間の移動で、40時間(約8日の探索)かかって新しい町へ到着した。

 城下町は立派な城壁で囲まれており、城壁の高さは[サドタの街]の城壁より高く感じた。
 サドタの街と同様に、街へ入る為の検問所による検問が行われていた。
 一度、街に入ってしまえば――
 私には【転送魔法】があるので、ある種のフリーパス状態なので気にせずお金を払う事にした。

[フォースの城下街]の検問所に近づく、街へ入ろうとしているのは私だけみたいだ。
 入り口へ近づくと、検問所にいる兵士に足を止められた。

「なんの用事で、この街へ来た?」

「となり街から商品の入荷の為にこの街へ来ました」

「何を仕入れようと?」

「この街にしか売られてない魔道具が欲しかった為、8日かけてここまで来ました」

「魔道具の購入か……
 解った。先へ進んで受付でギルド証を提示せよ」

 私は「ハイ」と言って、受付の前へ移動した。
「目的は?」と、検問所の受付に問われた。

「商品の仕入れですね。
 この街にしかない魔道具があるらしいと、ギルド長から聞いたので[サドタの街]から来ました」

「ギルド証を提示してください」

 マジックバッグ(仮)からギルド証を取り出し、受付に提示した。

「商人のニカイドウハジメさんだね。
 君はあっち方面の街じゃ有名人らしいじゃないか?」

「いえいえ、私が持つお店が有名なだけですよ」と、答えておいた。

「ギルド証を確認しました。
 街に入るのに50ゴールド必要だが用意はあるかね?」

 50ゴールドを受け付けに渡し、ギルド証を返してもらった。

「この街には教会の総本部があるので――
 是非、寄ってもらえないか?」

「わかりました。寄ってから帰りたいと思います。
 ちなみに教会はどのあたりにあるんですか?」

「そうか、それじゃ。
 ギルドから案内人の依頼をするので、門に入った所で待っていてくれたまへ」

「あっ、はい」

 私は受付に言われるまま、門の前で待つことにした。
 しばらくすると、見知らぬ女性が私に話しかけて来た。

「お兄さんが……二階堂さん?」

「ハイ、そうですけど?」

「私はこの街のギルドから、街案内の依頼を受けたノルニルって言うんだ。
 よろしくね、二階堂さん」

 へぇ、女の子の冒険者か? 結構好みのタイプではあるな、知り合いの誰かに似てる気もするが気のせいだろうか……?

「どうも、案内の仕事を引き受けてくれてありがとう。
 私は商人をしている二階堂ハジメって言います。
 ハジメでもニカイドウでも――ノルニルさんが呼び方で呼んでくれ」

「私は二階堂さんって言い方のほうが、言いやすいからそう呼ぶね。
 私の事は、ノルニルと呼び捨てでもいいよ」

「あぁ、わかった。
 この街の教会と、ギルドと魔道具屋を案内して貰いたいんだけど……お願いできるかな?」

「うん、任せといて。
 この街は庭みたいなモノだから、何処でも案内できるよ」

 えっ、今、何処でもって言ったよね?
「えっと、エッチなお店とかも?」

 赤くなって――ノルニルが俯いた。
 あっ、可愛い……急に、セクハラしたくなったのは何故だろう。

「ごめん」

「二階堂さん。ソレはセクハラだよ!!
 気をつけてよね!! それと、二階堂さんはそういうお店に興味あるの?」

「いやいや、冗談だよ冗談」

「それじゃ、最初は何処から案内しようか?」

「だったら、最初は魔道具屋に案内してもらえるかな?」

「わかりました。
 私に、ついてきてくださいね」

「はーい」と言って、ノルニルさんの後を追う形で移動していった。
 二人は他愛もない雑談をしながら、魔道具屋へ移動する。

「ノルニルさんって、冒険者なんですよね?
 職業は何なんです?  結構ラフな格好してるけど」

「私は、盗賊だよー。
 職業は盗賊でも盗みを働いたりはしてないからねー」

「わかってますよ。
 どちらかというと盗みに入って忘れ物してきそうな感じですよね」

「ひ、ひどーい」と言って、ノルニルはコチラを振り向いてきた。

「冗談ですよ……
 ノルニルさん。怒った表情も可愛いですね」

 立ち止まって、赤くなって俯いてる。そんな姿も非常に可愛いと思えた。

「ノルニルさん、照れてます?」

「そんな、初対面の人間に可愛いって連呼しないでよ。
 恥ずかしいじゃない……」

 あれっ?  連呼したっけ? 
 まぁ、言葉のアヤだろうな。

「あはは、ごめんなさい。
 それじゃ、先に進んでください」

「了解」と言って、ノルニルは再び歩き出した。

 変にセクハラしたり照れさせたりすると足が止まってしまうので、今度は彼女の後を黙ってついていった。

「到着ーー!!  ここが、この街の魔道具屋よ」

[セカンタの町]の魔道具屋を大きくして、3割増しで不気味にした感じのお店だ。

「ここが、この街の魔道具屋かぁ……。それじゃ入ろうか?」

 お店に入ると、お店の中は薄暗い雰囲気だ。
 お店の先へ進むと、店員が話しかけてきた。

「いらっしゃい、今日は何かお探しかい?
 そのお嬢ちゃんと一緒に、夜も眠れなくなるような薬もあるよ」

 案の定、ノルニルさんは赤くなって俯いてる。
 彼女は、エミリーと違って意味がわかってるのか。
 うーん?  前も同じような商品を[セカンタの町]の魔道具屋に売られようとしたような。

「それじゃ、その薬下さい」と、店員さんに言ったら。

 ノルニルさんは、先程以上に赤くなっていた。
 ちと、セクハラし過ぎたかな?
 この子は無性にセクハラしたくなるんだよなぁ、反応が可愛いから……

「あー、それと別に探してるモノがあるんですよ」

「何をお探しですか? お客さん」

「転送魔法の効果がある、魔道具が欲しいです。
 サドタの街のギルド長から、この街にはその魔道具があると聞いたので……」

「お客さん。この魔道具は、二つでワンセットでの購入という事もあって、かなり値が張りますけど?
 持ち合わせは大丈夫ですか?」

「いくら位です?」

「ワンセット10万ゴールドですが? よろしいですか?」

「それくらいなら、問題ないですよ。即金で払います」

「待ってくれ!! まだ商品が出来ていない」

「いつまでに完成できますか?」

「1ヶ月待ってくれ。ギルドに依頼して材料を揃えるから」

「わかりました。そしたら前金で2万ゴールドを渡しておきますね」

 前金で魔道具屋に2万ゴールドを魔道具屋の店員に手渡した。
 貴族から返金してもらった15万ゴールドがあったので、魔道具ワンセット分の代金は簡単に支払える。

「それと、コレはさっき言ってた飲み薬だ。
 コレはオマケさせてもらうよ。高額の品を買ってもらうしな」

 店員に謎の薬を渡されたので、薬をマジックバック(仮)に入れた。

「そりゃ、どうも。
 そしたら、1ヶ月後に魔道具を取りに来ますので、よろしくお願いします」
 ……と言って、私達2人は魔道具屋を後にした。
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